発信者情報開示請求が通らないケースとは?請求棄却や失敗のパターンを紹介

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発信者情報開示請求

インターネットの掲示板やSNS上で、誹謗中傷されたり、個人情報を晒されたりしたときに「投稿者を特定したい」と考える人は多いです。

しかし「開示請求をしても通らない」といった話を耳にすると、ご自身はどうするべきかと悩むことでしょう。

なかには「棄却されたらまたやり直せばいい」と考える人もいるかもしれませんが、発信者情報開示請求には事実上のタイムリミットがあり、棄却されてしまえば投稿者を特定できなくなる可能性があります。

発信者情報開示請求が通らないケースや失敗パターンを知ることで、ご自身の開示請求を成功に近づけていきましょう。

発信者情報開示請求が通らないケース

発信者情報開示請求の基準はいくつかありますが、「権利侵害が明白なとき」と「請求に正当な理由があるとき」に開示請求ができると定められています。

発信者情報開示請求ができる時

一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

※特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律より抜粋

いいかえれば、明白な権利侵害がなかったり、請求に正当な理由がなかったりすると、発信者情報開示請求は通らず、裁判所から棄却されるでしょう。

それぞれについてわかりやすく説明します。

権利侵害が明白でない場合

発信者情報開示請求が認められるためには、まず、投稿内容が権利侵害に該当することが明らかである必要があります。

権利侵害に該当するかどうかは、投稿内容の具体的な内容や、投稿状況などで総合的に判断されるものです。

まず、権利侵害が明白でないということは「内容」と「同定可能性」について検証されます。

権利侵害が明白でない「内容」とは?

意見・論評型の投稿、公共性があって公益目的でおこなわれた投稿、一般的に知られるメリットが多い真実に関する投稿などは権利侵害にあたらないと判断される可能性があります。

また、ネット上の書き込みから個人を特定できない場合にも、権利侵害が明白ではないと判断されるケースもあるのです。

例を以下に示します。

権利侵害が明白でないとされる例

例文
意見・論評型ここのラーメンは不味いから行かない方がいいという口コミ投稿
公共性があって公益目的政治家〇〇(本名)は過去に交通違反の罰金を支払ったという記事
個人を特定できない(ホストの源氏名)は女の子を騙している

明らかな権利侵害とはいえなかったり、公共性が高く誹謗中傷を目的としたものではないと判断されるかどうかをご自身で客観的に判断することは難しいものです。

投稿内容に関する権利侵害の有無については、弁護士に相談して見解を聞くことをおすすめします。

同定可能性とは?

同定可能性とは、その投稿と、現実に実在する人物が容易に結びつくかどうかということです。

たとえば「姓」だけを書かれても、その姓がよほど特徴的なものでないかぎり、誰のことを指しているのかは客観的にわかりません。

「姓」のほか、職場や部署、あるいは学校名や部活動など、個人の特定につながる周辺情報があれば特定できるでしょう。

こうした「同定可能性」が認められない限り、どんなに罵詈雑言が書かれていても、「権利侵害がある」とはいえないのです。

関連記事『ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷で名誉毀損は成立する?』では、投稿内容と同定可能性についてより詳しく解説しています。

権利侵害にあたる投稿例

たとえば、以下のような投稿は権利侵害にあたるものとして、発信者情報開示請求が通る可能性があります。

  • 名誉毀損罪や侮辱罪に該当する投稿
  • 著作権や肖像権などの権利を侵害する投稿
  • 身体に危害を与える旨の予告などの投稿

ネット上の誹謗中傷で問題となりやすい権利侵害としては、名誉毀損罪、侮辱罪、著作権侵害、肖像権侵害などがあげられます。

ネット上の誹謗中傷とかかわりの深い権利侵害については、関連記事の解説を参考にしてください。

正当な理由がない場合

発信者情報開示請求の正当な理由とは、発信者情報の開示を受けることで、権利侵害の救済を図ることです。

いいかえれば被害者の権利侵害の救済以外の目的は「正当な理由がない」と判断され、開示請求を棄却される可能性があります。

たとえば、投稿者に対する報復行為をほのめかしていたり、単にプレッシャーを与えるつもりで開示請求をちらつかせたりといった目的は、正当な理由とは言えません。

正当な理由にあたる例

被害者の権利侵害の救済は、投稿者への損害賠償請求や刑事告訴といった方法があげられます。

発信者情報開示請求の目的がこうした「投稿者への正当な法的手段」であれば、開示請求が通る可能性があるでしょう。

誹謗中傷への対処法については、関連記事を読むとより理解が深まります。

【コラム】そもそも発信者情報開示請求とは?

発信者情報開示請求は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」で定められた手続きです。

発信者情報開示請求とは、匿名の投稿者に関する住所・氏名・メールアドレスなどの発信者情報の開示を求める法的手続きのことです。

後述しますが、発信者情報開示請求には一定のタイムリミットがあるので、「棄却されたらやり直せばいい」というものではありません。

投稿内容によっていかに権利侵害を受けているのかを適切に主張するだけでなく、その手続きにも素早く着手する必要があります。

そのため発信者情報開示請求を検討しているなら、手続きを熟知した弁護士のサポートを受けることが大切です。

関連記事『発信者情報開示請求とは?ネットの誹謗中傷の投稿者を特定する方法と要件』も参考に、開示請求については弁護士に一度相談することをおすすめします。

発信者情報開示請求の主な失敗パターン3選

(1)投稿が削除されているパターン

発信者情報開示請求の対象となる投稿が、スクリーンショットなどで証拠をとる前に消去されてしまっていると、発信者情報開示請求は難しくなってしまいます。

そのため、誹謗中傷の投稿を確認した場合には、該当の投稿そのものについてURLがわかるようにスクリーンショットを取っておいてください。

(2)発信者情報の保存期間が過ぎているパターン

誹謗中傷の投稿から日が経ちすぎると発信者情報開示請求が通らない可能性があるでしょう。

発信者情報開示請求の対象となる投稿の発信者情報は、プロバイダが一定期間保存しています。しかしその保存期間は3ヶ月から6ヶ月ほどともいわれており、保存期間を過ぎると消去されてしまうのです。

発信者情報開示請求はいつまでにおこなうべきかは、関連記事でくわしく解説しています。あわせてお読みください。

(3)発信者特定が困難なパターン

発信者情報開示請求では、発信者のIPアドレスやメールアドレスなどの情報をもとに、発信者を特定します。

しかし、公共のインターネットカフェなどのように不特定多数の人が出入りしているケースでは、店舗や端末までは辿ることができても、具体的な人物の特定に至らないケースもあるのです。

IPアドレスの特定は本人特定とは言えない

「投稿者のIPアドレスを特定したい」と考える人もいますが、IPアドレスの特定は、本人特定のための通過点にすぎません。

IPアドレスからは投稿者の氏名や住所などの個人を特定しうる情報は分からないからです。関連記事『IPアドレスで特定できるものは?個人情報の特定方法と誹謗中傷の開示請求』でも解説していますので、気になる方は関連記事を参考にしてください。

判例から発信者情報開示請求の棄却理由を知る

正当な理由が認められない|発信者の生活を脅かす可能性があった

原告は自身のブログにて、発信者情報の開示を受けたら、その情報を元に発信者について調べること、晒し者にするといった趣旨を記載していました。

こうした意思表示をしている原告に対して、発信者情報をみだりに用いて、発信者の名誉や生活を害する恐れがあるなど、正当な理由ではないとして発信者情報開示請求を棄却したのです。

この判例は、東京地方裁判所平成25年4月19日判決の事件より抜粋しています。

権利侵害が認められない|プライバシー侵害の否定

掲示板に原告の名前をそのまま記載した投稿がなされた件について、プライバシー権が侵害されたと主張しました。

裁判所は、そもそも人の氏名は自体は私生活上において一般的に明らかにされていること、名前のみが平仮名で記載されただけで姓までは明らかになっておらず、この記載のみでは原告だと把握できないことを指摘したのです。

また風俗店に勤務する原告のSNSアカウントIDが記載されたことについても、原告自らが公表するIDであること、とくだん公開を欲していないとは言えないことから、「他者に公開されることを欲していない情報を明らかにされた」とはいえないと指摘しました。

よって、いずれもプライバシー権侵害とは言えないとして、発信者情報開示請求を棄却したのです。

この判例は、東京地方裁判所令和5年2月16日判決の事件より抜粋しています。

権利侵害が認められない|写真掲載による著作権法違反の否定

ある写真の著作権を有する原告(写真家)がウェブサイトを運営していた法人に対して、発信者情報開示請求をおこなったものです。

裁判所は、本件写真の利用目的や利用態様、掲載していた記事における写真の主題性などをふまえると、写真は報道の目的上正当な範囲で利用されたと認めました。

表現の自由の重要性に照らしても、記事に写真が掲載されたことは著作権法第41条により適法であると認め、発信者情報開示請求を棄却したのです。

この判例は、東京地方裁判所 令和5年3月30日判決の事件より抜粋しています。

発信者情報開示請求が通らないケースについてのQ&A

DMは発信者情報開示請求が通らない?

DMは発信者情報開示請求の対象にはなりません。

発信者情報開示請求の対象となる「特定電気通信」とは、インターネットでのウェブページや電子掲示板等の不特定の者により受信されることを目的とする電気通信の送信のことをいいます。

DMは個人対個人のやりとりになるので、不特定多数の者による受信とはいえません。

発信者情報開示請求は加害者に拒否される?

裁判所を介した発信者情報開示請求については、発信者の意志のみで拒否することはできません。

裁判所の手続きを取る前に、プロバイダに対して任意の発信者情報開示を求めることがあります。この段階ではあくまで任意の開示請求になるため、プロバイダが発信者本人に確認を取り、拒否されることはよくあるでしょう。

発信者情報開示請求の費用はいくらかかる?

発信者情報開示請求にかかる費用は、裁判所の手続きに数万円弁護士費用に数十万円から100万円程度が相場ともいわれています。

発信者情報開示請求にかかった費用は「調査費用」として加害者負担となることもありますが、弁護士費用が全額認められるとは限りません。

弁護士費用は各法律事務所の費用体系によって異なりますし、発信者情報開示請求の難易度に合わせても変わる可能性があるでしょう。そのため、依頼前の法律相談時に見積もりを取っておくことをおすすめします。

関連記事『発信者情報開示請求の費用相場と内訳は?弁護士費用は相手に請求できる?』もあわせてお読みください。

発信者情報開示請求成功への対策は弁護士相談から!

発信者情報開示請求は法的な手続きであり、一般の方にとってはやや煩雑なものです。それにもかかわらず、早急かつ着実に取り掛からないと発信者情報の保存期間が過ぎてしまい、相手を特定できないという事態になります。

発信者情報開示請求への対策

  1. 権利侵害を受けたことを法的根拠と共に主張すること
    十分な証拠とともに説得性のある申立てをおこなう
  2. 正当な目的であると明確にすること
    損害賠償請求や刑事告訴などの対応まで見越しておく
  3. 所定の手続きを早急にすすめること
    ノウハウを熟知した弁護士に依頼する

発信者情報開示請求をうまく進めるためには、こうした対策が欠かせません。

発信者情報開示請求を検討している方は、まずは弁護士に相談してみましょう。弁護士であれば、権利侵害といえるのか、発信者情報開示請求が成功する見通しについてお伝えすることが可能です。

とくにネットにくわしい弁護士を探したいという方は、下記バナーより弁護士選びの方法やポイントのまとめに目を通すことをおすすめします。

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発信者情報開示請求が通る基準についてもっと知りたい方は、関連記事を参考にしてみてください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了