ネットの暴言はどこから誹謗中傷?誹謗中傷になる言葉と表現の自由との線引き

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ネットでの暴言はどこからが誹謗中傷

誹謗中傷は、一般的な用語として「誹謗」と「中傷」がひとつになった言葉で、「根拠のない悪口を言って相手を傷つける」という意味で使われています。

あまりにひどい暴言を受けると、誹謗中傷に責任を問えるラインはあるのかこんなひどい言葉は誹謗中傷として犯罪になるのではないかと憤りを感じることもあるでしょう。

この記事では誹謗中傷になる言葉の具体例から対処法まで解説しています。一人で悩まず、法的対処については弁護士相談がおすすめです。

なお身体に危険が迫っているケースやリベンジポルノといった権利侵害が深刻なケースは早急に警察に相談してください。

ネットの暴言はどこからが誹謗中傷なのか

インターネットでの暴言が誹謗中傷になるラインについて説明します。インターネット上の誹謗中傷は「表現の自由」との兼ね合いが問題になりやすいので、その理由についてもみていきましょう。

ネットの暴言が誹謗中傷になるラインはどこから?

どこからが誹謗中傷だと法的に定めた明確な基準は存在しません。しかし、インターネット上での根拠のない暴言により相手を傷つける」ことは誹謗中傷のひとつの判断基準といえるでしょう。

もっとも誹謗中傷罪という犯罪はなく、誹謗中傷の内容や方法によって個々に判断されます。

具体的には、何度もその投稿が繰り返されていたり投稿内容に差別・侮辱・人格や容姿の否定などの表現が含まれていたりすると不適切な方法と判断される可能性があるでしょう。

誹謗中傷が犯罪の成立要件を満たすとき、一定のラインを超えたものとして刑罰の対象となります。主な犯罪としては名誉毀損罪や侮辱罪、信用毀損罪などです。

あるいは、一定のラインを超えるものについては、他人の名誉権やプライバシー権といった権利を侵害するものとして損害賠償請求できるものもあります。

誹謗中傷のラインは?

法律の理解にくわえて、これまでの警察・検察の判断傾向や判例から推定することが有効です。インターネットトラブルにくわしい弁護士に見解を聞いてみることをおすすめします。

表現の自由なら誹謗中傷にはならない?

日本では検閲や自主規制、妨害を受けずに、思想・意見・主張・感情・情報などを表現したり、発表したりできる「表現の自由」が保障されています。

しかし、他人の権利・権益を侵害するものや犯罪の構成要件を満たす暴言は、表現の自由とはいえません。

たとえば「飲食店の口コミ」を例にしてみましょう。

「この店の味付けは私には濃く感じた」と書けば単なる感想ですが、「この店の味付けは塩辛すぎて無理。みんな食べない方がいい。もしかしてシェフは味覚障害者?」などと書くことはいきすぎた表現でしょう。

その他にも「この女性店員の対応に不快な思いをした」とだけ書けばいいものを「ブス女の店員の接客態度が最悪」などと書くことは、女性への侮辱を含んでいるものです。

批評・批判も「表現の自由」といえますが、エスカレートしたものやいきすぎた暴言は誹謗中傷として訴えることができる可能性があります。

誹謗中傷になる言葉の具体例を紹介

誹謗中傷にあたる言葉については、単純に言葉だけを知るのではなく、どういった状況で、どういった場合で犯罪となりうるのかを理解することが大切です。

名誉毀損、侮辱罪、信用毀損罪のケースについて具体的な言葉とともに解説します。

誹謗中傷になる言葉|名誉毀損のケース

名誉毀損とはどういうものか、名誉毀損に問われうる言葉の具体例とともにみていきましょう。

名誉毀損とはどんな犯罪なのか

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法230条1項

誹謗中傷が「公然」と「事実を摘示して」「人の名誉を毀損」して行われた場合、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

公然」とは不特定または多数人が知り得る状態のことです。誰でも閲覧できる公開上のやり取りならば当てはまりますが、一方でダイレクトメールなどはお互いにしか見れないため、あてはまりません。

事実を摘示して」とは、具体的な事実内容を示したことをいいます。摘示した事実が真実であるかは問われません。 たとえ誹謗中傷が真実であっても名誉毀損に該当します。

人の名誉を毀損」とは、個人の社会的評価を害することをいいます。客観的に個人の社会的評価が害されたといえます。実際に社会的評価が害されることは必要ありません。

名誉毀損の成立要件について詳しく知りたい方は、関連記事『名誉毀損の成立要件と慰謝料相場!名誉毀損にならないケースも解説』もあわせてご覧ください。

名誉毀損にあたる言葉の具体例

名誉毀損にあたる言葉の特徴としては、「事実の摘示」と「相手の社会的評価を下げること」です。

具体的には、前科がある、不倫している、借金がある、会社の機密情報を持ち出している、風俗嬢をしているなどがあげられます。

あるいはお店や企業に対する名誉毀損も成立するでしょう。

名誉毀損の言葉の一例

  • 前科がある
  • 不倫している
  • 借金がある
  • 会社の機密情報を持ち出している
  • 風俗嬢をしている
  • 料理にゴミが入っている不潔な店だ
  • 労災隠しをしているブラック企業だ

こうした言葉はいずれも、具体性のある言葉で、一般的に周囲からの評価を下げるものです。

一方で事実が摘示されていないものは続いて説明する「侮辱罪」にあたる可能性があるでしょう。

誹謗中傷になる言葉|侮辱罪のケース

侮辱罪とはどういうものか、侮辱罪に問われうる言葉の具体例とあわせてみていきましょう。

侮辱罪とはどんな犯罪なのか

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留又は科料に処する。

刑法231条

誹謗中傷が「事実を摘示しなくても」「公然」と「人を侮辱」して行われた場合、侮辱罪が成立する可能性があります。

侮辱罪についてのくわしい解説は関連記事『侮辱罪の成立要件は?名誉毀損罪との違いや侮辱罪になる言葉の具体例を紹介』を参考にしてみてください。

侮辱罪にあたる言葉の具体例

侮辱罪にあたる言葉の特徴としては、「事実の摘示なし」と「相手の社会的評価を下げること」です。

具体的には、ブス、バカ、クソババア・クソジジイ、ゴミなどがあげられます。

侮辱罪の言葉の一例

  • ブス
  • バカ
  • クソババア・クソジジイ
  • ゴミ

これらはいずれも具体的な事実とはいえないものの、一般的に周囲からの評価を下げるものだからです。

誹謗中傷になる言葉|信用毀損のケース

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法233条

誹謗中傷が「虚偽の風説を流布」して行われ「人の信用を毀損」した場合、信用毀損罪が成立する可能性があります。

虚偽の風説を流布」とは、虚偽の事項を内容とする噂を、不特定又は多数の者に知れわたるような方法で伝達することをいいます。

人の信用を毀損」とは人の経済的な信用を貶めることをいいます。

具体例としては「あのレストラン〇〇は破産するらしい」のように書き込まれた場合、店の経済的信用が貶められたといえるため、信用毀損罪が成立する可能性があるでしょう。

関連記事『ネットの誹謗中傷|信用毀損罪・業務妨害罪の被害者になった方へ』ではこうした信用毀損罪の被害を受けた人への対処法を説明しているので、あわせて参考にしてみてください。

インターネットでの誹謗中傷の事例

インターネットでの誹謗中傷が問題となった事例を3つ紹介します。

デマが原因での殺害予告や誹謗中傷事例

タレントのAさんはSNS上で身に覚えのない殺人事件の犯人であるかのように書き込まれ、長年誹謗中傷や殺害予告を受けてきました。

当初は警察への相談もすぐには取り合ってもらえず、ようやく警察の捜査で複数の悪質な投稿者が特定されて、名誉毀損や脅迫などの疑いで検察に送致されました。

結果として起訴には至らなかったものの、複数名が一斉に警察によって摘発された事件です。

遺族への誹謗中傷で有罪判決事例

交通事故で家族を亡くした遺族Bさんに対し、SNS上で誹謗中傷したとして、被告に対して侮辱罪で拘留29日が言い渡されました。

被告は投稿自体は認めたものの、別の遺族に対するもので、Bさんを侮辱する意図はなかったと弁解して無罪を主張していたのです。

Bさんの投稿に対して亡くなった家族の実名に言及し、遺族が金銭や反響目当てであること、新しい女を作ってやり直せばいいなどの主旨を返信していました。

裁判所は投稿内容からBさんに対する侮辱であったと認定し、刑を言い渡したのです。

動画配信者への誹謗中傷事例

インターネット上で配信者として活動していたCさんは、「バカ女」「母親がいないから精神が未熟」などの表現を用いて侮辱されました。

誹謗中傷をした人物側は、不満や愚痴に過ぎない、Cさん活動者として収益を得ているからある程度の批判も享受すべきなどと主張したのです。

Cさん側は匿名の書き込みをした加害者に対して法的対処をとるために、発信者情報開示請求の訴訟を起こしました。

裁判所はCさんへの権利侵害を認め、誹謗中傷者の発信者情報開示を命じました。こうして匿名の加害者が誰なのかという特定に至ったのです。

関連記事『配信者やVtuberへの誹謗中傷…アバターへの暴言は「中の人」への名誉毀損?』でも解説していますが、配信者への誹謗中傷も権利侵害として認められうるものです。

インターネット上の誹謗中傷被害についてのQ&A

インターネット上の誹謗中傷被害について、よくある質問にお答えします。

メールでの暴言は誹謗中傷にならない?

個人間のメールは不特定多数の人の目に触れる場ではないので、公然性があるとはいえず、名誉毀損罪や侮辱罪は成立しません。警察に相談しても、加害者に刑罰を負わせることは難しいでしょう。

しかし、メールで誹謗中傷されて名誉権を侵害されたという「民法上の不法行為」としての訴えはできる可能性があります。

「犯罪行為の成立」と「民法上の不法行為」は別であると認識しておきましょう。

このほかLINEの個別トークやInstagramのDMなどは不特定多数の人の目に触れるわけではないので、メールと同様に名誉毀損罪や侮辱罪の成立要件は満たしません。

しかし、民法上の不法行為による損害賠償請求はできる可能性がありますので、一度弁護士にアドバイスをもらうことをおすすめします。

実名以外での誹謗中傷被害は泣き寝入り?

実名以外での誹謗中傷でも、「名誉毀損罪」や「侮辱罪」などの刑事責任の追及や、民法上の不法行為を根拠に損害賠償請求できる可能性はあります。

ただし、書き込みや発言が誰のことを指しているのかをある程度の客観的な基準に基づいて特定できる可能性が重要です。これは同定可能性ともいわれます。

同定可能性が認められれば、ハンドルネーム・伏字・イニシャルであっても誹謗中傷は犯罪や権利侵害にあたるのです。

たとえば、SNSアイコンは顔写真であるか、プロフィール欄の情報から本人特定できるか、具体性や特徴がある投稿内容で本人特定につながるかなど、様々な観点からの検討が必要でしょう。

実名こそ出されていないが誹謗中傷されているという方は、一度弁護士に当該書き込みを見せて見解を聞いてみてください。

企業の不正告発や有名人のスキャンダルは名誉毀損?

投稿内容が名誉毀損にあたるものでも、次のような条件を満たすときには違法性がないと判断されます。これを違法性阻却事由といいます。

違法性阻却事由

  • 投稿事実に公共性がある
  • 公益に資する目的で投稿された
  • 投稿内容が真実もしくは真実と信じるに足りる相当な理由がある

企業の不正告発や政治家の汚職問題など、広く知られることがみんなの利益になる場合には、「投稿内容が真実もしくは真実と信じるに足りる相当な理由がある」ときのみ名誉毀損にはあたりません。

一方で、証拠のない勝手な憶測や本人・会社の評判を下げることを目的とした場合は名誉毀損が成立する可能性もあります。

ネットで誹謗中傷されたらどうする?

ネット上の誹謗中傷に対しては、誹謗中傷を削除する、誹謗中傷してきた相手を特定する、誹謗中傷に対する法的責任を追及する(民事面・刑事面)という3つの対処が考えられます。

誹謗中傷を削除する

インターネットは記事や投稿の共有が手軽に行われます。たとえば、ブログ記事で誹謗中傷されると、ブログ記事のURLがSNSで共有されることはよくあることです。

そうなると、ブログ記事を削除しても、SNSの投稿が再び拡散や転載される恐れがあるのでSNSの投稿削除も必要になります。

ネット上に残った誹謗中傷は、就職・結婚といった人生の節目に悪影響を与えることになりかねません。ネット上で誹謗中傷されたら、できるだけ早い段階で削除を検討しましょう。

サイトごとに削除基準や削除依頼ルールが異なり、サイト管理者や運営会社に削除依頼ができるケースもあります。

誹謗中傷投稿の削除可否を知りたければ、ネットにくわしい弁護士に相談するのがよいでしょう。弁護士ならば、誹謗中傷に関して的確な法的主張をすることができるため、安心して削除を任せられます。

誹謗中傷の相手を特定する

誹謗中傷をした人を特定するため「発信者情報開示請求」を検討することになります。

もっとも、発信者情報を特定するには事実上法的手続きが必須となること、技術的な問題でタイムリミットがあること、特定の目的が正当であることなどの条件があるのです。

一定の費用がかかってきますので、弁護士に相談をして、発信者情報開示請求の見通しや予想される展開について聞いておきましょう。

発信者情報開示請求については関連記事でくわしく解説していますので、あわせてお読みください。

誹謗中傷の民事責任を追及する

誹謗中傷の相手方を特定できれば、民法709条に基づき損害賠償請求することができるケースもあります。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条

誹謗中傷に対して損害賠償請求をするには、誹謗中傷と損害との間に因果関係があることや加害者に故意または過失があること、被害者の権利を侵害したことなどを論理的に主張していきましょう。

もっとも慰謝料の交渉には時間もある程度かかりますし、直接相手と交渉することは大きなストレスになります。弁護士に相談をして、交渉を任せることも検討すべきでしょう。

なお、弁護士であれば事案に応じて慰謝料の適正額を見積もることも可能です。法外な金額を要求しても交渉は成立しませんが、不当に低い金額で終わらせないためにも弁護士から助言を受けることが有効でしょう。

誹謗中傷の慰謝料相場や慰謝料請求の流れについては、関連記事『誹謗中傷の慰謝料相場はいくら?損害賠償請求の流れと注意点をおさえよう』もお読みください。

誹謗中傷の刑事責任を追及する

誹謗中傷が犯罪に該当するケースでは、被害届を出したり告訴することによって刑事責任を追及できるケースもあります。

名誉毀損、侮辱、信用毀損にあたるような誹謗中傷に関しては刑事責任の追及も検討しましょう。その場合は最寄りの警察署に相談してください。

事前に担当の刑事の方に事情を説明し、相談をした上で被害届・告訴状を提出するようにするとスムーズです。

また、誹謗中傷の具体的な内容を警察に示すことが必要になりますので、相談するにあたっては、書き込みがされたページの印刷等を準備し、経緯を説明できるようにしておきましょう。

被害届を出せるケースや刑事告訴の解説については関連記事を参考にしてみてください。

ネットの誹謗中傷はどこに相談すべき?

ネットの誹謗中傷は公的機関や法律事務所への相談がおすすめです。もっとも、身体に危害が加えられる恐れがあるケースやリベンジポルノといった権利侵害が深刻なケースは早急に警察に相談してください。

公的機関に相談する

ネットの誹謗中傷について相談を受け付けている公的機関が複数存在します。相談内容や希望する対応方法に応じて使い分けるようにすると良いでしょう。

ネット上の誹謗中傷に関して相談窓口を探している方は、関連記事『ネットトラブルや嫌がらせの相談窓口はどこ?無料相談や電話相談先を紹介』も参考にしてみてください。

法律事務所に相談する

弁護士は法的専門家ですので、誹謗中傷に関して専門的なアドバイスが期待できます。なかでも、ネット上の誹謗中傷対策に力を入れている法律事務所は、力強い味方になるでしょう。

下記バナーよりお読みいただける解説記事は、インターネットトラブルにくわしい弁護士の探すときのポイントをまとめています。弁護士選びの参考にしてください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了