ネットトラブル・誹謗中傷で被害届が出せるケース・刑事告訴を解説
ネットトラブル・誹謗中傷は警察に被害届を提出することができる場合があります。この記事ではどういう内容ならば被害届が出せるのか、被害者になった場合にはどのような対処をすべきか解説しています。
被害届を出した方が良いネットトラブル事例
ネットトラブルで被害届を出すべき時のポイント
ネットで誹謗中傷された場合、被害届を出すためにはポイントが2つあります。
- 誹謗中傷によってどんな影響が及んだか
- 誰が見ても特定の人物(団体)に対する誹謗中傷だと分かるか
たとえばTwitterの全体向け投稿に「バカ、死ね」と書いただけでは具体的に誰に向けた発言なのかわかりません。
イニシャルだけなどの名指しは、同じイニシャルの人が大勢いるため一個人の権利を侵害したと認められにくいでしょう。
警察に相談すべきケースには社会的信用を失うなどの被害を受けた場合や、直接金銭の損失があった場合、身体に危害を加えられる恐れがある場合など様々です。
身体に危害を与えられる恐れがある場合
- 具体的な日時や狙う相手を名指しのうえで、殺害や放火などの予告めいた投稿される
- DM等で「●●駅で待ち伏せをしてやる」といった脅迫的な内容のメッセージを執拗に送ってきて接触をはかろうとする(ネットストーカー)
上記のような被害に遭った場合はすぐに警察へ相談すべきです。
特定の人の生命や身体に害を加える旨を告知する書き込みは刑法第222条に規定されている脅迫罪が疑われ、刑事事件となる可能性があります。
ネットストーカーの被害については、関連記事『ネットストーカーされている…相談先と対処法は?弁護士ができる法的サポート』でもくわしく解説しています。どう対応するべきか悩んでいる方は参考にしてください。
アカウントの乗っ取りに遭った場合
TwitterやInstagramなどのアカウントを投稿内容などから推測されて乗っ取られた場合、不正アクセス禁止法に違反していると考えられます。
SNSの場合、有料プランに加入しているならばアカウントにクレジットカード情報を紐づけていることもあるかもしれません。
紐づけたクレジットカードの明細を確認したところ身に覚えのない金額を引き落とされた場合や、アカウント自体を勝手に第三者に販売された被害に遭った場合には、あわせて警察に被害金額を伝えましょう。
アカウントの乗っ取り被害への対処法や犯人の特定方法など、具体的な対応方法を知りたい方は、関連記事『SNSアカウント乗っ取りにどう対処する?犯人の特定法や乗っ取りの手口を解説』を参考にしてください。
悪い風評で業務に影響が出ている場合
たとえばレストランの口コミに「虫の入った料理を提供されたので絶対行ってはいけない店だ」と衛生管理に関する嘘の情報が書き込まれ、クレームの電話が殺到したため営業を休止せざるを得ない状況になったとします。
その場合は刑法第233条後段に規定されている業務妨害罪が疑われるでしょう。口コミサイトのトラブルについては下記の特集記事も参考にして対処方法を検討すべきです。
誹謗中傷が名誉毀損罪になる場合
名誉毀損罪は刑法第230条第1項に規定されている犯罪です。「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と書かれています。
「公然と」とは、不特定多数の人の目に触れる可能性がある場合をいいます。そして、「その事実の有無にかかわらず」とありますので、事実無根の内容であっても、事実が摘示されていれば名誉毀損罪が疑われます。
名誉毀損罪になるケースについて詳しくは下記の特集をご一読ください。
プライベートの性的な画像が流出した場合
第三者に見られることを許可してない裸の画像や動画が顔や名前等特定できる状態で流出している場合、リベンジポルノに該当する可能性があります。
被害に遭ったのが女性ならば、被害投稿についての相談を同性の警察官でに聞いて欲しい等、相談時の要望もあらかじめ警察署に伝えておくことがおすすめです。
またリベンジポルノ被害は各都道府県の性犯罪被害専用ダイヤルを利用して相談することも可能です。
詳しくは警察庁の「各都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口」からお調べください。
ネットトラブルで被害届を出す場合の手順
警察への相談する場合、被害状況をなるべく正確に伝える必要がありますので、被害届を出すながれを押さえておきましょう。そのうえで捜査すべき内容かどうかは警察ごとの判断に委ねられます。
1.投稿内容を印刷し証拠を保管する
ネットトラブル・誹謗中傷に関して被害届を警察に提出するには、証拠をそろえておく必要があります。
どのような被害を受けたのか、どのようなネットの投稿だったかを証明するために、書き込まれている部分を印刷して用意しておくことも大切です。また投稿先のページURLと、閲覧日時も控えておく(印刷しておく)ようにしましょう。
既に削除されて時間が経過している場合、インターネットの仕組み上捜査ができません。再投稿されたらすぐに証拠を保管しましょう。
2.警察署に相談の予約をする
直接警察署に行って証拠を提出すれば100%被害届を受理してもらえるわけではありません。
まずは訪問前に警察署に電話をしてネットトラブルの被害内容と訪問希望日時を伝えましょう。あわせてどんな内容の証拠が揃えば被害届が出せるのか確認しておくことをお勧めします。
連絡無しで突然訪問すると、ネットトラブルの犯罪被害に詳しい警察官が不在にしていることがあります。担当者以外に相談をしたところ、被害状況をすぐに理解してもらえず手間取ることもあるので必ず電話してから警察署へ行きましょう。
3.被害届を出す場所を決めておく
ネットトラブル・誹謗中傷に関しての被害届は、交番や駐在所ではなく、お住まい最寄りの警察署で出すことがおすすめです。
ネットに関する知識を持っている警察官がいない場合、他の所轄警察署を案内されるケースもあるかもしれません。
事前に電話で相談していた場合は、電話で対応してもらった担当者名を窓口で伝えましょう。事情を把握してくださっている警察官の方なら手続きが比較的スムーズです。
ポイント
- 証拠の保管(紙に印刷)
- 事前の相談(警察)
- 警察署へ被害届を提出する
4.刑事告訴後はどうなるのか
被害届を出して受理された場合は警察の捜査の区切りがつくまで証拠の投稿を削除できません。その間に不特定多数の人に閲覧や保存・転載されてしまう恐れもあります。
犯人を突き止めて刑事責任を追及するべきか、削除を選ぶべきなのかも併せて警察へ相談しましょう。審理状況によって被害者側にも都度連絡が入ることになります。
被害届と刑事告訴の違い
- 被害届は「被害があったことを申告する」という意味で、刑事告訴は「被害申告し、かつ加害者に処罰を求める意思がある場合」を指します。
刑事告訴のやり方や費用相場については、関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』をお読みください。
刑事事件として捜査できない場合の対処法
被害届が受理されづらいネットトラブル
被害届の内容を検討したうえで、証拠が不十分、被害が軽微、刑事事件としての処理が難しい等と判断された場合には受理されないこともあります。
受理の判断がむずかしいケース(一例)
- 男女間トラブルのもつれ
例.恋人同士が相手を非難する喧嘩の投稿をInstagram上で行った - 給与の支払いなど個人間の契約・金銭トラブル
例.YouTubeの動画に出演したことによるギャラの支払が滞っている - 診断書は無いがネットで誹謗中傷をされて体調不良になった
発信者の特定は民事事件を扱う弁護士に依頼
警察が捜査を行わなかった場合でも、損害賠償金を請求するなどにより民事上の責任追及をできるケースもあります。
その場合は誹謗中傷の投稿が残るサイトに投稿者のサイト接続情報を開示してもらい、さらに接続時に利用したネット回線から相手の氏名や住所を割り出す必要があります。
相手を特定できれば交渉か、民事裁判によって損害賠償を求めることになりますが、技術的に開示に至らないことも珍しくありません。
3ヶ月以上経てばサイト側に接続情報が残されていなかったり、秘匿性の高い回線(海外サーバー)を利用していたりなどすると発信者にたどり着くのは極めて困難だといえるでしょう。
着手金費用を支払っているならば、開示に至らなくても費用が返金されないリスクがあることを留意して検討することをおすすめします。
発信者情報開示請求については、『発信者情報開示請求とは?ネットの誹謗中傷の投稿者を特定する方法と要件』でくわしく説明していますので、参考にしてください。
流出した個人情報はネットに強い弁護士に削除を依頼
- 犯人を特定したいが投稿日時が古く開示できない
- 晒されたくない個人情報がネット上に残っている
上記のいずれかに当てはまる状況ならば、なるべく早期に書き込みを削除する方がおすすめなことがあります。
顔画像や、今も使用している電話番号情報、逮捕歴など、今後もネット上で検索して表示される情報は自然に削除されることはなく大半は残り続けます。
書き込まれた誹謗中傷を見た人のなかには、そのまま素直に内容を信じてしまったり、その内容をさらに拡散したりする二次被害が発生することがあります。
書き込まれた内容のせいで進学や就職に差し障りがある・自分だけでなく家族にも影響が波及するケースは少なくありません。ネットトラブルの被害に巻き込まれた結果、なるべく被害に巻き込まれる前の生活を立て直す方向で動きましょう。
削除依頼方法は書き込まれたサイトによって規約や禁止事項が異なるため、削除判断基準がサイトごとに異なります。
また、削除依頼手続きのルールを知っておかなければ、問い合わせても削除判断をしてもらえないサイトも存在します。
サイトごとの削除依頼ポイントを知りたい方は、下記の特集記事も参考になさってください。
ネットトラブルの相談先の選び方
犯罪にあたる可能性があるなら警察に相談
警察に相談した方が良い事例を記事の前半でご紹介しましたが、警察に相談すべきかどうか迷っている場合も電話で問い合わせて被害状況を伝えましょう。状況に応じて警察署内での相談を案内されたり、他の相談窓口へ誘導してもらえます。
緊急性がある殺害予告ならば110番にかけるべきですが、相談の場合は#9110へ電話してください。通話料金を要しますが、相談料は不要です。
刑事事件として扱われないならば、法律事務所に対処方法の相談をしてみましょう。
ネットトラブルに関する相談を受けている法律事務所のなかには相談料0円で専門家がアドバイスをしてくれることがあります。
そのほか、ネットトラブルの相談先を知りたい方は関連記事『ネットトラブルや嫌がらせの相談窓口はどこ?無料相談や電話相談先を紹介』も参考にしてみてください。無料相談や電話相談窓口をお悩み別に紹介しています。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了