配信者やVtuberへの誹謗中傷…アバターへの暴言は「中の人」への名誉毀損?

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配信者・Vtuber

インターネット上で個人情報を出さずに活動する配信者やVtuberのようにアバターで活動している方への誹謗中傷も問題視されています。

実際に表に出ることはなく、そのアバターを動かす実在の人物は「中の人」ともいわれる存在です。

あまりにひどい暴言を受けたとき、「私(中の人)への誹謗中傷は罪に問えないのか?」「あくまでアンチコメントとして我慢すべき?」と諦めてしまう人もおられるかもしれませんが、実際に権利侵害が認められた判例もあります。

配信者やVtuberへの誹謗中傷や暴言は、顔出しの有無関係なく名誉毀損や侮辱罪などの権利侵害にあたる可能性があります

本記事では誹謗中傷を受けた配信者やVtuberが取れる対応や、誹謗中傷をした相手に問える責任について解説します。

配信者やVtuberが誹謗中傷されたらどう対応する?

配信者やVtuberが誹謗中傷された場合には、誹謗中傷の投稿削除、開示請求による特定後に損害賠償請求、刑事告訴や被害届の提出といった対応を検討していきましょう。

誹謗中傷への対応

  1. 誹謗中傷の投稿削除
  2. 開示請求による特定と損害賠償請求
  3. 刑事告訴や被害届の提出

こうした対応についてくわしく説明します。

(1)誹謗中傷の投稿を削除

自身の投稿動画へのコメントで誹謗中傷をされた場合には、コメントを削除したり、特定の言葉をブロックしたりして自衛することも可能です。

しかし、ご自身の配信動画内ではなく他の掲示板やSNSで誹謗中傷がなされた場合には、削除申請をする必要があります。

削除申請の方法として、削除申請フォームで削除を依頼する方法と、裁判所へ仮処分命令を求める方法についてみていきましょう。

削除申請フォームを使う

多くの配信プラットフォームやSNSには、誹謗中傷の削除依頼機能が備わっています。配信プラットフォームには利用規約が設けられていますので、削除依頼の手順に従って申請しましょう。

削除申請の際には、利用規約のどの部分に抵触しており、どういった被害を受けているのかを具体的に記載することが重要です。

各SNSや掲示板における削除の流れは、関連記事の解説を参考にしてみてください。

裁判所へ仮処分命令を求める方法

ネット上の誹謗中傷を裁判手続きによって削除する方法もあります。それは「仮処分命令」による書き込みの削除です。

仮処分命令の申立てが認められれば、誹謗中傷を書き込まれた人の権利を守るため、裁判所が暫定措置として誹謗中傷の削除を命じることになります。裁判所からの命令なので掲示板・SNS側も削除に応じる可能性は高いです。

ただし仮処分命令の申立てには、申立て書の作成や証拠の収集など、手続きに慣れた人のサポートを受けることが大切になります。

ネット上の誹謗中傷問題に注力する弁護士からアドバイスを受けたり、必要に応じて対応を依頼することも検討してみてください。

仮処分命令による削除については関連記事でもくわしく解説しています。あわせてお読みください。

(2)開示請求による特定と損害賠償請求

誹謗中傷をした匿名の人物が誰なのかを特定して、慰謝料をはじめとした損害賠償請求も可能です。

具体的な流れを以下に示します。

相手を特定する流れ

  1. 掲示板やSNSへ投稿者のIPアドレス開示を求める
  2. 開示されない場合は裁判所の仮処分手続きで開示を求める(法的手続き)
  3. 裁判所が認めた場合はIPアドレスの開示命令が発令される
  4. IPアドレスからプロバイダを特定する
  5. プロバイダにログ保存を求める仮処分手続きを申立てる(法的手続き)
  6. プロバイダに発信者情報開示訴訟を起こす(法的手続き)
  7. 勝訴した場合は発信者の住所・氏名などが開示される

このような流れは「発信者情報開示請求」といい、複数の法的手続きが必要です。そのため、独力ではなく弁護士に依頼して進めることが望ましいでしょう。

なお、本人を特定するためにかかった費用は「調査費用」として、誹謗中傷の投稿者への請求が認められる傾向にあります。

また「発信者情報開示命令」という非訟手続により、複数回の法的手続きをまとめておこなえるようになりました。

POINT

発信者情報開示請求や発信者情報開示命令には一長一短の部分があり、どちらの方法が適しているかを事案ごとに見極めねばなりません。

弁護士ならこうした手続きを任せることはもちろん、特定後の賠償金の交渉も任せられます。

(3)刑事告訴や被害届の提出

誹謗中傷が名誉毀損や侮辱罪、威力業務妨害罪などの犯罪行為に該当する場合は、警察への告訴や被害届の提出により、刑事処分を求めることも可能です。

名誉毀損や侮辱罪、威力業務妨害罪の刑罰を下表に示します。

名誉毀損・侮辱罪・威力業務妨害罪の刑罰

罪名刑罰
名誉毀損3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
侮辱罪1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料
威力業務妨害罪3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

「誹謗中傷罪」という犯罪はありません。そのため、誹謗中傷の内容に応じて犯罪行為となりうるのかを検討する必要があります。

なお、身体の危険を感じさせるような悪質なものはすぐに警察に相談してください。

ちなみに、名誉毀損や侮辱罪は親告罪といって、被害者の告訴状がないと加害者を起訴できません。起訴できないと裁判が行われないので刑事責任を問うこともできないのです。そのため告訴状は必須といえます。

以下の関連記事では刑事告訴の方法や費用を解説していますので参考にしてみてください。

配信者やVtuberへの誹謗中傷における権利侵害のポイント

誹謗中傷に対して法的措置を取るためには、「どんな権利侵害が生じているのか」の十分な検討が必要です。

どのように権利侵害の有無を検討すべきか、ネット上の誹謗中傷としてよく問題になる「名誉毀損」や「侮辱罪」などの権利侵害の種類をみていきましょう。

誹謗中傷と「中の人」との同定可能性

Vtuberやアバターへの誹謗中傷については、同定可能性がポイントになります。同定可能性とは、その誹謗中傷が誰に向けて言っているのかわかること、そして現実の人物と結びつくことです。

「中の人」の名誉感情が傷つけられたという主張が認められた場合には、損害賠償請求ができる可能性があります。

よって、誹謗中傷が誰に向けられたのか、そのアバターがどの程度「中の人」を反映しているのかなどが慎重に検討されるでしょう。

あきらかに「アバター」への非難であるというときには、「中の人」の名誉感情が傷つけられたとはいえない可能性もあるのです。

ネット上の誹謗中傷は事案によって慎重な判断が必要になります。弁護士に相談してみて、名誉感情が傷つけられたという主張が認められうるのかを聞いてみましょう。

これまでの判例も本記事内「Vtuberへの誹謗中傷に関する発信者情報開示請求の判例」で紹介しますので、参考にしてみてください。

どんなものが権利侵害になる?名誉毀損や侮辱罪などを解説

権利侵害にはどんなものがあるのかをある程度整理しておくことは大切です。損害賠償請求においては「名誉感情の侵害」や「人格権の侵害」として表現することもあります。

例えば、名誉毀損は「公然と事実を摘示し、社会的評価を低下させる行為のこと」です。とくに事実の摘示がポイントとなりやすいとされています。

事実の摘示を満たす誹謗中傷の言葉としては「前科がある」「風俗で働いている」「不倫している」などがあげられるでしょう。

逆に「ブス」「ハゲ」などは事実の摘示とまではいえず、侮辱罪での検討にとどまる可能性が高いです。

そのほかにも、ネットストーカー、肖像権侵害、著作権侵害などの権利侵害もおさえておきましょう。

ネットストーカー

たとえば配信者やVtuberにしつこくつきまとい、ひわいな画像を送りつけたり、何度も嫌がらせのコメントを残したりといった「ネットストーカー」も深刻な権利侵害といえるケースがあります。

身に危険を感じている場合には警察への相談が必要となるでしょう。

相手に法的措置を検討したいが直接接触したくないという方は、弁護士を立てて対応を一任することをおすすめします。

以下の関連記事ではネットストーカーへの対処法や相談先、弁護士相談のメリットを解説しているので、あわせてお読みください。

肖像権侵害

ネット上で顔を明かさずに活動しているにもかかわらず、本人の意思に反して顔写真をアップロード・拡散されてしまった場合には、肖像権侵害を主張できる可能性があります。

今後の配信活動はもちろん、プライベートにも悪い影響を及ぼしてしまう恐れもあるので、早めの対応が必要です。

著作権侵害

Vtuberのキャラクターには著作権が存在します。そのため、勝手に改変を加えられることや、許可していない商品に転載されることなどは違法行為です。

そのキャラクターの著作権を所有している場合には、著作権侵害を見過ごさず、差止め(削除)請求や損害賠償請求など、毅然とした態度で対応することが求められるでしょう。

配信者やVtuberが損害賠償請求できる金銭とは?

配信者やVtuberを誹謗中傷した相手には、慰謝料、配信活動ができなかったことやイベントが中止に追いやられたことへの損害賠償請求も認められる可能性があります。

誹謗中傷による精神的苦痛への慰謝料

誹謗中傷によって名誉感情が傷つけられたという主張が認められれば、精神的苦痛を負ったとして慰謝料の請求が可能です。

慰謝料相場は権利侵害により異なりますが、数万円から百万円程度になる可能性もあります。誹謗中傷の内容、誹謗中傷された回数、誹謗中傷による具体的な損害内容を考慮して適正な金額を請求しましょう。

ネット上の誹謗中傷問題にくわしい弁護士であれば、お話をお伺いして慰謝料の相場を見積もることが可能です。

関連記事でも誹謗中傷による慰謝料相場や損害賠償請求の流れを解説しているので、あわせてお読みください。

配信やVtuber活動ができなかったことへの賠償金

誹謗中傷により配信活動やVtuberとしての活動ができなくなった場合には、その分売上が下がることになります。

あるいは配信をおこなっていた人が精神的に追い詰められ、心療内科などの病院に通うことになった場合には治療費もかかってしまうでしょう。

誹謗中傷との因果関係が認められた場合には、売上や治療費といった損害についても相手に求めることが可能です。

管理運営側が負った損害も請求される可能性あり

誹謗中傷により配信者やVtuberに関連したイベントやライブ活動が中止に追い込まれたり、誹謗中傷対応のために追加の人件費やセキュリティ費をついやした場合には、そうした費用も請求できる可能性があります。

誹謗中傷との因果関係がどの程度認められるかによるため、相手側との交渉が必要になるでしょう。

Vtuberへの誹謗中傷に関する発信者情報開示請求の判例

ここではVtuberをめぐる誹謗中傷・プライバシー侵害などの権利侵害について、発信者情報開示請求が認められた判例を紹介します。

「中の人」の人格的利益侵害を認め発信者情報開示を命じた判例

インターネット上で「A」の名称で活動していた原告が、掲示板の投稿による権利侵害を主張した事案です。

原告は「バカ女」という知性の欠如を意味する表現や、「母親がいない」という成育環境から「精神が未熟」といった表現を用いたことを指摘し、否定的価値判断を表明して侮辱されたと主張しました。

一方の被告は、抽象的で根拠のない不満や愚痴にすぎない、活動者として収入を得ている以上は活動に対する批判も享受すべき立場であるなど、権利侵害に当たらないと主張したのです。

裁判所は、原告は「A」の名称を用いて、アバターの表象を衣装のようにまとって動画配信などの活動を行っていると判断しました。

そして、本件投稿は「A」の名称で活動する者に向けられたものだとしても、侮辱により名誉感情を侵害されたのは原告であると認めたのです。

「A」に向けられたものであった言葉により原告の人格的利益が侵害されたというべきで、特定電気通信を用いて本件投稿が流通したことにより、原告の権利が侵害されたことは明らかだと判断しました。裁判所は原告の主張を認め、発信者情報の開示を命じたのです。

この判例は大阪地方裁判所令和4年8月31日判決の発信者情報開示請求事件より抜粋しています。

一部の権利侵害を認めるにとどまった判例

インターネット上で「B」の芸名により、Vチューバ―のアイドルグループに所属して活動をおこなう原告が、掲示板サイトでの投稿により権利を侵害されたとして訴訟を提起しました。

裁判所は一部の投稿については原告の主張を認め、発信者情報の開示を命令したのです。その一方で、一部の投稿については原告の主張を認めませんでした

なお、この判例は東京地方裁判所令和3年6月8日判決の発信者情報開示請求より抜粋しています。

プライバシー侵害について

原告は、個人にかかる情報を一切公開していないのに、Vチューバー「B」の顔写真であるような形式で顔写真を添付公開されてしまったのです。

裁判所はこの点について、Vチューバ―としてのキャラクターのイメージを守るために個人情報を晒さない芸能戦略はあり得るし、一般公開を望んでいなかったことは十分認められると判断しました。

本人が望まない形で顔写真を投稿した行為は、プライバシー侵害にあたると判断したのです。

名誉感情の侵害について

原告は、掲示板にて「慢心」「成金」「品がない」といった社会通念上の受忍限度を優に超えた表現とをされたとして、名誉感情の侵害を主張しました。

裁判所はVチューバ―「B」として「宝石、宝、お金が大好きで、海賊になって宝を探すのが夢。」という設定を自ら行っていること、なおかつ高級な食事のエピソードを動画配信していることに言及したのです。

そして、原告に対する否定的な表現ではあるものの、原告個人の具体的なエピソードや人格攻撃とは解せず、表現者として作品を提供するうえでは受忍すべき限度の範囲内として権利侵害を認めませんでした。

配信者やVtuberへの誹謗中傷には弁護士相談で法的対処も検討

インターネット上で意見や感想を述べることは自由です。しかし、それが誹謗中傷に発展するのは言語道断といえます。

法的措置を取るかどうかは、個々の状況によって異なるでしょう。お一人で判断ができないことも多いと思いますので、法律の専門家である弁護士の見解を聞いてみることがポイントです。

どういった法的対処が取れるのか、弁護士を立てるメリットはどれくらいあるのか、見通しだけでも立てておくことが重要になります。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了