著作権侵害されたらどう対応すべきか|無断転載の削除や損害賠償の訴えを起こす
インターネットは個々の作品を公開する場としても活用されており、SNSやブログで創作活動を楽しんだり、情報共有をおこなったりと盛んな交流がおこなわれています。
しかし、誰でも入手できる環境に置かれた著作物を悪用したり、誰でも見られる場に他人の著作物を無断で公開したりする違法行為も蔓延しているのです。
権利者の許可なく複製すること、ネット上にアップロードして誰でも簡単に閲覧できる状態にすることなどネット上の無断転載は著作権侵害にあたります。
あるいは著作者に無断で著作物を変更したり、著作者の想いに反する利用は著作者人格権の侵害といえるでしょう。
著作権侵害に対しては、削除(差止め)、損害賠償請求、刑事告訴といった様々な対処法が取れますが成功の見通しはケースバイケースです。一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
著作権の基本情報|権利の内容を知っておこう
ご自身が著作権侵害の被害にあったかもしれないと感じている方は、まず「著作権」という権利の概要を知っておきましょう。
著作権は何のための権利?
著作権とは、著作物と著作者の利益を守るための権利です。著作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。
著作権には著作者人格権と財産権の2つの性質があり、それらを守るために定められた法律が「著作権法」です。
著作権法は著作物を保護することで、著作物を創作した著作者の努力や苦労に報い、文化の発展に寄与することを目的とします。
著作権は著作物の創作と同時に発生するので、行政機関や法的機関の手続きをしなくても、作品ができた時点で権利をもつことになるのです。
著作権を有していると、その物を独占的に利用することができます。また第三者が無断でその著作物を利用していれば、それを排除することも可能です(同法112条1項)。
なお著作権は知的財産権のひとつです。知的財産権という権利は何か、知的財産権侵害の事例などを知りたい方は、関連記事『知的財産権はどんな権利?侵害されたときの対処法や侵害事例を弁護士が解説』も併せてお読みください。
著作権(著作者人格権)
著作物には、著作者の気持ちや考え方が表れます。著作物に込められた「著作者の人格」を守るためにも著作者人格権が定められているのです。
著作者人格権の具体的な内容を以下にまとめます。
権利 | 内容 |
---|---|
公表権 | 公表する・しない、公表の方法を決める権利 |
氏名表示権 | 著作物への氏名表示の有無や表示名を決める権利 |
同一性保持権 | 著作物のタイトルや内容を他人に無断で変更されない権利 |
名誉声望保持権 | 自分の名誉や声望を害するような方法で利用されない権利 |
著作者に許可を得ずに無断で大勢の人に見せたり、著作者が望まないにもかかわらず著作者の名前を公表すること、著作者に無断で著作物を変えることは、著作者人格権を侵害しています。
著作者人格権の侵害事例
- 本人が公表を望まない著作物を勝手に公開する
- 小説(原作)の内容を無許可で変更する
- 写真家の作品を勝手にアダルトサイトで使用する
著作権(財産権)
著作権法に定められた著作物の利用方法のいくつかを以下に抜粋します。
権利 | 内容 |
---|---|
複製権 | 印刷、複写など物に複製する権利 |
翻訳権・翻案権 | 翻訳、編曲、変形、脚色、映画化などの方法で二次的著作物を作る権利 |
上演権・演奏権 | 著作物を多くの人に聞かせたり、見せたりする権利 |
※このほか、上映権、公衆送信権、公の伝達権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、二次的著作物の利用権などがある
こうした著作権法に定められた利用方法については、かならず著作権者の許可を得る必要があります。
著作権侵害されたときの対応方法
著作権侵害への対応としては、無断転載の削除を依頼する、投稿者に対する損害賠償請求、警察への相談という3つが考えられます。
それぞれの方法についてくわしくみていきましょう。
無断転載された投稿の削除を求める
無断転載については投稿の削除を求める方法があります。アカウント所持者やメディアの管理者に対して、著作権侵害を主張して削除を求めることができるのです。アカウント所持者に直接削除請求することに抵抗がある方は、弁護士に依頼して削除の要請をしてもらうことを検討しましょう。
SNSや掲示板、ブログなどの媒体ごとの削除申請方法については関連記事でくわしく解説中です。
訴訟による賠償請求や差止めをもとめる
著作権侵害の投稿者に対して民事訴訟を起こすことで、差止めの請求、損害賠償請求、名誉回復措置請求権を求めることが可能です。
ただし民事訴訟をおこなうためには、投稿者がどこの誰であるかを特定する必要があります。特定の手続きに踏み切る場合には「発信者情報開示請求」をおこなうことになるでしょう。
自分がオリジナルで作ったものを販売しているときには、経済的な損失が懸念されます。実際に、アニメやドラマが違法にネットに公開され、著作権侵害の裁判が起こされている事例もあります。
損害賠償請求では数千万円の支払いが認められた事例もあり、著作権侵害は重大な違法行為であることがわかります。
個人が創作した作品であっても、無断使用を放置すると拡散が進み収集がつかなくなってしまう危険があります。すぐに削除や差し止めができないか弁護士に相談するとよいでしょう。
投稿者特定のための発信者情報開示請求に関しては、関連記事『発信者情報開示請求とは?ネットの誹謗中傷の投稿者を特定する方法と要件』でくわしく紹介していますので、参考にしてください。
警察に相談し刑事事件化を検討する
著作権法違反は刑事罰も規定されており、刑事事件として捜査の対象です。
実際に、刑事事件として警察に被害届を出すことができるかはケースによりますが、刑事事件として検討することも一つの選択になります。
なお著作権法違反は一部を除いて親告罪となっています。親告罪というのは、被害者(権利者)の告訴が起訴の要件となっている犯罪のことで、被害届ではなく、告訴をおこなわねばなりません。
刑事告訴のやり方や告訴状作成の方法を知りたい方は、関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』も併せてお読みください。
著作権法違反が刑事事件となった事例
実刑判決となった事件
2021年6月、違法漫画リーディングサイト「漫画村」を通じて、権利者に無断で漫画作品を公開して収益を得ていたとして、主犯格に対し著作権法違反などで実刑判決を言い渡しています。
漫画の早バレ摘発
2024年2月には、発売前の漫画を撮影して複写後、インターネット上に公開したいわゆる「早バレ」に関わった人物を著作権法違反の疑いで逮捕したという報道もなされています。
漫画の画像を無断使用
2023年4月、権利者に無断で漫画作品が複製されたポスターをフリマアプリで通じて販売したものとして、会社員が逮捕されました。
ネットで著作権侵害される事例を紹介
ネット上の創作物にも著作権は存在します。たとえば次のように、個人ブログに公開している小説、個人で考案したコンピュータープログラムなども、著作権が発生しうるものです。
著作権が発生しうる著作物の例
- ブログに公開している小説
- YouTubeや動画サイトにアップした自作の曲
- 辞書やデータベース(編集の過程で著作物になる)
- 子どもが描いた絵
- コンピュータープログラム など
では、実際にネット上で起こる著作権侵害にはどのようなものがあるか、具体例をみてみましょう。
ネットで起こる著作権侵害の事例(1)X(旧Twitter)
X(旧Twitter)で他人の著作物を無断でツイートする行為は、著作権侵害の疑いがあります。たとえば、他人がインスタグラムで公開している写真を、許可を得ることなくツイートする行為です。
他にも、無断で他人のYouTubeやTikTokの動画を自分のツイートに使うことも、著作権侵害にあたる可能性があります。
X(旧Twitter)の削除依頼や開示請求・特定についての詳細は、関連記事を参考にしてください。
ネットで起こる著作権侵害(2)Instagram
Instagramはアメリカに本社を置くメタ(旧Facebook社)が運営しています。Instagramは視覚的に訴える作品や写真をアップロードするユーザーも多く、他人の作品(絵画や動画など)をスマホで撮影しその場でアップしてしまうと、著作権侵害にあたる可能性があるでしょう。
あるいは自分がInstagramでアップした写真を、そのまま別のアカウントが自分の写真であるかのようにアップしている場合、著作権侵害が疑われます。
また、ストーリーズという24時間限定で公開される動画(スライドショー)でも、他人の著作物が勝手に使われトラブルになったという事例があります。
Instagramに関する削除や開示請求・特定については、関連記事も併せてお読みください。
ネットで起こる著作権侵害(3)YouTube
YouTubeでの著作権侵害ケースとしては、他人の動画をそのまま自分の動画として自分のアカウントでアップするような悪質なケースが典型例です。
最近注目を浴びているのが、「ファスト映画(動画)」といわれるものです。映画の一部を切り取り、10分程度に編集したもので、「ネタばれ」動画とされるものです。ファスト映画は短時間で映画のあらすじと結論がわかるため、再生回数も伸ばせるということでYouTube界では注目コンテンツとしてさまざまなチャンネルで取り上げられました。
しかし、この「ファスト映画」は、著作権法違反になるため、刑事上・民事上の責任が問われます。この件で、2021年、仙台地裁で行われた「ファスト映画」の違法アップロード事件では、被告人に有罪判決が下されることになりました。著作権法による刑事罰は、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方」とされており、有罪になると重いペナルティが課せられることになります。
「ファスト映画」にかかわらず、自分の著作物が違法に動画メディアにアップロードされた場合には、著作権侵害を疑う必要があります。こうした動画を発見したときには、すぐに弁護士に相談し、対応を検討してください。
YouTubeの削除依頼に関する詳しい解説は、関連記事を参考にしてください。
著作権侵害に関してよくある質問
著作権侵害に関するよくある質問に回答していきます。
著作権侵害で訴訟を起こす流れは?
著作者人格権を侵害された場合、差止めの請求、損害賠償請求、名誉回復措置請求権を求める訴訟を起こすことが可能です。
訴訟の流れは以下の通りです。
訴訟の流れ
- 著作権侵害の投稿者を特定する
- 裁判所に訴状を提出する
- 著作権侵害が生じているのかを審理する
- 著作権侵害による損害発生の有無を審理する
- 差止め・損害賠償・名誉回復措置などが言い渡される
なお、著作権侵害で相手を訴えるといっても、いきなり訴訟を起こすのではなく、相手を特定したらまず内容証明などで賠償請求する方法も一般的です。
被害の内容を考慮して最適な選択をとる必要があるので、「著作権侵害で相手を訴えたい」と考えている方は、まず弁護士に相談してみましょう。
どこからが著作権侵害になる?
他の人の著作物を完全に複製することはもちろん、よく似た著作物を作成した場合も、著作権侵害が成立する場合があります。いわゆる「パクリ」や「オマージュ」が著作権侵害にあたるかどうかは、事案ごとに検討されます。
なお、私的利用については認められているので、個人の観賞用や家族に見せるための複製は著作権侵害とはいえません。
著作権侵害での損害賠償賠償請求額はどれくらい?
無断転載されたものによって損害賠償請求の可否は様々です。
たとえば「著作権」のうち「財産権」にあたる部分の侵害については、その財産的損害が補てんできれば慰謝料は原則請求できないとされています。
一方で著作権には「著作者人格権」(著作物に対する公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利)があり、この著作者人格権が侵害された場合は慰謝料請求も可能です。
著作者人格権に関する訴訟
あるゲームソフト作品に登場するキャラクターともとれる女性を、成人向けのビデオ作品に登場させたという著作者人格権の「同一性保持権侵害」による損害を訴えた訴訟がありました。
裁判所は、以下の点から著作権侵害(財産権)と、著作者人格権の侵害を認めたのです。
- キャラクターの図柄に著しい共通点があること
- ゲームソフトとビデオパッケージが類似していること
- ゲームソフトと関連付けさせる説明書きをしていること
裁判所は悪質な改変であるものとして、227万5,000円の損害賠償を命じたのです。内訳は、ビデオ販売による得た利益の27万5,000円と、改変行為による無形損害として200万円となっています。
画像の無断使用を訴えることはできる?
画像の無断使用も、使用された画像によっては権利侵害を訴えることが可能です。
たとえば、無断使用された画像が個人の写真であった場合は、肖像権侵害やプライバシー侵害にあたる可能性があり、慰謝料請求も認められる可能性があります。
さらに有名人の写真が商品ラベルに無断転載されて発売されている場合、その人のパブリシティ権が侵害されていると考えられ、慰謝料とは別に損害賠償請求が認められるでしょう。
このように損害賠償請求の内容は無断転載されたもの次第になります。まずは弁護士との法律相談で被害内容を整理していきましょう。
プライバシー権やパブリシティ権については、関連記事『肖像権とは?肖像権侵害の基準や対処法|一般人も訴えることはできる?』にてくわしい解説を掲載しているので、参考にしてみてください。
スクショも著作権侵害になる?
著作者本人がアップロードするスクショは著作権侵害になりませんが、著作者に無断でスクショをとってネット上にアップロードすることは著作権侵害といえます。
また、違法なコンテンツと知りながらスクショをして保存する行為も著作権法に違反する行為です。
撮影してもらった写真は誰のもの?
個人で撮影した写真も著作権が発生します。ただし人物写真の場合、そこには「被写体の権利」も存在することに留意しましょう。
たとえば、コスプレをする人(コスプレイヤー)と、写真を撮る人(カメコ)の関係を考えてみてください。
たしかに写真の著作権は撮影した人にありますが、勝手にコスプレイヤーの写真をネットに公開していいわけではありません。それは被写体であるコスプレイヤーの肖像権を侵害してしまうからです。
ネットにアップロードする際には、「撮影する許可」と「公開する許可」の両方の許可が必要になります。
もし勝手に写真をアップロードされてしまった場合には、削除するように求める権利もあるのです。撮影者に対して見解の相違があったことを丁寧に伝え、公開を控えてもらいましょう。
相手が削除に応じてくれないとき、悪質な権利侵害にあたる可能性がありますので、関連記事『ネットに顔を晒された!肖像権侵害で顔写真の削除や晒し犯の特定はできる?』を参考に対処法を検討してみてください。
著作権侵害されたかも?相談はネットに詳しい弁護士へ!
ネット上で問題になる著作権侵害の事案は、単に法律を使えば解決できるというものではありません。サイトの仕組みネットの特性を把握した上で、適切な対策を講じる必要があります。
そのため、ネット上で自分の著作権が侵害された場合には、インターネット上のトラブルにくわしい弁護士に相談するべきです。
投稿の削除を優先すべきか、投稿者特定に踏み切るべきかは法的知識と経験則による判断が求められます。著作権侵害の相談を多数受けている法律事務所に最善策を尋ねてみましょう。
また、以下の関連記事でも著作権侵害や無断転載などの著作権問題について、どんな弁護士に相談するべきかを解説しています。相談先検討の参考にしてみてください。
削除代行業者にはご注意ください
削除代行業者は「正式な代理人」ではありません。弁護士以外の削除代行者が報酬を得て削除請求をすることは非弁行為(弁護士法72条)にあたります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了