名誉毀損で訴えるにはどんな証拠がいる?開示請求は必須?

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名誉毀損の証拠とは

名誉毀損は犯罪として刑罰が規定されているだけでなく、個人の権利を侵害するものとして民事上の賠償責任も問える深刻なトラブルです。

ネット上で名誉毀損されていると分かったときの悲しみと衝撃は計り知れないものでしょう。そして「名誉毀損の罰を負わせたい」「相手を名誉毀損で訴えたい」といった対応をとるなら、まず証拠集めに取り掛かってください。

この記事を読んで必要な証拠とは何か、証拠にもとづいて取れる対処法を知り、弁護士への相談も検討してみましょう。

ネット上の名誉毀損で訴えるために必要な証拠

名誉毀損で必要になる証拠について、名誉毀損があったことを示す証拠名誉毀損による被害の事実を示す証拠の両面から解説します。

名誉毀損があったことを示す証拠

名誉毀損で訴えるためには、まず名誉毀損がおこなわれたことを証拠で示す必要があります。

証拠としては、名誉毀損にあたる投稿のスクリーンショットが代表的です。スクリーンショットはその書き込みのURLや投稿日時などが含まれる必要があるので、スマートフォンよりはパソコンの画面上でおこなうことをおすすめします。

複数の投稿はすべて証拠として保存し、レスアンカー(>>番号のような形式)で投稿が続いているものはその連続性がわかるように残すこともポイントです。

また、相手が捨て垢であっても、アカウント名やハンドルネーム、プロフィール、その他に投稿している内容なども証拠として有用な可能性があります。

相手に削除されてしまえば証拠をとることが難しくなるので、まずはできる限りの証拠をそろえておき、弁護士に相談して有用なものを選ぶ方法がおすすめです。

まとめ

  • 証拠はスクリーンショットで残す
  • 証拠のスクリーンショットはURLや投稿日時がわかるもの
  • 前後の投稿との関係性がわかることも有効
  • スマートフォンではなくパソコンで証拠をとろう

発信者情報も証拠となる

発信者情報とは、誹謗中傷を書き込んだプロバイダの契約者に関する住所・氏名・メールアドレスといった情報をさします。

名誉毀損について民事面で訴えを起こす場合には、発信者情報も証拠として必須です。

発信者情報を得るためには、名誉毀損にあたる書き込みのスクリーンショットやURLなどを証拠として、発信者情報開示請求をおこなう必要があります。

くわしい解説は本記事内の「開示請求で得られる発信者情報は証拠として必須?」を参考にしてください。

名誉毀損による被害の事実を示す証拠

名誉毀損との因果関係が認められたものは、損害賠償請求が可能です。被害事実の証拠の一例を以下に示します。

被害事実の証拠の例

  • 精神的な苦痛を受けたことを示す医師の診断書
  • 治療費の領収書
  • 休職や解雇を示す証明書
  • 仕事や人間関係に支障が出たことを示す証拠(仕事や収入減少の証明など)
  • 解決のためにかかった調査費用や弁護士費用

名誉毀損によって被った損害については、口頭で述べるだけでなく、被害状況を示す客観的な証拠が必要不可欠です。

証拠を集めて訴えると何ができる?

名誉毀損で訴えるという言葉は二つの意味に大別できます。

一つは、名誉毀損罪として警察に訴えることで、刑事責任を負わせたいという意味です。二つ目は、名誉毀損という権利侵害を受けたことで、民事責任を取ってほしいという意味になります。

名誉毀損で訴えるとは

  1. 名誉毀損罪の刑事責任を負わせたい:名誉毀損罪として警察に訴える
  2. 名誉毀損の民事責任を取ってほしい:損害賠償請求で相手を訴える

証拠を集めてどのような対応を取りたいのか、目的に応じて訴え方が変わるので注意しましょう。

名誉毀損罪として警察に訴える(刑事責任)

名誉毀損は犯罪として刑罰が定められています。

名誉毀損罪

3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金(刑法230条)

名誉毀損罪は「親告罪」なので、検察が起訴するためには加害者に対して処罰を希望している旨の告訴が必要です。

告訴を受けた警察や検察で捜査がおこなわれ、加害者に対する刑事処分が決まります。

警察に訴えるために必要な告訴については、関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』でくわしく解説していますので参考にしてください。

損害賠償請求で相手を訴える(民事責任)

自分の価値感や自尊心といった感情は誰もが持っているものですが、周囲からの評判や社会的評価を下げられると、こうした名誉感情が傷つけられることになります。

他者から名誉感情を傷つけられることは権利侵害のひとつとして、民事上の損害賠償請求が可能です。

名誉毀損における損害賠償金の相場

名誉毀損の内容次第ですが、損害賠償請求の多くは慰謝料となるでしょう。

慰謝料は精神的苦痛をなぐさめるお金のことで、個人で10万円から50万円、法人で50万円から100万円ほどになることが多いです。

もっとも、被害内容を証拠で示し、名誉毀損による苦痛の程度をしっかりと主張することで金額が相場より高くなる可能性は十分あります。

慰謝料を請求するにあたっての注意点を解説した関連記事も参考にしてください。

開示請求で得られる発信者情報は証拠として必須?

ネット上で起こる名誉毀損は、相手が誰なのかわからない状態で被害を受けます。

損害賠償請求という民事面での訴えにおいては、相手が誰なのかを特定できていることが必須です。そして、警察への手続きの面でも、事実上、発信者情報をもとに告訴することが多いとされています。

匿名の投稿者を特定する方法に「発信者情報開示請求」があります。訴えるための証拠と発信者情報開示請求で得られる情報の関係を整理しておきましょう。

刑事面で訴える|開示請求していなくても告訴は可能

名誉毀損罪で告訴するとき、相手の住所や氏名といった証拠を集めることは必須ではありません。告訴自体は相手が誰なのかわかっていなくても可能なので、開示請求は必須ではないのです。

もっともネット上の名誉毀損においては、相手を特定したうえで告訴に踏み切るケースも多いとされている点には注意しましょう。

民事面で訴える|開示請求で相手の特定が必須

名誉毀損について民事面で訴える場合には、相手方が分かっている必要があり、発信者情報開示請求による相手の特定は必須といえます。

相手が特定出来たら、まずは内容証明を送付して示談交渉を持ち掛けることがほとんどです。

相手と金銭面で折り合いがつかなかったり、そもそも話し合いに応じて来なかったりと示談交渉での解決がむずかしい場合には、民事訴訟を検討していくことになります。

発信者情報開示請求をするために必要な証拠

発信者情報開示請求をするためには、まず名誉毀損にあたる投稿のスクリーンショット(URLや投稿日時がわかるもの)が必要です。

そのほかは事案によりますが、相手方のアカウント情報がわかっていれば、アカウントが作成された日付やプロフィールに記載されている情報も証拠として残しておきましょう。

発信者情報開示請求の流れは以下の通りです。

発信者情報開示請求の流れ

  • 裁判所に仮処分を申立てる(スクリーンショットなどの証拠提出)
  • サイト側からIPアドレスやタイムスタンプなどの情報開示を受ける
  • IPアドレスからプロバイダーを特定する
  • 発信者情報の保全を求める仮処分申立てをおこなう
  • プロバイダーに対して発信者情報の開示を求める訴訟を起こす
    仮処分申立てで開示された情報も証拠として提出する

発信者情報開示請求については『発信者情報開示請求の要件と流れ|誹謗中傷の投稿者を特定する方法を解説』の記事で理解が深まりますので、参考にしてください。

発信者情報開示請求以外に特定方法はある?

警察による捜査で犯人が特定できた場合には、刑事裁判の傍聴や刑事記録の閲覧などで加害者の氏名や住所を知る方法もあります。

しかしネット上の名誉毀損に関していえば、まず発信者情報開示請求で相手の特定を試み、特定した情報を元に民事面と刑事面の両面で訴えることになるでしょう。

名誉毀損の証拠について知っておきたいこと

名誉毀損において証拠は極めて重要です。ここからは証拠を集めるうえで知っておきたい項目をまとめています。

名誉毀損の成立要件を満たす証拠が必要

名誉毀損で訴えるには、公然性事実摘示性名誉毀損性のすべてがそろっている必要があります。

名誉毀損の成立要件

条件概要
公然性不特定や多数の者に認識されているもの
事実摘示性具体的な事実を摘示しているもの
名誉毀損性人の社会的評価を低下させるもの

書かれた人が悪口を書かれたと感じても、名誉毀損の成立要件を満たしていない可能性もあります。関連記事では名誉毀損の成立要件をくわしく解説しているので、併せてお読みください。

証拠から同定可能性が認められることがポイント

ネット上の名誉毀損では同定可能性が問題になります。同定可能性とは、表現内容から特定の個人を容易に推測できる可能性のことです。

表現内容、周辺の情報、社会通念上など複数の要素を考慮して、第三者から見ても誰のことをいっているかわかる必要があります。

とくにイニシャル・伏字・源氏名・ハンドルネームへの名誉毀損は同定可能性が争点となりやすく、同定可能性がないと判断されてしまえば名誉毀損は成立しません。

しかし、ひとつの書き込みからは誰のことかわかりづらいようにみえても、レスアンカーや前後のやり取りから、同定可能性が認められることは十分ありえます。

弁護士に相談して見解を聞き、あらゆる角度から証拠をそろえることにしてください。

証拠不十分とされたら加害者は刑罰を受けない

名誉毀損罪に関する刑罰を言い渡すのは裁判所です。しかし、まず裁判にかけるかどうかを決めるのは、検察の役割になります。加害者を裁判にかけることを「起訴」といい、現在の日本では起訴されるとほとんど有罪になる状況です。

検察が検討した結果、不起訴にするケースもあります。不起訴になると裁判は開かれないので、加害者には前科はつきません。

不起訴になる理由はいくつかありますが、そのうちのひとつが「証拠不十分」とされています。証拠不十分の理由で不起訴処分となったら、加害者は刑罰を受けません。

警察や検察の捜査でも証拠は多数集められますが、被害者としてもできるだけ多くの証拠をそろえて告訴することが大切です。

インターネット上の証拠は時間が経つと消える

インターネットにはデータ送受信の日時、行われた操作の内容などが残っており、それらは「ログ」といわれて一定期間保管されます。

ログは加害者の特定や加害者の行動を示す重要な証拠ですが、保管期間を過ぎると消えてしまうのです。

おおよそのログの保存期間は3ヶ月から6ヶ月といわれているので、名誉毀損にあたる書き込みがなされてから日が経ち過ぎると証拠が失われてしまいます。

名誉毀損の証拠が失われてしまう前に、発信者情報開示請求に着手する必要があるのです。

名誉毀損での証拠集めに不安があれば弁護士に相談!

名誉毀損罪で警察に訴えるにしても、名誉毀損という権利侵害で民事責任を問うにしても、証拠を十分にそろえておくことが大切です。

どういった証拠を集めておけば良いか迷うという方は、弁護士との法律相談でアドバイスを受けることをおすすめします。

ただし、弁護士との法律相談までに、投稿者や管理者によって削除されて証拠が失われてしまうという最悪のケースも起こりえるでしょう。今後訴える際の証拠には採用されないかもしれませんが、多めに証拠をとっておくと無難です。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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