SNSでのなりすまし被害!削除・特定・刑事告訴などの法的措置はとれる?

なりすましの被害

なりすまし被害には、なりすましアカウントや投稿の削除要請、人物の特定、なりすましておこなわれた犯罪行為について警察に訴えることができるケースがあります。

もっとも「なりすまし」という行為そのものがただちに犯罪とはいえません。なりすましによってどんな被害を受けているのかを明確にし、法的問題として主張する必要があります。

そのため、なりすまし被害の内容によっては、弁護士に相談して法的措置を検討すべきケースもあるのです。

なりすましの被害への具体的な対処法

なりすまし被害にあったなら、なりすましアカウントの削除を申請する、なりすましアカウントの特定と開示請求、刑事告訴といった対応が可能です。

また、パスワードを変更する、セキュリティを強固なものにする、周囲に対してなりすまし被害にあっていることを伝えるなどの対応もあわせておこない、被害の拡大や炎上を防止しましょう。

ここからは削除、特定と開示請求、刑事告訴について詳しく解説します。

なりすましの削除申請

削除申請の方法は、サイトやSNSの運営に削除を申請する方法と、裁判所の仮処分手続きを利用する方法があります。

サイトやSNSの運営に削除を申請する際には、自身が「本人」であることを証明する書類などを用意して、各サイトやSNSごとの手順に従いましょう。

SNSごとの削除申請方法については、関連記事『SNSの削除依頼|誹謗中傷やネットに晒された個人情報を削除する方法』も参考にしてみてください。

裁判所の仮処分手続き

もうひとつの方法は、裁判所へ仮処分手続きを申し立てる方法です。これは正式な裁判ではなく、「仮処分」という緊急の措置で、被害者の権利保護のために選択されます。

仮処分手続きによる削除であれば運営側も応じる可能性が高いですが、費用がかかるデメリットに留意しておきましょう。

仮処分手続きによる削除については、関連記事『削除請求の仮処分申立てとは?ネット上の誹謗中傷や名誉毀損への法的手続き』でくわしく解説しています。

なりすましの特定・開示請求

なりすましアカウントを開示請求によって特定することも可能です。

ただし、「相手を知りたい」という理由だけではなく、なんらかの犯罪行為をおこなっていることや、なりすましによる権利侵害を主張する必要があります。

もしなりすました人物を特定できたなら、その人物に対する損害賠償請求も視野に入れることになるでしょう。

なりすましを刑事告訴する

なりすましアカウントについて刑事告訴も可能です。ただし、なりすまし行為自体は犯罪ではないので、それだけで刑事処罰を負わせることはできません。

そのため、なりすましアカウントで犯罪行為がおこなわれたと感じた場合には、まずその投稿のスクリーンショットを保存しておいてください。

そして、弁護士に相談して法的なアドバイスをもらうことも大切です。

つづいて、なりすましの被害で成立しうる犯罪や刑事告訴の方法を解説します。

なりすましの被害で成立しうる犯罪と刑事告訴

なりすましによって成立しうる犯罪には、名誉毀損罪侮辱罪詐欺罪電子計算機使用詐欺罪不正アクセス禁止法違反などが考えられます。

それぞれの犯罪と、それらを訴える方法をみていきましょう。

名誉毀損罪

なりすましアカウントで被害者もしくは他者の名誉を傷つける投稿する行為は、名誉毀損罪に該当する可能性があります。

なりすまし被害で名誉毀損罪が成立する典型的な例としては、以下のようなケースが考えられるでしょう。

  1. なりすまし犯Aが、なりすまされた被害者Bの名誉を害する投稿をする
  2. AがBになりすましてCを誹謗中傷し、Bの評判を下げる

ケース2の場合では、誹謗中傷した相手Cへの名誉毀損罪と、なりすましの被害者Bの評判を下げたという両面からより重い刑罰が科される可能性もあります。

名誉毀損罪ってどんな罪?

名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為です。誹謗中傷が公然の場でおこなわれており、事実の摘示があり、人の名誉を毀損する際に該当します。

事実の摘示とは、具体的な事柄をもって誹謗中傷することです。たとえば「前科がある」「職場で不倫をしている」「人の作品をパクっている」などがあげられます。

内容の真偽は関係なく、書かれた内容が真実であっても、虚偽であっても名誉毀損罪に該当する可能性があるでしょう。

名誉毀損罪をさらに詳しく知りたい方は関連記事も併せてお読みください。

侮辱罪

なりすましアカウントで被害者もしくは他者への侮辱の投稿は、侮辱罪に該当する可能性があります。

なりすまし被害で侮辱罪が成立する典型的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  1. なりすまし犯Aが、なりすまされた被害者Bを侮辱する投稿をする
  2. AがBになりすましてCを侮辱し、Bの評判を下げる

ケース2の場合では、相手Cへの侮辱罪と、なりすましの被害者Bの評判を下げたという両面からより重い刑罰が科される可能性もあります。

侮辱罪ってどんな罪?

侮辱罪とは、公然と人を侮辱する行為です。

名誉毀損罪との違いは、「事実の摘示」がない点にあります。たとえば「バカ」「ブス」「貧乏」などあげられるでしょう。

「バカだから留年した」「ブスなのにパパ活をしている」「いつもお金に困っていて万引きをしている」などの事実が摘示されていれば、名誉毀損罪となる可能性があります。

詐欺罪

詐欺罪とは、人を欺いて財物を騙し取る行為を罰する犯罪です。

なりすまし被害で詐欺罪が成立する典型的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  1. なりすまし犯が、なりすました本人の名義で、他人から金銭を騙し取る
  2. なりすまし犯が、なりすました本人の名義で、他人に商品やサービスを購入させる

電子計算機使用詐欺罪

電子計算機使用詐欺罪とは、電子計算機を使用して人を欺いて財物を騙し取る行為を罰する犯罪です。

なりすまし被害で電子計算機使用詐欺罪が成立する典型的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  1. なりすまし犯が、なりすました本人のアカウントでの決済時にポイントを悪用する
  2. なりすまし犯が、なりすました本人のアカウントで電子決済により商品を購入する

不正アクセス禁止法違反

不正アクセス禁止法違反とは、他人のコンピューターに不正にアクセスする行為を罰する犯罪です。

他人のSNSアカウントのパスワードを盗み、不正にアクセスするといった被害は「乗っ取り」ともいわれています。

SNSの乗っ取り被害にあい、具体的に何から対処するべきかを知りたい方に向けては、関連記事『SNSアカウント乗っ取りにどう対処する?犯人の特定法や乗っ取りの手口を解説』でくわしく解説しています。

刑事告訴や被害届提出の流れ

なりすましによって受けた被害の内容によっては、刑事責任を問うことも可能です。刑事上の責任を追及するためには、警察へ被害届もしくは告訴状を提出します。

その後の捜査は警察や検察がおこない、犯罪が成立すると判断された場合は何らかの刑事処分が決まるのです。

被害届と告訴状の違い

被害届は、犯罪の被害を受けたことを警察に申告する書類といえます。被害届を提出すると、警察は捜査の端緒となる情報を得ることができますが、捜査義務は発生しません。つまり、警察は被害届を提出されたからといって、必ず捜査をしなければならないわけではありません。

告訴状は、被害届よりも強い処罰を求める意思表示をする書類です。告訴状を提出すると、捜査機関は捜査を行う義務が発生します。

また、親告罪の場合は被害者の告訴がなければ起訴することができません。そのため、親告罪に該当する犯罪の被害を受け、加害者に刑事処分を望むなら告訴状を提出する必要があります。

なりすまし被害とかかわりのある犯罪について、親告罪と非親告罪の違いは下表の通りです。

なりすまし被害とかかわりの深い犯罪

罪名親告罪/非親告罪
名誉毀損罪親告罪
侮辱罪親告罪
詐欺罪非親告罪
電子計算機使用詐欺罪非親告罪
不正アクセス禁止法違反非親告罪

なお、非親告罪であっても発覚しづらい犯罪もあります。非親告罪も告訴状は提出できるので、警察に被害事実を申告し、告訴状を提出することも必要な手段といえます。

なりすましによる被害内容がどんな罪にあたるのか、どういった対処をとるべきかなどの疑問があれば、まず弁護士に相談してみてください。

刑事告訴のやり方や費用相場など、もっとくわしく知りたい方は関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』もあわせてお読みください。

なりすましの被害で注意すべき権利侵害と特定の方法

なりすまし被害を受けた場合、民事上の責任として、加害者に対して慰謝料などを損害賠償請求できます。

慰謝料の金額はなりすましによる権利侵害に応じて異なります。なりすまし被害による権利侵害としては、プライバシー侵害、肖像権侵害、名誉権侵害などがあげられるでしょう。

プライバシー侵害

まず、なりすまし行為そのものはプライバシー侵害にはあたりません。

また、プライバシー侵害行為に対する刑罰は定められていないので、刑事責任は問えません。しかし、不法行為を受けたとして民事上の損害賠償請求が可能です。

プライバシー侵害にあたる場合とは、なりすましとは関係なく、勝手に私的情報を公表する行為があった場合にかぎります。

  • 一般的に公表されていない事実であるもの
  • 私生活における事実や、事実と受けとられる可能性があるもの
  • 通常の感覚では、情報の公開を求めていないもの

たとえば、その人の住所、出自や年収、病気・病歴、前科、勤務先などを勝手に公表することが、プライバシー侵害にあたる可能性があります。

肖像権侵害

なりすまし行為自体が、すぐさま肖像権侵害となるわけではありません。

たとえばなりすましアカウントがプロフィール画像としてAさんの写真を設定していたとしましょう。その写真がAさん自身のSNSなどで公表されているものなら、肖像権侵害とはいえないのです。

ただしAさんになりすましたアカウントで他人を誹謗中傷したり、Aさんをおとしめるような投稿としたりすることは、写真の使用目的として正当ではありません。

なりすましによる不法行為とAさんの写真(肖像権)が結びつくことで、Aさんは名誉感情を傷つけられることになり、Aさんへの権利侵害が発生していると考えられます。

肖像権とは、「みだりに自己の容ぼう等を撮影され、これを公表されない権利」をさします。肖像権侵害についてくわしく知りたい方は、関連記事も参考にしてみてください。

損害賠償請求するためには特定が必要

民事上の責任を追及するためには、以下の手順によって相手を特定する必要があります。

  • 掲示板やSNSなどのサイト運営者に対して、IPアドレスなどの情報開示を求める
  • なりすましアカウントのIPアドレス開示を受けたら、プロバイダーを特定する
  • 特定できたプロバイダーに対して発信者情報開示請求をおこなう
  • 発信者情報の開示を受けたら、その住所・氏名あてに損害賠償請求をおこなう

加害者に対して損害賠償請求の意思表示をするには、まず内容証明郵便などで請求書を送付するのが一般的です。

相手方との交渉がうまくいかなかったり、支払いを拒否されたりといった場合には損害賠償請求訴訟の提起も検討することになるでしょう。

また、そもそも相手方と直接やり取りをすることを避けたいという方もおられます。

なりすましアカウントの特定や、特定後の損害賠償請求を検討している方は弁護士への相談がおすすめです。弁護士であれば、発信者情報開示請求の手続きサポートから相手方との交渉まで任せられます。

なりすましアカウントの特定は「発信者情報開示請求」という法的手続きを利用します。発信者情報開示請求についての詳細は関連記事をお読みください。

SNSのなりすまし被害についてのよくある質問

SNSでのなりすまし被害に関しても、削除や開示請求・特定の対象となるケースがあります。

ここからはSNSのなりすまし被害に関する質問にお答えします。

X(旧twitter)でのなりすましアカウントは削除してもらえる?

アカウントが凍結される可能性があります。X(旧Twitter)のヘルプセンターからなりすまし行為であることを報告しましょう。

なりすまし行為について、X(旧Twitter)では、他の利用者の誤解をまねくおそれのある虚偽のプロフィール掲載、アカウントと関係のない人物や組織を詐称してはいけないと定めています。

X(旧twitter)でのなりすましアカウントは特定できる?

なりすましによって権利侵害を受けていることが認められれば、特定できる可能性があります。

たとえば、被害者になりすましたアカウントで犯罪をほのめかしたり、前科や不倫といった一般的に評判を下げる行為をおこなっていることを投稿したりする行為があげられるでしょう。

X(旧Twitter)での開示請求・特定については、関連記事『X(旧Twitter)での誹謗中傷は開示請求で特定できる?名誉毀損で訴えたい』で詳しく解説中です。

インスタのなりすましは削除してもらえる?

なりすましの被害について報告すれば、適切に対処される可能性があります。インスタの「プライバシー、セキュリティー、報告」の「なりすましアカウント」から報告してください。

なお、報告は匿名でおこなわれて相手からはわからないこと、なりすましの被害にあった本人もしくは代理人からの報告を受け付けていることなども明記されています。

インスタのなりすまし犯人は特定できる?

インスタのなりすましによって権利侵害を受けている場合には、特定できる可能性があります。

具体的には、被害者になりすまして、犯罪をおこなっていることをほのめかしたり、公にしたくない私的な情報を投稿したりすると、権利侵害を主張できる可能性があるでしょう。

以下に例文を示します。

  • 浮気しているけど旦那にはバレていない
  • 推し活のために今日もパパとホテルにいくよ
  • バイト先の食べ残しもったいないから他の客に提供しちゃった…

インスタでの開示請求・特定方法については、関連記事『インスタの開示請求と特定のやり方!被害を訴えるなら弁護士に依頼しよう』も参考にしてみてください。

LINEのなりすましは特定できる?

LINEのなりすましによって権利侵害を受けている場合には、特定できる可能性もあります。発信者情報開示請求という法的手続きを利用することが多いです。

具体的には、LINEでなりすまして誰かを脅迫したり、不貞行為や前科など評価を下げるような内容の話をすることなどが該当しうるでしょう。

なりすましアカウントにつきまとわれている場合は?

執拗なつきまとい行為はネットストーカー行為ともいえます。ネットストーカーはあなたになりすまして嫌がらせをしてきたり、個人情報を入手しようと周囲の人に接触を試みたりするケースもあるでしょう。

関連記事『ネットストーカーされている…相談先と対処法は?弁護士ができる法的サポート』ではネットストーカー被害への対策と弁護士ができるサポートを解説しています。被害に心当たりのある方は参考にしてください。

不正アクセスされたかもしれない!どうすればいい?

なりすましにとどまらず、アカウントのログイン情報が盗まれてしまい、アカウントに不正にアクセスされている可能性があるときには、警察への被害届提出も必要です。

なお不正アクセスを疑うきっかけは様々ですが、いずれにせよ警察に届け出るときには証拠もあわせて提出しましょう。

不正アクセス被害は初期対応が重要です。関連記事『不正アクセス被害の対処は初動が肝心!警察への被害届や弁護士への相談は必要?』で対処法をわかりやすく解説しているので、参考にしてください。

なりすまし被害は弁護士に相談すべきケースもある

ご自身になりすましたアカウントや書き込みについて、なんとなく気味が悪いと考えるのは当然です。

しかし、なりすましの行為そのものがただちに犯罪行為とはいえず、被害者自身の権利を害しているとは言い切れません。

そして、なりすましをやめてほしいからといって、相手方に直接連絡を取る際には慎重におこなってください。相手方を強い言葉で非難したり、脅しともとれる言動をしたりすると、かえって罪に問われる可能性もあります。

ただし、なりすましによる犯罪行為や誹謗中傷がなされている場合は別です。「そのうち消えるだろう」と放置せず、警察に相談したり、弁護士に対処の助言を受けるべきです。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

現在、相談窓口を鋭意準備中です。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。