個人情報である実名や電話番号が晒されたらどうする?訴えることはできる?

個人情報が晒された

個人情報とは、その情報もしくは周辺情報から人物を特定できる情報のことで、名前、住所、電話番号などが代表例といえるでしょう。

個人情報の晒しとは、他人のプライバシーに関する内容を、本人に無断でネット上に公開する行為です。勝手に実名を出されたり、犯罪歴(前科)などの知られたくない私的な情報を無断投稿されたりするケースがみられます。

こうした個人情報の晒し被害は、プライバシー侵害や名誉毀損といった権利侵害に該当する可能性があり、民事面でのみ訴えが可能なケースと、民事・刑事面の両方での訴えが可能なケースがあります。

この記事では個人情報が晒された時の対処、どういった訴えができるのかをわかりやすく解説しているので最後までお読みください。

個人情報が晒されたときの対処はどうする?

個人情報が晒されたときの対処法には、書き込みの削除、投稿者の特定と賠償請求、刑事告訴という3つの対処法があります。

ただし個人情報が晒されたことで生じた権利侵害を被害者側が主張していかねばなりません。

まずは個人情報が晒されたときの対処法を順番に説明します。

個人情報の書き込みを削除する

個人情報が晒されたときには、プライバシー侵害を根拠に、プライバシーを侵害する情報を削除請求できる場合があります。

ただし、どんなものでも削除請求ができるわけではありません。削除されるかは、問題となる書き込みの内容によって変わってくるのです。

削除方法としては、サイト運営者に削除依頼を申請する、裁判所に削除の仮処分申し立てをおこなうなどがあげられます。

ネット上に書き込まれた個人情報の削除を依頼する方法は、関連記事『ネット削除依頼の方法|無断で個人情報を投稿された方へ』にてくわしく解説しています。

どんな情報は削除されやすい?

住所、電話番号、銀行口座情報、マイナンバーなど秘匿性の高い情報は削除されやすい傾向があります。

一方、秘匿性の低い情報は削除されにくいです。たとえば、個人の嗜好(Aさんはコーヒーが好きなど)は秘匿性が低く、削除されにくいです。

また、企業の情報などすでに公開されているものや、政治家の情報など公共の利益に関わるものも削除されにくいといえるでしょう。

晒した人物を特定して賠償請求する

個人情報の晒し行為は、プライバシー侵害は民法上の不法行為(民法709条)にあたるため、損害賠償請求できる場合があります。

ただし、ネットでのプライバシーの侵害は匿名で行われていることが多く、投稿者に損害賠償請求をするには、まず投稿者の特定が必要です。

投稿者の特定については、サイト運営に情報の開示を依頼することも可能ですが、任意での開示依頼に応じてくれる可能性は低いでしょう。

そのため「発信者情報開示請求」という法的手続きを取ることになります。

晒し行為を訴える流れ

  • 投稿者の特定をおこなう(発信者情報開示請求などの法的手続き)
  • 投稿者を特定したら損害賠償請求をおこなう
  • 損害賠償請求の交渉が決裂した場合には民事訴訟も検討する

ただし発信者情報開示請求には費用も手間もかかるうえ、早急に取りかからなければ投稿者特定が難しくなるという点には注意も必要です。

ネットでの匿名投稿者の特定方法である発信者情報開示請求については、関連記事『発信者情報開示請求の要件と流れ|誹謗中傷の投稿者を特定する方法を解説』をご覧ください。

刑事告訴する

たとえば、個人情報が晒されたと同時に名誉毀損や侮辱にあたるような書き込みをされたり、晒された画像がポルノ画像であったりする場合などです。

あるいは「これからおまえの家に行ってぼこぼこにしてやる」「住所を特定した、夜道に気をつけろよ」など書き込まれた場合は脅迫罪に該当する可能性があります。

ご自身に対して書き込まれた内容が犯罪行為になりうるのか、なかなか判断は難しいものです。身に危険を感じた場合は警察へ被害を申告しましょう。

プライバシー侵害だけでは警察が対応できない

個人情報が晒されたときには、刑事告訴も対処のひとつとなります。ただし、プライバシー侵害への刑罰というものはないので、それだけでは刑事責任には問えません。

警察に相談して対応してもらえるのは、相手の晒し行為が刑罰の対象となりうる犯罪行為にあたるケースです。

個人情報の晒しはどんな訴えができる?

個人情報の晒しに対して、削除、投稿者を特定して賠償請求、刑事告訴といった対処をとることが可能です。

ただし晒された個人情報の内容によって、民事面でのみ訴えることができるもの、刑事面でも訴えることができるものにわかれます。

本名の晒しで相手を訴えることはできる?

ネット上で実名を晒された場合には、「プライバシー侵害」を主張できる場合があります。発信者情報開示請求を通して相手を特定すれば、損害賠償請求できる可能性もあるものです。

ただしプライバシー侵害を処罰する刑事罰はないため、あくまで民事上の責任を訴えることになります。

なお、実名の晒しと併せて「(実名)には前科がある」「(実名)は職場で不倫している」など名誉毀損にあたる書き込みがあれば、損害賠償請求のほか、刑事責任を問える可能性もあります。

電話番号が晒されたら相手を訴えることはできる?

電話番号が晒されてネット上に流出したら「プライバシー侵害」の被害を訴えることは可能です。

もっとも刑法上は電話番号晒しを「犯罪」としていないため、刑事罰を負わせることはできず、損害賠償請求という民事責任を問うことになります。

民事上で相手を訴えるには、まず相手が誰なのかを特定する必要があるでしょう。

そのほかサイトへの削除申請や裁判所への削除の仮処分申立てをおこなうなど、電話番号を削除する対応も可能です。

電話番号が流出してしまったら、知らない電話番号からの着信には出ない、SNSと電話番号の連携なども解除しておくなど自己の権利を守る対策も必要といえます。

電話番号の晒しが犯罪になりうるケース

電話番号の晒しが犯罪になりうるケースを紹介します。

たとえば、店舗の電話番号が晒されたことでいたずら電話が増加し、業務を妨害した場合には、偽計業務妨害として罪に問える可能性があります。

あるいは電話番号を晒されるだけでなく、「不倫している」「前科がある」「詐欺をしている」などの名誉毀損にあたる投稿がなされていれば、名誉毀損として罪に問うこともできるでしょう。

住所を晒した相手を訴えることはできる?

プライバシーの侵害を理由に民事訴訟を提起して、慰謝料を請求することなら可能です。ただしネット上に住所を晒されること自体は、刑事責任には問えません。

発信者情報開示請求の制度を利用して相手を特定できれば、慰謝料を請求することも可能です。

そのほか裁判所に削除の仮処分を申し立てたり、サイト運営者に対して削除を申請する方法もあります。

【コラム】個人情報晒しとプライバシー侵害について

プライバシー権とは、個人の姿や情報など、私生活上の事柄を守るための権利です。

明文で認められた権利ではありませんが、憲法13条で保障される「幸福追求権」の一内容とされ、憲法解釈や判例により確立されてきた権利といえます。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法13条

「いわゆるプライバシー権は、私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」

『宴の後事件』判決

プライバシーを侵害すると犯罪?

刑法上プライバシーを侵害すると犯罪になるという規定はありません。したがって、プライバシーを侵害しても通常犯罪とはなりません。

プライバシー侵害が原則として刑法上犯罪とならなくても、プライバシーが憲法13条で保障される権利であることから、プライバシーを侵害した行為は民事上の不法行為(民法709条)となる可能性があります。

これを根拠にして、情報の削除や損害賠償請求、情報公開の差止請求などを行える場合があります。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条

プライバシーの侵害基準

晒された情報が以下の3つの要件にあてはまる場合、プライバシーの侵害に該当する可能性があります。

プライバシーの侵害基準

  1. 私生活上の事実、または事実と受け取られる可能性のある事柄であること(私事性)
  2. 1の事実が、一般的な感覚を基準として考えると、公開をしてほしくないであろうと認められる事柄であること(秘匿性)
  3. 1の事実が一般の人にまだ知られていない事柄であること(非公知性)

具体的には、以下のような情報を無断で晒された場合にはプライバシー侵害といえる可能性があります。

  • 顔写真(個人が特定できるもの)
  • 住所(番地、部屋番号まで)
  • 犯罪歴(前科)
  • 指紋データ
  • 運転免許証番号やマイナンバー

プライバシー侵害の判断基準や事例に関するくわしい解説記事『プライバシー侵害とは|プライバシー侵害の基準・事例・対処法』も参考にしてみてください。

また、ネットに無断で顔写真が掲載されてしまった方は、関連記事『ネットに顔を晒された!肖像権侵害で顔写真の削除や晒し犯の特定はできる?』にて対処法を詳しく解説しています。

ネット上の個人情報晒しの傾向と対策

X(旧Twitter)での個人情報晒し

X(旧Twitter)では顔写真や、住所・電話番号などを投稿するケースが見られます。これらの情報は一般に他人に知られたくない情報であることからプライバシー情報といえるでしょう。

X(旧Twitter)は気軽に投稿できるSNSであることに加え、リポスト(リツイート)機能も付いており、他のSNSと比べても情報が拡散するスピードが速いです。

ひとたび情報が拡散してしまうと、その全てを削除することは非常に困難です。プライバシー侵害されたと感じた場合には、素早く行動する必要があるでしょう。

X(旧Twitter)でのプライバシー侵害に対して削除や開示請求・特定を検討している方は、関連記事を参照してください。

インスタ(Instagram)での個人情報晒し

インスタ(Instagram)では住所・電話番号といった文字情報でのプライバシー侵害に加え、顔写真を無断で載せることによるプライバシー侵害も目立ちます。

また、顔写真と文字情報を同じ画像に載せたり、顔写真に文字情報で説明を加えているケースも少なくありません。

インスタに自身で掲載している顔写真が無断転載されるケースもあるため、プライバシー設定を確認し、自己防衛を図ることが大切です。

インスタでのプライバシー侵害に対して削除や開示請求・特定を検討している方は、関連記事を参照してください。

YouTubeでの個人情報晒し

YouTubeでは、個人の顔がわかる動画をアップする行為がよく見られます。個人の顔や姿は、通常、不特定多数の他人に見られたくないものです。

そのため、個人が特定できる動画を無断でアップする行為にはプライバシー侵害があるといえるでしょう。顔や姿以外にも、住所や電話番号などのセンシティブな情報を無断で動画上に載せる行為は、プライバシー侵害にあたります。

Youtubeへの削除請求については、関連記事『YouTube動画の削除依頼方法を弁護士が解説』を参照してみてください。

掲示板での個人情報晒し

掲示板でもプライバシーの侵害が多く見られます。

爆サイ・2ちゃんねる・5ちゃんねるといった匿名掲示板では、過去の逮捕記事で記事が書かれたりスレッドが立てられるケースもあるでしょう。

逮捕事実は他人に知られたくない情報であり、プライバシー情報ですが、公共性・公益性があるため、削除が難しい場合もあります。

個人情報が晒されたときの対処は弁護士に相談しよう

ネット上でプライバシー侵害を見つけた場合、その情報を削除するにはサイト管理者などにプライバシー侵害があることを説明しなければなりません。

しかしご自身が受けた権利侵害について法的根拠をもって説明することは個人には難しいことが多いため、弁護士に任せることをおすすめします。

また、プライバシー侵害を理由に損害賠償請求する場合についても同様です。投稿者を特定するには発信者情報開示請求という法的手続きをしなければならず、弁護士の助力が必要といえます。

そもそも投稿内容がプライバシーの侵害にあたるのか、または名誉毀損にも該当しうるのかなどの判断は個人では難しいものです。

個人情報が晒されたという方は、今後どんな対応がとれるのか、弁護士に依頼する必要があるのかなど、まずは見解を聞いてみましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

現在、相談窓口を鋭意準備中です。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。