肖像権侵害の慰謝料相場はいくら?請求の条件は?判例解説と損害賠償請求の流れ

肖像権侵害の慰謝料

肖像権は自分の顔や姿態をみだりに「撮影」や「公表」などされない権利をさします。そして、プライバシー権(人格権)とパブリシティ権(財産権)の2つで構成されているものです。

著名人にかぎらず一般人であってもプライバシー権が侵害されれば、不法行為の被害者となりえます。

具体的には、肖像権侵害という不法行為によって負った精神的苦痛に対しては、民法上の損害賠償請求が認められており、慰謝料請求の対象となるのです。

この記事では肖像権侵害の慰謝料相場、慰謝料請求の流れ、肖像権侵害を根拠とした慰謝料請求の裁判例を紹介します。

肖像権侵害による慰謝料請求を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。

肖像権侵害の慰謝料の相場はいくら?

肖像権侵害の慰謝料相場と増額の余地について解説します。

肖像権侵害の慰謝料相場

肖像権侵害の慰謝料相場は10万円~50万円程度が一般的です。もっとも肖像権侵害以外にも、名誉権侵害など他の不法行為が認められた場合、増額される可能性があります。

パブリシティ権の侵害は慰謝料対象外

パブリシティ権は有名人など経済的価値がある人が持つ権利のことで、有名人の名前や写真を無断で商用利用したときに、パブリシティ権の侵害に該当します。

パブリシティ権の侵害を根拠とする場合には財産的損害の損害賠償請求が認められますが、慰謝料の請求は原則できません。

慰謝料相場は被害状況や悪質性によって増額される

被害状況の深刻性や加害者の悪質性によって、数百万円になるケースもあります。

たとえば以下のようなケースのとき、慰謝料が増額されることも考えられるでしょう。

  • 撮影・公表されたものがきわめてプライベートなものであった場合
  • 撮影・公表の目的が悪質なものであった場合
  • 肖像権侵害以外に名誉毀損など他の権利侵害も生じている場合

なお、肖像権侵害による慰謝料請求をするならば、撮影・公表された写真や動画などの証拠データを保存しておきましょう。投稿内容のスクリーンショット保存も大切です。

慰謝料請求を検討している場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼することで、法律の専門知識を活かして、有利な請求をすることができます。

また、そもそもご自身の被害内容が肖像権侵害にあたるのか、プライバシー侵害にあたるのかを知りたいという方も弁護士への法律相談が有効です。

なお、リベンジポルノ被害のようにポルノ画像が晒された場合には、慰謝料の相場はより高額になる可能性があります。

関連記事『リベンジポルノ被害の相談窓口は?ネットに裸の写真が晒されたときの対策』も参考にして、弁護士事務所のほかにも警察への相談も検討してください。

肖像権侵害で慰謝料を請求できる?5つの条件に注目しよう

肖像権侵害で慰謝料を請求できる条件は様々ですが、主に次の5つの観点から考えることが必要です。

肖像権侵害で慰謝料を請求できる条件

  1. 個人を特定できるとき
  2. 公開を許可していないとき
  3. 私的空間であるとき
  4. 不特定多数の目にさらされたとき
  5. 受忍限度を超えているとき

肖像権侵害で慰謝料を請求できる条件をみていきましょう。

(1)個人を特定できるとき

写真に映る人物が誰なのかはっきりわかる場合、肖像権侵害による慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。

後ろ姿や顔の一部なども、服装や所持品、撮影時の状況からその人物が誰なのかを特定しうるとき、慰謝料の請求が認められる可能性もあるでしょう。

(2)公開を許可していないとき

写真に映っている人物が許可しておらず、無断で公開された場合には慰謝料の請求が認められる可能性があります。許可とは「撮影すること」と「公開すること」の両面で必要です。

映っている人物本人が許可している場合には、違法ではありません。

(3)私的空間であるとき

自宅内や病院施設内など、公開を想定していない私的な場所で撮影した写真・動画を無断公開された場合には、慰謝料の請求が認められる可能性があります。

逆に、繁華街、雑踏、イベント会場など多くの人が行き交う場所でたまたま映り込んでしまったケースでは、肖像権侵害による慰謝料請求は困難でしょう。

(4)不特定多数の目にさらされたとき

誰でも閲覧・拡散できるような形で無断公開された場合は、肖像権侵害による慰謝料請求が認められる可能性があります。

ただしすぐに削除されたことで公開期間が短かったり、チャンネル登録者数やフォロワー数が少なくて露出が低かったと判断されると、慰謝料減額の理由になる場合があるので注意しましょう。

(5)受忍限度を超えているとき

権利侵害が社会生活上の受忍限度を超えているとき、肖像権侵害による慰謝料請求が認められる可能性があるでしょう。

肖像権侵害にあたる場合でも、その人物の社会的地位や画像・動画の目的などを総合的に判断し、権利侵害はあるものの受忍限度を超えないと判断されれば、違法性がないと判断されてしまいます。

たとえば芸能人の有名税などといわれるものが、こうした「受忍限度を超えていない」ことを表現する例です。

肖像権侵害の慰謝料請求の流れ

肖像権侵害で慰謝料を請求するためには、相手を特定することから始めなくてはいけません。

投稿者の特定から慰謝料請求の大まかな流れを解説します。

発信者情報開示請求で相手を特定する

肖像権侵害の慰謝料請求をするためには、まずネット上に投稿した人物を特定する必要があります。

ネット上の投稿者特定の方法としては、発信者情報開示請求という法的手続きを取ることになるでしょう。

発信者情報開示請求の大まかな流れは以下の通りです。

  • 投稿のあったサイトやSNSの管理者・運営者に対してIPアドレスなどの開示を求める
  • IPアドレスを元に書き込みのなされたプロバイダーを特定する
  • プロバイダーに対して発信者情報の開示請求をおこなう

なお、発信者情報開示請求は書き込みが不法行為であり被害者の権利が侵害されていることのほか、そもそも発信者特定につながる情報がデータとして残っている期間におこなうことも必要です。

そのため肖像権侵害の慰謝料請求をするために必要な相手方の特定は慎重かつ早急に取り掛からねばなりません。

発信者情報開示請求についてより詳しく知りたい方は、関連記事『発信者情報開示請求の要件と流れ|誹謗中傷の投稿者を特定する方法を解説』も参考にしてみてください。

相手に対して慰謝料を請求する

発信者情報開示請求の訴訟で勝訴した場合には、発信者情報の開示を受けることが可能です。

発信者情報には住所・氏名・メールアドレスなどが含まれているので、その相手に対して慰謝料請求の旨を通達します。

慰謝料請求というと裁判(訴訟)を想像する人も多いですが、最初からいきなり裁判をするのではなく、まず相手方との話し合いから始まることは多いです。

こうした裁判外でお互いに譲歩しながら話し合い、双方で納得のできる解決点を決めながら賠償問題の解決を図る方法を示談交渉といいます。

もし相手方との示談がうまくいかなければ、訴訟に踏み切る流れになるでしょう。

慰謝料を請求するならまずは弁護士に相談

肖像権侵害の被害による慰謝料請求を考えているなら、まずは弁護士に相談しておきましょう。

  • 投稿者を特定できる可能性はあるのか
  • どういった請求方法が適しているのか
  • 慰謝料はどれくらいが適正か

また、弁護士費用についてもしっかり確認しておきましょう。

特定後の慰謝料請求などは相手を特定する段階(発信者情報開示請求)とは別に着手金や成功報酬がかかる事務所がほとんどなので、手元に残るお金、弁護士費用として支払うお金の見通しを持つこともポイントです。

肖像権侵害の慰謝料請求をめぐる判例

肖像権侵害や名誉毀損などの権利侵害を訴えた判例をみていきましょう。

判例1:プライバシー侵害と名誉毀損などで慰謝料80万円

被告がツイッターに掲載した記事及び写真の投稿により、名誉毀損ならびに肖像権侵害を主張して、慰謝料150万円等の支払いを求めた事案でした。

最終的に、慰謝料80万円を相当として請求を一部認容しました。

原告の氏名をインターネットで検索すると、ツイッターの本件投稿記事が上位候補で出るようになっており、執拗な誹謗中傷記事で虚偽の事実を広められた上、原告が病床に伏せている写真や現住所、携帯電話番号まで掲載されてしまったのです。

裁判所は、投稿された記事について次のような権利侵害を認めています。

  • 反社会的勢力との関係および脱税による実刑の前科があり、かつ、詐欺を行う人物であるとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるものであり、名誉毀損について違法性が阻却される
  • 公開を承諾したとは認められない原告の顔写真の掲載は肖像権を侵害し、電話番号、住所などの掲載はプライバシー権を侵害するものである
  • 誹謗中傷を受けたことにより、精神的な負荷がかかり、不眠や抑うつ気分が出現したとして、適応障害による抑うつ状態と診断された

とくに肖像権侵害については以下のような判断をしています。

肖像権侵害について

  • 本人の同意なく本人の容ぼう・姿態を撮影し、公表することは、憲法13条の趣旨に反し、肖像権の侵害となる。
  • 原告がSNSアプリのLINEのタイムラインにすでに投稿済みの写真であるが、不特定多数の者が閲覧するサイトに再度投稿することに同意したわけではないうえ、被告が書き込みした誹謗中傷文言とあいまって、あたかも詐欺師や暴力団関係者であると思わせる投稿であり、社会通念上その公開を欲しない(受忍限度を超える)態様で添付された写真であることは明白である。
  • そして、肖像権侵害が正当化されるような違法性阻却事由もない

この判例は、東京地方裁判所(令和2年(ワ)第31929号 損害賠償請求事件 令和4年4月13日)より抜粋しています。

判例2:名誉権および肖像権侵害で慰謝料60万円

被告がインターネット上の掲示板において他人の顔写真やアカウント名を利用して他人になりすまし、第三者に対する中傷等を行ったことについて、名誉権及び肖像権の侵害が認められました。

最終的に、慰謝料60万円を含む130万6,000円の損害賠償請求を認容したのです。

裁判所は、本件に関して次のような権利侵害を認めています。

  • 被告は原告の顔写真をプロフィール画像としてなりすまし行為をおこなったと推認できる
  • 原告になりすまして他者を侮辱・罵倒することで、原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を第三者に与える。原告の社会的評価を低下させ、その名誉権を侵害しているというべきである。
  • 原告の顔写真は、原告によって第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたと認められる。
  • 原告の顔写真を第三者から無断で公開されないという利益は、少なくともプライバシー権によって保護されるものと認めることはできない。

とくに肖像権侵害については以下のような判断をしています。

肖像権侵害について

  • 原告の顔写真をプロフィール画像として使用し、原告の社会的評価を低下させるような投稿を行ったことが認められ、目的に正当性を認めることはできない。
  • 原告の肖像を使用して、「わたしの顔どうですか?w」(平成27年5月18日午前10時39分)、「こんな顔でHさんを罵っていました。ごめんなさい」(同日午前10時54分)などと投稿したことは、原告を侮辱し、原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めるのが相当である。

この判例は、東京地方裁判所(平成29年(ワ)第1649号 損害賠償請求事件 平成29年8月30日)より抜粋しています。

肖像権侵害の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット

肖像権侵害による慰謝料請求を検討している方は、インターネット被害について取り扱い実績のある弁護士に相談し、依頼も検討していきましょう。

弁護士に相談・依頼すると次のようなメリットが得られます。

  • 肖像権侵害にあたるのかどうか、法的な見解を聞くことができる
  • 投稿した相手を特定できるかどうか、見通しを聞くことができる
  • 投稿者の特定から慰謝料請求までを任せることができる
  • 法的に適正な慰謝料を請求できる

まずは話を聞いてみて、弁護士に依頼するメリットがあるかどうかを検討してみましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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