不正アクセス被害の対処は初動が肝心!警察への被害届や弁護士相談は必要?

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不正アクセスの被害

巧妙な手口で増加する不正アクセス被害は、個人情報漏洩、金銭被害、社会的信用失墜、精神的苦痛など深刻な影響をもたらします。

たとえば次のような事象は、不正アクセスの被害にあっている可能性が疑われます。

  • 覚えのないログイン履歴がある
  • 不正な金銭の引き落としがある
  • 個人情報が漏洩した疑いがある

あなたに無断でログイン情報が使われることや、不正に入手されること、他人に漏らされることは犯罪被害です。

不正アクセス被害は、誰にでも起こり得ることです。被害にあったときには一人で悩まずに、早めに弁護士に相談しましょう。

不正アクセスの被害にあったときの対処法

不正アクセスの被害にあったときには適切な対処が必要です。

  • まずは不正アクセスの状況を確認
  • アカウントの停止や金融機関への問い合わせ
  • 証拠を確保して警察に被害届を提出

こうした対処法についてよりくわしく説明します。

まずは不正アクセスの状況を確認

不正アクセスの被害にあった可能性があるときは、冷静に状況を確認しましょう。不正アクセスの被害を受けるきっかけになった出来事がないかを思い出してみてください。

不正アクセス被害のよくある事例

不正アクセスの被害としてよくある事例は以下の通りです。

パスワードの推測や漏洩

  • 推測しやすいパスワードの設定
  • 同じパスワードの使いまわし

フィッシング詐欺で個人情報漏洩

  • 偽メールやウェブサイトで個人情報を入力
  • 個人情報の管理体制の不備

ウイルスや不正プログラム

  • セキュリティソフト未導入
  • ソフトウェアの脆弱性対策の不備
  • 不正なファイルのダウンロード

総務省の発表(「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」)によれば、令和4年における不正アクセス行為(識別符号窃用型)の手口別検挙件数で最も多いものは「パスワードの設定や管理の甘さに付け込んで入手」というものでした。

つまり誰もが不正アクセスの被害者になるリスクがあるということです。

アカウントの停止や金融機関への問い合わせ

不正アクセス被害は、早期発見・早期対応が重要です。

不正アクセスされたアカウントは、アカウント情報の変更だけでなく、利用停止も検討すべきです。

アカウントに不正ログインした人物がログアウトしないかぎり、不正アクセスされた状態は続いてしまいます。

また、カード会社や金融機関へ問い合わせて被害を申告しておきましょう。

証拠を確保して警察に被害届を提出

不正アクセス被害を受けた場合は、まず可能な範囲で証拠を集めておきましょう。証拠の例を示します。

  • ログイン履歴
    • スクリーンショットや印刷物
    • 不正アクセスされた際のログイン日時、IPアドレス、使用端末などを記録
  • 不正な金銭の引き落とし
    • 金融機関の取引明細
    • 不正な取引の記録
  • フィッシング詐欺のメール
    • メール本文、ヘッダー情報
    • 添付ファイル
  • ウイルス感染の警告表示
    • セキュリティソフトの警告メッセージ

証拠は後からでも収集できる場合もありますが、消去されてしまう可能性もあります。そのため早急に証拠を保存するようにしてください。

どういった証拠をとるべきか悩んでいる場合は、弁護士に相談してみることも有効です。

警察への被害届の提出

証拠を集めたら、最寄りの警察署に被害届を提出します。なお、警察への相談時には次のような点に留意してください。

  • 証拠を必ず持参する(スムーズな相談のため事前に予約を取る)
  • 被害状況、被害額などを詳しく説明する
  • 担当者の名前と連絡先を控える

被害届を提出することで、捜査が進んだり、損害賠償請求が有利になったりする場合があります。

損害賠償問題は弁護士に相談

警察は、不正アクセスがどういった犯罪行為にあたるのかを捜査する国家機関であって、金銭補償の部分については介入できません。

そのため損害賠償の請求を検討している場合は、ご自身で対応するか、弁護士に依頼することになるのです。

相手方と直接やり取りしたくない、いったいいくらの請求が適正なのか分からないといった理由で弁護士を立てる方は多いです。

どこからが不正アクセスになる?不正アクセス禁止法を解説

不正アクセスとは、本来は権限をもたないにもかかわらず、不正に知りえたID・パスワードなどのログイン情報をつかってアクセスする行為をいいます。

「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」では、不正アクセスの具体的行為や刑罰について定めていますので、それぞれについてみていきましょう。

不正アクセスでも警察は動く

不正アクセスの被害であっても、警察に対して被害届を出すことで捜査対象となります。

総務省の発表によると、令和4年の不正アクセス行為の認知件数は2,200件であり、前年と比べ、684件増加しています。

不正アクセスで警察が動かないと考える人もいるようですが、被害にあった方は泣き寝入りせず、証拠を集めて被害届の提出を検討すべきです。

不正アクセスに該当する5つの行為

次の5つの行為は不正アクセスとされており、不正アクセス禁止法違反となります。

不正アクセス行為5つ

  1. 不正アクセス行為
  2. 不正取得行為
  3. 不正アクセス行為の助長行為
  4. 不正保管行為
  5. 不正入力要求行為(いわゆるフィッシング詐欺)

不正アクセス行為

不正アクセス行為とは、無断で他人のSNSやネットサービスなどにアクセスすることをいいます。

IDやパスワードをあてずっぽうで入力してログインをする行為も、この不正アクセス行為にあたるものです。たとえ交際相手や配偶者であっても、不正アクセス行為になります。

不正取得行為

不正取得行為とは、不正アクセスをする目的で他人のIDやパスワードなどのアカウント情報を取得することです。

アカウントの所有者に依頼されて代理でログインする場合や、ログイン情報を聞いた場合は対象外といえますが、プライベートなことを知りたいからと操作中の画面を盗み見ることは犯罪です。

不正アクセス行為の助長行為

不正アクセス行為の助長行為とは、その人物が不正目的を持っていると知って、他人のIDやパスワードを教える行為をいいます。

あるいは第三者が不正目的を持っていると知らなくても、他人のログイン情報を無断で漏らすことは犯罪です。

不正保管行為

不正保管行為とは、不正目的で取得したアカウント情報を保管する行為をいいます。偶然知りえた情報をメモに取る、撮影するなどの方法で保管すると犯罪です。

不正入力要求行為

不正入力要求行為とは、いわゆるフィッシング詐欺をいいます。あるサイトの管理者であるかのようにふるまい、ログイン情報やアカウント情報を入力させる行為です。

不正アクセス禁止法違反の刑罰

不正アクセス禁止法違反の刑罰は重く、実刑判決になることもあります。具体的な刑罰は以下の通りです。

不正アクセス行為と刑罰

行為刑罰
不正アクセス行為3年以下の懲役又は100万円以下の罰金
不正取得行為1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
不正アクセス行為の助長行為1年以下の懲役又は50万円以下の罰金※
不正保管行為1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
不正入力要求行為1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

※相手が不正アクセス行為をすることを知らなかった場合は30万円以下の罰金

不正アクセス禁止法違反の事例

不正アクセス禁止法違反は、個人・企業問わず被害者になる可能性があります。不正アクセス禁止法違反の事例をいくつか紹介するので参考にしてください。

事例1.不正アクセスによる損害賠償請求

この事例は、監査法人(原告)と業務委託契約を締結し、ITに関する監査支援業務をおこなっていた被告に対する損害賠償請求事件でした。

被告は原告である監査法人のイントラネットに不正にアクセスしてデータをダウンロードし、原告の理事長などになりすましてイントラネット内の掲示板に書き込み、さらに原告の情報漏洩などを指摘する内容を関係者に送信しました。

裁判所は不正アクセスの対応にかかった人件費、信用毀損による損害、被害相談時に要した弁護士費用などあわせて約600万円の支払いを命じました。

この事件は東京地方裁判所(令和4年6月6日判決)より抜粋しています。

事例2.不正アクセスで有罪判決

被告人は約1年4ヶ月のあいだ、4名の女性のメールアカウントなどへの不正アクセスを繰り返し、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反等に問われた事件です。

裁判所は被告人の執拗で常習的な態様をみとめ、被害女性のプライバシー侵害や精神的苦痛の大きさについても言及しました。

被告人に前科がないことや仕事を解雇されるという社会的制裁を受けていることを考慮しつつも、懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡したのです。

この事件は東京地方裁判所(平成29年3月24日)より抜粋しています。

不正アクセスの被害に関する相談先は?

不正アクセスの被害にあった場合には、警察や弁護士への相談がおすすめです。

それぞれの相談先には下記の通り、相談できる内容が違いますので、希望に合わせて使い分けましょう。

相談先の違い

  • 犯罪行為の捜査をおこない、刑事罰を与えてほしいなら警察
  • 権利侵害について、損害賠償請求したいなら弁護士

不正アクセスの捜査については警察へ相談

不正アクセスの被害にあい、相手に対する刑事処分を望む場合には、警察への被害相談をしましょう。相談先は最寄りの警察署もしくは以下の電話やインターネット相談が利用できます。

不正アクセス関連の警察相談窓口

相談先相談方法
警察相談専用電話電話 #9110
サイバー警察局サイバー犯罪相談窓口一覧

サイバー警察局への相談を検討している方は、よりくわしく解説している関連記事『サイバー警察に相談すべき?犯罪の可能性が高いネット被害の事例と対応』も参考にしてください。

不正アクセスの損害賠償請求については弁護士に相談

不正アクセスによって何らかの金銭的被害を受けた場合や、権利侵害が生じている場合には、弁護士に相談して民事面での責任を追及することも検討しましょう。

たとえば、不正アクセスにより盗まれたカード情報を悪用・流出されたり、アカウント乗っ取りで個人情報が抜かれたりしている可能性もあります。

なお、こうした民事面での請求をするためには、不正アクセスをおこなった人物を特定している必要があります。

ただし、弁護士に相談する際には、その弁護士が不正アクセス被害について取り扱っているかを確かめることも必要です。バナーからは弁護士選びのポイントについてまとめた解説記事も読めますので、あわせてご確認ください。

ネットに強い弁護士を探す

不正アクセス犯は特定できる?

警察が犯人を逮捕して裁判が始まっている場合には「被害者等通知制度」によって、事件処理の結果、公判期日、刑事裁判の結果などの通知を受けることが可能です。

あるいは、被害者が独自に「発信者情報開示請求」をおこなうことで、不正アクセスをした人物の特定を目指すこともできます。

ただし発信者情報開示請求は法的手続きになるので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

発信者情報開示請求のやり方や弁護士費用については、関連記事をご参照ください。

不正アクセスの被害に関するよくある質問

不正アクセスの被害を関連して、よくある疑問にお答えします。

アカウント乗っ取りも不正アクセスの被害?

アカウント乗っ取りも不正アクセスの被害のひとつで、3年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

アカウント乗っ取りは、個人情報の流出や画像転用、また周囲からのイメージが下がるような行動をとられる風評被害も考えられる深刻なものです。

関連記事『SNSアカウント乗っ取りにどう対処する?犯人の特定法や乗っ取りの手口を解説』では乗っ取り被害にあったときの対処法をSNSごとに解説していますので、参考にしてください。

不正アクセスとなりすましはどう違うの?

不正アクセスとなりすましは似ているものですが、違う部分もあるので整理しておきましょう。

まず、なりすましとは、特定の誰かのふりをしてふるまうことです。自分と同じプロフィールのアカウントが作成されたとき、それはなりすましアカウントといえます。

しかし、このなりすましアカウントはあなたのアカウントに不正にアクセスして、乗っ取りをしたわけではありません。

逆に、アカウントに不正アクセスされ、自分になりすましてアカウントを運用されると「不正にアクセスされ、なりすましの被害にあった」といえるでしょう。

SNSのなりすまし被害については、アカウント削除、なりすまし犯の特定、刑事告訴などの対処法があげられます。

関連記事『SNSでのなりすまし被害!削除・特定・刑事告訴などの法的措置はとれる?』でくわしく解説しているので、参考にしてください。

不正アクセスでプライベートな写真が流出してしまったら?

不正アクセスを受けてプライベートな写真が流出してしまい、掲示板やSNSに晒されてしまった場合には、不正アクセスとは別の犯罪にも問える可能性があります。

たとえば、写真と共に「この女は不倫している」などと書かれた場合には、名誉毀損にも問える可能性があるのです。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下 の罰金に処する。

刑法230条

どんな法的根拠にもとづいて対処すべきかというアドバイスを受けるためには、弁護士への相談がおすすめです。

名誉毀損罪についてもっとくわしく知りたい方は、関連記事『名誉毀損の成立要件と慰謝料相場!名誉毀損にならないケースも解説』も参考にしてください。

不正アクセス被害は早めに警察・弁護士に相談!

不正アクセスを受けることで、あなたの大事な個人情報が持ち出されてしまいます。あるいは家族や知人の情報まで知れ渡り、大事な人間関係を壊してしまう可能性もあるでしょう。

不正アクセスは犯罪行為です。警察や弁護士への相談を早めにおこなうことで、少しでも被害の拡大を防いでいきましょう。

とくに、不正アクセスに関しては警察の捜査の過程で犯人を特定できる可能性があります。しかし相手への賠償請求は、警察の対応外なので、弁護士に依頼して進める方がスムーズに進むでしょう。

また、警察への被害届提出と並行して相手の特定を進めたいなら「発信者情報開示請求」という手段があります。裁判所の手続きを利用することになるため、一人で全て抱え込まず、まず弁護士に相談して、開示請求の見通しを聞いておくと安心です。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了