夫婦喧嘩に疲れた…無視や喧嘩で離婚できる?判断基準と対処法

夫婦喧嘩で離婚?

繰り返される夫婦喧嘩に心身ともに疲れ果て、「もう離婚したい」と考える方は多くいます。

特に、相手からの無視が続いたり、顔を合わせるたびに罵り合いになったりする生活は、大きな精神的負担になります。

それでも、「性格が合わない」「喧嘩ばかり」という理由だけで離婚できるのか、不安を感じる方もいるでしょう。

結論から言えば、協議離婚は話し合いで成立するため、どのような理由でも離婚できます
しかし、相手が拒否して裁判になった場合は「法的な離婚事由」が必要になります。

本記事では、喧嘩や無視に疲れて離婚を考えている方に向けて、法的に離婚が認められる判断基準証拠集めや別居といった今の状況から抜け出すための具体的な対処法について解説します。

夫婦喧嘩を理由に離婚できる?

夫婦の合意があれば理由は問われない

まず前提として、夫婦双方の合意があれば、喧嘩や性格の不一致を理由に離婚することは可能です。

離婚の方法は、大きく分けて「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3種類です。

このうち、協議離婚と調停離婚は、夫婦の合意に基づいて離婚する方法です。どのような理由で離婚するか、どんな離婚条件を定めるかは、夫婦が自由に決めることができます。

そのため、「喧嘩ばかりの生活に疲れた」「相手の態度に耐えられない」といった理由であっても、相手が同意さえすれば離婚は成立します

相手が拒否した場合は法定離婚事由が必要

相手が「離婚したくない」と拒否し、裁判まで進んだ場合は事情が異なります。

裁判離婚は、裁判官の判断で夫婦を強制的に離婚させる手続きのため、離婚が認められるための厳しい条件が設けられています。

その条件が、民法770条に定められる法定離婚事由です。この5つのうちいずれかの理由がなければ、裁判離婚は認められません。

法定離婚事由(民法770条)

  1. 不貞行為
  2. 悪意の遺棄
  3. 3年以上の生死不明
  4. 回復の見込みのない強度の精神病
  5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由

夫婦喧嘩だけでは、民法が定める離婚理由には通常あてはまりません。

そのため、裁判で離婚を認めてもらうには、喧嘩の程度や内容が「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に達していると証明する必要があります。

暴力や激しい暴言が伴う場合を除くと、単なる口論だけを理由に裁判で離婚が成立する可能性は高くありません。

言い換えれば、喧嘩の最中に相手から離婚を迫られたとしても、こちらが離婚に同意しない限り、強制的に離婚させられる可能性は低いと考えることもできます。

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離婚事由になり得る夫婦喧嘩と無視の境界線

単なる喧嘩と離婚事由の違い

一時的な感情の衝突である単なる夫婦喧嘩と、法的に問題視される離婚事由になり得る喧嘩には以下のような違いがあります。

項目単なる夫婦喧嘩離婚事由になり得る喧嘩
頻度・一時的
・散発的
・日常的
・顔を合わせる度
内容・意見の食い違い
・愚痴
・人格否定
・暴言
・無視
修復・話し合いで解決可能・話し合い拒否
・恐怖を感じる

喧嘩の際に「お前はダメな人間だ」「稼ぎが少ない」といった人格を否定する暴言が日常的に繰り返されている場合は、モラルハラスメント(精神的DV)として、離婚事由に該当する可能性があります。

また、一度でも身体的な暴力(DV)があった場合は、直ちに身の安全を確保すべき重大な事由となります。

無視が悪意の遺棄やモラハラになるケース

夫婦喧嘩の延長として一時的に口をきかなくなること自体は珍しくありません。
しかし、無視が長期間続くと離婚事由となる可能性があります。

  • 必要な連絡も無視する
  • 数ヶ月以上にわたり会話が一切ない
  • 同じ家の中で存在を否定するような態度をとる

こうした無視は精神的虐待(モラハラ)の一種とみなされるほか、夫婦の義務である協力義務に違反するとして、「悪意の遺棄」や「婚姻を継続し難い重大な事由」と認定される可能性があります。

特に「喧嘩後、半年以上一切口をきいてくれない」といった長期化したケースでは、夫婦関係がすでに破綻していると判断されやすくなります。

喧嘩や無視に疲れた時にとるべき行動

心身を守るために別居を検討する

話し合いにならない、あるいは顔を見るだけで動悸がするといった場合は、物理的に距離を置く別居を検討してください。

離婚裁判の実務において、長期間の別居は夫婦関係が破綻している客観的証拠となります。

相手が離婚に応じない場合でも、別居期間を積み重ねることで、将来的に離婚が認められる可能性が高まります。

ただし、何も言わずに家を出ると「悪意の遺棄」と主張されるリスクがあるため、置手紙やメールで「頭を冷やすために別居する」旨を残すか、弁護士に相談してから行動することをおすすめします。

「疲れた」を証明する診断書をもらう

夫婦喧嘩や無視によるストレスで、不眠、食欲不振、動悸などの症状が出ている場合は、心療内科などを受診し、診断書をもらっておきましょう。

「夫(妻)との関係によるストレス」等が記載された診断書は、相手の行為によって健康が害されたことを示す証拠のひとつになります。

喧嘩や無視の証拠集めをする

相手が有責配偶者であることを証明できれば、交渉を有利に進めたり、慰謝料を請求できたりする可能性があります。

特に、無視や言葉の暴力は目に見えないため、意識的に証拠を残す必要があります。

有効な証拠の例

  • 録音データ
    喧嘩中の怒鳴り声や暴言の録音
  • 日記・メモ
    「いつ・どのような喧嘩をしたか」「無視が始まった日」「無視された具体的な状況」の詳細な記録
  • LINE・メール
    既読スルーや未読無視されている画面のスクリーンショット
  • 診断書
    夫婦関係の悩みによる適応障害やうつ病などの診断書
  • 写真
    物が壊された、暴力によるアザなどの写真

喧嘩を繰り返していると感情的になってしまいがちですが、有利に離婚を進めるためには冷静に証拠集めを行いましょう。

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夫婦喧嘩が原因で離婚する際の注意点

本当に離婚していいかもう一度考える

喧嘩の勢いで「離婚する!」と言ってしまった方も、本当に離婚していいのか今一度検討してください。

離婚すればもう喧嘩をしなくてよくなりますが、離婚には見過ごせないデメリットも多いのです。

離婚のデメリットの例

  • 経済的に苦しくなる
  • 子どもの親を奪ってしまう
  • 一人で家事や育児を担うことになる
  • 困った時に頼れる先が少なくなる

後から後悔しないためには、離婚の決断をする前にメリット・デメリットをよく比べることが重要です。

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喧嘩の勢いで離婚届を書いてはいけない

夫婦喧嘩がエスカレートすると、「もう離婚する!」と言ってしまったり、こっそり用意していた離婚届を突きつけるということも起こります。

しかし、その場の勢いで離婚届に署名してはいけません

喧嘩の勢いで離婚届にサインして提出してしまったけれど、やっぱり取り消すことはできませんか」というご相談も少なくありませんが、一度受理された離婚届を撤回するのは難しいことです。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

もしも離婚する気がないのに離婚届を書いて相手に渡してしまったら、相手が離婚届を提出してしまう前に離婚届不受理申出を行いましょう。

離婚届不受理申出とは、自分以外の誰かが離婚届を提出しても受理しないよう、役所に届け出る手続きです。

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子どものことを第一に考える

両親の離婚は、子どもに大きな影響を与えます。

一方で、険悪な関係の両親と同じ家で生活することは、子どもにとって大きなストレスとなっていることもあります。

子どもの前でも喧嘩が絶えない家庭の場合は、両親が離婚することで子どもの置かれる環境が改善することもあるでしょう。

いずれにしても、子どもの幸せを第一に考えて離婚の決断をしたいところです。

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暴力・モラハラ・不貞行為をしない

いくら夫婦仲が悪く、離婚の見込みが高いとしても、不貞行為(不倫、浮気)をしてはいけませんし、暴力やモラハラ行為に及んでもいけません

離婚のときに重要なのは、有責配偶者にならないことです。

有責配偶者とは、有責行為をして夫婦関係を破綻させた側のことをいい、自分から離婚請求することが非常に困難になります。また、慰謝料を請求されるリスクも生じます。

自分は口喧嘩のつもりでも、相手にはDVやモラハラと受け取られてしまうかもしれません。円滑に離婚を進めるためには、感情に任せた行動は慎むべきです。

離婚条件をしっかりと話し合う

夫婦喧嘩が原因で離婚することになった場合、もう話したくない、顔も見たくないと思うかもしれませんが、後から後悔しないためにも離婚条件は納得できるまで話し合っておきましょう

離婚時に夫婦が決める事項は、財産分与や慰謝料、親権、養育費など多岐に渡ります。

当事者同士での話し合いが難しい場合は、弁護士を代理人に立てたり、家庭裁判所の調停を利用したりすることで、直接顔を合わせずに条件交渉を進めることができます。

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夫婦喧嘩による離婚を回避する方法

素直に謝る

自分に悪いところがあるならば、素直に謝り、改善する姿勢を持つことで、喧嘩の原因となった問題を取り除くことに繋がるでしょう。

もっとも、「喧嘩を終わらせるためにとりあえず謝る」ということを続けると、問題の根本的な解決にならないほか、夫婦間に上下関係が生まれてしまうこともあるため注意が必要です。

「言わなくても分かってほしい」をやめる

喧嘩が絶えない夫婦の多くは、「言わなくても分かってほしい」という暗黙の期待が原因で衝突しています。

この考え方を改め、自分の気持ちや要望を明確に伝えることが大切です。たとえば、「休日は家事を手伝ってほしい」と具体的に伝えれば、相手も行動を改める機会が得られます。

しかし、ただ要求を並べるだけでは逆効果になる可能性もあります。

相手の立場や気持ちを考慮しながら、建設的な対話を心がけましょう。「お互いの時間も大切にしながら、家事の分担について話し合いたい」といった形で提案すれば、協力的な関係構築につながりやすくなります。

冷却期間を置いて話し合う

お互いに感情的になっている状態で話し合っても、売り言葉に買い言葉で状況が悪化するだけです。

数週間から数ヶ月ほど別居して冷却期間を置くことで、お互いの大切さに気づいたり、冷静に問題点を見つめ直したりできる可能性があります。

ただし、無断で家を出ると「悪意の遺棄」とみなされるリスクがあるため、「関係修復のために少し距離を置きたい」と相手に伝えてから別居することが重要です。

第三者を挟んで話し合う

家庭裁判所の円満調停という制度をご存知でしょうか。

円満調停とは、夫婦関係を修復するために、家庭裁判所の調停委員会を介して話し合いを行う制度です。

基本的な手続きは離婚調停と同じで、男女2名の調停委員と夫婦の一方とが交互に面談を行いながら意見を調整します。

基本的に、調停の中で夫婦が顔を合わせる必要はないため、二人になるとついヒートアップしてしまうという方も冷静に話し合える機会です。また、社会経験豊富な調停委員からの客観的なアドバイスも受けられるでしょう。

また、夫婦関係に精通したカウンセラーに相談するのもひとつの手段です。夫婦カウンセリングでは、専門家のガイダンスのもと、お互いの気持ちを安全に表現できる環境が提供されます。

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離婚に応じると言わない

離婚を回避したいと考えている方は、相手から強く離婚を迫られても、応じる素振りを見せてはいけません

もし相手が本気で離婚したいとは思っていなかったとしても、こちらが離婚に応じる姿勢を見せると、撤回しづらくなってしまいます。

また、一度離婚に応じる発言をしてしまうと、後々離婚に同意したことの証拠としてその発言を使われてしまうかもしれません。

「しばらく考えます」と伝え、その場を切り抜けるのがよいでしょう。

夫婦喧嘩と離婚に関するよくある質問

Q. 夫が口をきいてくれない!無視を理由に離婚できる?

長期間の無視が続いている場合、離婚が認められる可能性があります。
無視が夫婦の協力関係を放棄したものと判断されれば、民法の定める「悪意の遺棄」や「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することがあるためです。

ただし、期間や状況を示す証拠が必要です。

Q. どちらが悪いとも言えない喧嘩で慰謝料はもらえる?

双方に原因がある場合や、単なる性格の不一致では、慰謝料の請求は難しいのが一般的です。
財産分与などで経済的な清算を行います。

Q. 毎日喧嘩ばかりで精神的に限界。家を出てもいい?

DVなどの緊急時を除き、正当な理由なく一方的に家を出ると、同居義務違反と主張されるリスクがあります。

置手紙やメールで「頭を冷やすために別居する」旨を伝えてから出ることをおすすめします。
別居中であっても、婚姻費用(生活費)の請求は原則として可能です。

喧嘩が原因の離婚は弁護士に相談!

夫婦喧嘩の中で「離婚したい」という言葉が出てくると、大きなショックを受けて冷静さを失ってしまう方がほとんどです。

しかし、すぐに答えを出すのは危険です。

離婚を真剣に考えざるを得ない状況に陥ったら、離婚の決断をする前に一度弁護士にご相談されることをおすすめします

喧嘩が原因で冷静さを欠いている状態では、自分の権利を適切に主張できなかったり、不利な条件を受け入れてしまったりする可能性があります。

弁護士は法律の専門家として、あなたの状況を客観的に分析し、最善の選択肢を提示します

弁護士に相談することが即、離婚を意味するわけではありません。むしろ、専門家の助言を得ることで、夫婦関係を客観的に見直し、最後の修復の機会を得られる可能性もあるのです。

  • 本当に離婚すべきか分からない
  • 財産分与で損したくない
  • 離婚手続きをサポートしてほしい

こういった離婚に関するお悩みは、ぜひ弁護士にご相談ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了