離婚を取り消し・無効にできる?取り消せる期間はいつまで?

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離婚の取り消し

「夫に騙されて離婚させられた。離婚届を撤回したい」
「離婚の取り消しはできるのか。いつまでにすればいいのか」

喧嘩の勢いで離婚をしてしまったり、パートナーに騙されていたと離婚後になってから気づいたりして、離婚を取り消したいと考えている方もいるのではないでしょうか。

離婚の取り消しに何か条件はあるのか、取り消すのに時間の制限はあるのか、取り消すときの費用や流れについて気になる方も多いと思います。

離婚を取り消すことは可能です。ただし、相手の詐欺や脅迫によって離婚した場合に限ります。

また、相手が詐欺や脅迫をしていたという事実や、詐欺や脅迫がなければ離婚しなかったということを立証する必要があり、困難なケースが多いです。

今回は、離婚を取り消せるケースや、取り消すときの流れ、注意点について解説します。

詐欺や脅迫であれば離婚を取り消せる

詐欺や脅迫によって離婚した場合は、離婚を取り消すことができます(民法764条、747条1項)。離婚の取消しが認められれば、離婚ははじめにさかのぼって、なかったことになり、婚姻関係が継続していたとみなされます。

たとえば、パートナーが不倫を隠すために「借金があって取り立てが来るから離婚したほうがいい」と嘘の離婚理由をでっちあげ、それを信じて離婚届にサインして提出してしまった、といった場合が該当します。

相手が怒鳴りつけたりDVをしたりして離婚を強制してきた場合も同様です。

「勢いで離婚してしまった」「相手に言われるがままに離婚してしまった」としても、その際にパートナーに騙されていた、脅迫されていたという場合は離婚の取り消しは制度上可能です。

ただし、相手が詐欺や脅迫をしていたという事実や、詐欺や脅迫がなければ離婚しなかったということを立証する必要があり、実際には困難といえます。

実際には困難といえる離婚の取り消しですが、離婚取り消しの文脈では「どこまでが脅迫・詐欺と認められる」といった明確な基準はありません。裁判官の考え方や事情によっては、離婚の取り消しが認められる可能性もあるということを覚えておきましょう。

合意のうえで離婚届を出すと取り消せない

詐欺や脅迫などを受けておらず、夫婦が話し合って合意したうえで離婚届を提出した場合は、離婚を取り消すことはできません。

「相手とよりを戻したい」「後悔している」といったケースでは離婚を取り消すことができないので注意しましょう。

調停離婚や裁判離婚の場合は、離婚届を提出しなくても、調停成立時や判決の確定日に離婚自体は成立します。

戸籍に反映させるために離婚届を提出する必要はありますが、このときの離婚届には相手の署名は必要ありません。

提出するときに届出人が署名すれば、もう一方の配偶者が離婚の取り消しを主張しても認められないので注意しましょう。

離婚が無効になるケース

なかには、離婚が取り消しになるのではなく、離婚届が無効(はじめからなかったこと)になるケースが存在します。

以下は、離婚の取り消しと無効について簡単にまとめた表になります。

離婚の取り消し離婚の無効
想定される場面詐欺や脅迫で離婚の意思が形成された夫婦の一方に離婚の意思がなかった
申し立てる時効3か月以内ない
戸籍訂正の申請判決確定の日から10日以内判決確定の日から1か月以内

離婚届を出すときは、届の内容に不備があったとしても、受理されてしまえば離婚は有効となってしまい、撤回することはできません(民法765条2項)。

協議離婚が無効となるケースとしては、配偶者のどちらかに離婚の意思が欠けているというケースが挙げられます。

一方が無断で離婚届を作成して提出した

夫・妻のどちらかが知らない間に、もう一方の配偶者が勝手に離婚届を作成して提出した場合、離婚は無効になります。

離婚届には、親権者を記入する欄があります。

親権争いをしていて、一方が親権を渡したくないあまりに勝手に自分の名前を離婚届の親権者の欄に記入し、そのまま相手の名前も記入して提出する、といったケースがあります。

役所によっては、夫・妻の一方だけから離婚届が提出された場合は、確認のために不在の方に確認の通知を送付することがあります。

そこで初めて離婚届が受理されてしまったことに気がつくケースもあるので、注意が必要です。

勝手に出された離婚届は無効にはなりますが、一度受理された以上、覆す手続きは簡単ではないので、その点にも注意しておきましょう。

離婚届を勝手に出されそうになったときの対処法について詳しく知りたい方は『離婚届不受理申出とは|離婚届を勝手に出させない!』をご覧ください。

離婚届を提出するとき、一方に離婚の意思がなかった

協議離婚においては、離婚届を提出するときに、夫と妻どちらか一方に離婚の意思がなかったという場合は、離婚届を無効にすることができます。

たとえば、協議した段階では夫・妻の双方が離婚に合意していたものの、離婚届を出すというときに妻は気が変わっており、それを無視して勝手に夫が離婚届を提出した、というケースが該当します。

喧嘩の勢いで離婚を考えたとしても、離婚届を出すときに離婚の意思がないと証明できれば、離婚届を無効にできます。

ただし、離婚届を提出するときに離婚の意思がなかったことを証明できるような録音や文書などの証拠が必要です。

離婚の取り消しや無効が認められた判例

「離婚の取り消しや無効が認められるのはハードルが高そう。実際に判例はあるのか知りたい」と不安になる方もいらっしゃると思います。実際に、離婚の取り消しや無効が認められた判例はあります。

夫婦仲が悪くなって別居をしていた夫婦が離婚届を作成しておき、それを妻が保管していました。

妻は作成してから約10日経ったあとに離婚届を提出したのですが、提出される前日に、夫は市役所の係員に対して「離婚届を受理しないでほしい」と申し出ていました。その結果、離婚は無効であるとした判例があります(最判昭34・8・7)。

離婚の取り消しや無効を申請する流れ

「相手に嘘をつかれて協議離婚した。離婚を取り消したい」「離婚を無効にしてほしい」という方もいると思います。

離婚を取り消したり、無効を訴えたりするには、以下のような手続きが必要です。

協議離婚を取り消す流れ

  • 証拠を集めておく
  • 家庭裁判所に調停を申し立てる
  • 裁判を起こす
  • 戸籍訂正を申請する

証拠を集めておく

協議離婚の取り消しや無効を主張するために、それを裏付ける証拠を集めておきましょう。証拠があれば、裁判に移行したとき、自分の主張の効力を強めることができます。

離婚の取り消しや無効を主張するのに重要な証拠として、以下のようなものが挙げられます。

離婚届の写し

まず重要なのは離婚届の写しです。

離婚届が無効になるケースとして、一方が勝手に離婚届を出してしまうというものがあります。

離婚届を勝手に出された場合は、離婚届の写しを入手しましょう。

離婚届の写しを入手すれば、勝手に離婚届を出されたことの証拠になります。

離婚届の写しは、本人が役所に申請すれば発行してもらえます。

自分と相手の筆跡がわかる資料

自分と相手の筆跡がわかる資料を用意しておきましょう。

離婚届に勝手にサインされている場合、本人が離婚届に記入していないという証拠になります。相手が勝手にサインしているということを証明できれば、離婚の意思がなかったことの裏付けになります。

自分の筆跡については自分で字を書けばわかります。相手の筆跡については、相手が使っている手帳やノートなどを用意するか、実際に書かせてみることをおすすめします。

離婚届を提出したときの夫婦のやり取りがわかるもの

離婚届を提出したときの夫婦のやり取りがわかるものも重要な証拠となります。

たとえば、「配偶者から離婚するよう迫られていたものの、自分が拒否している」といったことがわかるようなLINEの文面などが該当します。

「離婚届に記入するよう脅迫された」ことが書いてある日記なども証拠になるため、覚えておきましょう。

調停を申し立てる|費用は2000円程度

証拠を集めたら、実際に家庭裁判所に協議離婚取り消しの調停や、協議離婚無効確認調停を申し立てます。

申立手続費用として、収入印紙1200円に加え、予納郵便切手1000円程度が必要となります。予納郵便切手については、裁判所によって取り扱う金額が異なっているので注意しましょう。

費用のほかにも、「夫婦2人の戸籍謄本」や「協議離婚届の記載事項証明書」といった書類が必要です。

調停では調停委員が当事者を仲介するかたちで話が進んでいき、双方が離婚の取り消しに合意すれば、裁判所が離婚を取り消すことになります。

裁判を起こす

調停を申し立てても協議離婚の取り消しや無効が認められなかったという場合は、裁判所に離婚取消訴訟、あるいは離婚無効確認の訴えを提起することになります。

調停を経ることなく、いきなり判決を求めて裁判を起こすことはできない点に注意が必要です。

裁判の結果、協議離婚の取り消しや無効が認められれば、婚姻関係が継続し、現在も夫婦関係にあることになります。

戸籍訂正を申請する

協議離婚の取り消しや無効が認められた場合、役所に戸籍訂正の申請をすることになります。

「協議離婚の取り消し」が認められた場合は判決確定の日から10日以内に、「協議離婚の無効」が認められた場合は判決確定の日から1か月以内に市区町村役場へ戸籍訂正を申請する必要があるので注意しましょう。

離婚調停が成立した後は離婚を取り消しできる?

調停離婚・裁判離婚が成立すれば取り消しはできない

協議離婚では、ハードルは高いものの、相手から詐欺や脅迫といった行為を受けて離婚したことを立証できれば、離婚を取り消すことが可能です。

これに対して、調停離婚や裁判離婚の結果離婚することになった場合、あとからその決定を取り消すことはできません。

調停離婚や裁判離婚のあとに「あのときは離婚するべきではなかった、やり直したい」といった理由で離婚を取り消すことはできないため、注意しておきましょう。

離婚調停を取り下げることはできる

「勢いあまって離婚調停を申し立ててしまった」という場合でも、原則として調停終了までの間は、いつでも、どんな理由であっても調停を取り下げることができます。

ただし、調停成立や不成立、調停に代わる審判といったような、調停をした結果、ひとつの結論が出た場合は、調停を取り下げることはできなくなります。

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離婚の取り消し・無効に関する注意点

取り消しを申し立てられる期間は3か月

詐欺や脅迫による協議離婚を取り消すためには、騙されたことを知ったとき、あるいは脅迫されている状況が終了してから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。

3か月を経過してしまったり、後から離婚を認めてしまったりした(追認してしまった)場合には、離婚を取り消すことはできません。3か月前以上さかのぼって離婚の取り消しを認めてもらうことはできないということになります。

調停離婚や裁判離婚については、審判が出た後は離婚を取り消すことができないので注意してください。

なお、離婚を無効にしたいという場合は、取り消しの場合と同様に家庭裁判所に申し立てる必要がありますが、取り消しの場合のような期限はない点を押さえておきましょう。

相手が再婚しているときは婚姻取り消しの調停を起こす

協議離婚成立後に配偶者が再婚をしているという場合は、離婚取り消しあるいは無効の調停とあわせて、婚姻取り消しの調停を申し立てなければなりません。

調停で離婚の取り消しが認められたとしても、再婚の効力は失われず、戸籍上は重婚ということになります。

重婚状態を解消するために、配偶者と配偶者の再婚相手に対して婚姻取り消しの調停を申し立てることになるので注意しておきましょう。

婚姻費用の請求は早めにおこなう

婚姻費用とは、夫婦が婚姻している間の生活費のことをいいます。

同居中には当然生活費を分担しているはずですが、配偶者の収入のほうが多い場合に限り、別居中にも婚姻費用の支払いを請求することができます。

もし、離婚が取り消されたり、無効であるのに、生活費を払ってもらえていないのであれば、その間の生活費を婚姻費用として請求できるはずです。

そのため、離婚の取り消しや無効の調停中に、内容証明郵便や婚姻費用分担請求調停を利用して、婚姻費用の請求をしておきましょう。

実務上、婚姻費用は請求した時点以降の分しか認められないため、できるだけ早めに請求しておくことが大切です。

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離婚の取り消しは弁護士に相談!

詐欺や脅迫のもとで離婚届を記入させられたという場合は、離婚を取り消しにすることができます。

また、一方が無断で離婚届を提出したり、離婚届を提出するときに離婚の意思がなかったりした場合は、離婚の無効を申し立てることができます。

ただし、離婚を取り消したり無効にしたりするには、それぞれ「相手が詐欺や脅迫をおこなっていたこと」や、「離婚届を提出するときに離婚の意思がなかったこと」などを法的に立証する必要があり、なかなかハードルが高いです。

離婚の取り消しや無効を考えている方は、弁護士に相談してみることをお勧めします。

弁護士に依頼すれば、面倒な調停や裁判の手続きを代理でおこなってもらえるというメリットがあります。離婚の取り消しや無効について、現在の事情から適切なアドバイスをもらえるでしょう。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了