配偶者と子供で賃貸アパートを相続する際に知っておきたいこと
配偶者と子供で被相続人の財産を相続する場合、相続税の申告や不動産の名義変更、相続税評価額の計算といった手続きが必要となります。また、賃貸アパートを保有しており賃貸経営を続ける場合は、オーナーとしての責任が発生するため、事前に相続でやるべきことを確認しておくことが大切です。本記事では、配偶者と子供で賃貸アパートを相続する際に知っておきたい基礎知識を、わかりやすく解説します。
『配偶者と子供による賃貸アパートの相続』に関する基本事項
賃貸アパートを相続するときの手続きの流れ
アパートを相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、アパートを含む不動産や預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.アパートの債務状況を確認する
被相続人がアパートを所有する際に、借り入れていたローンなどの債務が残っている可能性があります。
相続登記を行う前に、債務の残高や返済状況などを必ず確認しましょう。債務が残っている場合は、債務の引継ぎや清算方法を検討する必要があります。
また、管理会社にアパートの管理を委託している場合は、相続が発生したことを伝え、必要に応じて手続きを進めます。
6.相続登記の申請手続きを行う
アパートの相続登記の申請手続きを行い、名義を相続人に変更します。
7.準確定申告を行う
相続するアパートで収益が発生していると、準確定申告が必要となる場合があります。準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得に関する確定申告のことです。準確定申告の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
準確定申告では、賃貸収入や経費などを申告し、課税対象となる所得を算定します。
8.賃貸人の変更にともなう変更通知などを行う
必要に応じて、相続人がアパートの賃貸人になったことによる賃貸借契約書の書き換えや、賃料の新しい振込先を入居者(借主)に通知します。
9.火災保険の名義変更手続きを行う
火災保険に加入していた場合は保険会社に連絡し、名義変更の手続きを行います。
10.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
アパートの相続手続きは通常の不動産相続と比べて時間と手間がかかるため、専門家に相談をし、早めに準備を進めたほうがいいでしょう。
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賃貸アパートの相続登記手続きと費用の相場
アパートなどの不動産を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
アパートの相続登記をするにあたっては、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- アパートを相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2パターンがあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費は、それぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、アパートの固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。たとえば、1億2,000万円のアパートにかかる登録免許税は48万円です。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は、複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で、費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
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法定相続分による相続割合【配偶者と子供で相続する場合】
配偶者と子供の法定相続分は2分の1ずつです。子供が複数人いる場合は、遺産の2分の1を子供の人数で均等に分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+子1人 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者+子2人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/4 |
配偶者+子3人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/6 |
被相続人が亡くなって2億円の相続が発生し、配偶者と子供2人が相続人となった場合、配偶者の法定相続分は1億円、子供の法定相続分は5,000万円ずつになります。
法定相続分は、相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるものです。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生し、場合によっては相続税額が発生することもあります。相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
たとえば、法定相続人が配偶者と子供1人の場合は4,200万円、配偶者と子供2人の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほか、e-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は、自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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賃貸アパートの相続税評価額を計算する方法
相続税の評価は、相続税の課税対象となる財産額を算定するために必要となります。賃貸アパートの相続税評価額は、建物と敷地の評価額を合算して算定します。
建物部分の評価方法
建物の評価額は、固定資産税評価額を基準に算定します。固定資産税評価額は、市区町村の役所で確認することができます。
なお、賃貸アパートの場合は、借家権割合と賃貸割合を控除する必要があります。借家権割合とは、賃貸人である被相続人が賃借人から賃料を受け取る権利の割合です。賃貸割合とは、賃貸アパート全体の床面積に対して、実際に賃貸に供されている床面積の割合です。
評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合0.3×賃貸割合)
敷地部分(貸家建付地)の評価方法
敷地部分の評価額は、敷地の評価額を算定し、そこから借地権割合と借家権割合、賃貸割合を控除します。借地権割合とは、土地の所有者が賃借人から地代を受け取る権利の割合のことです。
評価額=敷地の評価額×(1−借地権割合×借家権割合0.3×賃貸割合)
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小規模宅地等の特例で敷地部分の相続税評価額を50%減額
賃貸アパートを相続する場合、敷地部分に対して特例を適用できます。小規模宅地等の特例とは、要件を満たす土地の評価額を最大で80%減額できる制度で、賃貸アパートなどのような貸付事業用の土地は50%の減額が可能です。
小規模宅地等の特例を適用するための要件は、以下のとおりです。
- 被相続人などが所有する賃貸アパートの敷地であったこと
- 配偶者または要件を満たす親族が相続すること
- 適用できる土地の面積は200㎡に対応する部分まで
- 相続税の申告期限までは貸付事業を営むこと
敷地の評価額が5,000万円の場合、小規模宅地等の特例を適用することで、200㎡に対応する部分までは2,500万円に減額できます。
このように、小規模宅地等の特例を使うことで、相続税の負担を大きく軽減できます。アパートを相続する際には、適用可能かどうかを確認しましょう。
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配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続税における配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人が配偶者と子供2人を残して亡くなり、相続財産の合計が2億円の場合、配偶者の法定相続分は1億円です。このとき配偶者控除を適用することで、配偶者分の相続税は0円になります。
ただし、のちに配偶者が亡くなって配偶者の財産を子供が相続するときに、相続税負担が増える可能性があるため注意が必要です。そのため、相続税を節税するための最善策を検討する場合は、税理士に相談することをおすすめします。
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税務調査の対象になりやすいケース
税務調査とは、税務署が納税者の申告内容を調査し、正確な申告が行われているかどうかを調査するためのものです。税務調査は、納税者全員に行われる可能性がありますが、特に、以下の場合は税務調査の対象になりやすいと考えられます。
- 相続税の申告額が大きい場合
- 相続税の申告内容に不審な点がある場合
- 過去に悪質な申告漏れや申告内容に誤りがある場合
税務調査の対象となった場合、税務署から申告内容について説明を求められることがあります。また、申告内容に不備や誤りがあると、修正申告を促される場合もあります。
税務調査のリスクを避けるためにも、申告書の記載内容や添付書類を誤りなく作成することが重要です。税理士に相談して、申告書の作成や税務調査対策を依頼することも検討しましょう。
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『配偶者と子供による賃貸アパートの相続』に関するよくある質問
アパートを相続すると、相続税はいくらかかるの?
アパートの相続税の金額は、相続税評価額をもとに算出します。アパートの相続税評価額は、建物と土地の評価額を合算したものです。それぞれ以下の計算式で算出します。
- 建物の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
- 土地の相続税評価額=土地の評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
アパートを相続したら、どうやって管理すればいいの?
アパートの管理には、以下のようなものがあります。
- 入居者の募集や賃料の回収
- 建物の修繕やメンテナンス
- 税金や保険料の支払い
これらの管理を誰が担当するのか、どのように費用を負担するのかを決めておく必要があります。アパートの管理を不動産会社や管理会社に委託していた場合は、相談してみるといいでしょう。
アパートを相続すると、相続税の軽減措置は使えるの?
使えます。アパートの相続税を軽減するものとして、以下のような控除があります。
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者控除(配偶者の税額軽減)
これらの軽減措置を適用することで、相続税の負担を軽減することができます。
アパートの相続に必要な手続きは?
賃貸アパートの相続で、以下の手続きが必要になります。
- 相続登記の申請
- 準確定申告(収益が発生している場合)
- 相続税の申告
- 加入保険などの名義変更
アパートの相続手続きは時間と手間がかかるため、早めに準備を進めることをおすすめします。
アパートを相続した後も賃貸経営を続けるべき?
アパートの相続後も賃貸経営を続けるかどうかは、相続人の状況や希望によって異なるでしょう。賃貸経営を続ける場合は、経営計画や資金計画を立て、適切な経営を行うことが大切です。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士