相続税申告までに遺産分割すべき?未分割で申告するときの注意点は?

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遺産分割と相続税

結論からいうと、相続税申告までに遺産分割することをおすすめします。

遺産分割することで、自分が相続する財産が明確になり、相続税申告の際に、相続する財産に合わせた税額軽減の特例を適用することができます。

しかし、遺産が未分割の状態で相続税申告をする場合には、税額軽減の特例は適用できません。

未分割の状態で相続税を納めた後、遺産分割を終えたタイミングで特例を適用して、差額分を返金してもらうことはできますが、かなりの手間がかかってしまいます。

この記事では遺産分割と相続税の基本や、遺産分割をスムーズに進める方法、未分割の状態で相続税申告をするときの注意点について解説します。

遺産分割と相続税の基本

遺産分割とは

遺産分割とは、被相続人(亡くなった人)の財産の分配方法を、相続人同士が話し合って決める手続きです。この話し合いを遺産分割協議といいます。

分配方法が定まったあとは、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印することで完了します。

相続財産は、不動産や株式、現金など、財産の種類がさまざまです。たとえば、不動産の管理ができる相続人や、株式に詳しい相続人がいると仮定します。遺産分割協議によって自分たちに最も適正で、効率的な分配ができるよう話し合います。

なお、遺産分割協議そのものに期限はありません。そのため、「○年経ったからこの遺産分割協議で決めたことは無効になる」といった心配は無用です。

相続税とは

相続税とは、被相続人から相続した財産に課される税金です。

ただし、少しでも財産を相続したら相続税が課されてしまう、というわけではありません。

相続税が課されるのは、相続財産を取得した相続人の課税価格の合計額が、基礎控除額を超える場合です。

課税価格とは簡単にいうと、預金等のプラスの財産から債務等のマイナスの財産を引いた価格です。

課税価格が基礎控除額を下回っている場合には、相続税の申告・納付は必要ありません。

相続税の基礎控除額の計算式は、以下のとおりです。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

課税価格が基礎控除額を上回っている場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告・納付を行う必要があります。

相続税の基礎控除

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遺産分割が相続税申告に与える影響

遺産分割で自分が相続する財産を確定させておくと、相続税申告の際に、相続税額を軽減できる特例を適用できます。

たとえば、被相続人が生前、居住用として利用していた土地を同居の親族が相続した場合などに、小規模宅地等の特例が適用できます。

小規模宅地等の特例とは、土地の評価額を土地の面積330㎡まで、80%減額できる特例です。

財産の評価額が下がると、それにかかる相続税額も下がるため、小規模宅地等の特例はとても大きな税額軽減の特例といえますが、これは遺産分割が済んでいないと適用できません。

遺産が未分割の状態で特例を適用したい場合には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税申告時に添付することで、申告期限から3年以内に遺産分割が終了したケースに限り、特例の適用を受けることができます。

ただし、一度は特例が適用されていない、高額な相続税額を納付しなければならないことや、遺産分割してから4か月以内に「相続税の更正の請求書」を提出する必要があるなど、相続人に多くの負担がかかります。

そのため、できる限り相続税申告までに遺産分割することをおすすめします。

相続開始から遺産分割の流れ

ここまでで、相続税申告までに遺産分割をした方が良い理由はおわかりいただけたのではないでしょうか。

ここからは、実際に遺産分割を相続税申告までに終えられるように、相続開始から遺産分割終了までの流れを確認しましょう。

相続開始から遺産分割までの流れは以下の通りです。

  1. 遺言書の有無を確認する
  2. 法定相続人を確定する
  3. 被相続人の相続財産を把握する
  4. 遺産分割協議を行う
  5. 遺産分割協議書を作成する
  6. 遺産分割調停を申し立てる

1. 遺言書の有無を確認する

被相続人が亡くなったら、まずは遺言書の有無を確認します。

遺言書に書かれた内容は、遺産分割協議で決める内容よりも優先されます。すなわち、該当する財産を遺産分割から省くためにも、はじめに遺言書の存在を確認する必要があるのです。

2. 法定相続人を確定する

法定相続人とは、民法で定められた、被相続人の財産を相続できる人のことです。

遺産分割協議に参加するのは、この法定相続人にあたる人です。

まず、被相続人の配偶者は常に法定相続人となります。

配偶者以外には、相続順位という順位が割り振られており、より上位の順位に該当する相続人がいる場合には、下位の順位の人は法定相続人にはなりません。

詳しくは以下の図をご覧ください。

遺産分割協議を行う際、法定相続人が一人でも欠けていると無効となってしまいます。

そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、法定相続人の確認漏れがないかどうか調査しましょう。

3. 被相続人の相続財産を把握する

相続財産とは、遺産分割の対象となる、被相続人が所有していた財産のことです。

現金や不動産などのプラスの財産はもちろん、借金やローンの残額などのマイナスの財産も、相続財産に含まれます。

遺産分割協議は、参加する人と分割の対象となる財産が出揃ってはじめてスタートできるので、法定相続人の調査と同時に相続財産の調査も進めます。

相続財産がすべて把握できたら、財産の評価を行います。

預貯金などは、金額がそのまま財産の評価額になりますが、不動産や株式などは定められた評価額の算出方法に従い、財産の評価を決定します。

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4. 遺産分割協議を行う

法定相続人と相続財産がそろったら、遺産分割協議を行います。

法定相続人には、法定相続分という取得財産の目安が、民法によって定められています。

この法定相続分を目安に遺産分割を進めていきます。

なお、遺産分割協議というと全員が対面で顔を合わせて話し合う様子を想像されるかもしれませんが、電話やビデオ通話、書面でのやり取りでも参加できます。

5. 遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議の話し合いがまとまった場合は、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書に記載すべき内容は、以下の通りです。

  • 被相続人の最後の住所、死亡日、氏名
  • 遺産分割協議の内容に法定相続人全員が合意している旨の内容
  • 具体的な相続財産の分割内容
  • 法定相続人の住所、氏名、実印による押印

以上の内容を記載した遺産分割協議書に、法定相続人全員の印鑑証明書を添付します。

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6. 遺産分割調停の申立て

遺産分割協議が上手くまとまらなかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てましょう。

遺産分割調停とは、調停委員会が当事者双方の言い分を聞き、中立公正な立場で、解決策を提案するなどして、遺産分割が円満に解決できるよう斡旋する手続きです。

調停委員会は裁判官と調停委員(弁護士資格を持ち、民事、家事の紛争に有効な専門知識経験を有する者)で構成されます。

遺産分割調停によって、遺産分割の内容に法定相続人全員が納得できた場合には、裁判所が合意をとれたことを証明する調停証書を作成します。

調停証書の正本や謄本があると、不動産の名義変更や預金口座の解約ができるようになります。

通常、遺産分割調停を開始して、遺産分割が終了するまでは1年ほどかかり、相続税申告の期限である10か月に間に合わない場合が多いため、なるべく遺産分割協議の段階で話し合いをまとめられると良いでしょう。

もし遺産分割調停でも話し合いがまとまらず、調停が不成立となってしまった場合には、遺産分割審判が開始されます。

遺産分割審判とは、当事者双方の主張や提出された資料に基づいて、裁判官が遺産の分割方法をきめる手続きです。

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遺産未分割で相続税申告をするときの注意点

法定相続分で分割したとして未分割申告する

遺産分割協議がまとまらず、遺産の分割方法が決まっていない状態でも、相続税申告の期限までに申告しないと「未申告」の扱いになり、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されるおそれがあります。

そのため一旦、法定相続分で分割したと仮定して作成した相続税申告書と、「申告期限後3年以内の分割見込書」を、相続税の申告期限内に提出します。これを未分割申告といいます。

相続税の申告期限内に未分割申告をしておけば、延滞税や無申告加算税を課される心配はありません。

遺産分割後に修正申告(更正の請求)をする

「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限から3年以内に遺産分割ができた場合には、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの一部の特例を、後から適用することができます。

申告期限から3年以内に遺産分割ができたら、そこから4か月以内に更正の請求か修正申告を行います。

未分割申告の申告額に比べて、申告すべき相続税額が減った場合には更正の請求、金額が増えた場合には修正申告です。

更正の請求をすることで、未分割申告で余分に収めた金額分を還付してもらえます。

【参考】

更正の請求
未分割申告の申告額>遺産分割後の申告額

修正申告
未分割申告の申告額<遺産分割後の申告額

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相続税の修正申告が必要な人とは?申告すべきケースや申告方法を解説

申告期限から3年経っても遺産分割できない場合

未分割申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して、申告期限から3年以内に遺産分割した場合、一部の相続税を軽減する特例を適用することができます。

では、未分割申告から3年経っても遺産分割ができていない場合はどうなるのでしょうか。

実は申告期限から3年以内に遺産分割できなかった場合でも、一定のやむを得ない事情がある場合には特例の適用が認められます。

一定のやむを得ない事情とは、申告期限から3年以内に分割しなければならない財産に関する、訴訟や調停、審判がある場合です。

もしやむを得ない事情に該当する場合には、申告期限から3年経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を所轄税務署長に提出し、承認を受けられれば特例の適用ができるようになります。

なお、税務署長の承認を得られたら、裁判の判決確定などから4か月以内に遺産分割をする必要があるため注意してください。

遺産分割と相続税についてよくある質問

Q1. 死亡保険金(生命保険金)は遺産分割の対象になる?

A. 死亡保険金(生命保険金)は遺産分割の対象にはなりません。

死亡保険金(生命保険金)は、受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象にはなりません。

保険金を受け取る手続きも、ほかの相続人に関係なく、受取人単独で行えます。

ただし、被保険者である被相続人が保険料を負担していた場合は、「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になります。

死亡保険金に相続税がかかる場合、「500万円×法定相続人の人数」分の非課税枠があります。

死亡保険金にかかる税金については、関連記事『死亡保険金にかかる税金|相続税・所得税・贈与税について解説』をお読みください。

Q2. 遺産相続のトラブルに巻き込まれたくない場合はどうすれば良い?

A. 相続放棄という手段があります。

相続放棄とは、被相続人のすべての財産の相続を放棄することです。

財産を一切相続しないので、遺産分割協議に参加する必要も、相続税の申告・納付を行う必要もありません。

相続放棄は、相続財産に借金やローンが多く含まれている場合や、遺産相続のトラブルに巻き込まれたくない場合によく活用されます。

相続放棄する場合は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立を行います。3か月が経過すると、相続を承認したとみなされ、相続放棄が選択できなくなります。(単純承認)

また、一度相続放棄を選択すると取り消すことができないので、慎重に検討しましょう。

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Q3. 相続財産に遺産分割しにくい不動産しかない場合はどうすれば良い?

A. 換価分割や代償分割がおすすめです。

遺産分割の方法は、多くの人がイメージするような、相続財産ごとに相続する「現物分割」のほかにも、いくつか種類があります。

その中でも、分割しにくい財産しかない場合には、換価分割か代償分割がおすすめです。

まず換価分割とは、不動産などの相続財産を売却して現金化し、現金で分配する方法です。

次に代償分割とは、たとえば相続人がAとBの2人で、相続財産が2,000万円の土地のみだったとします。

このときにAが2,000万円の土地を相続して、Bに現金で1,000万円払うという方法です。これでAとBがお互いに1,000万円の財産を取得したことになります。

以下に遺産分割の方法をまとめました。ご参考ください。

【遺産分割の方法まとめ】

現物分割
特定の財産を特定の相続人が引継ぐ方法(例:現金は配偶者・土地は子ども、など)

換価分割
相続財産を売却し現金化して分配する方法

代償分割
引継ぐ財産と法定相続人の数が合わない場合、財産をひとりが引継ぎ、ほかの相続人には本来引継ぐ財産分を金銭で受け取る方法

共有分割
相続財産の一部もしくは全部を相続人が共同で引継ぐ方法

※4つ目の共有分割はあまり推奨できない方法です。たとえばひとつの不動産を複数人で所有した場合、売却するにはほかの所有者の合意がなければ、できなくなります。

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遺産分割で悩んだら弁護士や税理士を活用する

遺産分割協議をうまくすすめなければ、将来思わぬ騒動が発生する可能性があります。

また、相続財産の評価を誤ってしまうと納税額に影響が出ます。

もし納税額を間違えてしまうと、後々過少申告税や延滞税などのペナルティが課されてしまうおそれがあります。

ご自身で相続税の計算や申告を行うのに不安がある方は、弁護士や税理士への相談を検討してみてください。

弁護士や税理士の役割と必要性

遺産分割や相続税の申告には、弁護士や税理士を活用することで、スムーズで公平な分割ができます。

弁護士は、法的なアドバイスや手続きのサポートを行い、問題が生じた際に対処できます。

たとえば、遺産分割協議でトラブルになってしまった場合に、唯一依頼人の代理人として交渉できる専門家が弁護士です。

税理士は、相続税の申告や節税対策のアドバイスを行い、相続税を抑えるアドバイスが可能です。

相続税申告を相続人の代理で行えるのは、税理士のみとなっています。

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弁護士や税理士の選び方とポイント

弁護士や税理士であれば誰でも相続が得意というわけではありません。経験を多く積んでいる方が、良いアドバイスが受けられます。口コミやサイト情報を参考に、経験豊富な専門家を検討しましょう。

相続分野はプライベートな領域の話になることも多いです。コミュニケーションが取りやすいかどうかも大切にしましょう。

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アトムグループ 協力税理士

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