相続税の延納・物納|制度利用の条件・利子税の計算・申請に必要な書類
「相続税を現金で一括払いするのが難しい…」
相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、一括で納付することが原則です。
しかし、10か月以内に現金を用意するのが難しいというケースもあるでしょう。
そのような悩みをお持ちの方に向け、この記事では、相続税の分割払いが可能になる延納制度と、現金の代わりに物で納付できる物納制度について詳しく解説します。
目次
相続税の延納とは?
相続税の延納は分割払いの制度
相続税の延納とは、一定の要件を満たすことで、相続税を毎年一定額ずつ分割払いできる制度です。
延納のできる期間は、相続財産に占める不動産等の割合に応じて変わり、「5年〜20年」とされています。
なお、延納期間中は利子税がかかります。
利子税とは、相続税を延納することに対する「利息」のようなものです。どのくらいの金額を支払う必要があるかについては、本記事の『相続税の延納には利子税がかかる』で詳しく解説しています。
相続税の延納制度の利用条件
相続税を延納するには、以下4つの利用条件を満たす必要があります。
1. 相続税額が10万円を超えること
延納を考えている人が納めるべき相続税額が10万円を超えている必要があります。
2. 納期限までに金銭での一括納付が困難であること
納期限までに、金銭で一括納付することが難しい事由が必要です。
納期限は通常、相続開始を知った日(被相続人の死亡日)の翌日から10か月です。期限後申告または修正申告で延納制度を利用する場合は、申告書の提出日が納期限となります。
3. 納期限までに「延納申請書」および「担保提供関係書類」を提出すること
納期限までに、「延納申請書」および「担保提供関係書類」を税務署長に提出する必要があります。
これらの書類のひな型は、国税庁のホームページ「様式集|延納・物納申請書」に用意されています。
4. 担保を提供すること
延納税額および利子税の額に相当する担保を提供する必要があります。
ただし、延納する相続税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合は、担保は不要です。
延納に必要な担保とは?
延納担保の要件
延納が許可されるには、延納税額に相当する担保を提供する必要があります。
担保として認められるには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
延納担保の要件
①担保として提供できる財産の種類であること
②担保として不適格でないこと
③必要担保額を充足していること
以下で、担保として提供できる財産とできない財産を紹介します。
担保として提供「できる」財産
延納の担保として提供できる財産は、以下のとおりです。
①〜⑥の財産のうち、可能な限り処分が容易であり、かつ、価額の変動のおそれが少ないものを選択する必要があります。
担保として提供できる財産
①国債および地方債
②社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
③土地
④建物、立木、登記される船舶などで保険に附したもの
⑤鉄道財団、工場財団など
⑥税務署長が確実と認める保証人の保証
第三者が所有する財産も延納担保として提供可能です。ただしその場合、担保所有者の承諾書等が必要です。
担保として提供「できない」財産
一般的に、以下の財産は担保として不適格とされています。
担保として不適格な財産
①法令上担保権の設定または処分が禁止されているもの
②違法建築、土地の違法利用のため建物除去命令等がされているもの
③共同相続人間で所有権を争っている場合など、係争中のもの
④売却できる見込みのないもの
⑤共有財産の持分(共有者全員が持ち分全部を提供する場合は除きます)
延納の必要担保額の計算方法
必要担保額は、以下の計算式で算出します。
延納の必要担保額の計算方法
担保財産の見積額>延納税額+第1回目の分納期間にかかる利子税の額×3
担保財産の見積価額は、以下のとおりです。
担保の種類 | 見積価額 |
---|---|
国債 | 原則として券面金額 |
有価証券 | 評価の8割以内において担保提供期間中に予想される価額変動を考慮した金額 |
土地 | 時価の8割以内において適当と認める額 |
建物、立木及び各種財団 | 時価の7割以内において担保提供期間中に予想される価額の減耗等を考慮した金額 |
保証人の保証 | 延納税額が滞納された場合に、保証人から徴収できると見込まれる金額 |
延納できる相続税額の計算方法(延納許可限度額)
延納できる相続税額(延納許可限度額)は、「納付すべき相続税額」から「納期限までに金銭で納付できる金額」を差し引いた額です。
「納期限までに納付できる金額」とは、相続した現金・預貯金等や納税者固有の現金・預貯金等から、生活費及び事業経費を引いた残額を意味します。
以上を計算式でまとめると、次のようになります。
延納許可限度額の計算式
①納付すべき相続税額
②相続した現金・預貯金等
③納税者固有の現金・預貯金等
④申請者及び生計を一にする配偶者その他の親族の3か月分の生活費
⑤申請者の事業継続のために当面必要な運転資金の額
⑥納期限まで納付できる金額(②+③-④-⑤)
⑦延納許可限度額(①-⑥)
相続税を延納すると利子税がかかる
相続税の延納の利子税とは
相続税の延納をすると、本来納めるべき相続税額に加え、利子税を支払う必要があります。
利子税の金額によっては、延納ではなく金融機関などでローンを組んで借り入れをして相続税を支払った方が良いケースもあります。
相続税納付の支援ローンについては、関連記事『支援ローンを組んで相続税を納付|知っておきたいメリットと注意点』で詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
延納期間と利子税の早見表
相続税を延納する場合、延納できる期間と利子税の割合は、相続財産のうち不動産等の価額がどの程度占めているかによって、下表のとおりとなります。
不動産等とは、不動産、立木、不動産の上に存する権利、事業用の減価償却資産並びに特定同族会社の株式及び出資を意味します。
【延納期間・利子税の早見表】
不動産等の割合が75%以上
区分 | 延納期間(最長) | 延納利子税割合(年) | 令和5年の特例割合 |
---|---|---|---|
①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
②不動産等に係る延納相続税額(③を除きます) | 20年 | 3.6% | 0.4% |
③森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% |
不動産等の割合が50%以上70%未満
区分 | 延納期間(最長) | 延納利子税割合(年) | 令和5年の特例割合 |
---|---|---|---|
④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除きます) | 15年 | 3.6% | 0.4% |
⑥森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% |
不動産等の割合が50%未満の場合
区分 | 延納期間(最長) | 延納利子税割合(年) | 令和5年の特例割合 |
---|---|---|---|
⑦一般の延納相続税額(⑧から⑩を除きます) | 5年 | 6.0% | 0.7% |
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(⑩を除きます) | 5年 | 4.8% | 0.5% |
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.5% |
⑩森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.1% |
各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合は、「特例割合」が適用されます。
令和5年の場合、「令和5年の特例割合」に記載されている利率を適用します。
なお、この表の「特例割合」は、令和5年1月1日現在の延納特例基準割合0.9%で計算しています。
延納特例基準割合は毎年変動します。そのため、延納申請の時期によって「特例割合」も変更される可能性があります。申請する際は、最新情報を確認するようご注意ください。
【具体例】相続税の延納にかかる利子税を計算
ここでは、具体例を使って延納利子税がいくらになるのか計算してみましょう。
【具体例】
不動産等の割合75%以上
不動産等に係る延納税額1,000万円(毎年50万円ずつ20年で分納)
分納期間 | 元本 | 利子税額 | 合計 |
---|---|---|---|
1年目 | 50万円 | 1,000万円×0.4%=4万円 | 50万円+4万円=54万円 |
2年目 | 50万円 | 950万円×0.4%=3.8万円 | 50万円+3,8 万円=53.8万円 |
3年目 | 50万円 | 900万円×0.4%=3.6万円 | 50万円+3.6万円=53.6万円 |
このように、分納が進むほど少しずつ支払いが減っていきます。
また、繰り上げ返済すれば、利子税の節約につながります。
相続税の延納申請の手続き
相続税の延納申請の必要書類
相続税の延納申請に必要な書類は、以下のとおりです。
各様式は、国税庁のホームページ「様式集|延納・物納申請書」でダウンロードできます。また、税務署の窓口でも受け取れます。
延納申請に必要な書類
①相続税延納申請書
②金銭納付を困難とする理由書(金銭納付が困難であることを示す資料の写しを添付)
③延納申請書別紙(担保目録及び担保提供書)
④不動産等の財産の明細書(不動産等の価額の割合が75%未満の場合は提出不要)
⑤担保提供関係書類
※どのような財産を担保として提供するかにより、必要な担保提供関係書類は異なります。上記の国税庁のホームページ内の「015担保提供関係書類チェックリスト」で必要な書類をご確認ください。
相続税の延納申請の期限
「延納申請書」及び「担保提供関係書類」は、相続税の納期限まで又は納付すべき日までに提出する必要があります。
提出先は、被相続人の死亡の時における住所地を所轄する税務署です。
ただし、提出期限までに担保提供関係書類を提出できない場合は、提出期限を延長できます。延長を希望する場合、「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を延納申請書に添付して提出してください。延長期間は最長6か月です。
「担保提供関係書類提出期限延長届出書」は、国税庁のホームページ「様式集|延納・物納申請書」からダウンロードするか、税務署の窓口で入手してください。
相続税の物納とは?
物納は相続税を金銭ではなく物で支払う
相続税の物納とは、延納によっても相続税の金銭納付が困難な場合に限り、金銭の代わりに不動産などの相続財産で相続税を納付できる制度です。
物納によって納付できる相続税額は、延納でも納付が困難な金額のみです。
そのため、生活費などを除いても相続税を納付できるほどの金銭を持っている場合や、延納制度を利用すれば相続税を納付できる場合には、物納制度を利用することはできません。
ちなみに物納は相続税固有の制度であり、贈与税や所得税などほかの税金の支払いでは利用できません。
相続税の物納制度の利用条件
相続税の物納制度を利用するためには、以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 延納制度でも相続税納付することが不可能
- 物納にあてられる財産を所有している
- 納期限までに必要書類を提出する
1. 延納制度でも相続税納付することが不可能
前述したように、延納制度でも相続税を納付できない場合のみ、物納制度を利用できます。
物納を申請できる金額は、納付すべき相続税額から、「納期限までに金銭で納付することが可能な金額」と、「延納によって納付することができる金額」をひいた金額(物納許可限度額)の範囲内です。
「納期限までに金銭で納付することが可能な金額」とは具体的に、「納期限に持っている現金や換金が簡単な財産」から「①相続人と相続人の家族の3ヶ月分の生活費、②相続人の事業継続に必要な資金」をひいた金額です。
参考
国税庁『(問5)物納が認められる金額はどのように計算するのでしょうか。』
2. 物納にあてられる財産を所有している
物納にあてられる財産は、「相続で取得した国内の財産」かつ「相続時精算課税制度を使った贈与で取得した財産ではない」ものです。
また、これらの条件を満たしている財産には、物納にあてる際の優先順位が決められています。優先順位の高いものから順に物納していくことになります。物納にあてる財産の優先順位については、本記事「相続税の物納にあてられる財産とは?」をお読みください。
3. 納期限までに必要書類を提出する
相続税の納期限までに、物納申請書をはじめとする必要書類を税務署へ提出しなければなりません。
物納申請に必要な書類に関して詳しくは、本記事「相続税の物納申請の必要書類」をお読みください。
相続税の物納にあてられる財産とは?
物納にあてられる財産と優先順位
物納にあてられる財産には優先順位が定められており、先順位の財産から順に物納していきます。
先順位の財産を所有しているにもかかわらず、後順位の財産を物納にあてることはできません。
以下に、物納にあてられる主な財産と、その優先順位をまとめました。
第1順位
①不動産、上場株式、国債証券、地方債証券、船舶など
②不動産、上場株式のうち物納劣後財産にあたるもの
第2順位
③非上場株式、投資信託等の受益証券など
④非上場株式のうち物納劣後財産にあたるもの
第3順位
⑤動産(自動車、家具、美術品、宝石など)
※重要文化財として指定された特定登録美術品は、優先順位に関係なく一定の書類を提出することで物納にあてられます。
物納の優先順位が低い「物納劣後財産」
一定の制限があり、使用や処分が自由にしづらい財産を、物納劣後財産といいます。
ほかに物納に適した財産を所有している場合、物納劣後財産を物納にあてることはできません。
物納劣後財産に該当するのは以下のような財産です。
- 法令に違反して建築された建物とその敷地
- 地上権や永小作権、耕作権、地役権が設定されている土地
- 配偶者居住権が設定されている建物とその敷地
物納にあてられない「管理処分不適格財産」
国が換価や管理処分することが困難と判断した財産を、管理処分不適格財産といいます。
管理処分不適格財産は物納にあてられません。仮に所有している財産が管理処分不適格財産のみの場合でも、物納にはあてられないので注意してください。
管理処分不適格財産に該当するのは以下のような財産です。
- 担保権が設定されている不動産
- 権利について争いのある不動産
- 境界線があいまいな土地
- 耐用年数が経過している建物
- 共有者の誰か一人でも物納申請をしていない場合の共有不動産
- 管理や処分の費用が収納価額よりもかかると予想される不動産
物納にあてる財産の収納価額
物納制度で国が財産を引き取るときの価額を収納価額といいます。
この収納価額は原則、物納する財産の相続税評価額です。相続税評価額とは相続した財産の時価のことで、相続税を計算するときに使用されます。
また、収納価額は特例適用が反映されます。
たとえば、相続した土地を物納にあてるケースで、相続時に小規模宅地等の特例(土地の相続税評価額を80%または50%減額できる特例)を適用していたとします。この場合、80%または50%減額された後の土地の相続税評価額が、収納価額になります。
なお、相続した時点から物納までの間に、財産に著しい変化があった場合には、税務署長が改めて収納価額を決定します。
相続税の物納の利子税・手続き
相続税の物納にかかる利子税
相続税の物納に利子税がかかるタイミングは、以下の2つです。
- 物納が許可された場合
相続税の納期限または納付すべき日から収納の日までの期間について利子税がかかる。 - 物納が却下された場合
却下された日までの期間について利子税がかかる。
参考
国税庁『(問19)物納に当たって、どのような場合に利子税がかかるのでしょうか。』
相続税の物納申請の必要書類
相続税の物納申請に必要な書類は、以下のとおりです。
各様式は、国税庁のホームページ「様式集|延納・物納申請書」でダウンロードできます。また、税務署の窓口でも受け取れます。
物納申請に必要な書類
①物納申請書
②物納財産目録(財産の種類によって書式が異なる)
③物納手続関係書類(財産の種類によって必要書類が異なる)
④物納劣後財産等を物納にあてる理由書
※物納劣後財産を物納にあてる場合のみ提出します。
相続税が払えない…【延納・物納以外の選択肢】
手持ちの現金が少なく相続税が払えない場合、相続した財産を売却して、その売却代金から相続税を払う方法があります。
ただし、家や土地など財産によっては、新たに買い手を探す必要があり、相続税の納期限までに換金することが難しい場合もあります。もし買い手が決まったとしても売り急ぎと言われる状態になり、安く買い叩かれることが多くあります。
この売却は相続人の所得税・住民税の対象となり、売却金額から支払うべき税金を引いた額を相続税の納税にあてることになります。
また、相続放棄という手段もあります。相続放棄とは、相続財産に関する権利の一切を放棄することです。財産を相続しないため、当然相続税を支払う必要はありません。
相続放棄する場合には、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
ほかの相続人に「私は相続放棄します」と伝えるだけでは相続放棄にはならないため注意してください。
関連記事
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相続税の延納・物納に関するご相談は税理士へ
相続税の延納・物納申請をするには、「利用条件を満たしているか」「利子税はいくらになるか」など検討しなければならない問題が数多くあります。
また、適切な準備をしてから延納・物納申請を行わないと、許可が下りずに相続税の納期限が過ぎてしまうおそれもあります。
延納・物納申請に少しでも不安がある方は、相続税に強い税理士にぜひご相談ください。
税理士は、ご相談者様の不安が少しでも早く解消されるよう、誠心誠意サポートいたします。相続税に関するお悩みは税理士にお気軽にお問い合わせください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士