相続放棄の期限は3か月|期限を過ぎた、期限を延長したい場合はどうする?
相続放棄ができるのは相続開始から3か月までという期限があります。それまでに手続きするとはじめから相続人ではないものと扱われ、相続税は課されません。
ただし、期限の起算日となる「相続開始の日」はケースにより異なります。
この記事では、相続放棄の期限や注意点、期限が切れてから相続放棄を選択する方法などを解説します。
目次
相続放棄の期限は相続開始を知ってから3か月
相続放棄が選択できる期限は、相続開始を知った日から3か月以内です。(民法915条)この、相続放棄が選択できる3か月間を「熟慮期間」といいます。
熟慮期間が過ぎると原則、相続放棄の手続きはできなくなり、預貯金や不動産などのプラスの財産はもちろん、借金やローンなどのマイナスの財産も相続しなければなりません。
では、「相続開始を知った日」とは具体的にいつなのか、詳しくみていきましょう。
そもそも相続放棄とはどういうものかについては、『相続放棄したら相続税は払わなくていい?ほかの相続人への影響も解説』にてご確認ください。
多くの場合、被相続人の死亡を知った日が起算日となる
相続放棄の期限は、相続開始を知った日(起算日)を1日目として数えます。すなわち、3ヶ月後の同じ日付が相続放棄できる期限です。
たとえば、令和3年4月1日に相続開始を知った場合、相続放棄の期限は3ヶ月後の令和3年7月1日になります。相続放棄の期限日が土曜日・日曜日・祝日の場合は、その翌日が期限となります。
相続開始を知った日とは、「被相続人の死亡によって自分が相続人になった」と知った日です。
多くの場合、被相続人の配偶者や子供、親、兄弟姉妹などは、「被相続人が死亡したとき自分は相続人になる」と、自覚しています。この場合、相続放棄の期限の起算日は、被相続人の死亡を知った日です。
自分が相続人だと認識していなかった場合の起算日は?
自分に相続権があることを認識していなかった場合は、「自分に相続権があると認識した日」が相続放棄の期限の起算日になります。
たとえば、普通養子縁組で養父がおり、実父はとうの昔に死亡していたと思っていたけれど、実は死亡したのは数か月前で相続が発生しているケースなどが該当します。
※普通養子縁組の場合は、実親の遺産を相続できる。
他の人の相続放棄で相続権が回ってきた場合の起算日は?
相続順位が上位の人が相続放棄することで相続権が回ってきた場合、「上位の人の相続放棄を知った日」が相続放棄の期限の起算日になります。
民法で相続する権利があると定められている法定相続人には、相続順位というものがあります。
相続順位 | 相続人 |
---|---|
常に法定相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 子ども |
第2順位 | 父母、祖父母(直系尊属) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
たとえば、被相続人に「子ども・父」がいた場合、相続人となるのは第1順位の子どものみです。ただし、子どもが相続放棄した場合は、第2順位の父が相続人となります。
この場合、父が相続放棄を選択できる期限の起算点は「子どもが相続放棄したことを知った日」です。
相続放棄の期限前に知っておくべき注意点
相続放棄したい場合は、以下の点に注意しましょう。
- 相続放棄申述書は期限までに「裁判所必着」
- 財産を処分・隠匿・消費すると相続放棄できなくなる
それぞれについて解説します。
相続放棄申述書は期限までに「裁判所必着」
相続放棄する場合は、期限までに相続放棄申述書を「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」に提出しなければなりません。
郵送の場合、当日消印有効ではなく、期限までに裁判所必着とされています。
仮に消印が熟慮期間内であっても、裁判所への到着日が熟慮期間を過ぎている場合は原則、相続放棄の申立は認められません。
そのため、期限が近い場合には、家庭裁判所へ直接持参する方が確実です。
ただし、裁判所にも受付時間が決められています。そのため事前に、ご自身が申立を行う裁判所の受付時間を調べておきましょう。
財産を処分・隠匿・消費すると相続放棄できなくなる
相続人が相続放棄を希望しても、民法921条に規定された一定の行為をすると、「単純承認」したとみなされ、相続放棄ができなくなります。
この制度を「法定単純承認」といいます。法定単純承認が成立すると、通常の相続と同じく、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことになります。
相続放棄が認められず、法定単純承認したとみなされる一定の行為は、以下のとおりです。
- 相続放棄の前に、相続財産を処分した場合
- 相続放棄の前に、相続財産を隠匿・消費等した場合
相続放棄の前に、相続財産を処分した場合
限定承認または相続放棄の前に相続人が相続財産を「処分」すると、単純承認したとみなされます。(民法921条1号)
「処分」とは、法律行為だけでなく、事実上の行為も含まれます。たとえば、以下のケースは相続財産の「処分」に該当します。
【相続財産の処分に当たる行為】
- 相続財産の売却
- 債権の取り立て
- 相続財産に含まれる債権による相殺
- 家屋の取り壊しなど
相続放棄の前に、相続財産を隠匿・消費等した場合
たとえば隠匿なら、借金を含む相続財産について「借金は相続したくないけれど現金は相続したい」と考え、現金を懐に入れて隠し相続放棄をした場合が該当します。
相続放棄後に財産を隠していた事実が発覚すると、単純承認したとみなされ相続放棄は無効となり、借金の返済義務を相続することになります。(民法921条3号)
また、被相続人の口座にあるお金を引き出して使ってしまった場合も、法定単純承認とみなされてしまいます。
現金だけでなく、被相続人が所有していた家具や美術品なども相続財産として扱われるため、相続放棄を検討している人は、それらをむやみに持ち帰らないよう注意してください。
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相続放棄の期限に間に合いそうにない時はどうする?
ここでは、相続放棄を希望しているが、相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄の手続きが間に合うかわからない方へ向けて対処法を解説します。
相続放棄申述書さえ期限に間に合えば良い
相続放棄の期限に間に合いそうにない場合には、期限までに最低限、相続放棄申述書を提出しましょう。
相続放棄における3か月の熟慮期間はあくまで申述期間であり、手続き完了の期間ではありません。
すなわち、3か月の熟慮期間中に相続放棄申述書が提出できれば、ほかに必要な書類の提出が間に合わなくても、期限内に相続放棄の申立をおこなったと認められます。
なお、相続放棄の申立に必要な書類は以下の通りです。先に相続放棄申述書のみを提出する場合には、ほかの書類の提出が遅れる旨を必ず伝えましょう。
【相続放棄の申立に必要な書類】
- 相続放棄申述書
- 相続放棄の申立をする人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍謄本の附票
- 収入印紙(申述人1人につき800円)
- 連絡用の郵便切手
相続放棄申述書は裁判所HPの『相続の放棄の申述書(成人)』、『相続の放棄の申述書(未成年者)』からダウンロードできます。
理由によっては相続放棄の期限を延長できる
3か月の熟慮期間内に相続放棄や単純承認など、どの手続きを選択するか決められない場合、家庭裁判所で相続放棄の期限延長の申立ができます。(民法915条ただし書)
これを「熟慮期間伸長(延長)の申立」といいます。
熟慮期間伸長が認められる主なケースは、主に以下の3つです。
- 相続財産の内容が複雑で、相続放棄の期限である3か月以内に相続財産の調査が完了しない場合
- 相続人の隠し子や、疎遠になった兄弟姉妹などと連絡がつかない場合
- 新型コロナウイルス感染拡大の影響で期限内に相続放棄ができない場合
実際に伸長される期間はそれぞれの事情に応じて異なりますが、一般的には1~3カ月ほどの伸長が認められます。事情によっては複数回、期間の伸長が認められることもあります。
なお、相続人の一人が相続放棄の期間を伸長したとしても、それ以外の相続人の熟慮期間は伸長されません。
熟慮期間伸長の手続き方法
熟慮期間伸長の手続きは、3か月の熟慮期間中に「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」で行います。
熟慮期間伸長の手続きの際では、以下の書類を提出しましょう。
【熟慮期間伸長の申立に必要な書類】
- 熟慮期間伸長の申立書
- 熟慮期間伸長の申立をする人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍謄本の附票
- 収入印紙(申述人1人につき800円)
- 連絡用の郵便切手
熟慮期間伸長の申立書は裁判所HPの『相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書』からダウンロードできます。記入例も掲載されているので、参考にして作成してください。
熟慮期間の伸長が認められた場合には、家庭裁判所から熟慮期間の意思などを確認するための書類が送付されますので、必要事項を記載のうえ、返送してください。
3か月の期限が過ぎた場合、相続放棄はできる?
相続放棄の期限が過ぎた場合、原則として相続放棄はできなくなります。ただし、例外的に期限後でも相続放棄が認められるケースもあります。
ここでは、期限後に相続放棄できるケースや、期限後の相続放棄が認められなかった場合の対処法を解説します。
期限後でも相続放棄できるケースもある|判例も紹介
以下の3つの要件をすべて満たす場合には、3か月の熟慮期間経過後でも相続放棄が認められます。
- 相続財産が全くない、存在しないと信じていた
- そのように信じるにつき相当な理由があった
- 相続財産の存在を知ってから3か月以内に相続放棄の申立をした
上記2の「相当な理由」があるかどうかは、被相続人の生活歴や、被相続人と相続人との間の交際状態などを確認し、「相続人が相続財産の有無の調査することが著しく困難な事情」があるかという観点から判断されます。
3か月の熟慮期間経過後に相続放棄申述書を提出する場合、熟慮期間の開始日が通常より後ろにずれることを証明する資料が必要です。
たとえば、長年交渉が途絶えていた親の死亡通知を受けた日や、先順位の法定相続人の相続放棄を知った日が分かる書面を添付することが考えられます。
債権者からの請求書には、これらの日付が記載されている可能性があります。
ただし、どのような資料が必要かはケ―ス・バイ・ケースなので、専門家に直接相談するのが適切です。
期限後の相続放棄が認められた判例がある
3か月の熟慮期間経過後に、相続放棄が認められた判例があります。
亡くなった親の借金の存在を知らぬまま、相続放棄の期限が過ぎてしまったケースです。
判例(最判昭和59年4月27日)は、以下の事実を総合的に考慮して、相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、そう信じることについて相当な理由があると認めました。
- 被相続人と相続人らの親子間の交渉は長年途絶えていた
- 被相続人は生活保護を受けながら1人暮らしをしていた
- 被相続人から資産や負債について説明されたことがなかった
- 被相続人にはプラスの財産が全くなかった
- 相続人らは、熟慮期間経過後に、被相続人の連帯保証債務に関する判決正本の送達を受け、初めて被相続人の連帯保証債務の存在を知った
結果的に上記判例では、熟慮期間の開始日を「相続人らが被相続人の連帯保証債務の存在を認識した時」とすることが例外的に認められました。
相続人らは、連帯保証債務の存在を知った時から3か月以内に相続放棄の申述をし、受理されました。
最終的に、相続人らは被相続人の借金の連帯保証債務を受け継いでいないと判断されました。
期限後の相続放棄が認められなかった場合の対処法
期限内に相続放棄できなかった理由を説明しても、家庭裁判所が期限後の相続放棄を認めなかった場合は、「即時抗告」により高等裁判所の審理を受けることもできます。
即時抗告の申立をする場合は、相続放棄を認めない旨の告知を受けた日の翌日から2週間以内に行わなければなりません。
ただし、即時抗告では一度家庭裁判所が却下したことを覆せるだけの根拠や理由が必要です。そのため、もし即時抗告する場合は税理士に相談することを強くおすすめします。
相続放棄は税理士に相談すると安心
相続放棄は相続人単独でできますが、場合によっては他の相続人と揉める原因になることがあります。
また、熟慮期間経過後の相続放棄申述が認められるためには、判例を意識しつつ、本来の熟慮期間内に申述できなかった理由を説得的に説明しなければなりません。
トラブルを防ぎたい場合や期限までに相続放棄が間に合いそうにない場合は、一度税理士に相談することをおすすめします。
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監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士