相続放棄は誰に相談する?税理士?弁護士?司法書士?

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相続放棄と相続税

「故人に多額の借金がある」
「トラブルになりそうな遺産分割協議には関わりたくない」

相続でそのような悩みを抱えている方には、「相続放棄」という選択肢があります。

とはいえ、人生でそう何度も訪れるわけではない相続問題。ましてや相続放棄ともなれば、ご自身のみで判断、手続きをするのは難易度が高いという方も多いでしょう。

そこでこの記事では、相続放棄に関して相談ができる専門家と、各専門家に依頼できる内容や、依頼するメリットを解説していきます。

相続放棄とは?

相続放棄の意味

相続放棄とは、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を一切受け継がないことを意味します。

相続放棄をした人は、その相続に関して、初めから相続人にならなかったものとみなされます。

その結果、被相続人の借金を負担する義務はなくなり、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。

相続財産を一切受け継がないので、相続税を支払う義務も原則としてありません。もちろん、相続税の申告も不要です。

しかし、ここで注意していただきたいのは、相続放棄の効果を生じさせるには、必ず家庭裁判所の手続きが必要という点です。

次の項では、相続放棄の手続きについて解説します。

相続放棄の手続き

相続放棄の手続きは、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して行います。必要書類として、被相続人や相続放棄する人の戸籍謄本等が必要です。

裁判所が受理すれば、相続放棄の効果が生じます。

管轄の家庭裁判所や必要書類の確認、相続放棄申述書のダウンロードは、裁判所のホームページから可能です。

相続放棄の期限

相続放棄の申述期限は、「自分が相続人であることを知ったとき」から3か月以内です。

この期限を過ぎてしまうと、単純承認したことになってしまいます。

単純承認とは、マイナスの財産も含めてすべての相続財産を相続することです。

もっとも、被相続人の死亡を知らなかった場合など、相続財産の存在を認識したときから3か月以内に申述すれば、相続放棄の申述が受理される可能性があります。また、裁判所の許可を得れば、相続放棄の申述期限を延長できます。

相続放棄を税理士に相談する

相続税のシミュレーションができる

相続放棄によってどれだけ税金の負担を避けられるか、また、相続放棄する人以外の負担がどれだけ増えるか正確に知るには、相続税のシミュレーションが欠かせません。

相続税のシミュレーションは、相続専門の税理士に任せるのが最善策です。

二次相続まで考えた場合、相続放棄した方が節税になる事例もあるため、様々なパターンで相続税がいくらになるのかぜひ税理士に試算してもらいましょう。

税理士に早めに相談すれば、最も適切な対応を余裕をもって検討することができます。

相続税の二次相続について詳しくは、関連記事『二次相続の相続税に注意|二次相続に有効な節税対策5選も紹介』をお読みください。

相続手続きの負担が軽くなる

前述したように、相続放棄には「自分が相続人であることを知ったとき」から3か月以内という期間制限があります。そのため、相続人の負担は思っている以上に大きなものです。

そこで頼っていただきたいのが税理士です。税理士に依頼すれば、相続財産の調査から相続税の申告書作成に至るまで、一挙に任せることができます。これにより、もし相続財産を確認した後で、相続放棄をやめて相続することを決めたとしても、継続して同じ税理士に申告を依頼することができます。

相続放棄を弁護士に相談する

相続放棄の手続きを代行してもらえる

相続放棄の手続きを、相続人に代わって行うことができるのは弁護士のみです。

ほかの専門家が代行できるのは書類の作成など手続きの一部分のみです。そのため依頼者自身がやらなければならないこともありますが、弁護士に依頼した場合は書類集めから手続きまですべてを代行して進めてくれます。

その分ほかの専門家に比べて費用は高くなってしまうことが多いですが、代行してもらえる幅が広いのは大きなメリットといえるでしょう。

ほかの相続人とのトラブルにも対応してもらえる

相続放棄を選択すると、相続権が次順位の相続人に移ります。

そのため、ほかの相続人に説明せずに相続放棄をすると、思わぬところで相続人同士のトラブルが発生してしまう可能性があります。また、仮にマイナスの財産が多くて相続放棄を選択する場合には、次に相続権を得る相続人が、マイナスの財産の存在を知らずに単純承認してしまうおそれもあります。

一方で、弁護士に相談していれば、次に相続権を得る相続人にも相続の手続きや内容を説明してもらえます。

トラブルや負担を避けるために相続放棄をしたのにもかかわらず、それをきっかけに新しいトラブルが発生しては元も子もありませんので、相続人同士でのトラブルを不安に感じている方は弁護士への相談を検討してみてください。

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相続放棄を司法書士に相談する

戸籍収集や書類作成を依頼できる

司法書士には、相続放棄の手続きに必要な戸籍の収集や、相続放棄申述書の作成を依頼できます。

戸籍謄本は戸籍がある自治体でしか取得できないため、本籍地の遠方に住んでいる場合には、取得に時間や手間がかかってしまいます。しかし、司法書士に依頼をすれば戸籍収集の手続き全体を代行してもらえます。

相続放棄申述書とは、相続放棄を受理してもらうために裁判所に提出する書類です。相続放棄申述書は裁判所が書類のひな形を公開しており、決められた形で作成しなければなりません。

弁護士との違い

相続放棄における、弁護士と司法書士の違いは、対応できる業務の範囲です。

弁護士は相続放棄の手続きをすべて代行できる代理権をもっています。対して司法書士は、主に書類作成の代行と、それに伴う相談業務が範囲です。また、ほかの相続人とのトラブルに対応できるのも弁護士の強みであり、依頼できる業務の範囲は弁護士の方が広いです。

しかし、司法書士は依頼できる業務の範囲が狭い分、弁護士に比べて費用が少なく済むことが多いです。手間がかかる戸籍の収集や書類の作成さえしてもらえば、申請は自分でできるという方や、相続人同士のトラブルに不安はないという方であれば、司法書士に依頼するのが良いでしょう。

相続放棄に関する基礎知識

相続放棄者には原則として相続税はかからない

相続放棄をした人は、相続財産を一切受け継がないので、相続税を支払う義務も原則としてありません。もちろん、相続税の申告も不要です。

ただし、生命保険金や死亡退職金を受け取った場合や、相続時精算課税制度の適用を受けた場合には相続税を支払う必要があります。

相続放棄と相続税の関係について詳しくは、関連記事『相続放棄したら相続税は払わなくていい?ほかの相続人への影響も解説』をお読みください。

相続放棄がある場合の相続税の計算はどうなる?

相続放棄した人がいる場合、相続税の計算上、以下の点にご注意ください。

①基礎控除額は相続放棄がなかったものとして計算
②生命保険金等の非課税限度額は相続放棄がなかったものとして計算
③課税遺産総額は相続放棄がなかったものとして計算
④相続税の総額は相続放棄がなかったものとして計算
⑤相続人が2割加算の対象になる可能性がある

以下、それぞれの注意点について、次の【具体例】をもとに解説します。

【具体例】

【親族関係】
被相続人
・被相続人の母
・被相続人の妹
【遺産の内容】
・預貯金3,000万円
・生命保険金1,000万円(受取人は母)

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相続税額をシミュレーションできる計算方法を解説!

①基礎控除額は相続放棄がなかったものとして計算

相続税の基礎控除額の計算式は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。

具体例では、母の相続放棄はなかったものと考えます。したがって、法定相続人は母です。

よって、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×1)=3,600万円になります。

②生命保険金等の非課税限度額は相続放棄がなかったものとして計算

非課税限度額は、「500万円×法定相続人の数」で求めます。そして、「法定相続人」には、相続放棄した者も含みます。

具体例では、相続放棄をした母を「法定相続人」に含めるので、非課税限度額は500万円です。ただし、相続放棄した人には非課税枠は適用されません。

したがって、母が受け取った生命保険金1,000万円は、全額が相続税の課税対象になります。

③課税遺産総額は相続放棄がなかったものとして計算

課税遺産総額とは、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた金額をいいます。

相続放棄した人がいても、基礎控除額は変わらないため課税遺産総額も変わりません。

具体例の課税遺産総額は、(3,000万円+1,000万円)-3,600万円=400万円になります。

④相続税の総額も相続放棄がなかったものとして計算

相続税の総額を求めるには、まず課税遺産総額に法定相続分をかけます。次に各人の取得金額に応じた税率をかけ、控除額を引きます。

この場合も相続放棄はなかったものと考えます。

具体例では、母の相続放棄はなかったものと考えるため、法定相続人は母のみです。

したがって、法定相続分は1として相続税の総額を計算します。

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相続放棄の相談はご自身のニーズに合った専門家へ

ここまで相続放棄を相談できる専門家と、それぞれの専門家が得意としている分野を紹介してきました。

相続放棄は一度申請して受理されると、原則取り消すことができないため、慎重に判断する必要があります。

解消したい不安やかかる費用も踏まえて、ご自身でできる範囲と専門家に任せたい範囲をよく考え決めることが重要です。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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