なぜ相続税対策でマンションを購入するの?メリットと注意点も解説
「相続税対策でマンションを購入する」という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
実はこの仕組みは簡単で、たとえば、1億円を現金で相続したときにかかる相続税よりも、その1億円でマンションを購入し、そのマンションを相続したときにかかる相続税の方が安いからなのです。
この記事では、なぜマンション購入が相続税対策になるのか解説します。
また、これから相続税対策でマンション購入を検討している方に向けて、マンション購入のメリットと注意点をご紹介します。
※税制改正の影響で、令和6年以降のタワーマンション購入による節税の効果が薄れてしまいました。タワマン節税についても記事後半で解説します。
目次
なぜマンション購入が相続税対策になる?|仕組みを解説
マンション購入が相続税対策になる理由は、以下の3点です。
- 不動産は相続税評価額が低くなる
- 賃貸でさらに相続税評価額が下がる
- 小規模宅地等の特例を適用できる
不動産は相続税評価額が低くなる
相続税は、課税対象となる財産の相続税評価額をもとに算出されます。
相続税評価額とは、相続する時点での、財産の時価のことです。
相続する財産が現金であれば、取得する金額がそのまま相続税評価額になりますが、不動産や株式など時価の算出が難しい財産は、相続税法で定められた相続税評価額の計算ルールに沿って算出します。
その結果、マンションの相続税評価額は、現金の相続税評価額の6割程度になるのです。
以下で、1億円のマンションを相続した場合の相続税評価額の計算方法を解説します。
計算過程は読み飛ばしても構いませんので、一番下の算出した相続税評価額をご確認ください。
【1億円のマンションを相続した場合の相続税評価額】
マンションなどの不動産の相続税評価額は、土地と建物で別々に算出します。
マンションの敷地である土地については、路線価などで評価を行います。路線価とは国税庁が日本中の道路に対してその道路に接する宅地の1㎡あたりの評価額を決めているものです。
この路線価は土地の取引価格の目安とされる公示価格の8割相当で設定されており、1億円のマンションのうち3,000万円が土地だと仮定すると、その8割相当は2,400万円になります。
マンションの建物部分である家屋の評価については、市区町村が固定資産税を課税するために算定した固定資産税評価額により評価をします。
この固定資産税評価額は再調達原価(同じ建物を建築する場合にかかるコストの見積り)の50%〜60%相当とされていますので、新築の場合50%程度、中古の場合で市場流通価格の70%程度の固定資産税評価額となります。
1億円のマンションが新築だとすると、残りの建物部分である7,000万円は50%相当の3,500万円の評価額になります。
以上のことから1億円で購入したマンションの相続税評価額は、2,400万円+3,500万円 = 5,900万円となりました。現金で相続する場合と比べて、41%相続税評価額が引き下がることになりました。
現金で相続する場合の相続税評価額:1億円
マンションで相続する場合の相続税評価額:5,900万円
賃貸でさらに相続税評価額が下がる
購入したマンションを賃貸に出す場合には、より相続税評価額を下げられます。
賃貸借契約により居住用家屋を貸す場合、借地借家法の規定により所有者が自由に利用できなくなります。具体的には、賃借人(借りる側)に退去してもらう場合には正当な理由が必要であったり、立退料が必要になったりします。
不動産の評価では原則、所有者の利用範囲に制限が生まれる分、相続税評価額も下がるのです。
以下で、マンションを人に賃貸すると、どのくらい相続税評価額が下げられるのか解説します。
【マンションを賃貸したときの相続税評価額】
人に貸している建物を貸家、その建物が建っている土地を貸家建付地といいます。
貸家建付地は、借地権割合60%の地域の場合、土地の相続税評価額×(1-60%[借地権割合]×30%[貸家権割合])で評価できます。
かっこ部分は82%になりますから、土地の相続税評価額を18%相当評価額をさらに下げることができるのです。
借地権割合は土地の所在する地域により異なります。『国税庁:路線価図・評価倍率表』で確認してください。
貸家は、建物の相続税評価額×(1-30%)で評価できます。
つまり建物の相続税評価額を30%評価額を下げることができるのです。貸家割合は全国一律で30%です。
小規模宅地等の特例を適用できる
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たした不動産を相続する際に、その土地の相続税評価額を減額できる制度です。
自宅用のマンションを相続した場合には、その土地の相続税評価額を、330㎡を限度面積として80%減額できます。
賃貸マンションを相続した場合には、その土地の相続税評価額を、200㎡を限度面積として50%減額できます。
しかし、前述したように小規模宅地等の特例の適用にはいくつか要件があります。
小規模宅地等の特例の適用をご検討されている方は、一度相続税に強い税理士にご相談ください。
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相続税対策でマンションを購入するメリット
ここでは、前述した相続税評価額を安くできる点以外に、相続税対策でマンションを購入することにより得られるメリットを紹介します。
家賃収入が得られる
賃貸マンションの場合には、毎月家賃収入が得られます。
入居者が定着すれば安定した収益源となり、その収益を元手にさらに不動産購入を行うこともできるでしょう。
ローン残額が相続財産から差し引ける
ローンを組んでマンションを購入した場合、相続時にローンの残額を相続財産から控除できます。これを債務控除といいます。
相続税は相続財産に対してかかるため、相続財産を減らすことは相続税を減らすことになります。
しかし、実際に不動産ローンを債務控除するケースは多くありません。
不動産のローンを契約するときには、団体信用生命保険(団信)に加入することがほとんどです。
団信とは、契約者が死亡もしくは高度障害などにより、ローンが返済できなくなった場合に、保険金によってローンの残額がすべて返済されるというものです。
そのため、契約者が亡くなり、相続が発生した時点でローンが完済されるため、そもそもローンが相続財産に含まれないのです。
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不動産はインフレに強い
インフレとは、正式にはインフレーションといい、物の価値が上がり、相対的に現金の価値が下がっていく状態のことです。
そのため、資産が現金ばかりの人にとっては不利な状況といえるでしょう。
しかし、資産を現金から不動産に変えておけば、所有している不動産の価値が上がっていくため、現金のみを資産として所有しているよりも有利になります。
また、インフレ状態では消費者物価指数が上昇傾向にあるため、家賃も上昇しやすくなります。
損益通算で所得税を節税できる可能性がある
サラリーマンが賃貸マンションの家賃収入を受け取っている場合のメリットです。
損益通算は、同じ年の利益と損失を合算することをいいます。
つまり、マンション管理において不動産所得がマイナスになってしまった場合、同じ年のサラリーマンとしての給与所得のプラスと損益を通算して、所得税を節税できます。
相続税対策でマンション購入する際の注意点
マンション購入は相続税対策として大きな効果がありますが、気をつけなければいけない注意点もあります。
空室のリスクを理解しておく
購入したマンションを賃貸に出す場合、その立地や周辺状況によってはずっと空室のままということも考えられます。
まず、空室のデメリットとして、家賃収入の減少が挙げられます。
さらに、空室の場合には、マンションが貸家建付地や貸家として認められず、賃貸による相続税評価額の減額が受けられない可能性もあります。
このような賃貸市場で人気のない物件は、仮に売りに出したとしても元の価格で売れるとは限りません。
相続税の納税資金が不足しないか確認する
相続税の納税は、原則として相続の開始があったことを知った日(一般的に死亡日)の翌日から、10ヶ月以内に現金一括で納税することになります。
そのため、現金でマンションを取得した場合に、相続税の納税資金に充てる現金がなくなってしまわないよう注意が必要です。
現金を不動産に変えて、相続税評価額を下げた後の相続税額が手元に残った現金で支払えるのか、確認をする必要があります。
納税資金不足の対策として挙げられるのは、銀行のローンでマンションを購入することです。
ローンでマンションを購入すると、手元の現金を減らすことなく、マンションの相続税評価減を享受することができます。
ただし、不動産投資ですから、不動産収入から経費を引いた残りでしっかりと毎月の返済ができるのか、ある程度の空室期間までは余裕があるのかなどを慎重に判断しなければいけません。
不動産は遺産分割がしづらい
相続人が複数いる場合、不動産の遺産分割のしにくさがデメリットになることもあります。
不動産を共有分割するという選択肢もありますが、共有分割は全共有者が同意しないと売却や大規模修繕などの契約行為ができません。マンションについて何か契約をする際には、原則として共有者全員が契約書にハンコを押すことになります。
例えば、マンションが老朽化したので、大規模修繕をしようというときに、兄は持分に応じた修繕費を払えるけれども、弟は家計が厳しく修繕費を払えないという場合、弟は契約書にハンコを押したがらないでしょうから、大規模修繕の契約ができなくなるのです。
これは売却や不動産を担保に供して借入をする場合にも同じことがいえます。
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マンション購入による相続税対策について、よくある質問にお答え
借金でマンションを購入すると相続税対策になるって本当?
「借金でマンションを購入すると相続税対策になる」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
これは、相続する財産に借金(債務)が含まれている場合、課税対象の総額から債務分を差し引くことができるという、相続税計算の「債務控除」を利用した相続税対策です。
ただ借金をするだけでは相続税対策にはなりませんが(現金1億円を借金しても、現金1億円の資産が増えるだけなため)、借金した現金で不動産を購入し、その不動産を相続することで相続税対策になることがあります。
なぜなら、時価1億円で購入した不動産は、相続税評価額では1億円以下になるからです。
具体的には、相続税評価額として用いる土地の路線価が時価の8割相当、建物の固定資産税評価額が時価の7割相当とされています。
ただし、「借金でマンションを購入すれば、必ず相続税対策になる」というわけではないため注意が必要です。
また、借金が債務控除できるといっても、借金の返済義務がなくなるわけではありません。借金の返済義務は相続人に引き継がれます。
ご自身のケースではマンション購入が相続税対策につながるのか、相続人が借金を返済できるのかなど、借金でマンションを購入する際には検討することが多いです。
より効率的な節税を目指すためにも、相続税に強い税理士にご相談されることをおすすめします。
相続税対策で購入するならワンルームと一棟どちらが良い?
マンションのワンルームを購入する相続税対策と、一棟まるごとマンションを購入する相続税対策のどちらが良いかは、資産状況や負えるリスクの大きさによって異なります。
以下に、ワンルームの購入と、一棟マンションの購入の違いについてまとめました。
ワンルーム | 一棟 | |
---|---|---|
投資金額 | 安い | 高い |
ローン | 組みやすい | 高い頭金が必要 |
リスク | 低い | 高い |
収益率 | 低い | 高い |
管理責任 | 管理組合が決定 | 管理の自由度が高い |
空室リスク | 高い | 低い |
ワンルーム購入のメリット・デメリット
ワンルームの購入による相続税対策は、コストやリスクが低く比較的手軽にはじめられるのがメリットです。サラリーマンの副業としてはじめる方もいるくらいです。
しかしその分、収益率は一棟マンションと比べると低くなります。
次に、ワンルームの購入による相続税対策の一番のデメリットは、空室のリスクが高いことでしょう。
前述した土地の相続税評価額を大幅に下げられる小規模宅地等の特例は、相続発生時に賃貸物件として利用していなければ適用できません。
よって、購入した一室が空室のまま相続が発生してしまうと、小規模宅地等の特例が適用できない場合があり、相続税対策の効果が半減してしまいます。
一棟マンション購入のメリット・デメリット
マンションを一棟購入する相続税対策の一番のメリットは、投資収益率が高く、相続税対策としてより効果的な点でしょう。
単純計算ですが、1億円で購入したマンションの年間の収益が1,000万円だと、10年間貸付を行えば初期投資費用を回収できることになります。
また、空室リスクが分散されるため、ワンルームの購入と比べて収益が安定しやすい点もメリットでしょう。
ただし、初期投資の金額が多く、マンション運営がうまくいかなかった場合のリスクが高いというデメリットがあります。
さらに、融資を受けてマンションを購入する場合でも、頭金として購入金額の2割ほど支払いが必要になります。
これらのことから、相続税対策のためにマンションを一棟購入する場合には綿密な準備が必要であることがおわかりいただけたと思います。
失敗のリスクを最小限にするためにも、事前に相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
【令和6年最新】税制改正でタワマン節税の効果が薄れた?
タワーマンションは、時価と相続税評価額の差が大きいことから、相続税対策として注目されてきました。
国税庁の調査によると、東京都で1億1,900万円のタワーマンションの相続税評価額が3,720万円になるというデータもあります。
しかし、国税当局もこの点に目をつけ、令和5年の税制改正にて、タワーマンションに限らず、一部を除いた居住用の区分所有マンションについて相続税評価額の改正を実施することになりました。
この改正内容は令和6年から適用されますので、令和6年以降に相続があると、改正前に購入したタワーマンションについても、改正後の規定が適用されますのでご注意ください。
令和5年税制改正の内容
改正内容を一言でいうと、マンションの相続税評価額が、最低でも時価の6割を切らないようになりました。
具体的には、改正後にマンションの相続税評価額を計算するときにも、ひとまずマンション1室に対応する建物部分や土地部分を、今まで通りに評価をします。
しかし、評価水準が時価の6割に満たない場合には、以下の計算式で再計算を行います。
(相続税評価額×マンション1室の評価乖離率)×0.6
これで、最低でも相続税評価額が時価の6割になります。
この改正は、相続税評価額が下がりすぎることを防ぐ目的で行われました。
税制改正に対応した相続税対策をするには
この税制改正では、「築浅(新築)」「高層マンション」「高層階に所在する部屋」「マンションの敷地が狭い都市型」の場合に相続税評価が高くなる傾向があります。
つまり、逆に「築古」「低層マンション」「低層階に所在する部屋」「敷地に余裕がある郊外型」であれば相続税評価額が高くなりにくいと考えられます。
ただし前述した通り、賃貸マンションの購入は不動産投資ですから、築古の郊外型マンションが本当に不動産投資として有効なのかは考える必要があります。
相続税対策でマンションを購入するときは税理士に相談
タワーマンションをはじめとする一部のマンションでは、税制改正により節税効果が薄れてしまいましたが、依然としてマンション購入による相続税対策の効果は健在です。
しかし、やみくもに購入してしまっては節税どころか、かえって負債を抱えてしまうおそれもあります。
また、マンションの相続税評価額の計算方法は複雑です。
もし相続税評価額の計算を誤ってしまうと、申告・納付する相続税の計算にも影響を及ぼし、本来よりも少ない金額で納付してしまった場合には、後からペナルティが課されるおそれもあります。
マンション購入による相続税対策を考えている方は、ぜひ一度、相続税に強い税理士に相談してみてください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士