【相続税】小規模宅地等の特例の計算方法がわかる|ケースごとの計算例付き
小規模宅地等の特例とは、土地を相続したときに一定の要件を満たしている場合、その土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。
たとえば、評価額が1,000万円の土地であれば、特例の適用で200万円まで下がることもあります。
しかし、小規模宅地等の特例の計算は簡単ではありません。
そこで、この記事では、小規模宅地等の特例の計算を、ケースごとの計算例とともにわかりやすく解説していきます。
土地を相続する方にとっては必須となる情報なので、ぜひ最後まで読んでご自身の相続にお役立てください。
目次
小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈で土地を取得した場合、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大80%減額できる特例です。
小規模宅地等の特例を適用できる限度面積と、減額割合をまとめると、以下の表のとおりです。
各土地の種類の詳しい説明や、小規模宅地等の特例の適用要件などを知りたい方は、本記事の『小規模宅地等の特例を適用できる4つの宅地と適用要件』で解説しているので、先にご確認ください。
小規模宅地等の特例の計算方法
ここでは、特例の適用によっていくら減額されるか、ケース別に5つの計算例で見てみましょう。
計算例①土地を1つ相続+相続人1人+限度面積以下
【相続した土地の条件】
被相続人の自宅用敷地(特定居住用宅地等)300㎡
評価額7,000万円
特定居住用宅地等の限度面積は330㎡です。したがって、このケースでは土地全体が特例の適用対象になります。
減額される額は、7,000万円×300㎡/300㎡×80%=5,600万円です。
その結果、宅地の評価額は、7,000万円-5,600万円=1,400万円になります。
計算例②土地を1つ相続+相続人1人+限度面積超え
【相続した土地の条件】
被相続人の自宅用敷地(特定居住用宅地) 800㎡
評価額6,000万円
特定居住用宅地等の限度面積は330㎡です。したがって、このケースでは800㎡のうち330㎡が特例の適用対象になります。
減額される額は、6,000万円×330㎡/800㎡×80%=1,980万円です。
その結果、宅地の評価額は、6,000万円-1,980万円=4,020万円になります。
計算例③土地を1つ相続+相続人2人+限度面積超え
【相続した土地の条件】
被相続人の自宅用敷地(特定居住用宅地等)500㎡
評価額6,000万円
この土地を、同居の長男と長女が相続したとします。
協議の結果、長男が300㎡、長女が200㎡取得することになりました。
また、小規模宅地等の特例の限度面積は、宅地単位のものなので、長男と長女であわせて330㎡が限度面積となります。今回は、長男は200㎡、長女は130㎡について特例を適用することにしました。
この場合、各人が相続する宅地の評価額は以下のとおりになります。
(長男)
6,000万円×300㎡/500㎡=3,600万円
(長女)
6,000万円×200㎡/500㎡=2,400万円
特例を適用すると、各人の相続した宅地の評価額は以下のとおり減額されます。
(長男)
減額される額は、3,600万円×200㎡/300㎡=2,400万円です。
その結果、宅地の評価額は、3,600万円-2,400万円=1,200万円になります。
(長女)
減額される額は、2,400万円×130㎡/200㎡=1,560万円です。
その結果、宅地の評価額は、2,400万円-1,560万円=840万円になります。
【複数人で相続するときのポイント】
- ひとつの宅地を複数人で相続する場合、全員で330㎡の評価額減になります。
- 複数の相続人が土地を取得する場合、誰が、どれだけの面積について特例の対象を受けるか協議により決めます。
- 複数の相続人が宅地を共同で相続する場合、特例を適用できるかどうかは、相続人ごとに判断する必要があります。
※例えば、特定居住用宅地を配偶者と息子が相続した場合、配偶者は無条件で特例を適用できます。
一方、同居の息子は、申告期限まで居住と保有を継続していなければなりません。
計算例④土地を複数相続(居住用と事業用)
【相続した土地の条件】
被相続人の自宅用敷地(特定居住用宅地等)600㎡
評価額6,000万円
被相続人の事業用土地(特定事業用宅地等)500㎡
評価額8,000万円
被相続人の自宅と、個人事業で使っていた土地を相続したときなどのケースです。
この場合、特定居住用宅地等は330㎡まで、特定事業用土地は400㎡までを条件とし、合計730㎡まで80%減額されます。
(特定居住用宅地等)
減額される額は、6,000万円×330㎡/600㎡×80%=2,640万円です。
その結果、宅地の評価額は、6,000万円-2,640万円=3.360万円になります。
(特定事業用宅地等)
減額される額は、8,000万円×400㎡/500㎡×80%=5,120万円です。
その結果、宅地の評価額は、8,000万円-5,120万円=2,880万円になります。
計算例⑤土地を複数相続(居住用と貸付事業用)
【相続した土地の条件】
被相続人の自宅用敷地(特定居住用宅地等)165㎡
評価額1,650万円
被相続人の貸付事業用土地(貸付事業用宅地等)300㎡
評価額3,000万円
相続した土地に、貸付事業用宅地等が含まれる場合は、下記の計算式により調整した面積が限度となります。
特定居住用宅地等の全部(165㎡)を優先的に特例の対象とした場合、貸付事業用宅地等のうち特例が適用できる面積は下記の計算式により算出できます。
貸付事業用宅地等の適用面積は、200㎡-(165㎡×200/330)=100㎡です。
(特定居住用宅地等)
減額される額は、1,650万円×165㎡/165㎡×80%=1,320万円です。
その結果、宅地の評価額は、1,650万円-1,320万円=330万円になります。
(貸付事業用宅地等)
減額される額は、3,000万円×100㎡/300㎡×50%=500万円です。
その結果、宅地の評価額は、3,000万円-500万円=2,500万円になります。
小規模宅地等の特例を適用するときの注意点
申告期限内に相続税申告が必要
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、原則として、相続税の申告期限内に、この特例の適用を受けようとする旨を記載した相続税の申告書を提出する必要があります。
具体的には、相続税申告書の第11の2表を記入して提出します。
相続税申告書の第11の2表を記入方法はこちら!
国税庁|相続税申告書の記載例
相続税申告書の第11の2表のダウンロードはこちら!
国税庁|相続税の申告書等の様式一覧
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常、被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内です。
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納税額が0円でも相続税申告が必要
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、納税額が0円になった場合でも、必ず申告書を提出しなければなりません。
相続税では、財産の課税価格が基礎控除額を上回らない場合は、申告・納付が必要ありません。
しかし、小規模宅地等の特例を適用した結果、納税額が0円になった場合には、相続税申告をする必要があるため注意しましょう。
申告期限までに遺産分割する必要がある
小規模宅地等の特例の適用対象となるのは、申告期限までに遺産分割が完了している宅地に限られます。
申告期限までに遺産分割が完了しない場合、申告する際に、「申告期限3年以内の分割見込書」を添付すれば、その後遺産分割が完了した後に特例の適用を受けることが可能です。
具体的には、以下の条件に該当するようになった場合は、特例の適用対象になります。
①相続税の申告期限後3年以内に遺産分割が完了した場合
②申告期限3年以内に遺産分割ができないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4月以内に分割されたとき
以上の場合、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求書を提出する必要があります。
小規模宅地等の特例を適用できる4つの宅地と適用要件
小規模宅地等の特例を適用できる宅地は4種類にわけられます。
ここでは、それぞれの宅地の特徴と、特例を適用するときの要件を解説します。
①特定居住用宅地等
特定居住用宅地とは、自宅用の土地を意味します。
さらに、その土地を誰が居住用に利用していたかによって、さらに2つに分けられます。
【被相続人の居住用】
被相続人が居住用に利用していた土地は、「特定居住用宅地等」に当たります。
この土地を配偶者が取得する場合、無条件で80%減額されます。
子などの同居親族が取得する場合、相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に居住し、かつ、宅地を保有する必要があります。
加えて、一定の別居親族も申告期限までその宅地を保有すれば、特例を適用できます。
「一定の別居親族」に当たるのは、以下の要件を満たす方です。
【一定の別居親族の要件】
- 被相続人に配偶者も同居親族もいないこと
- 相続開始前3年以内に、取得者、取得者の配偶者、3親等内の親族、取得者と 特別な関係にある法人が所有する家屋に住んだことがないこと
- 相続開始時に居住している家屋を過去に所有したことがないこと
具体的には、父がすでに死亡し一人暮らしをしていた母の自宅を、借家住まいの子が相続するケースが該当します。
【被相続人と生計を一にする親族の居住用】
被相続人と生計を一にする親族の居住用の土地も「特定居住用宅地等」に当たります。
例えば、父が所有する土地に子が家を建てて住み、父の死亡後に、子がその土地を相続する場合が該当します。
この場合、取得者が、相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に居住し、かつ、宅地を保有する必要があります。
注意していただきたいのは、「生計を一にする」親族でなければならない点です。
簡単に言うと、被相続人と「財布が一緒」の親族が土地を取得する必要があります。
上記の例で言えば、子が父に継続的に生活費を援助していた等の事情が必要です。
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②特定事業用宅地等
特定事業用宅地等とは、被相続人が事業に使用していた宅地等を意味します。
この土地を取得した親族が、申告期限まで事業を継続し、かつ宅地を保有する必要があります。
ただし、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地は対象外とされています。その理由は、節税目的で駆け込み的に事業を承継するケースを規制するためです。
もっとも、宅地の上に建物や減価償却資産があり、その価額が相続開始時の宅地の価額の15%以上である場合は特例の対象になります。
なお、ここでいう「事業」には、不動産貸付業(アパート経営など)、駐車場業、自転車駐車場は含まれません。
これらの業務に利用していた土地は、「④貸付事業用宅地等」に該当し、減額率が50%になりますのでご注意ください。
③特定同族会社事業用宅地等
特定同族会社事業用宅地等とは、被相続人または被相続人の同族関係者が、50%以上の株式(または出資)を持つ会社が、事業に使用していた土地を意味します。
その土地を取得した親族が相続税の申告期限においてその法人の役員であり、申告期限まで事業を継続し、かつ宅地を保有する必要があります。
④貸付事業用宅地等
貸付事業用宅地等とは、被相続人等の貸付事業に利用されていた宅地等を意味します。
例えば、賃貸アパートや賃貸マンションの敷地が該当します。
この土地を取得した親族が、申告期限まで事業を継続し、かつ宅地を保有する必要があります。
ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は対象外とされています。③のケースと同じく、節税目的で駆け込み的に貸付用の不動産を取得するケースを規制するためです。
ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っていた場合は、特例の対象になります。
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小規模宅地等の特例のご相談は税理士へ
小規模宅地等の特例を活用すれば、相続税額の大幅な減額が期待できます。
しかし、ご本人のみでは特例を正しく適用するのが困難なケースも少なくありません。
「そもそも特例の対象になる土地なのか?」「減額のメリットを最大にするには、どの土地に特例を適用すべきなのか?」など検討しなければならない問題が多数あるからです。
小規模宅地等の特例について少しでもご不安な方は、税理士にぜひご相談ください。
税理士が関与すれば、ご相談者様に最適な申告を円滑に行うことができます。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士