相続税の計算方法がわかる|課税される条件や節税に役立つ制度も解説
- 相続税の計算方法がわからない
- 相続税の計算式が知りたい
- 自分で相続税額を計算したい
専門知識や難しい用語が飛び交う相続問題の中でも、多くの人が心配しているのは「相続税の計算」についてではないでしょうか。
相続税の計算方法は複雑ですが、順を追って計算していけばご自身でも相続税を算出することができます。
この記事では、相続税が発生する条件や計算方法、相続税の負担を軽減できる控除制度などをわかりやすく解説していきます。
目次
まずは相続税がかかる条件を確認|基礎控除
相続税がかかる条件は、「相続する財産が何円を超えたらかかる」と一律に決まっているわけではありません。
相続税は、相続する課税対象の財産の合計額(正味の遺産額)が、基礎控除を上回ったときに課税されます。
相続税の基礎控除は、以下の計算式で算出します。
相続税の基礎控除額
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
法定相続人の人数が4人であれば「3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円」となります。
仮に正味の遺産額が1億円で、5,400万円が基礎控除額だとすると、「1億円-5,400万円=4,600万円」に対して相続税がかかります。
正味の遺産額が基礎控除を超えなかった場合は相続税がかからないため、相続税の申告と納付は必要ありません。
法定相続人の数え方がわからない方は、関連記事『相続税は基礎控除以下なら無税!計算方法やその他の控除も解説』をお読みください。基本的な数え方から、養子や相続放棄者の扱いまで詳しく解説しています。
相続税が課税される財産とは?
ここでは相続税の課税対象となる財産の種類と、それらから正味の遺産額を算出する方法を解説します。
まずはプラスの財産です。プラスの財産とは、経済的価値のある財産のことをいいます。多くの方が「相続財産」と聞いて思いつくのはプラスの財産ではないでしょうか。
2つ目はみなし相続財産です。みなし相続財産とは、被相続人の死亡をきっかけに受け取る財産のことをいいます。
なお、死亡保険金や死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。正味の遺産額に含めるのは、受け取る保険金から非課税枠を差し引いた分です。
次はマイナスの財産です。マイナスの財産とは、いわゆる負債のことをいいます。マイナスの財産は、相続税の課税対象となる財産から差し引くことができます。
また、被相続人の葬式等にかかった費用は、被相続人の死亡に伴い必然的に必要になる支出なので、債務と同様に課税財産から差し引くことができます。
債務や葬式費用を課税財産から差し引くことを「債務控除」といいます。
相続税のルールには「被相続人が死亡する前3年以内に、被相続人から贈与された財産は、相続財産に加算して相続税の課税対象にする」というものがあります。
そのため、該当する贈与財産がある場合は正味の遺産額に含めます。
また、相続時精算課税制度を使って被相続人から贈与された財産も、正味の財産に含めます。
相続時精算課税制度とは、累計2,500万円の贈与まで贈与税がかからなくなる代わりに、贈与者(あげた側)の死亡時、贈与された財産を正味の遺産額に加算して、相続税の課税対象とする制度です。
相続する財産から正味の遺産額を計算
前述した「プラスの財産」「みなし相続財産」「マイナスの財産」「被相続人から生前贈与された財産」から、正味の遺産額を計算します。
この正味の遺産額から基礎控除を差し引いた金額(課税遺産総額)に対して、相続税が課されることになります。
相続税の計算|モデルケースつきでわかる
相続税の計算は、以下の6STEPで行います。
以下で、モデルケースを用いながらそれぞれのSTEPを解説していきます。
STEP1 相続人・相続する財産を確認
まずは、相続人と相続する財産を洗い出します。
今回は、以下の家族をモデルケースに相続税の計算を解説していきます。
相続税を計算するためには、相続人ごとの「相続割合」と、各財産の「相続税評価額」が必要です。
相続人ごとの相続割合は、遺言書に沿って決めるか、遺産分割協議で話し合って決めます。
相続税評価額とは、相続した財産の「相続開始時点の時価」のことです。
各財産の相続税評価額の計算方法については、関連記事『相続税評価額とは?財産ごとの計算方法は?固定資産税評価額との違いは?』で詳しく解説しています。
STEP2 課税遺産総額を計算
課税遺産総額とは、相続税の課税対象となる財産の総額のことです。
課税遺産総額は、STEP1で計算した正味の遺産額(相続財産の合計)から、基礎控除額を差し引くことで計算できます。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。
今回のモデルケースの基礎控除額は、法定相続人が妻、長男、長女の3人なので、「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となります。
よって、課税遺産総額は「2億4,800万円-4,800万円=2億円」です。
STEP3 法定相続分に応じて財産を分配
相続税の計算では、一度法定相続分でわけて、各相続人の仮の相続税額を計算する必要があります。今後のSTEP3からSTEP6の流れを図解すると以下のようになります。
少し複雑ですが、順を追って解説を読めば問題なく相続税の計算が行えるのでご安心ください。
STEP2で、今回のモデルケースの課税遺産総額は2億円だとわかったので、2億円を法定相続分に応じて分配します。
妻 :2億円 × 1/2=1億円
長男:2億円 × 1/4=5,000万円
長女:2億円 × 1/4=5,000万円
モデルケース以外の法定相続分に関しては、以下の法定相続分表を参考にしてください。
STEP4 各人の仮の相続税額を計算
STEP3で算出した各人の法定相続分にかかる、相続税額を計算します。
相続税の計算は、以下の相続税速算表を用いると簡単に行えます。
相続税の計算式
法定取得分に応ずる取得金額(STEP3で算出)×税率-控除額
妻 :1億円×30%-700万円=2,300万円
長男:5,000万円×20%-200万円=800万円
長女:5,000万円×20%-200万円=800万円
もしも実際の相続割合が法定相続分と全く同じ場合には、このSTEP4で算出した相続税額が、実際に各人が支払う相続税額になります。
STEP5 相続税額の合計を計算
法定相続分で分けたとした、各人の仮の相続税額が計算できたら、それぞれの相続税額をすべて足し合わせます。
2,300万円+800万円+800万円=3,900万円
これが、今回の相続でモデルケースの家族が支払う相続税額の合計になります。
STEP6 実際の相続割合に応じて各人に相続税額を分配
STEP5で算出した相続税額を、実際の相続割合に応じて各人に分配します。ここで算出する相続税額が、実際に各人が支払う納税額です。
今回のモデルケースの相続割合は、妻50%、長男30%、長女20%ですので、以下のような計算になります。
妻 :3,900万円 × 50%=1,950万円
長男:3,900万円 × 30%=1,170万円
長女:3,900万円 × 20%=780万円
なお、妻が支払う相続税額は、「配偶者の税額軽減」という特例を適用することで0円になります。配偶者の税額軽減について詳しくは次の見出しで解説します。
相続税計算機でも相続税が計算できる
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相続税を軽減できる制度
相続税は適切に制度を利用することで、大幅な税負担の軽減が期待できます。ここでは、相続税を軽減できる代表的な制度を解説していきます。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続する財産のうち、最低でも1億6,000万円まで相続税が課税されない制度です。相続税の配偶者控除ともいわれています。
相続税が1億6,000万円安くなるわけではなく、1億6,000万円まで非課税で相続できるという仕組みです。
なぜ「最低でも1億6,000万円」という書き方かというと、配偶者の税額軽減によって非課税で相続できる財産額は「1億6,000万円と、配偶者の法定相続分の、いずれか大きい方」までだからです。
そのため、相続人が配偶者一人の場合は、相続する遺産すべてが法定相続分になるので、いくら相続しても相続税はかかりません。
配偶者の税額軽減は非常に節税効果の高い制度ですが、適用するためには相続税申告が必要です。仮に配偶者の税額軽減を適用して相続税が0円になったとしても、相続税申告が必要なので注意してください。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用する予定の方はぜひ一度、関連記事『相続税の配偶者控除とは?適用の要件は?計算方法を具体例付きで解説』をお読みください。知っておきたい適用要件や注意点について解説しています。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、相続した宅地が一定の要件を満たしている場合、その宅地の相続税評価額を大幅に減額できる制度です。宅地とは建物が建っている土地のことをいいます。
具体的には、たとえば被相続人が住んでいた自宅の土地であれば、330㎡を上限に、相続税評価額を80%減額できます。
相続税評価額が低くなるほど相続税も安くなるため、非常に節税効果が高い制度といえます。
ただし、宅地を相続する相続人にも小規模宅地等の特例を適用するための要件があります。また、配偶者の税額軽減と同様に、相続税が0円だとしても適用するためには相続税申告が必要です。
小規模宅地等の特例の適用要件や注意点について詳しくは、関連記事『【相続税】小規模宅地等の特例の計算方法がわかる|ケースごとの計算例付き』をお読みください。
その他相続税額を軽減できる制度
未成年者控除
未成年者控除とは、未成年者の相続人が支払う相続税額から一定額控除できる制度です。
未成年者控除による控除額は以下の計算式で算出できます。
未成年者控除の控除額
10万円×(18歳-相続開始時の年齢)
障害者控除
障害者控除とは、障害者である相続人が支払う相続税額から、障害の程度により一定額控除できる制度です。
障害者控除による控除額は以下の計算式で算出できます。
障害者控除額の控除額
【一般障害者の場合】
10万円×(85歳-相続開始時の年齢)
【特別障害者の場合】
20万円×(85歳-相続開始時の年齢)
一般障害者と特別障害者の違いは、関連記事『相続税の障害者控除|障害等級などの要件・申告義務・計算方法は?』にてご確認ください。
贈与税額控除
贈与税額控除とは、贈与税と相続税の二重課税を防ぐための制度です。
相続税が課税される財産の解説で、「被相続人の死亡前3年(段階的に7年)以内に贈与された財産は相続税の課税対象」というルールを紹介しました。
ただしこのルールは、贈与時に贈与税を支払っていた場合、ひとつの財産に贈与税と相続税が二重に課されてしまうことになります。
そのため、死亡前3年以内に贈与された財産について、贈与時にすでに贈与税を支払っていた場合には、支払った贈与税額分を相続税額から差し引くことができます。
もし気がつかずに贈与税と相続税を二重に払ってしまっていても、税務署が教えてくれることはありません。相続税の計算に不安がある場合には、ぜひ一度相続税に強い税理士にご相談ください。
相次相続控除
相次相続控除とは、10年以内に2回以上相続があった場合、今回支払う相続税額から一定額を控除できる制度です。
相次相続控除の適用要件は以下の条件を満たしている場合です。
- 今回の相続が前回の相続から10年以内に発生していること
- 前回の相続で、今回の相続の被相続人が相続税を負担したこと
- 控除の適用者が今回の相続の相続人(※)であること
※相続人でない受遺者(遺言により財産を受け取った者)、相続放棄をした者、相 続権を失った者は含まない
外国税額控除
外国税額控除とは、国外財産を相続したとき、その財産に対して外国で課された日本の相続税に相当する金額を、日本で納める相続税額から控除できる制度です。
外国と日本でひとつの財産に、二重課税されてしまうことを防ぐために設定されました。
ただし、外国で支払った金額をそのまま日本の相続税額から控除できるわけではありません。
相続税が外国税額控除でどのくらい変わるか気になる方は、関連記事『相続税の外国税額控除で二重課税を防ぐ|控除額の計算例も解説』をお読みください。計算例を用いて控除額をわかりやすく解説しています。
相続税を計算するときの注意点
相続税を計算するときに知っておきたい注意点を解説します。
知らないと相続税を余分に払ってしまうおそれもあるため、ぜひ最後までお読みください。
代襲相続で基礎控除額が増えることがある
代襲相続とは、被相続人より先に相続人が死亡していたり、一定の事由で相続人になれない場合、その相続人の子が代わりに相続人になる制度です。
ただし、相続人の子であれば誰でも代襲相続できるわけではありません。代襲相続の対象となりうるのは、被相続人の子どもの子ども(つまり孫)、あるいは被相続人の兄弟姉妹の子ども(つまり甥・姪)です。
代襲相続の発生は、相続税の計算の中でも「基礎控除の計算」に関係してきます。
たとえば被相続人の子どもが相続する場合、法定相続人は1人です。しかし、被相続人の子どもがすでに死亡しており、被相続人の子どもには2人の子どもがいたとします。すると、法定相続人は2人になります。
相続税の基礎控除は「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」なので、法定相続人が増えると基礎控除も拡大します。
代襲相続による法定相続人の増加に気がつかないと、相続税を余計に払ってしまう可能性があるのです。
相続税を多く払っても税務署は教えてくれないため、相続人の構成が複雑で相続税の計算に不安がある方は、相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
関連記事
相続放棄者がいても基礎控除額は変わらない
通常、相続放棄した人は、法的な相続人としての権利がなくなり相続人ではなかったものとして扱われます。
しかし、法定相続人の誰かが相続放棄したとしても、基礎控除額は減少しません。
基礎控除の計算においては、相続放棄した人がいても、その放棄がなかったものとして計算されるのです。そのため、相続放棄した人がいても基礎控除額を計算しなおす必要はありません。
関連記事
相続放棄したら相続税は払わなくていい?ほかの相続人への影響も解説
タンス預金も相続税の課税対象
タンス預金も相続税の課税対象となるので申告しなければなりません。
タンス預金をこっそり相続してしまえば税務署にはバレないと思ってしまいがちですが、税務署の調査権限は強力で、銀行や証券会社に亡くなった方の名義の口座の照会をすることができます。
口座の動きを見たときに多額の引き出しや、一般的な生活費を超えた引き出しなどがあった場合は、税務調査でこれらの使い道の説明を要求されます。使い道をしっかり説明できないとタンス預金を疑われてしまいます。
もしも相続税の無申告がバレた場合には、無申告加算税や重加算税が課税され、最大で40%の追徴課税を受けるおそれもあります。
関連記事
タンス預金は税務署にばれる?相続税対策になる?ばれたらどうなる?
二次相続も考えた節税が重要
相続は一般的に、両親の死亡により二度発生します。両親からの二度の相続のうち、一度目を「一次相続」、二度目を「二次相続」といいます。
二次相続では、法定相続人が少ないことや、配偶者の税額軽減が利用できないといった理由から一次相続よりも相続税が高くなりやすい傾向にあります。
そのため、一次相続の時点で二次相続の負担まで考えた遺産分割をする必要があります。
関連記事『二次相続の相続税は高くなる!相続税の早見表や節税対策を解説』では、一次相続と二次相続の相続税額の比較や、二次相続に備えて行うべき節税対策を解説しています。あわせてお読みください。
相続税が計算できたら相続税申告する
支払うべき相続税額が計算できたら、相続税申告を行います。
また、相続税が0円だったとしても、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用する場合は相続税申告が必要なので注意してください。
相続税の申告期限は10か月
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月です。これは相続税の納付期限も同様です。
相続開始を知った日とは、被相続人が死亡したことを知った日をいいます。通常は「相続開始を知った日=被相続人が死亡した日」となることが多いです。
たとえば、令和5年1月1日が相続開始を知った日だとすると、その相続についての相続税申告は、令和5年1月2日から令和5年11月1日の間に行うことになります。
ただし、相続税の申告期限日が「土曜日・日曜日・祝日」の場合は税務署が閉まっているため、休み明けの次の平日が申告期限になります。
関連記事
相続税の申告期限が過ぎたらどうなる?間に合わないときの対応を解説
相続税申告書を作成する
相続税申告時には、相続税申告書を作成して提出します。
相続税の申告書には第1表から第15表まであり、相続する財産や適用する制度に応じて、必要な書類を作成します。
また、相続税申告書の作成・提出は「e-Tax」というシステムを使えば、インターネット上でも行えます。
ご自身で相続税申告書を作成する方はぜひ一度、関連記事『【記載例付き】相続税申告書の書き方|書く順番や用紙の入手方法も解説』をお読みください。各相続税申告書の書き方を、記載例付きでわかりやすく解説しています。
相続税申告は所定の税務署で行う
相続税申告は、「被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄している税務署」で行います。
住民票がある場所ではなく、「生活の本拠としていた場所」を管轄している税務署ですので注意しましょう。生活の本拠とは、睡眠や食事など、日常生活を過ごしていた場所のことです。
相続税の納付も同じ税務署に行います。
病院に入院していた場合や、老人ホームに入居していた場合など、管轄の税務署がわからない場合は、関連記事『相続税申告はどこの税務署にする?管轄の税務署の調べ方も解説』でご確認ください。
相続税の計算に困ったら税理士に相談
相続税の計算は要素が多くとても複雑です。
加えて計算を誤ったり、どの相続税の控除が自分に当てはまるかを正しく見極めることができなかったりすると、本来払わなくていい金額を余計に納めることになってしまうおそれもあります。
そのため、相続税を正しく計算して適切な控除を受けるためにも、相続税の計算に不安がある方は、相続税に強い税理士への相談がおすすめです。
相続が開始してから早めの段階で税理士に相談することで、効率的な節税対策のアドバイスを受けることもできます。
ご自身で相続税を計算してみたけど不安が残る、本当にこの控除が受けられるのかよくわからないという方は、ぜひ一度相続税に強い税理士にお問い合わせください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士