代襲相続が相続税に与える影響とは?基礎控除額はどう変わる?
「被相続人よりも子どもが先に亡くなってしまった」
本来であれば遺産を相続するはずだった子どもが先に亡くなってしまった場合、その分の遺産は誰が相続するのでしょうか。
実はこのような場合、亡くなった子どもの子(被相続人の孫)が代襲相続します。
この記事では、代襲相続とはなにか、そして代襲相続人が相続税にどう影響するのか解説します。
目次
代襲相続とは?
代襲相続とは、被相続人より先に相続人が死亡したり、一定の事由で相続人になれない場合、その相続人の子が代わりに相続人になる制度です。
代襲相続は相続税にどう影響する?
代襲相続人も相続税の納税義務者になる
まず、相続財産を取得した者の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合、代襲相続人も相続税を支払う必要があります。
一方、課税価格の合計額が基礎控除額以下の場合、相続税を支払う義務はありません。この場合、相続税の申告も不要です。
それでは、代襲相続人がいる場合の基礎控除額は、どのように計算するのでしょうか。
次の項で詳しく見ていきましょう。
代襲相続人がいると基礎控除額はどうなる?
相続税の基礎控除額は、以下の計算式で算出します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
この計算式を見て分かるとおり、「法定相続人の人数」が多いほど基礎控除額は増えます。
つまり、法定相続人が多いほど、相続税の負担は軽減されるのです。
ここでのポイントは、代襲相続人も法定相続人に含まれるという点です。
つまり、本来相続人になるはずだった者に子が多数いるほど、基礎控除額が多くなるのです。
以下の具体例で見てみましょう。
【具体例①】通常の相続の場合
この場合、法定相続人は、配偶者、長男、二男の3人です。
したがって、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円です。
【具体例②】代襲相続人が2人の場合
この場合、法定相続人は、配偶者、二男、孫A、孫Bの4人です。
したがって、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×4)=5,400万円です。
【具体例③】代襲相続人が3人の場合
この場合、法定相続人は、配偶者、二男、孫A、孫B、孫Cの5人です。
したがって、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×5)=6,000万円です。
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代襲相続が発生する3つのケース
ここからは、どのようなケースで代襲相続が発生するか確認していきましょう。
具体的には、以下の場合に限り代襲相続が発生します。
【代襲相続が発生する場合】
- 相続人が相続開始以前に死亡している場合
(1)子が相続開始以前に死亡した場合
(2)兄弟姉妹が相続開始以前に死亡した場合 - 相続人が相続欠格に当たる場合
- 相続人を廃除された場合
以下、それぞれの場合について詳しく解説します。
1. 相続人が相続開始以前に死亡している場合
相続人が相続開始よりも前に死亡しているケースで、代襲相続が発生するのは2パターンあります。
(1)子が相続開始以前に死亡している場合
相続人になるはずだった子が、被相続人より先に死亡している場合、その相続人の子(被相続人の孫)が代襲相続人になります。
詳しくは下図をご覧ください。
上の図では、長男が被相続人より先に死亡しているため、その長男の子ども(被相続人から見た孫)である孫Aと孫Bが代襲相続人になります。
その結果、法定相続人は、配偶者、二男、孫A、孫Bの4人になります。
【注意点】
・代襲相続人の相続順位は、代襲相続される人(被代襲者)と同じです。
したがって、後順位の法定相続人がいたとしても、その者に相続権はありません。
上記の具体例で言うと、被相続人の父母(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)が存命であっても、第1順位の二男、孫A、孫Bが相続することになります。
・被相続人の孫が、常に代襲相続人になるとは限りません。
なぜなら、民法887条2項ただし書によって、「被相続人の直系卑属でない者」は代襲相続人になることができないと規定されているからです。
直系卑属とは、自分より後の世代で、直通する系統の親族を意味します。
この規定は、被相続人と血縁関係のない者に代襲相続させないことを目的として設けられています。
典型例は、養子縁組前に出生した養子の子です。下図をご覧ください。
この場合、養子の子Bは代襲相続人になることはできません。
なぜなら、Bが出生したのは、被相続人とAの養子縁組前であるため、Bは被相続人の直系卑属に当たらないからです。
他方、養子の子Bが、養子縁組後に出生した場合は、代襲相続できます。
この場合、Aは養子縁組の日から養親である被相続人の嫡出子の身分を取得します。(民法808条)
さらに、養子Aと被相続人及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係が生じます。(民法727条)
したがって、養子Aの嫡出子であるBは、被相続人の直系卑属に当たるのです。
まとめると、以下のとおりとなります。
・養子縁組前に出生した養子の子→代襲相続✕
・養子縁組後に出生した養子の子→代襲相続〇
※被相続人の子と孫の両方が、被相続人より先に死亡した場合、ひ孫が代襲相続することになります。これを「再代襲」と言います。
(2)兄弟姉妹が相続開始以前に死亡した場合
相続人になるはずだった兄弟姉妹が、被相続人より先に死亡した場合、その相続人の子(被相続人の甥姪)が代襲相続人になります。
詳しくは下図をご覧ください。
上の図では、被相続人に子はなく、両親もすでに死亡しています。
本来であれば相続人は弟Aと妹Bになるはずですが、弟Aはすでに死亡しています。
この場合、弟Aの子であるC、D、Eが代襲相続人になります。
その結果、法定相続人は、妹BとC、D、Eの4人になります。
【注意点】
兄弟姉妹の場合、甥姪がすでに死亡していても、その子は代襲相続人になりません。つまり、再代襲は認められていません。
2. 相続欠格に当たる場合
相続人が相続欠格事由に該当する場合、その者の子が代襲相続人になります。
相続欠格とは、民法891条の欠格事由に該当する場合に、その者は始めから相続人ではなかったものとして扱われる制度です。欠格事由に該当する者は、家庭裁判所への申し立てなどの手続きを経ることなく、相続権を失います。
欠格事由は主に、法定相続人による被相続人の殺害や遺言の書き換えなどです。詳しくは以下の欠落事由をご参考ください。
【相続欠格事由】
- 故意に被相続人や相続人の先順位や同順位にある者を死亡するに至らせたり、至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人が殺害されたことを知っていたにもかかわらず、告発や告訴をしなかった者。(ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者や直系血族であったときは除く)
- 詐欺・強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続人が相続欠落している場合の代襲相続に関しては、下図をご覧ください。
上の図で、長男は被相続人の死亡後に、遺言書を偽造したとします。この場合、長男は相続欠格事由に該当するため、相続権を失います。
その代わり、孫Aと孫Bが代襲相続人となります。
その結果、法定相続人は、配偶者、二男、孫A、孫Bの4人になります。
3. 相続人を廃除された場合
相続人が廃除された場合、その者の子が代襲相続人になります。
相続廃除とは、相続人が民法892条の廃除事由に該当する場合、家庭裁判所の審判により相続権を剥奪する制度です。
廃除事由は以下の3つです。
【相続廃除事由】
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人対する重大な侮辱
- その他の著しい非行
相続人が相続廃除されている場合の代襲相続に関しては、下図をご覧ください。
上の図で、長男は、被相続人に対する虐待を繰り返していたとします。被相続人は、家庭裁判所に対し、相続人の廃除の審判を申し立てました。
家庭裁判所は、長男の廃除を認める審判を行いました。
この場合、長男は相続権を失います。
その代わり、孫Aと孫Bが代襲相続人となります。
その結果、法定相続人は、配偶者、二男、孫A、孫Bの4人になります。
※ 相続放棄では代襲相続は起こらない
相続放棄をした者に子がいる場合、その子は代襲相続人にはなりません。
なぜなら、相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかったものとみなされるからです。
相続放棄と相続税の関係について詳しくは、関連記事『相続放棄した人がいる場合の相続税額への影響』をお読みください。
代襲相続が発生したときの相続分
代襲相続の場合の法定相続分
代襲相続人の相続分は、本来相続人となるはずだった者の相続分と同じです。
詳しくは下図をご覧ください。
上の図では、各自の法定相続分は以下のとおりとなります。
配偶者:1/2
二男:1/2×1/2=1/4
孫A:1/2×1/2×1/2=1/8
孫B:1/2×1/2×1/2=1/8
代襲相続人である孫Aと孫Bは、長男の相続分1/4を引き継ぎ、それを2人で分けることになります。
したがって、孫の法定相続分は、それぞれ1/8となります。
代襲相続の場合の遺留分
遺留分とは、一定範囲の相続人について、法律上保障されている最低限の取り分です。
遺留分を有するのは、被相続人の配偶者、子、直系尊属(父母など)です。兄弟姉妹に遺留分はありません。
相続人である子が被相続人により先に死亡していた場合、代襲相続人にも本来相続人となるはずだった者と同じ遺留分が認められます。
詳しくは下図をご覧ください。
上の図で、被相続人は、全財産を愛人Xに遺贈する旨の遺言書を作成していたとします。
この場合、配偶者、二男、孫A、孫Bは、愛人Xに対し、遺留分侵害額請求ができます。
各自の遺留分は以下のとおりとなります。
配偶者:1/2×1/2=1/4
二男:1/2×1/4=1/8
孫A:1/2×1/8=1/16
孫B:1/2×1/8=1/16
代襲相続人である孫Aと孫Bは、長男の遺留分1/8を引き継ぎ、それを2人で分けることになります。
したがって、孫の遺留分は、それぞれ1/16となります。
代襲相続と相続税に関してよくある質問
代襲相続人がいると死亡保険金・退職金の非課税枠はどうなる?
相続税の計算上、死亡保険金と死亡退職金には非課税枠があります。
死亡保険金・死亡退職金の非課税枠は、以下の計算式で算出します。
500万円×法定相続人の人数
基礎控除額の計算と同様に、非課税枠も「法定相続人の人数」が多いほど増えます。
代襲相続人も法定相続人に含まれます。
したがって、代襲相続人の数が多いほど、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が増え、相続税の負担が軽減されることになるのです。
関連記事
・死亡保険金にかかる税金|相続税・所得税・贈与税について解説
代襲相続人は相続税が2割加算される?
2割加算とは、相続または遺贈によって財産を取得した者が、以下に掲げる者以外の場合、相続税額が2割加算される制度です。
【2割加算の対象外とされる者】
①被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)
②被相続人の配偶者
代襲相続人となった孫は、上記①に該当するため、相続税は2割加算されません。
他方、代襲相続人となった甥姪は、上記①②のいずれにも該当しません。
したがって、代襲相続人である甥姪に対しては、相続税が2割加算されます。
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孫が相続すると相続税が2割加算?孫に相続する方法と注意点を解説
代襲相続が生じた場合の相続税は税理士に相談!
相続税の申告は、一般的な相続の場合でもかなりの手間がかかります。
ましてや、代襲相続が生じるケースでは、相続税申告にかかる負担はさらに大きくなります。
具体的には、誰が代襲相続人に当たるか確定するために、代襲相続される人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を収集する必要があります。
さらに、代襲相続人がいることで、相続分、基礎控除額、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠がどう変わるのか、正確に計算しなくてはなりません。
相続税の申告をどうしていいか迷っている間に、申告期限(被相続人の死亡日の翌日から10か月)を過ぎてしまうおそれもあります。
このような事態を避けるため、代襲相続が生じた場合は、相続税に強い税理士に早めに相談することをおすすめいたします。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士