二次相続の相続税は高くなる|一次相続と比べた早見表と相続税対策
たとえば父親が先に亡くなり、母親と子供が遺産を相続することを一次相続、その後母親が亡くなり、子供がその遺産を相続することを二次相続といいます。
一般的に、二次相続で発生する相続税は、一次相続で発生する相続税よりも高くなる傾向にあります。
そのため、全体的な相続税の負担を抑えるためには、二次相続を踏まえた相続税対策が重要となります。
この記事では、二次相続の基礎知識と、一次相続で発生する相続税との比較、税理士お墨付きの二次相続に有効な節税対策を5つ紹介します。
相続税の二次相続とは
相続というと、はじめに思いつくのはご両親の死亡に伴う相続ではないでしょうか。
父親が先に亡くなったとして、母親と子どもが父親の財産を相続することを「一次相続」、次に母親が亡くなって、子どもが母親の財産を相続することを「二次相続」といいます。
一次相続と二次相続の大きな違いは「法定相続人の人数」です。一般的には、一次相続が「配偶者+子ども」なのに対し、二次相続は配偶者が抜けて「子ども」のみとなります。
法定相続人の人数は、相続税の基礎控除額や、死亡保険金・死亡退職金に設けられている非課税枠の金額に影響を与えます。
一次相続と二次相続でかかる相続税を早見表で比較
1.子どもが一人っ子の場合の相続税の早見表
子どもが一人っ子の場合に、一次相続と二次相続でかかる相続税は、以下の早見表のとおりです。
一次相続では法定相続分通りに「配偶者50%、子ども50%」で相続し、二次相続では子どもが全額相続した想定のシミュレーションです。小規模宅地等の特例や相次相続控除は計算に入れていません。
※課税価格とは相続する財産から、借金やローンなどのマイナスの財産や、葬式費用、非課税財産を差し引いたものです。
課税価格 | 一次相続 (配偶者+子ども1人) | 二次相続 (子ども1人) |
---|---|---|
4,000万円 | 0 | 40万円 |
5,000万円 | 40万円 | 160万円 |
6,000万円 | 90万円 | 310万円 |
7,000万円 | 160万円 | 480万円 |
8,000万円 | 235万円 | 680万円 |
9,000万円 | 310万円 | 920万円 |
1億円 | 385万円 | 1,220万円 |
2億円 | 1,670万円 | 4,860万円 |
3億円 | 3,460万円 | 9,180万円 |
4億円 | 5,460万円 | 1億4,000万円 |
5億円 | 7,605万円 | 1億9,000万円 |
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2.子どもが二人の場合の相続税の早見表
子どもが二人いる場合に、一次相続と二次相続でかかる相続税は、以下の早見表のとおりです。
一次相続では法定相続分通りに「配偶者50%、子ども50%」で相続し、二次相続では子どもが全額相続した想定のシミュレーションです。小規模宅地等の特例や相次相続控除は計算に入れていません。
※課税価格とは相続する財産から、借金やローンなどのマイナスの財産や、葬式費用、非課税財産を差し引いたものです。
課税価格 | 一次相続 (配偶者+子ども2人) | 二次相続 (子ども2人) |
---|---|---|
4,000万円 | 0 | 0万円 |
5,000万円 | 10万円 | 80万円 |
6,000万円 | 60万円 | 180万円 |
7,000万円 | 113万円 | 320万円 |
8,000万円 | 175万円 | 470万円 |
9,000万円 | 240万円 | 620万円 |
1億円 | 315万円 | 770万円 |
2億円 | 1,350万円 | 3,340万円 |
3億円 | 2,860万円 | 6,920万円 |
4億円 | 4,610万円 | 1億920万円 |
5億円 | 6,555万円 | 1億5,210万円 |
3.その他の組み合わせの相続税を知りたい方
子どもが三人以上いる場合などの、一次相続と二次相続でかかる相続税を知りたい方は、当サイトの『相続税計算機』をご利用ください。
遺産の課税価格と、相続人の構成を入力するだけで、簡単に発生する相続税額が計算できます。
二次相続の相続税が高くなる理由
一次相続でかかる相続税に比べて、二次相続でかかる相続税が増えてしまう理由は、主に以下の5つです。
- 基礎控除額が減少するため
- 死亡保険金と死亡退職金の非課税枠が縮小するため
- 配偶者が所有していた財産も合算して相続するため
- 配偶者の税額軽減が使えないため
- 小規模宅地等の特例が適用しにくいため
一つずつ解説していきます。
1.基礎控除額が減少するため
相続税には誰でも利用できる基礎控除が存在します。遺産の課税価格が基礎控除額を超えた場合、超えた金額に対して相続税がかかります。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で求められます。
法定相続人の数が3人なら、基礎控除額は4,800万円、4人なら基礎控除額は5,400万円となります。
一次相続に比べると、二次相続では法定相続人が減ることが多いため、基礎控除額も減少し、結果的にかかる相続税が高額になるのです。
相続税の基礎控除や法定相続人について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の基礎控除額は?|法定相続人について詳しく解説』をお読みください。
2.死亡保険金と死亡退職金の非課税枠が縮小するため
死亡保険金と死亡退職金は相続税の課税対象ですが、「500万円×法定相続人」が非課税枠として設けられています。
基礎控除額と同じく、一次相続に比べて二次相続は法定相続人が減ることが多いため、非課税枠が縮小し、発生する相続税が増えてしまいます。
注意点として、死亡保険金は生命保険の契約の内容により、相続税以外の所得税や贈与税がかかることがあります。
死亡保険金にかかる税金について詳しくは、関連記事『死亡保険金にかかる税金は契約によって変わる!早見表で簡単確認しよう』をお読みください。
3.配偶者が所有していた財産も合算して相続するため
はじめに父親、次に母親の順に亡くなったとします。
すると、母親が亡くなったときの二次相続では、一次相続で父親から母親に相続された財産と、元々母親自らが持っていた財産を合わせて子どもが相続することになります。
遺産の総額が増えれば、その分かかる相続税も増えるため、一次相続に比べて二次相続の方が相続税が大きくなる可能性が高いといえるでしょう。
4.配偶者の税額軽減が使えないため
一次相続では一般的に相続人に配偶者が含まれます。被相続人の配偶者は、一定の要件を満たせば「配偶者の税額軽減」という制度を利用できます。
配偶者の税額軽減は、法定相続分か1億6,000万円のいずれか大きい金額までの財産については相続税がかからないという、大幅な相続税の軽減が見込める制度です。
配偶者への相続財産を増やせば、家庭全体の相続税負担が軽減され、この制度を適用するだけで相続税がかからなくなるケースも少なくありません。
しかし、二次相続で配偶者が亡くなると子どもが相続人となりますが、もちろん配偶者の税額軽減は使えません。
そのため、一次相続で相続税の負担を回避するために配偶者への相続財産を増やし過ぎると、二次相続で子どもの相続税額が増えてしまいます。
配偶者の税額軽減について詳しくは、関連記事『配偶者の税額軽減は1.6億円の相続税が無税に!デメリットも紹介』をお読みください。
5.小規模宅地等の特例が適用しにくいため
小規模宅地等の特例は、要件を満たす土地(宅地等)の相続税評価額を最大で80%減額できる制度です。
相続税評価額とは、相続する財産の時価のことをいいます。相続税評価額が下がると、発生する相続税額も下がるため、節税のためにはなるべく相続税評価額を低く抑えるのが有効です。
そしてこの小規模宅地等の特例を、自宅の敷地に適用する場合に重要となるのが「土地を取得する相続人が配偶者かそれ以外の親族か」という点です。
配偶者が自宅の敷地を相続する場合は、無条件で小規模宅地等の特例が適用されます。しかし、配偶者以外の親族が相続する場合には、特例適用のための一定の要件を満たしている必要があります。
一次相続で配偶者を残して亡くなった被相続人の場合、子どもが自宅の敷地を相続するときは、相続開始時に相続する自宅で同居していることが要件となります。
二次相続で同居する子どもがおらず、別居している子どもが被相続人の自宅の敷地を相続する場合には、その子どもが相続開始時に持ち家を持っていないなど(親族が所有者でない賃貸物件に住んでいるなどの場合は問題なし)が要件になっています。
持ち家にかかる相続税について詳しくは、関連記事『持ち家の相続税はどのくらい?|特例を利用すれば大幅節税できる!』をお読みください。
二次相続に有効な相続税対策を5つ紹介
二次相続の相続税負担を軽減するための相続税対策を5つ紹介します。
- 一次相続で資産性の高い財産を子どもに相続させる
- 一次相続で実家を同居している子どもに相続させる
- 生前贈与を活用する
- 生命保険の非課税枠を活用する
- 相次相続控除を活用する
1.一次相続で収益性の高い財産を子どもに相続させる
資産性の高い財産は、一次相続で子どもが相続することをおすすめします。
たとえば、一次相続で家賃収入があるアパートを配偶者が相続したとします。すると、そこで発生した家賃収入が二次相続の相続財産に加算されることになります。
また、配当利回りの高い有価証券などの場合、配当金も相続財産に加算されたり、将来の株価が上昇したり、二次相続の際に重い負担になる可能性が考えられます。
配偶者の相続する財産を抑えて、子どもに多く相続させることは、二次相続の負担軽減において、比較的簡単に行えることですので是非ご活用ください。
2.一次相続で実家を同居している子どもに相続させる
一次相続で子どもに実家を相続させて、小規模宅地等の特例を適用することで相続税対策ができます。
一次相続で配偶者は、配偶者の税額軽減を適用することで相続税がかからなくなることが多いです。そのため、配偶者が実家を相続すると、せっかく小規模宅地等の特例が適用できても、そもそも配偶者の税額軽減ですでに相続税が0円になっている、というケースが少なくありません。
であれば、同居の子どもがいる場合、実家は子どもが相続し、その敷地について小規模宅地等の特例を適用して相続した方が、より有効に制度を使って相続税対策できるでしょう。
関連記事
持ち家の相続で重要な【同居】って?同居で相続税が控除される?
3.生前贈与を活用する
相続時の財産を減らしたり、財産の種類を調整したりするために、生前贈与を活用する方法があります。
生前贈与では毎年110万円までなら非課税で贈与できます。なお、毎年110万円の非課税枠は受贈者(受け取り側)単位です。
そのため、両親それぞれから110万円ずつ、合計220万円を贈与された場合、非課税になるのは110万円のみです。しかし、子どもが2人いれば、それぞれに毎年110万円まで、合計で220万円まで贈与可能です。10年あれば、2,200万円まで非課税で贈与できます。
相続税対策として活用できる生前贈与ですが、注意点もあります。
亡くなる前3年(税制改正により順次7年まで延長)以内の贈与は相続税の課税対象となるため、予定どおりに贈与できないこともあります。生前贈与で二次相続の相続税対策をするつもりの方は、早いうちから動き始めるようにしましょう。
生前贈与の注意点や非課税枠については、関連記事『生前贈与は110万円まで非課税|制度利用で2500万円も非課税になる』をお読みください。
4.生命保険の非課税枠を活用する
二次相続で相続税額が増えることを想定し、生命保険で相続税対策する方法があります。
生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産の財産として扱われるため、遺産分割の対象にはなりません。相続税の課税対象ですが、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を活用できます。
二次相続の相続人である子どもが多いほど、非課税枠も多くなります。
二次相続の被相続人が生命保険を契約していない場合には、一度考えてみてください。
親の死亡保険金と相続税の関係は、関連記事『親の死亡保険金には相続税がかかる?|非課税枠の計算方法を解説』で詳しく紹介しています。
5.相次相続控除を適用する(二次相続発生後にできる対策)
相次相続控除とは、文字通り「相次いで相続が発生したとき」に、今回の相続で発生した相続税の一部を控除できる制度です。もちろん二次相続でも利用できます。
ただし、相次相続控除は、以下の条件にすべて当てはまる場合のみ適用できます。
- 控除を受ける人が、今回の相続の相続人であること
- 今回の相続の開始前10年以内に、前回の相続が発生していること
- 今回の相続の被相続人が、前回の相続で相続税を課されていること
相次相続控除の控除額の計算は非常に複雑ですので、ここでは大まかな計算方法を紹介します。
相次相続控除の控除額は、二次相続の被相続人が一次相続で課税された相続税額のうち、経過年数1年につき10%の割合の金額です。
相次相続控除について詳しく知りたい方は、『国税庁|相次相続控除』をお読みください。
二次相続の相続税に不安がある方は税理士に相談
この記事で紹介した二次相続の節税対策は、「5.相次相続控除を活用する」以外すべて、二次相続が発生する前でないとできない対策です。
一次相続が発生する前に、二次相続まで見越した相続税対策ができれば理想ですが、一次相続の時点や、それよりも前の段階で対策を考えるのは簡単ではありません。
二次相続がはじまってから後悔することがないよう、少しでも不安がある方は相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士