一人っ子の相続税が高くなる理由と節税方法について解説

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一人っ子の相続税

「自分は一人っ子だから、相続税については心配がいらないだろう」
「相続でもめることはないから大丈夫だろう」

一人っ子家庭の方は、このように思っていないでしょうか。

確かに兄弟姉妹がいる場合と比べると、遺産分割でもめる心配がなかったり、相続にかかわる人物が少ないことから手続きが簡潔に済むというメリットがあります。

一方で、実は相続人が少ないと相続税が高くなることをご存知でしょうか。

この記事では、一人っ子にかかる相続税の負担と、負担を和らげるための節税方法を中心にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

一人っ子の相続は楽じゃない?

一人っ子の相続は、楽な点とそうではない点があります。相続人が複数いる場合との違いに着目して、それぞれご説明します。

一人っ子の相続で楽な点

相続手続きがスムーズ

複数の相続人がいる場合、不動産の名義変更や銀行口座の相続手続きなどのために遺産分割協議書や相続全員の戸籍謄本や印鑑証明などが必要になります。また、他の相続人が遠方に住んでいるなら、相続手続きのために書類を取得、受け渡しするのに手間と時間がかかり、とても煩雑です。

一人っ子で相続人が一人しかいない場合、これらの手続き書類は自分一人の分で済むため、手続きの煩雑さが少ないです。

相続人が一人なら相続争いは起こらない

そもそも相続人が一人しかいなければ、自分が相続するしかないため、相続に際して親族が骨肉の争いをするようなことは考えられません。

一人っ子の相続が大変な点

相続税が高くなる

一人っ子の相続は相続人が複数いる場合と比較して相続税が高くなります。原因は基礎控除の計算と累進課税である相続税の税率です。それぞれなぜ高くなるのかについて後述します。

親ともめる可能性はゼロではない

一人っ子で相続するのが親と自分だけの場合、親子間でも相続争いはゼロではありません。

例えば亡くなったのが父で、残されたのが母である場合、母が老後の生活を考えて多くの財産を相続したいと主張し、相続争いが起きる可能性があります。

一人っ子の場合に相続税が高い理由

一人っ子の相続税の負担が重くなるのは、主に以下の3つの理由があります。

基礎控除が少ない

相続税は残された方の生活保障として、最低限課税しない基礎控除が設けられています。この基礎控除を超えない場合は相続税が課税されません。

相続税の基礎控除 3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

基礎控除の金額は一人っ子の相続の場合、相続人が子ども一人であれば3,600万円ですが、一人っ子相続でない、例えば子ども4人が相続人である場合は、5,400万円と相続財産から控除できる金額が大きくなります。

相続税の対象となる財産が5,000万円だった場合、一人っ子は相続税の申告・納税が必要ですが、子ども4人である場合は相続税の申告・納税が不要です。

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相続税の税率が累進課税となっている

相続税の計算方法は、亡くなった方の財産の相続税評価額を計算し、債務や葬式費用を差し引いた課税価格の合計額から、前述の基礎控除額を控除します。基礎控除後の金額を各相続人について法定相続分で相続したと仮定して、以下の相続税の税率で相続税額を計算し、計算された各人の相続税額を合計します。

相続税の税率

法定相続分に応ずる取得金額相続税の税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

例えば、亡くなった方の財産の総額が4億5,000万円だった場合、相続人が少ない場合と相続人が多い場合の相続税の計算は以下の通りです。

相続人が子1人相続人が子4人
基礎控除3,600万円5,400万円
課税遺産額4億1,400万円3億9,600万円
各人の法定相続分4億1,400万円×1/1=4億1,400万円3億9,600万円×1/4=9,900万円
相続税額4億1,400万円×50%-4,200万円=1億6,500万円9,900万円×30%-700万円=2,270万円
相続税合計1億6,500万円×1人=1億6,500万円2,270万円×4人=9,080万円

上記のように、相続人が少ない場合「基礎控除額が少ない」「法定相続分によるあん分金額が大きいため、累進課税の税率が高い」ことにより、相続人が少ない方が相続税が高くなってしまいます。

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二次相続の相続税の負担が重い

子にとって通常、相続は二回あります。たとえば両親のうち父が亡くなることで一回目の相続があり、その後母が亡くなることで二回目の相続があります。それぞれ、一回目の相続を一次相続、二回目の相続を二次相続と言います。

この二次相続については、前述の基礎控除額の縮小や累進課税による税率が高くなる可能性があるため、相続税の負担が重くなることがあります。

また一次相続では残された配偶者のため、配偶者の税額軽減(いわゆる相続税の配偶者控除)により配偶者分の相続税の負担がないことが多く、一般的には二次相続の方が相続税の負担が重いことがほとんどです。

一次相続の際に残された母のため財産は母名義にしようと安易に考えてしまうと、負担の重い二次相続の際に困ることになるかも知れません。

一人っ子なら知っておきたい二次相続の相続税対策については、関連記事『相続税で二次相続が重要な理由|二次相続の節税対策も解説』をお読みください。

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一人っ子の相続税の節税方法

実は相続税の負担が重い一人っ子の相続税、節税する方法はないものでしょうか。一人っ子でも有効な相続税対策について6つご紹介いたします。

一次相続の際、二次相続を考慮しておく

一人っ子家庭の場合、一次相続は相続人が2人、二次相続は相続人が1人ですから、前述の説明の通り、相続人の人数が少ないと相続税の負担が重くなります。

この一次相続と二次相続のバランスを考えて、一次相続の遺産分割を決定することが重要です。

一次相続、二次相続と二回分の相続税シミュレーションが必要となるため、相続税に詳しくない方には難しいと思います。二次相続に不安がある場合、相続に強い税理士に相談することをお勧めします。

一次相続で収益不動産を相続する

一次相続により、賃貸物件いわゆる収益不動産を子どもに相続することが有効な場合があります。

親が収益不動産を相続すると、その不動産から得られる家賃などの現金が二次相続の際に相続財産となってしまいます。

自宅の他に収益不動産がある場合には、一次相続で自宅は親、収益不動産は子どもと遺産分割をすると、家賃収入による現金は先に子供の財産となるため、相続税対策として有効です。

生命保険に加入する

相続税の計算上、500万円×法定相続人の人数までは、生命保険金に課税がされない非課税額があります。

一次相続の際、一人っ子家庭の法定相続人の人数は2人(500万円×2人=1,000万円)、二次相続の際、一人っ子家庭の法定相続人の人数は1人(500万円×1人=500万円)ですから、それぞれの金額まで生命保険金の非課税枠があります。

実際には両親のうちどちらが先に亡くなるのかはわかりませんので、それぞれ一人っ子の人数である500万円まで、死亡保険金を受け取れる生命保険に加入することも有効な相続税対策です。

現金で500万円を相続するより、生命保険に加入して、死亡保険金で受け取れば相続税がかかりません。

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養子縁組をする

養子縁組をすると相続人が増えますので、前述の基礎控除額、法定相続分によるあん分、生命保険金の非課税枠により相続税の税率が下がる可能性があります。

養子縁組をすると言っても、赤の他人を養子にするわけではありません。一人っ子の子ども、つまり両親から見た孫を養子にするのです。

ただし、この方法により基礎控除額の計算上法定相続人にカウントされるのは養子については一人まで(被相続人に実子がいる場合)です。そのため、孫が二人以上いて、複数の養子縁組をしても相続税の節税効果に変化はありません。

注意点は孫養子(代襲相続人でない)は、相続税の2割加算の対象となることですが、ほとんどの場合2割加算の負担より節税効果の方が大きいです。

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小規模宅地等の特例を使える状態にする

小規模宅地等の特例とは、自宅や賃貸用不動産の敷地を一定の条件の方が相続する場合に敷地の相続税評価額を80%又は50%減額してくれる制度です。

条件は以下の通りです。

  • 相続開始時点で自宅に同居している方が、自宅の敷地を相続する場合
  • 自宅に同居していないが、相続開始時点で持ち家を所有していないなど一定の親族が自宅の敷地を相続する場合
  • 相続開始時点で賃貸の用に供されている不動産の敷地を相続し、不動産賃貸業を継続する場合

上記のように、相続時点で同居している、持ち家がない、賃貸に供しているのが要件ですから、両親との同居を検討する、今から持ち家を買わない、空き家の賃貸物件は借主を探すなど、小規模宅地等の特例を使える状態にすることが相続税対策になります。

自宅の敷地については80%評価減、賃貸用不動産の敷地については50%評価減となります。

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生前贈与、教育資金の一括贈与などを検討する

生前贈与により相続税の対象となる財産を削減したり、教育資金の一括贈与により相続財産を削減することができます。

生前贈与の場合、年間110万円までは非課税ですが、原則として贈与税の対象となるため、贈与税が相続税の負担より少ない範囲で贈与をすることが重要です。

また、一定の手続により一人っ子の子ども、両親から見た孫に教育資金の一括贈与をすることにより受贈者1人あたり最大1,500万円まで贈与税を非課税で贈与することが可能です。

生前贈与を行う場合、子どもが複数いると長男の家族ばかり優遇していると次男がこころよく思わなかったり、相続人間の不平等が生じることがありますが、一人っ子の場合にはこの心配は不要です。

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一人っ子の相続は手続きが簡便など楽な点もありますが、相続税の負担については逆に重くなることが多いと説明しました。

相続税の負担を軽減するには、二次相続まで見据えた対策が必要になります。そのため相続が発生してからでは手遅れです。生前からの対策が重要になりますので、相続が発生する前に、相続税専門の税理士に相談して、安心して相続を迎えましょう。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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