借金があった場合の相続と相続税|財産の承継と相続税のしくみを解説

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借金があった場合

「故人の借金が残されていた場合、借金も引き継がなければいけないのかわからない」

「故人の借金を返済できないときは、どのように対処をすればいいのかわからない」

「相続にあたって借金などの負債があったとき、相続税はどうなるのか知りたい」

相続開始後に故人に多額の借金が残されていた場合や生前にさまざまな相続税対策を検討する場合などに、このようにお困りの方もいらっしゃるかと思います。

そこで、この記事では、借金があった場合の相続や相続税について、相続財産の承継や相続の承認と放棄、相続税のしくみなどをわかりやすく解説します。

相続税の申告だけでなく、生前の相続税対策においても、役に立つ情報をまとめていますので、ぜひご活用ください。

相続時に借金が残されていた場合の対処

相続が開始したときに、故人に多額の借金が残されている場合もあります。このような場合、相続人は借金も引き継いで返済しなければならないのでしょうか。まずは、相続財産の承継と相続時に借金が残されていた場合の対処の方法について説明します。

相続財産の承継

民法において、相続の一般的効力として、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定められています。したがって、相続人は、現金や預貯金、不動産などのプラスの財産のほかに、借金などのマイナスの財産も当然に承継することになります。

なお、相続人が複数いる場合は、被相続人の借金のように分割できる金銭債務は、相続開始と同時に、各相続人の法定相続分の割合に応じて各相続人に分割して承継されることとされています。

相続の承認と放棄

このように、相続人は借金などのマイナスの財産も承継することになりますので、その場合の救済措置として、相続放棄と限定承認があります。

相続放棄は、はじめから相続人でなかったものとみなす絶対的な効果を持つ制度です。一方、限定承認は、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからないときに役に立つ制度です。

ただし、相続放棄と限定承認は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きをしなければなりません。この期間内にこれらの手続きをしない場合は、単純承認をしたとみなされ、マイナスの財産も含めて相続することになります。

相続放棄

相続放棄とは、一切の相続を放棄することです。明らかに借金のほうがプラスの財産よりも多いことがはっきりしている場合には、相続放棄が有効です。

相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったことになり、プラスの財産も相続することができなくなりますが、多額の借金を引き継がなくてもよい、つまり返済しなくてもよいことになります。

相続放棄の手続きは、家庭裁判所に相続放棄をする旨の申述をすることによって行い、相続人が複数いる場合でも相続人ごとに単独で行うことができます。ただし、相続人が複数いる場合に借金の相続を免れるためには、すべての相続人が相続放棄をする必要があります。

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限定承認

これに対して、限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐことです。借金がどのくらい残されているのか把握できないような場合には、限定承認が有効です。また、多額の借金があるものの、遺産の中に自宅などどうしても必要な財産がある場合にも、限定承認は有効です。通常の相続(単純承認)をすると借金を全額返済しなければならず、相続放棄をするとすべての遺産を引き継ぐことができなくなります。そこで、限定承認をすると、必要な財産をそのまま引き継ぎ、しかも借金はプラスの財産の範囲内に抑えて引き継ぐことができます。

つまり、限定承認をすると、マイナスの財産である借金も相続しますが、プラスの財産の範囲内で借金を返済すればよく、それで返済しきれない部分は相続人は責任を負わないことになります。

このように限定承認は相続人にとって役に立つ制度ですが、手続きが少し複雑になっています。限定承認の手続きは、財産目録を作成して、家庭裁判所に限定承認をする旨の申述をすることによって行わなければならず、相続人が複数いる場合は限定承認は相続人全員が同意して共同で行う必要があります。

また、限定承認については、家庭裁判所への申し立てが受理されれば、遺産の清算の手続きを行わなければなりません。具体的には、預貯金の解約や株式の売却、不動産の競売などにより遺産を換金します。そのときに相続人に必要な遺産があれば、鑑定人の鑑定した価格で相続人が優先的に買い取ることができます。そして、換金した遺産から、借金を返済することになります。そこで借金を返済しても遺産が余った場合には、相続人が余った遺産を取得することができます。

なお、限定承認をすると、被相続人が死亡時に相続人にプラスの財産を譲渡したものとみなされることになります。したがって、相続人の譲渡所得(みなし譲渡所得)となり、所得税が課税されます。遺産に土地や株式など購入時よりも値上がりしている財産があれば、それだけ税金の負担が重くなります。

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借金を相続した場合の相続税

相続時に借金があったとしても、明らかにプラスの財産のほうが借金よりも多いことがはっきりしている場合は、そのまま通常に相続する(単純承認する)ことが適しています。単純承認をすると相続人は借金などの債務も引き継ぐことになりますが、この場合に相続税はどのように計算するかについて説明します。

債務控除

相続税の対象となる相続財産には、プラスの財産以外にマイナスの財産も含まれます。ただし、相続税の計算においては、相続人の負担が重くならないよう、故人が残した借金などの債務であるマイナスの財産や必要な葬式費用はプラスの財産の価格から差し引く(債務控除)することができます。

なお、債務として遺産額から控除できる金額は、被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるものに限定されています。たとえば、銀行など金融機関からの借入金や未払金などは債務控除の対象となりますが、保証債務や団体信用生命保険で返済される住宅ローンなどは原則として債務控除の対象とはなりません。

そして、相続税の計算においては、基本的には、遺産の価格から債務や葬式費用を控除した額を課税価格とします。そしてこの課税価格から遺産にかかる基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で相続したものとして各取得金額に一定の税率を乗じて相続税額を算出します。

相続税の計算の流れ

ここで相続税の計算について、もう少しくわしく見ておきましょう。相続税の税額の計算は、次の順序で行います。

Step1 各相続人の課税価格を計算する

「課税価格=取得した財産の価格-(債務+葬式費用)+生前贈与加算」

Step2 課税価格の合計額を計算する

Step3 課税遺産総額を計算する

「課税遺産総額=課税価格の合計額-遺産にかかる基礎控除額」

なお「基礎控除額=3,000万円+600万円×相続税計算上の法定相続人の数」です。

Step4 各法定相続人の取得金額を計算する

「各法定相続人の取得金額=課税遺産総額×各人の法定相続分」 

Step5 各法定相続人の税額を計算する

「各法定相続人の税額=各人の取得金額×税率(10%~55%)」

Step6 相続税の総額を計算する

Step7 各相続人の相続税額を計算する

「各相続人の相続税額=相続税の総額×(各人の課税価格÷課税価格の合計額)」

Step8 各相続人の納付税額を計算する

「各相続人の納付税額=各人の相続税額+相続税額の2割加算-各種税額控除」

このように、被相続人に借金などの債務があった場合には、最初にStep1で、取得した財産の価格から債務を差し引いて相続人の課税価格を計算します。そして、この課税価格に基づいて、上記のような流れで相続税額と納付税額を算出します。

借金をしても相続税の節税にはならない

このように、相続税を計算するときには、借金などの債務は遺産の総額から控除することができます。そうすると、借金をすることは相続税対策として有効のようにもみえます。

しかし、実際のところは、借金をしても、そのまま保有していれば同額の現金が増えただけのことであって、相続税の課税価格としては変わりはありません。つまり、借金をしただけでは相続税の節税につながることはありません。

ただし、不動産など相続税評価額が時価よりも低くなる財産や生命保険など相続税の非課税枠を利用できる債権などを借金によって購入した場合には、相続税を節税できることがあります。つまり、借りたお金を不動産など相続税の節税効果が大きなものに換えることによって、相続税対策をすることもできるということです。

一般的には、不動産の購入や活用は、①相続税評価額は原則として時価より低く評価される、②宅地が一定の要件を満たす場合には相続時に小規模宅地等の特例を適用できる、③家屋を賃貸したときには貸家建付地や貸家として評価減できる、ということから、相続税の節税効果を期待することができます。

しかし、相続税対策として不動産を借金で購入した場合でも、相続時に特例の適用要件を満たしていない、評価額が低くならないなどのリスクもあり、期待したとおりの節税効果が得られない場合もあります。

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相続や相続税対策のご相談は税理士へ

相続時の借金は相続人が法定相続分に応じて分割して承継することとされていますが、承継をめぐって相続人間のトラブルに発展することもあります。

また、相続税を申告するにあたっては、相続税の税額計算をしなければなりませんが、その計算方法はとても複雑です。しかも、遺産が不動産などの場合には財産の価格の評価が必要となり、また配偶者の税額軽減などの控除や税額加算の適用についての判断も必要になります。

そのため、円滑に相続財産の承継を行い、相続税を正しく計算して、追徴課税などがないように相続税を適切に申告するためには、税理士にご相談されることをおすすめします。

税理士は、税金の申告など個別具体的な税務相談に応じることができる唯一の専門家です。税理士は、相続税の計算などの申告のサポートや代行にとどまらず、遺産分割や節税などについても有効なアドバイスを提供してくれます。

また、相続の手続きをどのように進めたらいいのかわからないとお困りの方や相続の手続きに不安がある方も、お気軽に税理士にお問い合わせください。

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