相続税の申告に残高証明書は不要?必要な理由・取得方法・注意点は?

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相続税の申告

実は相続税申告の際に、残高証明書の提出は「必須ではありません」

なのにもかかわらず、多くの人が残高証明書を取得しているのはなぜでしょうか。

相続人は、相続税申告の際に「すべての財産を正確に申告しています」「隠している財産はありません」と、証明しなければなりません。

その証明にうってつけなのが残高証明書なのです。

では、残高証明書はどうすれば取得できるのでしょうか。取得にあたり用意するものはあるのでしょうか。

この記事では、相続税申告に残高証明書が必要な理由や、取得方法・取得するときの注意点各金融機関での取得手続きについて解説します。

相続税申告に残高証明書が必要な理由

相続税申告に残高証明書が必要な理由は、「申告している財産がすべての財産であると証明する」ために用いるからです。

相続税は、被相続人が所有していたすべての財産に課税されます。そのため、相続税申告では税務署に対して、隠している財産がないことを証明する必要があります。

もし税務署から財産を隠していると疑いをかけられてしまうと、税務調査の対象になる可能性があります。

相続税の申告時に、「残高証明書も必ず提出すること」という決まりはありませんが、残高証明書は正確な財産額を申告していることの証明になるため、実務上は必要不可欠といっても過言ではありません。

残高証明書の基礎知識

残高証明書とは?

残高証明書は、指定した日の預金口座の残高を証明する書類です。口座がある銀行や信用金庫などの金融機関で発行することができます。

相続税の申告においては、被相続人が死亡した日の残高が必要なため、被相続人が死亡した日を指定して発行します。

金融機関によっては同じ残高証明書でも、用途に応じて若干表記が変わる場合があります。そのため、残高証明書発行の際には、必ず相続手続きで使用する旨を伝えてください。

残高証明書の対象科目には、「円預金」「外貨預金・外為」「融資」「投資信託」「債券」などがあり、必要に応じて手続きします。

残高証明書の見本

残高証明書

相続税申告における残高証明書の使い道

相続税申告の手続きの中で、残高証明書を使う場面は、主に以下の2つです。

  • 相続税申告時に財産額が正確であることを証明する
  • 遺産分割協議をスムーズに進めるため使用する

前述したように、相続税申告時に財産額が正確であることを証明するために用います。

相続税申告書に添付して、相続税の申告期間までに税務署に提出しましょう。相続税の申告期間は、相続開始日(通常は被相続人の死亡日)から10か月以内です。

また、相続人が複数人いて遺産分割協議を行う場合には、被相続人が所有していたすべての財産の把握が必要です。

全ての財産が把握できていないと、遺産をどのように分けるのか決められません。

残高証明書を発行すれば、どの金融機関にどのくらいの資産があるのか一目で確認できるため、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。

通帳のコピーとの違い

金融機関に預けている財産の証明であれば、通帳のコピーでも良いのではないかと考える方もいるのではないでしょうか。

しかし、通帳のコピーのみを提出した場合だと、税務署に「ほかにも口座があるかもしれない」と疑われてしまったり、残高証明書ではわからない口座内のお金の動きも見られてしまう可能性があります。

また、残高証明書はその金融機関にあるすべての口座情報が記載されるため、発行することで親しい相続人ですら知らなかった被相続人の、別の口座が見つかることもあるのです。相続人は普通預金口座しか把握していなかったが、実は被相続人が生前、別の支店に定期預金口座も作っていたというパターンもありえます。

もし相続税の申告期限後に別の口座の存在に気がついた場合には、申告ミスを修正しなければなりません。一度間違った金額で申告してしまっていることになるので、延滞税などのペナルティが発生することもあります。

財産の把握漏れやペナルティを防ぐためにも、残高証明書の発行を強くおすすめします。

相続税の修正申告については、関連記事『相続税の修正申告とは?申告が必要なケースや申告のやり方を解説』をお読みください。

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残高証明書の取得について

残高証明書を発行するためには、基本的に口座がある金融機関の窓口で手続きを行います。

残高証明書発行を依頼できる人

残高証明書は、相続人であれば誰でも発行依頼できます。

ほかの相続人の同意も必要なく、相続人がひとりで手続きできます。

相続人以外でも、遺言執行者や相続財産管理人、税理士・弁護士などの士業でも申請可能です。

代理人に依頼する場合は金融機関によって制限がありますので、事前に口座がある金融機関に確認しておくと安心です。

なお、依頼する人によって、残高証明書の発行時に必要な書類が異なります。直前で依頼人を変更する場合には注意しましょう。

残高証明書の発行に必要な書類

残高証明書の発行に必要な書類は、手続きする人によっても異なります。相続人が手続きする場合には、次の書類を求められるのが一般的です。

残高証明書の発行 必要書類

①被相続人が死亡したことが確認できる戸籍謄本等

②手続きする人が相続人であることがわかる戸籍謄本・審判書等

③手続きする人の実印と印鑑証明書(発行後3か月以内や、6か月以内と条件がある場合もあり)

④手続きする人の本人確認書類

⑤被相続人の取引内容がわかる通帳・キャッシュカードなど

※法務局発行の「法定相続情報一覧図の写し(登記官の認証文言付きの書類原本)」を提出する場合は、①や②が不要となります。また上記の必要書類のほか、金融機関所定の書類に必要事項を記入し提出する必要があります。

残高証明書の発行を代理人に依頼する場合は、上記の書類に加えて委任状が必要になります。

残高証明書を発行してもらう時期

残高証明書の使い道を踏まえると、発行すべき時期は、遺産分割協議前が最適です。税理士や弁護士などの相続税の専門家に依頼する場合は、専門家に時期を確認します。いずれにしても、残高証明書が最初に必要となる時期に合わせます。

なお、一般的に四十九日法要などの儀式が終わってから財産を整理しながら残高証明書を発行してもらう流れになります。

書類の準備もあるので、時期が来たらなるべく早めに金融機関に問い合わせましょう。店舗型の金融機関であれば口座がある支店に、ネット系金融機関であればカスタマーセンターに連絡すると良いでしょう。

残高証明書の取得は銀行窓口で行う

残高証明書の発行手続きは原則、被相続人の口座がある銀行の窓口で行います。

一般的な残高証明書であれば、ネットバンキングで手続きできる銀行もあります。しかし、相続税申告で残高証明書を発行する場合には、発行手続きと同時に相続に関する手続きも行うため、窓口で手続きすることがほとんどです。

なお、被相続人の口座がある支店以外でも、残高証明書の発行手続きは可能です。手続きする相続人の最寄りの支店で発行依頼できます。

ただし、事前に来店予約が必要な場合や、先に電話で被相続人の死亡を伝えてからでないと残高証明書の発行手続きができない場合もあります。窓口に向かう前に、まずは口座のある支店に電話をかけて、書類や手続きの進め方を確認しておきましょう。

残高証明書は手続きから取得まで約1~2週間かかる

多くの銀行では、窓口で残高証明書の発行手続きをしてから、1~2週間ほどで自宅に郵送されます。

ただし、1~2週間という期間はあくまで目安です。口座がある支店以外て発行手続きした場合は、手元に届くまで数週間かかるケースや、口座内容によって即日窓口で受け取れるケースもあります。

代表的な銀行の発行期間は「金融機関別の残高証明書の発行方法・手数料」で解説しているので、ぜひ参考にしてください。

残高証明書を発行する際の注意点

相続税申告において、残高証明書の発行手続きをする前に知っておいていただきたい、残高証明書を発行する際の注意点を解説します。

残高証明書を発行すると口座凍結となる

相続の手続きで金融機関に残高証明書の発行を依頼すると、金融機関は被相続人の口座を凍結します

口座が凍結されると、遺産分割協議が終了するまで預貯金の入出金が一切できなくなります。

公共料金、クレジットカードの支払いなどの口座引き落としもできなくなるため、相続税申告で残高証明書を発行する前に、以下の点を確認してください。

  • 凍結する口座の預金に頼らなくても当面生活ができるか
  • 引き落とし料金の口座変更が完了しているか
  • 被相続人に家賃収入などがあった場合は、振込先の口座変更が完了しているか

口座凍結にはメリットもある

遺産分割協議でだれがどの財産を相続するのか決まる前に、相続人の誰かが相続財産を消費してしまうと、そのことだけで相続トラブルに発展してしまいます。

そこで、残高証明書の発行を依頼して、口座を凍結してもらうことで、未然にトラブルを防ぐことができます。

口座凍結を解除する方法

残高証明書の発行により凍結された口座を、解除する方法は以下の2つです。

  • 口座の名義を変更して引き継ぐ
  • 口座を解約して預金の払戻しを受ける

なお、銀行によっては口座の名義を変更して引き継ぐことができないケースもあります。詳しくは各金融機関にお問い合わせください。

経過利息計算書も発行依頼する

相続財産に定期預金が含まれている場合には、経過利息計算書の発行も依頼しましょう。

相続財産を分割するために、1円単位で正確に金額を把握しなければなりません。基本的に残高証明書に記載される金額は、死亡日時点の残高です。死亡日までの利息(既経過利息)は含まれていません。

そのため、既経過利息がわかる「経過利息計算書」も発行してもらいましょう。発行手数料は、別途必要となります。

経過利息計算書 発行手数料

  • みずほ銀行:サイトに具体的な金額の記載なし
  • 三井住友銀行:サイトに具体的な金額の記載なし
  • 三菱UFJ銀行:2,200円
  • ゆうちょ銀行:無料

※すべて1通あたり

取引推移表も重要な書類

取引推移表は、通帳に記帳漏れがある場合に参考になります。

相続税申告では、被相続人の死亡前3~7年に贈与された財産が相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。

そのため、過去の贈与を確認できる取引推移表も、残高証明書と同時に取得しておくと安心です。

なお、取引推移表も別途発行手数料が必要となります。

取引推移表 発行手数料

  • みずほ銀行(取引明細証明書):330円※1ヵ月あたり
  • 三井住友銀行(預金入出金取引証明):1,100円(過去5年以内)※1年あたり
  • 三菱UFJ銀行(取引推移表):330円※1ヵ月あたり
  • ゆうちょ銀行:サイトに具体的な金額の記載なし

「名寄せ」で見落としている口座はないか確認

残高証明書は金融機関ごとではなく、支店ごとに発行されます。

そのため、ほかの支店に被相続人の口座がないか、「名寄せ」という手続きで確認しましょう。

名寄せとは、その金融機関の全支店の口座を調べてもらう手続きです。残高証明書の発行手続きをする際に、名寄せの手続きも同時に依頼しましょう。

ネット系金融機関で発行する場合

ネット系金融機関に、相続税申告で使用する残高証明書を発行してもらう場合、ネット系金融機関であっても郵送による手続きとなるため、手数料がかかることには注意が必要です。

たとえば、楽天銀行の場合には、被相続人の死亡と残高証明書の発行依頼を電話で連絡します。

電話で、手続きに必要な書類や手順の案内を受けた後に、必要書類を郵送、発行手数料の振り込みを行い、残高証明書が郵送されてくるという流れです。

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金融機関別の残高証明書の発行方法・手数料

代表的な金融機関で残高証明書を発行するときの、発行方法・手数料について解説します。

みずほ銀行

みずほ銀行で残高証明書の発行手続きをする場合は、被相続人の口座がある取引店か、最寄りの支店で行います。取引店以外で手続きをする場合には、取引店への取次ぎとなるため、発行までに日数がかかることがあります。

残高証明書の発行手数料として、1通あたり880円(消費税等を含む)かかります。(2022年3月時点)

参考:みずほ銀行|相続預金の残高証明書の発行

三井住友銀行

三菱UFJ銀行で残高証明書の発行手続きをする場合は、最寄りの支店で手続き可能です。口座がある取引店でなくても問題なく行えます。

郵送で受け取る場合は、手続き後1~2週間ほどで残高証明書が届きます。

残高証明書の発行手数料として、1通あたり880円(消費税等を含む)かかります。

参考:三井住友銀行|よくある質問

三菱UFJ銀行

三菱UFJ銀行で残高証明書の発行手続きをする場合も、最寄りの支店で行います。口座がある取引店でなくても手続きが可能です。

また、店頭窓口は予約優先とされているため、事前に予約をして手続きに向かうことをおすすめします。さらに、残高証明書の発行をする前に、相続が発生した旨の連絡が必要なので注意しましょう。

郵送で受け取る場合は、こちらも手続き後1~2週間ほどで残高証明書が届きます。

残高証明書の発行手数料として、1通あたり770円(消費税等を含む)かかります。

参考:三菱UFJ銀行|残高証明書の発行

ゆうちょ銀行

ゆうちょ銀行で残高証明書の発行手続きをする場合は、基本的にはその日に残高証明書の発行をしてもらえます。

ただし、貯金の種類などによっては即日発行ができないことがあります。また、口座の記号番号が不明な場合には、先に被相続人の口座の存在を調べるための「現存調査」の手続きを行わなくてはなりません。

残高証明書の発行手数料として、1通あたり1,100円(消費税等を含む)かかります。

なお、ほかの金融機関では残高証明書ですべての支店にある口座できますが、ゆうちょ銀行では、ほかの支店の口座を調べるために別途手続きが必要です。

参考:ゆうちょ銀行|残高証明書の発行

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アトムグループ 協力税理士

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