【相続税】財産目録を作る目的は?書き方を見本付きで解説

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相続税と財産目録

財産目録とは、亡くなった方が所有していた全ての財産を、種類ごとに整理した一覧表です。

財産目録は主に、遺産分割協議や相続税申告の際に使用します。

原則、相続税申告において、財産目録の作成は義務ではありません。

しかし、財産目録を作成しておくと、相続人同士のトラブルを未然に防げたり、相続税申告がスムーズに行えたりと、多くのメリットを得られます。

そこでこの記事では、財産目録を作成するメリットや、作成に適したタイミングを解説します。

また、これから財産目録を作成する人に向けて、財産目録の書き方を見本付きで解説するので、ぜひ参考にしてください。

財産目録とは

財産目録とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた全ての財産の内容が一覧でわかるようにまとめたものです。遺産目録とも呼びます。

現金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や住宅ローンなどのマイナスの財産も書く必要があります。

財産目録は、財産ごとにその相続税評価額や、所在・数量などをこと細かに記載します。

遺言を書くタイミングで、遺言に添付するために財産目録を作成したり、遺産分割協議を行うタイミングで作成する、というケースが多いです。

財産目録を作成するメリットとタイミング

相続税申告において、財産目録の作成は義務付けられているわけではありません。

しかし、財産目録を作成しておくことで、以下のようなメリットを得られます。

  • 残された相続人の負担を軽減する
  • 効率的な相続税対策につながる
  • 遺産分割協議を円滑に進められる
  • 遺産分割調停で提出が求められる

ひとつずつ解説していきます。

残された相続人の負担を軽減する

このメリットは、被相続人が生前に、自ら財産目録を作成した場合に得られます。

まず、財産目録を作成することで、被相続人自身が、「どんな遺産が、どこに、どれだけあるのか」を把握できます。

さらに、相続が開始した後に、残された相続人がその財産目録を活用することもできます。

ここでひとつ相続税申告のルールをおさらいしておきましょう。

相続人は、相続が開始したことを知った日から3か月以内に、財産を相続するか、それとも相続放棄するのか決断しなければなりません。

しかし、財産の種類によっては3か月ですべての財産を把握することが難しく、「財産を調査したら相続放棄したい内容だったのに、期限に間に合わなかった」というケースも少なくありません。

そこで、被相続人が生前に財産目録を作成しておけば、相続人が財産を調査する負担が軽減され、余裕をもって期限内に相続方法を選択できるようになります。

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効率的な相続税対策につながる

こちらも、被相続人が生前に財産目録を作成しておくことで、最大限のメリットが得られます。

財産目録を作成しておけば、相続税が発生するのかしないのか、発生する場合はどれぐらいの金額なのかが明らかになり、効果的な相続税対策を行うことが可能となります。

相続税は、「遺産の総額が基礎控除額を超える場合」に発生します。

基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」という計算式で算出されます。

財産目録を作成した結果、遺産の総額が上記の基礎控除額を超えていることが判明した場合には、生前贈与などで基礎控除額の範囲内に収めれば、相続人にかかる相続税をゼロにすることも可能です。

遺産分割協議を円滑に進められる

これは、生前に被相続人が財産目録を作成した場合でも、相続発生後に相続人が財産目録を作成した場合でも得られるメリットです。

遺言がない場合には原則、相続税の申告期限である10か月の間に、相続人全員で遺産分割協議を終え、各相続人が相続税申告をしなければなりません。

遺産分割協議とは、相続人同士で、遺産の分割について話し合いをすることです。話し合いがまとまれば、遺産分割協議書という書類を作成します。

遺産分割協議は、被相続人のすべての財産についてどのように分けるのかを話し合いますので、話し合いの前提として財産目録が必要です。

財産目録を作らず、財産がどの程度あるのかがはっきりしない状態で遺産分割協議を成立させると、後から新たな相続財産が見つかった場合に改めて遺産分割協議を行う必要があり、手続きが複雑になってしまいます。

また、相続が開始した後に財産目録を作成する場合、ある相続人が自分が有利になるように、一部の相続財産を隠してしまうという事例があります。財産の調査を念入りにおこなった上で財産目録を作成するようにしましょう。

遺産分割調停で提出が求められる

相続人同士で話し合いがまとまらず、遺産分割協議が成立しなかったときには、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて遺産分割を行います。

遺産分割調停とは、調停委員会が当事者双方の言い分を聞き、中立公正な立場で、遺産分割が円満に解決できるよう斡旋する手続きです。

遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所から財産目録の提出を求められますので、このような事態に備えて財産目録を作成しておくべきであるといえます。

財産目録を作成するときのポイント

財産の漏れがないように注意する

財産目録を作成して、それを前提に遺産分割協議で財産の分割割合を確定させても、記載した財産に漏れがあることが判明すれば、改めて遺産分割協議をやり直さなければなりません。

遺産分割協議をやり直すと、かなりの時間を要し、相続税の申告期限に間に合わないおそれも生じます。

このように、相続において財産目録は極めて重要な書類となりますので、どのように作成すればよいのかご不安な場合には、弁護士などの専門家に相談してから作成することをおすすめします。

各財産が特定できるように記載する

財産目録を作成するにあたって、相続人が各財産を容易に特定できるようにしなければなりません。

曖昧にしか記載していなければ、その財産がどこにあるのかを調査する必要が生まれ、財産目録を作成する意味がなくなってしまいます。

財産を容易に特定できるようにするためには、不動産であれば、登記簿を参照して、所在地・地目・面積などを記載しましょう。預貯金であれば、金融機関名・支店名・口座種別・口座番号などを記載すると良いでしょう。

また、株式や生命保険を証券会社に預けている場合には、その証券会社の名称や証券番号なども記載しましょう。

特定の事情があれば記載する

特定の事情とは、不動産ならば、共同名義になっているか、賃貸ししているかなどです。

事情によっては相続税評価額が低くなったり、所有者の使用できる範囲が制限されることもあるので、遺産分割協議で分割方法を決める上では欠かせない情報です。

財産目録に書き方の指定はない

財産目録は、作成方法や様式などが法律で決められているわけではありません。

そのため、手書きをしても構いませんし、パソコンで作成しても問題ありません。

しかし、相続手続きを円滑に進めるために、一般的に用いられている財産目録と同じように作成することが望ましいといえます。

各地の裁判所のホームページでは、財産目録の書式や記載例が紹介されています。

これを用いて作成すれば、大きく誤ってしまうリスクを減らすことができますし、調停や審判になって提出を求められた場合にも利用することができるでしょう。

次項で裁判所のホームページの記入例を用いて、財産目録の詳しい書き方を解説します。

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【見本付き】財産目録の書き方

ここからは財産目録の具体的な書き方を解説します。

ひな型は裁判所のホームページで公開されているものを使用しています。

ダウンロードは裁判所『家庭裁判所で使う書式』から行えます。

預貯金・現金の財産目録

財産目録(預貯金・現金)

預貯金は、口座ごとに記載します。

口座に預けていない現金がある場合は、保管場所もあわせて記載しましょう。

財産目録をスムーズに作成するために、金融機関から残高証明書を取得しておくことをおすすめします。残高証明書について詳しくは、関連記事『相続税の申告に残高証明書はいらない?各金融機関での入手方法も解説』をお読みください。

有価証券等の財産目録

財産目録(有価証券)

上場株式や上場投資信託の評価額はインターネットで調べられます。しかし、非上場株式(自社株)がある場合は評価が難しくなるため、専門家に相談したほうが良いでしょう。

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生命保険等の財産目録

財産目録(生命保険)

生命保険は、相続税の課税対象になるケースとならないケースがあります。

契約内容によっては所得税や贈与税が課されることもあるため、生命保険の死亡保険金などを受け取る予定のある方は、関連記事『死亡保険金にかかる税金|相続税・所得税・贈与税について解説』を読んで確認してみてください。

不動産(土地・建物)の財産目録

財産目録(不動産)

不動産の評価額は、土地と建物でわけて算出します。

土地の評価額は、国税庁が定めた路線価を用いて算出する路線価方式と、路線価がない地域で使用する倍率方式のどちらかで求めます。

建物は、固定資産税評価額がそのまま評価額になります。固定資産税評価額は、毎年市町村役場から送付される固定資産税課税明細書で確認できます。

また、第三者に貸し出している不動産は、その分評価額が低くなります。

不動産の評価額の計算方法や、貸し出しているとどのくらい減額されるのか知りたい方は、関連記事をお読みください。

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その他の財産目録

財産目録(その他)

預貯金や不動産、有価証券などに当てはまらない財産は、その他の財産として財産目録を作成します。

負債の財産目録

財産目録(負債)

最後に、マイナスの財産があれば、負債として財産目録を作成します。

毎月の返済額や完済予定日を記載しておくと、相続放棄をするかどうかの判断に役立つでしょう。

また、葬式費用は相続する財産から払う場合が多く、その場合も負債として財産目録に記載します。

なお、葬式費用は相続税の計算の際に控除することができます。相続税の負担を減らせるのでぜひ覚えておいてください。詳しくは関連記事『納骨費用・葬式費用は相続税の計算上控除できる?計算方法も解説』をお読みください。

負債として財産目録に書く主な項目は以下のとおりです。

  • 借金、買掛金
  • 住宅ローンの残額
  • 未払い家賃、滞納税、クレジットカード利用費など
  • 葬儀費用

財産目録が完成したらここをチェック!

記載漏れはない?

前述したように、もし記載していない財産があった場合には作成しなおさなければいけません。

遺産分割協議が進んでから起算漏れが発覚すると、それまで重ねてきた話し合いも無駄になってしまいます。必ず記載漏れがないかどうか確認しましょう。


名義預金に注意

名義預金とは、預貯金口座の名義人とお金を支出した人が異なることをいいます。典型的なのは、母親が息子名義の口座を開設、入金しているケースです。

この場合は、母親が亡くなり、息子がその預金を取得した場合に相続税がかかります。

もし被相続人名義以外の預貯金口座がある場合は、それも財産目録に記載して遺産分割協議を行うようにしましょう。

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署名押印は各ページにする

財産目録が2ページ以上になる場合には、各ページに署名と押印が必要です。両面印刷した場合にも、表と裏に1か所ずつ署名押印が必要なため、注意してください。

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財産目録の作成に不安がある方は税理士に相談

財産目録の作成自体は難しいものではありません。

しかし、問題なのは財産目録に書く情報の収集です。たとえば、不動産や有価証券の評価額は算出方法が複雑なケースも多いです。

もし財産目録の内容が間違っていると、遺産分割協議や相続税申告にも影響が出てしまいます。

そのため、財産目録を作成する方は、一度相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。

生前に財産目録を作成する場合には、相続税を減らすための効率的な生前贈与についてもご提案させていただきます。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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