相続税対策に有効な生前贈与を7つ紹介!知っておきたい注意点も解説
生前贈与は、相続税の負担を減らすための「相続税対策」として、広く行われています。
相続税対策のための生前贈与では、贈与税の「非課税枠」や、特定の目的を持った一定額までの贈与に贈与税がかからなくなる「非課税制度」を利用します。
贈与税の税率は、相続税の税率よりも高く設定されているため、非課税枠や制度を理解しないまま生前贈与をすると、かえって税負担が増えてしまう可能性があるのです。
この記事では税理士が選ぶ、相続税対策に有効な「生前贈与の非課税枠と非課税制度」を7つ紹介します。
また、生前贈与するときに「絶対に知っておくべき注意点」もあわせて解説します。
相続税対策に有効な7つの生前贈与【非課税枠・非課税制度】
相続税対策の生前贈与で使える贈与税の非課税枠・非課税制度は、以下の7つです。
(1)暦年課税の非課税枠
(2)相続時精算課税制度
(3)教育資金の非課税制度
(4)結婚・子育て資金の非課税制度
(5)住宅取得等資金の贈与の非課税制度
(6)贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
(7)特定障害者に対する贈与税の非課税制度
以下でひとつずつ解説します。
(1)暦年課税の非課税枠
非課税枠:毎年110万円
贈与相手:誰でも良い
暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に対して課税する、贈与税の一般的な課税方式です。
暦年課税には受贈者(贈与を受ける人)ごとに年間110万円の非課税枠が設けられています。
よって、1年で贈与された財産の合計額が110万円を超えなければ、贈与税申告・納付の必要はありません。
暦年課税の非課税枠は、利用において何か特別な申請や条件が必要なわけではなく、贈与相手の制限もされていません。
暦年贈与の非課税枠内で毎年贈与を行うことが、最もメジャーで簡単な生前贈与といえるでしょう。
贈与相手が多いほど有効な生前贈与
暦年課税の非課税枠を利用した生前贈与は、財産を贈与できる相手が多いほど、1年で贈与できる金額も大きくなり、より相続税対策の効果を強められます。
たとえば子どもが5人いる場合、それぞれに110万円ずつ、合計で550万円まで非課税で贈与できます。
暦年課税の非課税枠で生前贈与するときの注意点
ただし、暦年課税の非課税枠を利用して、毎年同じ相手に同じ金額を贈与していると、「定期贈与」と判断され、多額の贈与税が課税されるおそれがあります。
定期贈与とは、10年にわたって毎年110万円ずつ贈与した場合を例に挙げると、「最初から1,100万円(110万円×10年)の贈与を行う意図があった」ことをいいます。
税務署に定期贈与と判断されると、贈与を始めた年に、1,100万円全額に対して贈与税が課税されてしまいます。
定期贈与と判断されないためには、以下のような対策が必要です。
定期預金と判断されないための対策
- 毎年金額を少しずつ変える
- 毎年贈与の時期をずらす
- 110万円を少し超える贈与をして、贈与税を納める
また、毎年贈与を行うたびに、贈与契約書を作成することも重要です。
贈与契約書については本記事『贈与のたびに贈与契約書を作る』で詳しく解説しています。
(2)相続時精算課税制度
非課税枠:累計2,500万円+毎年110万円
贈与相手:60歳以上の父母祖父母から、18歳以上の子や孫に対して
まとまった財産を生前贈与したい場合には、相続時精算課税制度が選択肢にあがります。
相続時精算課税制度とは、暦年課税と同じ年間110万円の非課税枠に加え、贈与者ごとに累計で2,500万円までの贈与に贈与税が課税されない制度です。
しかし、年間110万円を除く贈与財産は、贈与者が死亡したときに「相続財産に加算」されます。そのため、贈与時に贈与税の支払いをせず、代わりに相続時に相続税として後払いイメージです。
この贈与税の課税方式を、「相続時精算課税」といいます。
相続時精算課税制度で贈与した財産が相続財産に加算される際には、贈与時の価額で加算されます。
そのため、今後価値が上がる見込みのある財産は、相続時精算課税制度を利用して先に贈与しておくことで、実質的に評価減で相続できます。
贈与額が2,500万円を超えるとどうなる?
2,500万円を超える金額については、一律20%の贈与税が課税されます。
対して前述した暦年課税は、110万円を超えた分に関して累進課税で10~55%の贈与税が課せられます。
2,500万円を超えた金額にもよりますが、場合によっては相続時精算課税制度をした方が贈与税の負担が少なく済むこともあります。
相続時精算課税制度の利用条件
60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子供や孫への生前贈与にのみ利用できます。
また、暦年課税から相続時精算課税に切り替えるためには、「相続時精算課税選択届出書」を税務署へ提出する必要があります。
一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税には戻れないため注意が必要です。
相続時精算課税制度と暦年課税の違いを表で確認
以下に相続時精算課税制度と暦年課税(暦年贈与)の違いをまとめました。ご自身に合った課税方法を選ぶ際の参考にしてください。
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(3)教育資金贈与の非課税制度
非課税枠:1,500万円
贈与相手:30歳未満の子や孫に対して
父母や祖父母などが、30歳未満の子や孫に、教育資金を一括贈与する場合に利用できる贈与税の非課税制度です。
受贈者ごとに最大で1,500万円までが非課税になります。
教育資金は、学校などに対して直接支払われる費用と、学習塾や習いごとなど学校等以外に対して直接支払われる費用の2種類にわけられています。
それぞれの非課税枠について、学校などに対して直接支払われる費用が1,500万円、学校等以外に対して直接支払われる費用は500万円までが上限とされています。
教育資金贈与の非課税制度の利用方法
教育資金贈与の非課税制度の利用方法は、まず贈与者が金融機関に教育資金口座を開設し、一括で贈与額を預け入れます。
そして、受贈者がその教育資金として使用するときに、金融機関に使い道の記された領収書などを提示して、その金額分を引き出します。
教育資金贈与の非課税制度の注意点
教育資金の一括贈与における注意点は、受贈者である子や孫が30歳になった時点で、教育資金口座内に残っている残額は贈与税の対象になることです。
そのため、事前に受贈者が30歳になるまでに必要な資金を計算して、残額が出ないよう贈与額を決めることが重要です。
なお現在、教育資金の一括贈与における非課税制度の適用は2026年3月末までとされています。
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(4)結婚・子育て資金贈与の非課税制度
非課税枠:1,000万円
贈与相手:18歳以上50歳未満の子や孫に対して
父母や祖父母などが、18歳以上50歳未満の子や孫に、結婚・子育て資金を一括贈与する場合に利用できる贈与税の非課税制度です。
受贈者ごとに最大で1,000万円までが非課税になります。
なお、非課税枠の1,000万円のうち、結婚資金として使用できる上限は300万円までとされています。
結婚・子育て資金贈与の非課税制度の利用方法
贈与者が金融機関で贈与専用口座を開設・預入し、受贈者が使い道の記された領収書などを提示して、その金額分を引き出します。
また、結婚・子育て資金の贈与税を非課税にするためには、贈与された前年の受贈者の所得が1,000万円以下である必要があります。
結婚・子育て資金贈与の非課税制度の注意点
もし非課税で贈与された結婚・子育て資金をそれ以外の目的で使用した場合は、使用した金額に対して贈与税がかかります。
また、受贈者が50歳になった時点で口座に残っている金額についても贈与税が課されます。
現在、結婚・子育て資金の一括贈与における非課税制度の適用は2025年3月末までとされています。
(5)住宅取得等資金の贈与の非課税制度
非課税枠:住宅により1,000万円か500万円
贈与相手:18歳以上の子や孫に対して
父母や祖父母などが、18歳以上の子や孫に、自宅を新築、増改築するための資金を贈与する場合に利用できる贈与税の非課税制度です。
省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までが非課税になります。
省エネ等住宅とは?認められる条件は?
省エネ等住宅とは、冷暖房や照明の消費エネルギーを抑える設備や資材を導入した住宅のことです。
省エネ等住宅と認められるには、以下の条件のいずれかを満たしており、かつ住宅性能証明書など一定の書類を贈与税の申告書に添付する必要があります。
省エネ等住宅の条件
- 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
また、 住宅取得等資金の贈与の非課税制度を利用するためには、贈与された前年の、受贈者の所得が2,000万円(40㎡以上50㎡未満の家は1,000万円)以下である必要があります。
住宅取得等資金の贈与の非課税制度の利用条件
贈与方法についてですが、教育資金や結婚・子育て資金の非課税制度のように、専用の口座を用意する必要はありません。直接の贈与に適用できます。
なお現在、住宅取得等資金における非課税制度の適用は2026年12月末までとされています。
(6)贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
非課税枠:2,000万円
贈与相手:婚姻期間が20年以上の配偶者に対して
婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われる、配偶者が住み続ける自宅の贈与と、自宅を購入する資金の贈与で利用できる非課税制度です。
2,000万円までの贈与が非課税になります。
婚姻期間20年以上という条件から、「おしどり贈与」とも呼ばれています。内縁関係の相手には適用できません。
贈与税の配偶者控除の利用条件
贈与額の配偶者控除を利用する条件は、以下の2つです。
- 贈与された年の翌年3月15日までに、贈与された自宅に配偶者が住み始めること
- その後、転居することなく継続的に住み続けること
贈与税の配偶者控除は非常に大きな節税効果がありますが、同じ配偶者間では一生に一度しか使えないため注意してください。
(7)特定障害者に対する贈与税の非課税制度
非課税枠:障害の程度により6,000万円か3,000万円
贈与相手:特定障害者に対して
「(1)暦年課税の非課税枠」で解説したように、通常は年間の贈与額が110万円を超えた場合、贈与税の課税対象になります。
しかし、特定障害者を受益者とする財産の信託があったときには、その信託受益権の価額のうち、特別障害者は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者は3,000万円まで贈与税がかかりません。
特定障害者に対する贈与税の非課税の適用を受けるためには、「障害者非課税信託申告書」を、信託会社を通して所轄税務署長に提出する必要があります。
相続税対策で生前贈与を行うときの注意点
贈与のたびに贈与契約書を作る
前述したように、暦年課税の非課税枠内で贈与を繰り返す際に、定期贈与とみなされると、多額の贈与税が課税されてしまいます。
そのため、毎年の贈与の際に贈与契約書を作成することで、「それぞれの贈与がまとまったものではなく、独立したものである」という説明ができるようになります。
贈与契約書の作成は名義預金対策にもなる
生前贈与が名義預金とみなされ、贈与者の死亡後に相続税が課税されてしまうケースに対しても、贈与契約書の作成が有効です。
名義預金とはお金の所有者と名義が異なる預金のことをいいます。母が息子名義の口座を作って預金しているケースが代表例です。
そもそも贈与とは、贈与者と受贈者のお互いの合意があって初めて成り立ちます。そのため息子が、母の作った息子名義の口座の存在を知らなかった場合には、贈与が成り立っていないことになるのです。
したがって、「口座の存在を知っていた」「贈与についてお互いが合意している」と、証明できる贈与契約書の作成が、名義預金とみなされないために肝心なのです。
特定の人に贈与しすぎて遺留分侵害にならないようにする
生前贈与された財産は「特別受益」と呼ばれ、相続が発生した後に遺産分割協議を行う際、相続財産に持ち戻して計算されます。
そこで、生前贈与で特定の人に財産を渡しすぎると、ほかの相続人の遺留分を侵害している可能性が出てくるのです。
遺留分とは、相続で法定相続人に最低限保証された遺産の取得分のことです。
つまり、生前に特定の人に財産を渡しすぎて、ほかの相続人が最低限受け取れるはずの遺留分が残っていない状態になるおそれがあるということです。
遺留分すら相続できなかった相続人は、遺留分を侵害した相続人に対して、侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求)。
相続人同士のトラブルが発生しないように、生前贈与を行う際には、だれにどのくらい贈与を行うのか専門家と相談しながら決めることをおすすめします。
死亡前3年以内に行われた贈与には相続税が課される
暦年課税において、贈与者の死亡前3年以内に贈与された財産に関しては、年間110万円の非課税枠内だったとしても、相続財産に加算されて相続税の課税対象となります。
さらに、税制改正により2024年より段階的に、死亡前3年だったところが死亡前7年まで延長されることとなりました。
そのため、生前贈与で相続税対策を行うためには、以前にも増して早くから贈与をはじめる必要が出てきたのです。
暦年贈与に相続税がかかる条件は、関連記事『死亡前3年の暦年贈与は相続税の対象!税制改正で7年に?対策も解説』で詳しく説明しています。あわせてお読みください。
自分の生活資金を残すようにする
ここまで解説してきたように、生前贈与で使える控除や非課税枠は多くあります。
ただし、生前贈与は自分たちの生活が困らない程度の金額にとどめておきましょう。
「自分たちの生活資金まで贈与するうっかりミスなんてしないだろう」と、ほとんどの方が考えているかもしれませんが、実際に贈与しすぎて返還を求めるケースも存在します。
自分たちの生活を満足に送るための金額を計算して、計画的な生前贈与を心がけましょう。
相続税対策の生前贈与についてよくある質問
Q1. 税務署にばれない生前贈与はある?手渡しならばれない?
A. ありません。税務署はお金の流れを詳細に把握できます。
たとえば贈与税が発生する金額の現金でも、手渡しでこっそり贈与して贈与税申告をしなければ、贈与の事実が税務署にばれず、贈与税を払わずに済むと考える方もいるかもしれません。
しかし、税務署はお金の流れや不動産登記について、詳細に把握できる仕組みを持っています。
そのため、贈与自体は手渡しで行われていても、贈与者が贈与するお金を口座から引き出したことは税務署に筒抜けです。
税務署は少しでも不自然なお金の流れを見つけると、贈与の事実を隠しているのではないかと疑い、場合によっては税務調査も検討します。
もし贈与税の申告・納付が必要なのに隠し通そうとしていると、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課されてしまい、正しく納税した場合よりも多くの税負担がかかってしまいます。
最終的な税負担や、余計な不安を増やさないためにも、申告が必要なほどの贈与を受けた場合は、ごまかさずに正しく申告・納付を行いましょう。
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Q2. 生前相続にはどのような税金がかかる?
A. 「生前相続=贈与」なので、贈与税がかかります。
そもそも相続とは、被相続人が死亡した際に、被相続人が所有していた財産が遺族などに引き継がれることです。
よって、被相続人の死亡が前提であるため、生前相続という言葉は法的には存在しません。
生前に行う相続は、贈与にあたります。
そのため、暦年課税の場合は年間110万円を超えた分に、相続時精算課税の場合は累計2,500万円+年間110万円を超えた分に、贈与税が課税されます。
相続税対策で生前贈与するときは税理士に相談
ご家族に合った生前贈与をするためには、非課税枠の種類だけでなく、遺留分や相続税との関係など、多くの知識が必要となります。
また、利用する非課税枠によっては、受贈者の年齢制限や所得による制限が設けられているものもあります。
もしこの記事で紹介した生前贈与の中で気になるものがある場合は、ぜひ一度税理士に相談してみてください。
税理士に相談することで、効率的な生前贈与が叶うだけでなく、自分が死亡したあとに相続人同士が揉めてしまうような心配もなくなります。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士