贈与税の申告漏れは「ばれない?」ばれるケースは?ばれたらどうなる?
「贈与税の申告漏れがばれないか不安…」
「贈与税の申告漏れがばれたらどうなる?」
贈与したことを誰にも言わなければ税務署にばれることもなく、贈与税を払う必要もなくなるのではないか、と考えている方は要注意です。
結論から言うと、贈与税の申告漏れは「ばれます」。
この記事では、贈与税の申告漏れがばれるケースや、申告漏れがばれるとどんなデメリットがあるのか解説します。
さらに、贈与税の負担を抑える方法についてもご紹介します。有効な相続税対策にもなりますので、ぜひ最後までお読みください。
Q.贈与税の申告漏れはばれない? A.ばれます
贈与税の申告漏れは「ばれる」
ほとんどのケースで贈与税の申告漏れは「ばれます」。
贈与税は通常、年間110万円を超える贈与を受けた受贈者(もらう側)に対して課税されます。
贈与を受けるたびに税務署に報告するわけでもないですが、贈与税の申告と納付をせずにいると、税務署に贈与税の申告漏れがばれてしまいます。
なぜなら税務署は、不動産登記やお金の流れを詳細に把握できる仕組みをもっているからです。
以下では、贈与税の申告漏れがばれるケースを具体的にご説明します。
相続税の税務調査で贈与税の申告漏れがばれる
相続税の税務調査の中で、贈与税の申告漏れがばれるケースがあります。
相続税の税務調査は、「相続税の申告額は正しいか」「相続税の申告をすべきケースで無申告となっていないか」を調べるため実施される調査です。
相続税の税務調査のタイミングは、被相続人の死亡から約2年後が多いようです。
「相続税の税務調査なのに、なぜ贈与税の申告漏れがばれるの?」と不思議に思うかもしれません。
その理由は、相続税の税務調査では、生前贈与の有無を調べるために、被相続人名義の財産だけでなく、相続人名義の預貯金口座も詳しく調査するからです。税務署は、金融機関から過去の取引履歴を入手する権限があるのです。
その他にも、法務局を通じて不動産に関する情報を取得できます。
また、国税庁のKSK(国税総合管理)システムを利用し、所得税等の税金の申告内容も見ることができます。
これらの情報をもとに、無申告の生前贈与がばれた場合、重加算税などの附帯税(贈与税以外に支払う税金)が科される可能性があります。
現金手渡しで贈与すれば税務署にばれない?
現金手渡しの贈与でも、必ずどこかに不審な入出金の証拠は残るものです。現金手渡しなら贈与は絶対にばれないと考えるのはやめましょう。
相続発生時の税務調査では、税務署職員が自宅にやってきて家族から聴き取り調査も行います。
その中で、相続人が不動産を取得した際に被相続人から援助を受けなかったかなど生前贈与の有無も確認されます。この質問に対し、虚偽の回答をした場合も、重加算税などの附帯税が課されるおそれがあります。
なぜ税務調査で贈与税の申告漏れが発覚するのは気になる方は、関連記事『贈与税の税務調査とは?調査を受けたらどうなる?調査への対応は?』をお読みください。
不動産の購入で贈与税の申告漏れがばれる
不動産を購入する際、両親などから購入資金の贈与を受けたにもかかわらず贈与税の申告をしないと、税務署にばれる可能性があります。
なぜなら、所有者の名義変更(所有権移転登記)を行うと、法務局から税務署に通知が行くからです。
税務署は、不動産登記の情報をもとに、贈与税の申告漏れが疑われるケースを洗い出します。そして、不動産の購入者に対し、「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」という文書を送付します。
この「お尋ね」の中で、不動産購入者の職業や年収、買入価格、支払金額の調達方法(預貯金、借入金、資産の売却代金、贈与等)が詳しく質問されます。
たとえば、職業や年収に対し、高額な不動産を一括購入している場合、贈与があったのではないかと疑われる可能性が高いです。
税務署は、「お尋ね」の回答内容をもとに、贈与税の申告漏れがないかさらに調査を進めます。調査の結果、贈与税の申告漏れが判明すると、重加算税などの附帯税を課されることになります。
こっそり親子間で贈与してもばれる
たとえ親子間であっても、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超える贈与を受けた場合、受贈者は贈与税の申告と納税が必要です。
前述したように、こっそり手渡しで贈与したとしても、預金口座の入出金の履歴や、受贈者の収入と支出のアンバランスさなどから税務署は申告漏れを見つけ出します。
なお、親子や夫婦など扶養義務がある者の間の贈与で、「生活費や教育費として必要と認められる金額を、必要な都度贈与する場合」には、贈与税が非課税とされています。両親が一人暮らしをしている大学生の子どもにする仕送りなどが該当します。
ただし、車や株式の購入など、生活費や教育費の枠を超えた用途だと判断された場合には、年間110万円を超える贈与に対して贈与税が課されてしまいます。
ほかに、お年玉やお中元なども贈与税の課税対象ではありません。贈与税申告が不要なケースについて詳しく知りたい方は、関連記事『贈与税が申告不要なケースとは?非課税でも申告が必要な場合も解説』をお読みください。
贈与税の申告漏れに時効はある?
贈与税の時効は、原則6年です(相続税法36条1項)。
ただし、偽りその他不正の行為により納税を免れたり、還付を受けた贈与税の時効は、例外的に7年になります(相続税法36条4項)。「偽りその他不正の行為」には、贈与があったと認識していたにもかかわらず贈与税の申告をしなかった場合などが該当します。
なお、贈与税の「時効」は、正しくは「除斥期間」といいます。除斥期間が経過すると、贈与税を納付する義務がなくなります。
贈与税の時効の起算点は、贈与の翌年の3月16日です。
たとえば、令和5年(2023年)6月1日に贈与した場合、時効の起算点は令和6年(2024年)3月16日、時効成立は令和12年(2030年)3月16日です。
贈与税の時効について詳しくは、関連記事『贈与税の調査は何年までさかのぼる?贈与税申告の時効は6年?』をお読みください。
【注意!】贈与税の時効を待つのは危険
贈与税の時効が成立が認められるケースは実際には少ないです。なぜなら、そもそも贈与が成立していないと認定されるケースが多いからです。
贈与が成立しない典型例が、名義預金です。
たとえば、父が子に内緒で、子名義の預金口座に何十年も預金を続けていたとします。通帳や印鑑も父が管理していました。
この場合、父が亡くなると、子名義の預金は、実質的には父の相続財産と判断されます。
その結果、相続人は相続税を支払わなければならなくなるのです。
このように、一見すると生前贈与に当たり時効が成立しているように思えても、実はそうではないケースは少なくありません。
贈与税の申告漏れに少しでも不安がある方は、時効成立を待つのではなく、今すぐ専門家にご相談ください。
関連記事
・名義預金は相続税・贈与税がかかる?|名義預金の認定の回避策
贈与税の申告漏れがばれたらどうなる?
申告金額が足らなかった場合は「過少申告加算税」
贈与税を過少に申告していた場合、過少申告加算税が課されます。
過少申告加算税は「納付すべき税額×10%」で計算します。
なお、追加納税額が、当初の申告税額又は50万円のうちいずれかを超えているときは、その超過分に対して15%の税率がかかります。
もっとも、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税は課されません。
贈与税を申告しなかった場合は「無申告加算税」
納付すべき贈与税を申告期限(※)までに申告しなかった場合、無申告加算税が課されます。
税務調査の事前通知を受ける前に自主的に申告した場合、無申告加算税は、「納付すべき税額×5%」で計算します。
税務調査後に申告した場合の無申告税加算税は、「納付すべき税額×15%」で計算します。ただし、50万円を超える部分は20%が加算されます。
もっとも、申告期限内に申告しなかったことに正当な理由があり、期限後1か月以内に申告する等の要件を満たせば、無申告加算税は課されません。
※贈与税の申告期限
贈与税の申告期限は、原則として贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。
関連記事
・贈与税の申告忘れると【無申告課算税】の対象|追徴課税と注意点を解説
隠ぺいなど、悪質さが認められた場合は「重加算税」
隠ぺい・仮装を行って申告を逃れる悪質なケースでは、無申告加算税や過少申告加算税の代わりに重加算税が課されます。
悪質な過少申告のケースでは、「納付すべき税額×35%」の重加算税が課されます。
悪質な無申告のケースでは、「納付すべき税額×40%」 の重加算税が課されます。
納期限までに納付しなかった場合は「延滞税」
法定納期限(贈与を受けた翌年の3月15日)までに贈与税を納付しない場合、加算税に加え延滞税が課されます。
延滞税の割合は、以下のとおりです。
⑴ 法定納期限の翌日から2カ月以内に納付した場合は、原則として年7.3%(令和5年は2.4%)
⑵ 法定納期限の翌日から2カ月経過後に納付した場合は、原則として年14.6%(令和5年は8.7%)
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贈与税の延滞税の計算方法を解説|ケース別の計算例つきでよくわかる
不正行為などは「刑事罰」に問われる場合もある
偽りその他不正行為により贈与税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処せられます。懲役と罰金が併科される可能性もあります。(相続税法68条1項)。
故意に不正行為を行ったわけではない場合、上記の脱税の罪は成立しません。
しかし、正当な理由なく申告期限までに申告書を提出しなかった者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。ただし、情状により刑が免除される可能性はあります。(相続税法69条)。
贈与税の負担を抑える方法
暦年課税|年110万円の基礎控除を利用
たとえば、贈与する相手が4人の場合、1年間の贈与額が440万円(110万円×4人)以内であれば、贈与税はかかりません。
毎年110万円以内の贈与を複数人に対し長期間続ければ、相続税対策としても有効です。
ただし、注意点が3つあります。
【注意点】
①最初から贈与額や期間を決めている定期贈与とみなされると、贈与の総額に課税される可能性があります。
対策として、贈与ごとに「贈与契約書」を作成することをおすすめします。
②相手が贈与の事実を知らないと、贈与は成立しません。
たとえば、子に内緒で子名義の預金口座に毎年お金を振り込む場合です。この場合、親が亡くなると、子名義の預貯金は実質的に相続財産と判断され、相続税がかかる可能性があります。
対策として、子名義の通帳、印鑑、カードは本人に管理させることが大切です。
③贈与者が死亡して相続が発生した場合、相続開始から3年以内の生前贈与は相続財産に加算されます。
つまり、贈与税は非課税となっても、結局は相続税がかかってしまう可能性があるのです。
なお、令和6年(2024年)1月1日以降の贈与は、加算期間が段階的に7年に延長されます。
関連記事
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・死亡前3年の暦年贈与は相続税の対象!税制改正で7年に?対策も解説
相続時精算課税制度|2,500万円まで非課税で贈与
相続時精算課税制度を利用すれば、累計2,500万円までの贈与税が非課税になります。
ただし、大きな注意点があります。それは、「相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、相続財産に加算され相続税がかかる」という点です。
この制度を選択すると、暦年課税への変更ができない点も注意してください。
なお、令和6年(2024年)1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合でも、年110万円までの贈与は贈与税が非課税となり、相続税にも加算されなくなります。
今後、税制は大きく変わります。暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらが効果的な節税対策になるのか迷う方も多くなるでしょう。少しでも不安がある方は、ぜひ早いうちから税理士にご相談ください。
知っておきたい相続時精算課税制度のデメリットについては、関連記事『【令和6年最新】相続時精算課税制度のデメリットを5つ紹介!改正のメリットは?』で詳しく解説していますので、ぜひ併せてお読みください。
使い道によって贈与税が非課税となる特例を3つ紹介
ここでは、贈与税が一定額まで非課税となる特例を3つご紹介します。これらの特例は、相続税対策としても有効です。
①住宅取得等資金の贈与
父母や祖父母などの直系尊属が、18歳以上の子や孫に対し、住宅取得資金を贈与する場合、最大1,000万円が非課税になります。
適用期限は、令和5年(2023年)12月31日です。
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・住宅購入資金の生前贈与|非課税制度の要件や手続き、注意点を解説
・相続時精算課税と住宅取得等資金贈与は併用できる|併用すべきケースと条件
②教育資金の一括贈与
父母や祖父母などの直系尊属が、30歳未満の子や孫に対し、教育資金を贈与する場合、最大1,500万円が非課税になります。
適用期限は、令和8年(2026年)3月31日です。
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・教育資金の贈与に相続税はかかる?相続税対策になるって本当?
③結婚・子育て資金の一括贈与
父母や祖父母などの直系尊属が、18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚や子育てで使う資金を贈与する場合、最大1,000万円が非課税になります。
適用期限は、令和7年(2025年)3月31日です。
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・子育て・結婚資金は1,000万円まで非課税|条件や注意点、手続きは?
生活費や教育費として贈与する
この記事の前半の『こっそり親子間で贈与してもばれる』でも解説したように、扶養義務者から生活費や教育費にあてるために贈与された財産で、通常必要と認められるものは非課税になります。
典型例は、両親から子に対する仕送りです。
ただし、贈与された財産を株式の購入資金に使うなど、本来の目的と異なる使用をした場合は、贈与税がかかります。
贈与税のお悩みは税理士へ
贈与税の申告漏れは、放置すればするほど重い附帯税を課されてしまうおそれがあります。少しでも不安な方は、今すぐ税理士にご相談ください。
早期に適切な対応をとれば、附帯税の負担を最小限に抑えることが可能です。
また、贈与税の負担を抑えて贈与をしたいとご希望の方も、税理士までお気軽にお問い合わせください。
生前贈与の方法や、非課税制度の要件は複雑です。
当初から専門家に相談すれば、税務署に指摘を受けず、有効な節税対策を立てることができます。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士