相続時精算課税と住宅取得等資金贈与は併用できる|併用すべきケースと条件
相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の非課税制度は併用することができます。
2つの制度を併用すると、子どもや孫が住宅を取得するための資金を、最大で3,610万円まで贈与税をかけずに贈与できます。
子どもや孫に資金援助したい方にとっては非常に頼もしい制度ですが、それぞれの制度には利用するための条件や、知っておきたい注意点が存在します。
この記事では、相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の非課税制度を併用して資金贈与すべきケースや、それぞれの制度の利用条件・利用における注意点を解説します。
目次
相続時精算課税と住宅取得等資金贈与の非課税制度の併用
併用すると最大3,610万円の贈与税が非課税
相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の非課税制度を併用して、子どもや孫に住宅を取得するための資金を贈与する場合、最大で3,610万円の贈与まで贈与税がかかりません。
非課税枠3,610万円の内訳
- 相続時精算課税制度の特別控除2,500万円
- 相続時精算課税制度の基礎控除110万円
- 住宅取得等資金贈与の非課税枠1,000万円
制度を併用して住宅取得等資金を贈与すべきケース
高額な住宅を取得する場合
相続時精算課税と住宅取得等資金贈与の非課税制度を併用すると、最大で3,610万円の贈与まで贈与税がかかりません。
これは、他の贈与税を軽減する制度と比べても非常に大きな金額です。
片方の制度利用では非課税枠が足らないほどの金額を、住宅取得等資金として贈与したい場合には、制度の併用がおすすめです。
60歳未満の贈与者が贈与する場合
相続時精算課税制度は「贈与者が60歳以上であること」が利用条件の一つです。
しかし、住宅取得等資金贈与の非課税制度と併用する場合に限り、この年齢制限が撤廃され、60歳未満の贈与者であっても相続時精算課税制度の利用が認められます。
なお、この60歳未満でも認められるこの特例は現在、令和8年12月31日までの贈与に限るとされています。
早い段階から生前贈与をお考えの方は、一度制度の併用を検討してみてください。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度の非課税枠
相続時精算課税制度とは、累計2,500万円までの贈与にかかる贈与税が非課税になる制度です。
ただし、贈与者が死亡した際に、贈与した財産はすべて相続財産に足し合わされ、相続税の課税対象になります。
贈与額が累計で2,500万円を超えた場合、超えた分の金額に対して一律20%の税率で贈与税がかかります。2,500万円を超えて贈与税を支払った場合、その贈与税額分が相続財産から差し引かれます。
また、令和6年1月1日以降に贈与された財産については、相続時精算課税制度に毎年110万円の基礎控除が設定されているため、単年度で2,500万円を超える贈与をした場合、2,610万円までの贈与に贈与税がかかりません。
相続時精算課税制度の利用条件
相続時精算課税制度を利用できるのは、60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から、贈与を受けた年の1月1日の時点で18歳以上の子どもや孫に贈与する場合です。
ただし、前述したように住宅取得等資金贈与の非課税制度と併用する場合のみ「贈与者が60歳以上でなくてはならない」という条件がなくなり、60歳未満の直系尊属でも相続時精算課税制度の贈与者として認められます。
60歳未満でも認められるこの特例は、令和8年12月31日までの贈与に限ります。
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住宅取得等資金贈与の非課税制度とは
住宅取得等資金贈与の非課税枠
住宅取得等資金贈与の非課税制度とは、直系尊属(父母や祖父母)から住宅取得等の資金を贈与する場合に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
具体的に非課税になる贈与額は以下のとおりです。
- 質の高い住宅(省エネ等住宅):1,000万円まで非課税
- 一般住宅:500万円まで非課税
「質の高い住宅」と認められるには、以下のいずれかを満たしており、かつ住宅性能証明書などの一定の書類を贈与税の申告書に添付する必要があります。
質の高い住宅の条件
- 断熱等性能等級5以上、かつ一次エネルギー消費量等級6以上であること
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
参考:国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」
住宅取得等資金贈与の利用条件
住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用するためには、贈与者・受贈者と、取得する住宅にそれぞれ条件があります。
贈与者・受贈者の条件
住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用できるのは、直系尊属(父母や祖父母)から、贈与を受けた年の1月1日の時点で18歳以上の子どもや孫に、「住宅を取得・新築・増改築するための資金」を贈与する場合です。
また、受贈者の贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下(新築等をする住宅用の家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)でなければなりません。
なお、すでに住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用したことがある場合、二度目の制度の利用はできませんので注意してください。
取得する住宅の条件
住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用して贈与された資金は、贈与を受けた翌年3月15日までに住宅の取得、新築、増改築に使用しなければなりません。また、同時期までに、取得した住宅に入居することも条件です。
また、新築を取得する場合、住居の床面積が40㎡以上240㎡以下で、床面積の2分の1以上が居住用である必要があります。
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相続時精算課税と住宅取得等資金贈与の非課税制度の併用するときの注意点
期限までに取得した住宅に入居する
前述したように、住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用するためには、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、取得した住宅に入居する必要があります。
ただし、新築やリフォームの工事が遅れた場合などで入居期限に間に合わない場合もあるでしょう。
入居期限に間に合わなくても、「入居の見込みがあると判断された場合」には最大で、贈与を受けた翌年の12月31日まで、入居期間を遅らせることができます。
また、受贈者本人が仕事の関係などで入居期限に間に合わなくても、生計を共にする家族が期限までに居住を開始できれば、制度の利用が認められます。
取得した住宅に入居する前に贈与する
住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用するには、取得した住宅に入居する前に贈与を行うことが必須です。住宅の引き渡し後では、非課税制度は適用できません。
もし贈与のタイミングが入居後になってしまった場合は、以下の2つの方法があります。
- 相続時精算課税制度のみを利用する
- 資金をいったん返金し、基礎控除110万円以下の暦年贈与を行う
それぞれの制度の利用には贈与税申告が必要
住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用するためには、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までに贈与税申告しなければなりません。
また、相続時精算課税制度を利用する場合には、贈与税申告の際に「相続時精算課税制度の選択届出書」を添付します。
仮に、制度の利用で資金贈与にかかる贈与税が0円になる場合でも、贈与税申告が必要なので注意してください。
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贈与税申告までに住宅取得等資金を使い切る
贈与税申告までに、住宅取得等のために贈与された資金を全て使い切っておく必要があります。
使いきれなかった分に関しては、制度の非課税枠から外れて贈与税の課税対象となってしまうので注意してください。
住宅取得等資金贈与の非課税制度は令和8年12月31日まで
現在、住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用できるのは、令和8年(2026年)12月31日までとされています。
今までも制度を利用できる期間が延長されたことはあったため、再び期間が延長される可能性もありますが、制度の利用者が減少していることから、制度自体が廃止される可能性も考えられます。
制度利用を考えている方は、お早めに贈与を進めることをおすすめします。
住宅取得等資金の贈与は税理士に相談
相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の非課税制度は、上手く活用すれば節税対策の頼もしい見方になりますが、利用時にはそれぞれの利用条件や注意点をしっかり理解しておく必要があります。
もし計画通りに制度が適用できないと、多額の贈与税がかかってしまう可能性もあります。
税理士にご相談していただければ、必要な制度を正しく適用するのはもちろんのこと、相続まで踏まえた節税対策までトータルでサポートいたします。
税理士報酬が気になって、なかなか踏み出せないという方もいらっしゃるかもしれませんが、制度の適用に失敗してしまっては元も子もありません。
まずは一度、お気軽に税理士にご相談されることをおすすめします。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士