生前贈与は110万円まで非課税|制度利用で2500万円も非課税になる

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生前贈与の非課税枠

相続税対策として多くの人が「生前贈与」を活用しています。

亡くなる前に財産を贈与しておくことで、相続財産を減らし、相続税を軽減できます。また、生前贈与を贈与税の非課税枠内で行えば、贈与税もかかりません。

生前贈与の非課税枠は、年間110万円です。しかし、相続時精算課税制度を利用すると、年間110万円とは別に累計で2,500万円の贈与が非課税になります。

この記事では、だれでも利用できる年間110万円の非課税枠や、大きい金額を一気に贈与したいときに使える相続時精算課税制度、目的に応じた贈与が非課税になるいくつかの制度を税理士が解説します。

暦年課税の非課税枠は年間110万円

通常、1年間に受けた贈与の合計額に応じて贈与税が課税されます。この課税方式を暦年課税といいます。

暦年課税には、年間110万円の基礎控除(非課税枠)があります。

そのため、1年で受けた贈与の合計額が110万円を超えない場合、贈与税の申告・納付は不要です。

この年110万円の基礎控除の範囲で、毎年少しずつ贈与していく方法を暦年贈与といいます。暦年贈与がもっともポピュラーな生前贈与です。

暦年課税の贈与税の税率

なお、暦年課税で年110万円を超えた分には、贈与税の税率(10~55%の8段階の超過累進税率)を乗じて算出された贈与税が課税されます。

18歳以上の人が父母や祖父母から受けた贈与については、特例税率といって、通常よりも低い税率が乗じられます。

贈与税の税率についてより詳しく知りたい方は、関連記事『贈与税の税率が速算表ですぐわかる!|計算方法や特例も解説』をお読みください。

暦年課税の非課税枠を使った生前贈与

暦年課税の基礎控除を使った生前贈与は、1年間に多額の贈与をする場合は贈与税の負担が重くなりますが、複数年で分割して贈与すれば比較的贈与税の負担は少なくなります。

また、年110万円の基礎控除は、受贈者(贈与を受ける人)ごとの非課税枠です。

たとえば子どもが5人いる場合は、1年で5人それぞれに110万円ずつ、合計で550万円を非課税で贈与できます。受贈者が多ければ、それだけ1年で贈与できる金額が増えます。

暦年課税で生前贈与するときの注意点

暦年課税で生前贈与するときの注意点を2つ解説します。

基礎控除内でも贈与税が課税されることがある

複数年にわたり、暦年課税の基礎控除内で贈与を繰り返せば、贈与税がかからず贈与できると解説しました。

しかし、繰り返しの贈与が、「はじめから多額の金額を譲渡する目的の贈与である」と判断された場合には、毎年の贈与が基礎控除内の贈与であっても、贈与税が課税されてしまうことがあります。

そう判断されないためには、以下の対策が有効です。

  • 毎年の贈与ごとに贈与契約書を作成する
  • 毎年贈与額を少しずつ変える
  • 毎年贈与の時期をずらす
  • 110万円を少し超える贈与をして、贈与税を納める

贈与者の死亡前3年の贈与は相続税の課税対象

暦年課税は贈与者の死亡前3年以内(2024年から段階的に死亡7年前まで延長)に行われた贈与については、相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。

たとえ年間110万円以内の贈与だったとしても、相続財産に加算されます。

この制度は、贈与者が亡くなる間近に、「相続税逃れ」のみを目的とした贈与を防止するために設定されています。

相続時精算課税の非課税枠は累計2500万円

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫への贈与について、贈与者ごとに累計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。

相続時精算課税制度を利用する場合には、贈与税申告を行い、その際に「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する必要があります。

税制改正で110万円の基礎控除が追加

税制改正により、2024年から相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。

つまり、まず年間110万円(受贈者ごと)までの贈与には贈与税がかからず、110万円を超えても累計2,500万円(贈与者ごと)までの贈与には贈与税がかからないことになります。

改正前は、累計2,500万円を1円でも超えると、そのたびに贈与税申告が必要だったため、かなり使いやすくなりました。

相続時精算課税の税率

相続時精算課税で、累計の贈与額が2,500万円を超えた場合には、超えた分に対して一律で20%の税率がかかります。

前述した暦年課税の税率は10〜55%なので、超えた金額によっては暦年課税よりも贈与税が抑えられる可能性があります。

相続時精算課税の非課税枠を使った生前贈与

相続時精算課税制度を使った生前贈与の特徴は、1人の受贈者に大きい金額を非課税で贈与できることです。

暦年贈与は非課税内に収めようとすると、1人に対しては年間で110万円までしか贈与できません。

また、暦年課税は贈与者の死亡前3年以内(2024年から段階的に死亡7年前まで延長)に行われた贈与については、相続税の課税対象になると解説しました。

しかし、相続時精算課税では、年110万円以下の贈与は相続財産に加算されず、死亡前3年以内を気にする必要がないので相続が近い方であっても節税することができます。

相続時精算課税で生前贈与するときの注意点

相続時精算課税制度を選択すると、2,500万円までの贈与に贈与税がかかりませんが、贈与者が死亡した際にその贈与財産が相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。

イメージとしては、贈与税の後払いのようなものです。1年ごとに贈与税を払う必要がない代わりに、相続時にまとめて相続税として支払います。

結局後から税金を払うなら、生前贈与のメリットがないと思われるかもしれませんが、ポイントとなるのは、贈与時の時価で相続財産に課税されるという点です。

そのため、贈与してから相続が発生するまでの間に、贈与した財産が値上がりしても、贈与時の時価で相続税を計算できるのです。不動産や株式など時価が変わる財産で、今後の値上がりが見込まれるものを相続時精算課税で贈与しておけば、相続税の節税につながる可能性があります。

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目的に応じた贈与が非課税になる制度

贈与税の配偶者控除の非課税枠は2000万円

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産の取得資金の贈与をする場合、最高2,000万円の配偶者控除を受けることができます。

この控除制度は、婚姻期間20年以上という適用要件から「おしどり贈与」と呼ばれています。

また、この配偶者控除は、年間110万円の基礎控除と併用することができます。

ただし、この適用を受けるには贈与税額がゼロとなるときでも贈与税申告をしなければいけないため注意してください。

なお、居住用不動産を贈与する場合には、贈与税以外に不動産取得税や登録免許税がかかります。

住宅取得等資金の贈与の非課税枠は1000万円

父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に、住宅の新築・取得等のための資金を贈与する場合、一定の金額(省エネ等住宅は1,000万円、一般住宅は500万円)まで贈与税が非課税となります。

この非課税枠は、年間110万円の基礎控除や相続時精算課税の特別控除2,500万円、以下で解説する教育資金の贈与の非課税、結婚・子育て資金の贈与の非課税と併用できます。

なお、現行の適用期限は令和8年12月31日までとなっているため注意してください。

教育資金の贈与の非課税枠は1500万円

父母や祖父母から、30歳未満の子や孫に、教育資金を一括贈与する場合、1,500万円(学校以外への支払は500万円)まで贈与税が非課税となります。

また、この非課税は、年間110万円の基礎控除や相続時精算課税の特別控除2,500万円、住宅取得等資金の贈与の非課税、結婚・子育て資金の贈与の非課税と併用できます。

ただし、この適用を受けるには「教育資金管理契約」を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合の贈与資金の残額は贈与税の課税対象となるため注意してください。

現行の適用期限は令和7年3月31日までとなっているため注意してください。

結婚・子育て資金の贈与の非課税枠は1000万円

父母や祖父母から、18歳以上の50歳未満の子や孫に、結婚・子育て資金を一括贈与においては、1,000万円(結婚費用は300万円)まで贈与税が非課税となります。

また、この非課税は、年間110万円の基礎控除や相続時精算課税の特別控除2,500万円、住宅取得等資金の贈与の非課税、教育資金の贈与の非課税と併用できます。

ただし、この適用を受けるには結婚・子育て資金管理契約を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合の贈与資金の残額は贈与税の課税対象となるため注意してください。

現行の適用期限は令和7年3月31日までとなっているため注意してください。

非課税で生前贈与するときの注意点

贈与するたびに贈与契約書を作成する

「暦年課税で生前贈与するときの注意点」でも解説したように、複数年にわたって決まった金額を贈与し続けると、「定期贈与」とみなされ、各年の贈与が基礎控除内だったとしても贈与税が課税されてしまいます。

定期預金としてみなされないためには、贈与のたびに贈与契約書を作成することをおすすめします。

また、贈与契約書は不動産登記などの名義変更手続きで必要となることがあります。

不動産登記とは、贈与や相続で不動産を取得したときに、「この不動産の名義人は自分である」と登録することをいいます。

名義預金には相続税がかかる

名義預金とは、お金の実質的な所有者と、名義的な所有者が異なる預金のことです。

たとえば、母親が息子の名義で預金口座を開設し、息子の将来のためにお金を預けているケースが該当します。このケースでは、実質的な所有者が母親、名義的な所有者が息子となります。

名義預金とみなされると、贈与税の非課税枠が使えなくなるだけではなく、贈与者の死亡時に名義預金が相続財産に加算され、相続税の課税対象となってしまいます。

名義預金とみなされないための対策でも、贈与契約書の作成は有効なので、贈与の際には贈与契約書の作成を忘れないようにしましょう。

こっそり手渡しで贈与しても税務署にばれる

「金融機関を通して贈与するから贈与税が課税されるんだ、手渡しで贈与すれば贈与税は課税されないはず」とお考えの方もいるかもしれません。

しかし、現金をこっそり手渡しで贈与したとしても税務署にはばれてしまいます。

さらに、贈与税の支払いが必要なほど贈与を受けたにもかかわらず、申告期限までに贈与税の申告・納付を行わないと、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されてしまいます。

贈与税を払いたくないがために黙っていると、かえって多くの税金を払うことになってしまいます。はじめから正しく申告することを心がけましょう。

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相続税の相続税の無料相談

生前贈与のご相談は税理士へ

贈与税の非課税枠内で生前贈与すると、相続税と贈与税をまとめて対策することができます。

ただし、贈与税の非課税枠にはそれぞれメリットやデメリット、適用するときの注意点が存在します。

たとえば、相続前3年以内に暦年贈与した財産が、相続財産に加算されることを知らないと、相続時に思わぬ税負担が発生してしまいます。

せっかく生前贈与で節税をしようとしたのにもかかわらず、予想外の税負担が増えてしまっては元も子もありません。

そのため、贈与税の非課税枠を利用した生前贈与をお考えの方は、ぜひ一度税理士にご相談ください。

税理士に相談すれば、効率的な財産の贈与や節税が叶うのはもちろん、相続が発生したときに相続人同士のトラブルが発生しないような贈与方法をご提案できます。

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アトムグループ 協力税理士

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