みなし贈与税を徹底解説!課税されるケースや対策方法も紹介します

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みなし贈与税とは?

贈与は、贈与する側の「あげる」という意思と、される側の「もらう」という意思があり、双方が贈与について合意していることが成立の条件となっています。

では「みなし贈与」とは何なのでしょうか。

みなし贈与とは、「あげる」という意思と「もらう」という意思がないまま、贈与と同じ財産の移転をしているため、実質贈与としてみなされている状態をいいます。

贈与としてみなされているため、もちろん贈与税も課税されます。それが「みなし贈与税」です。

実は私たちは日常の生活において、知らないうちにみなし贈与税が課税されるような「みなし贈与」をおこなってしまっているおそれがあります。

そこで、この記事では、みなし贈与税が課税されるケースや贈与との違い、生前に財産の移転をする上で知っておいていただきたいことをわかりやすく解説します。

実質的な贈与はみなし贈与税の課税対象

みなし贈与税とは?

みなし贈与税とは、当事者に、贈与に当たる行為をおこなったという認識がないまま財産などの受け渡しがされた際、その受け渡し行為(みなし贈与)に対して課される贈与税のことです。

通常の贈与やみなし贈与にかかわらず、贈与税は財産をもらった側に支払う義務があります。

なお、みなし贈与については、明確な基準が法律で定められておらず、みなし贈与に該当するかどうかはケースごとに、税務署によって個別で判断されます。たとえば、社会通念上著しく低い価格で取引をするなど実質的に贈与と等しいと判断される場合や、受贈者に経済的な利益が生じる場合などは、みなし贈与と判断されています。

贈与税とは?

ここで一度「贈与税」についておさらいしておきましょう。

まず贈与とは、贈与者(財産をあげる人)が財産を無償で受贈者(財産をもらう人)に与える契約で、書面または口頭で成立します。つまり、贈与も契約ですから、贈与者の一方的な意思表示だけでなく、受贈者が財産を受け取る意思表示をすることによってはじめて成立することになります。

そして、個人が個人から財産の贈与を受けた場合、暦年課税においては、通常は1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産が一定の金額を超えた場合などに、受贈者が贈与税を申告して納税を行わなければなりません。

みなし贈与に伴うリスク

みなし贈与の場合には、当事者には贈与にあたるような行為をおこなったという認識がありません。みなし贈与に該当するかどうかは、税務署により社会通念に照らして個別に判断されますので、通常は、税務署からの指摘を受けてから、贈与税の申告と納税を行うことになります。

さらに、贈与税には相続税よりも高い税率が設定されています。そしてみなし贈与は、当事者に贈与の自覚がないため、すでに贈与税の申告期限を過ぎていたということも少なくありません。このような場合には、贈与税に加えて延滞税や加算税などのペナルティが課せられることもあります。

すなわち、気がつかない間に贈与をして、気がつかない間に贈与税が課税され、気がつかない間に贈与税の申告・納付期限を過ぎてしまっているおそれがあるということです。

そして、当事者が財産の受け渡しをした後にみなし贈与にあたると気がついたとしても、あとから贈与税を軽減する対策をとることは難しいです。

贈与税が未納な場合のペナルティについては、関連記事『贈与税の申告忘れると【無申告課算税】の対象|追徴課税と注意点を解説』をお読みください。

みなし贈与税が課税されやすいケース7選

みなし贈与については明確な基準が法律で定められているわけではありませんが、不動産の取引、保険の契約、借金など、日常の生活においてみなし贈与と判断され、みなし贈与税が課税されることも多くあります。そこで、社会通念に照らしてみなし贈与と判断されるケースを紹介します。

1. 対価を負担せず、不動産の名義を得た場合

たとえば、親が所有している土地の上に親のお金1,000万円で家を建てた場合、将来相続税がかかってしまうからと家の名義を子どもにするとみなし贈与税が課されてしまいます。

これは、子どもに1,000万円を現金で贈与して、子どもが家を建築した場合となんら変わらないからです。親子の間で贈与の意図がなかったとしても、贈与税の対象となるので注意しましょう。このような場合には、住宅取得等資金の非課税など贈与税の特例を利用して節税を図りましょう。

2. 非上場株式の名義変更をした場合

資産価値のある非上場の株式を対価を得ることなく、名義変更した場合もみなし贈与と判定されます。

非上場企業は、株主が社長のみのオーナー企業も多く、社長から子どもに事業承継する親族内承継も広く行われています。その際、会社の株式についても一定の手続きを経て子ども名義に変更することがあるのです。

ただし、非上場株式については、会社の財産状況や業績によっては相続税評価額が0円とされる場合もあります。このような場合は、贈与税の課税対象が0円であるため、みなし贈与でも税金の問題は生じません。

3. 著しく低い価額で財産を譲渡された場合

無償で譲渡を行うとみなし贈与になるのであれば、極端な話しですが、1円で譲渡したらどうでしょうか。もちろん、その場合も時価との差額はみなし贈与とされます。

時価に比べて著しく低い価額で不動産や株式などの財産を譲り受けた場合は、その財産の時価と支払った対価との差額は贈与により取得したものとみなされます。
著しく低い価額とは、個々の具体的事案に基づき判定するものとされています。そのため、時価の何%で譲渡を行ったらみなし贈与になるのか、法律などには基準がありません。しかし、時価の80%未満で譲渡した際にみなし贈与に該当するとした前例があるので、実務上は80%がひとつの目安とされています。

4. 借金などの債務の免除で利益を受けた場合

借金の返済などの債務を免除してもらった場合は、贈与により経済的な利益を受けたものとされ、みなし贈与と判定されます。

具体的には、子どもの借金を親が代わりに返済したケースだと、子どもは直接贈与をされていないものの、借金という負債はなくなるため、利益を受けたことになります。

また、親から子どもに「出世払いでいいから」とお金を貸して、その返済が滞った場合にも、貸し借りではなく贈与として判定され、みなし贈与とされることがあります。

5. 保険料を負担していない保険の保険金などを受け取った場合

保険の契約者(保険料の負担者)と保険金などの受取人が異なる場合は、受け取った保険金などが贈与により取得したものとみなされます。

満期保険料の受取人が契約者と異なる場合に贈与とみなされるのはもちろんですが、満期を迎える前に契約者を親から子どもなどに名義変更した場合でも、親が支払っていた金額分についてはみなし贈与と判定されます。

6. 納税義務を肩代わりしてもらった場合

子どもが親に税金を代わりに支払ってもらった場合などは、代わりに支払ってもらった金額分がみなし贈与として判定されます。

子どもが直接贈与を受けたわけではないですが、このような場合にもみなし贈与税が課税されてしまいます。

なお、民法で定められている扶養義務者(父母、祖父母など)からの必要に応じた生活費や教育費の贈与には贈与税がかかりません。

7. その他の経済的な利益を受けた場合

離婚に際して財産分与による財産の移転があった場合、その分与財産の額が過度に高額とみられるときは、その金額部分は贈与によって取得した財産とみなされます。

また、払い込みの期間が終了した個人年金の年金受給権を、契約者(保険料の負担者)から子どもなどに譲ると、みなし贈与と判定されます。

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生前に財産の移転を行うときに知っておきたいこと

一般的に、相続税対策として、生前贈与により計画的に財産を相続人に移転することは有効です。ただし、贈与という形式をとらずに生前に財産の移転を行う場合には、先に紹介したケースのようにみなし贈与と判断されて、みなし贈与税が課税されることがあります。そこで、このような生前に財産の移転を行う場合にも、生前贈与と同様に贈与税がかからないように対策をすることが必要となります。

相続税と贈与税の違いについては、関連記事『贈与税と相続税の違いは?贈与と相続はどちらが得か徹底比較!』をお読みください。

生活費や教育費の提供には贈与税が課税されない

通常の贈与においても、父母や祖父母などの扶養義務者が生活費や教育費に充てるために通常必要と認められる範囲内で子や孫に贈与するのであれば、原則として贈与税は課税されません。したがって、父母や祖父母などからの生活費や教育費など、社会通念上妥当と認められるものは、みなし贈与には該当しませんので、みなし贈与税の対象にもなりません。

ただし、非課税となる生活費や教育費は、必要な都度、直接生活費や教育費に充てるためのものに限られています。多額の資金をまとめて提供する場合には、贈与税の課税対象になりますので注意しましょう。

贈与税の非課税枠を6つ紹介

生前の財産の移転においても、生前贈与と同じように贈与税の非課税枠を利用して、移転する財産が非課税枠内に収まるようにしておくことで、贈与税がかからないような対策を行うことができます。

生前の財産の移転において、活用できる贈与税の非課税枠には次のようなものがあります。

①暦年贈与の非課税枠(年間110万円)の利用

通常の暦年課税方式の贈与においては、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から110万円の基礎控除があります。つまり、受贈者が受けた贈与の合計額のうち年間110万円までは贈与税はかからず、申告も不要となっています。

暦年贈与などの生前贈与の非課税枠については『生前贈与はいくらまで非課税?|暦年課税、相続時精算課税、特例を解説』の記事もご参照ください。

②相続時精算課税の非課税枠(累計2,500万円)の利用

60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の推定相続人である子または孫への贈与において、相続時精算課税制度を選択した場合には、贈与者ごとに、贈与財産の価額の合計額から累計で2,500万円の特別控除があります。

ただし、相続時精算課税制度を選択するには届出をしなければならず、また、いったんこの制度を選択すると暦年課税方式に戻すことはできません。

なお、税制改正により、2024年1月以降の贈与には、2,500万円の特別控除以外に、暦年課税と同じく毎年110万円の基礎控除が設けられました。

相続時精算課税制度は大幅な非課税枠を利用できる制度である反面、利用に際していくつか気を付けたい点も存在します。

知っておきたい相続時精算課税制度のデメリットは、関連記事『【最新】相続時精算課税制度のデメリットを7つ紹介|改正でメリットは増えた?』で詳しく解説していますのでぜひお読みください。

③居住用不動産やその取得資金の贈与における配偶者控除(2,000万円)の利用

夫婦間での一定の居住用不動産または居住用不動産の取得資金の贈与においては、婚姻期間20年以上などの一定の要件を満たす場合に、課税価格から最高2,000万円の配偶者控除を受けることができます。

ただし、この適用を受けるには贈与税額がゼロとなるときでも贈与税の申告をしなければならないため注意しましょう。

④住宅取得等資金の贈与の非課税枠(1,000万円)の利用

直系尊属から18歳以上の者への一定の住宅の新築・取得等のための資金の贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合に、一定の金額(省エネ等住宅は1,000万円、一般住宅は500万円)まで贈与税が非課税となります。

住宅購入に使える生前贈与の非課税枠について、詳しくは関連記事『住宅購入資金の生前贈与で活用できる非課税制度|要件や注意点を解説』をお読みください。

⑤教育資金の贈与の非課税枠(1,500万円)の利用

直系尊属から30歳未満の者への教育資金の一括贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合には、1,500万円(学校等以外への支払は500万円)まで贈与税が非課税となります。

ただし、この適用を受けるには教育資金管理契約を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合は、非課税拠出額の残額は贈与税の課税対象となります。

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教育資金の贈与に相続税はかかる?相続税対策になるって本当?

⑥結婚・子育て資金の贈与の非課税枠(1,000万円)の利用

直系尊属から18歳以上の50歳未満の者への結婚・子育て資金の一括贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合には、1,000万円(結婚費用は300万円)まで贈与税が非課税となります。

ただし、この適用を受けるには結婚・子育て資金管理契約を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合は、非課税拠出額の残額は贈与税の課税対象となります。

結婚・子育て資金の贈与の非課税枠について詳しくは、関連記事『結婚・子育て資金の一括贈与は1,000万円まで非課税|適用条件も解説』をお読みください。

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生前の財産の移転や生前贈与のご相談は税理士へ

このように、生前に財産の移転を行う場合には、贈与にあたるとは思っていなかったのに、あとからみなし贈与と判断され、みなし贈与税が課税されることがあります。当事者に贈与という意図や認識がなくても、みなし贈与に該当するかどうかは税務署により個別に判断されます。

また、生前贈与における贈与税の非課税枠を利用するにあたっては、相続時精算課税や配偶者控除、住宅取得等資金などの非課税の特例の適用の要件を満たしているか、またこれらを併用することができるかの判断が必要になります。

そのため、生前に高額の財産などを移転する場合や生前贈与によって節税をしたいと考えておられる場合には、贈与の非課税枠を適切に活用するためにも、早めに税理士にご相談されることをおすすめいたします。

税理士は、税金の申告など個別具体的な税務相談に応じることができる唯一の専門家です。税理士は贈与税の申告のサポートや代行にとどまらず、節税や相続などについても有効なアドバイスを提供してくれます。

また、贈与を受けたものの税金がいくらかかるかわからないとお困りの方や贈与税の手続きに不安がある方も、お気軽に税理士にお問い合わせください。

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