相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できない|違いや選び方も解説
贈与の際にかかる贈与税の課税方法には、「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」2つの種類があります。
そして、相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できません。
そのため、節税を考えた効率的な贈与をするには、それぞれの特徴や計算方法を正しく知っておく必要があります。
この記事では、相続時精算課税制度と暦年贈与の基礎知識と、選び方について解説します。
※令和5年税制改正による、相続時精算課税制度の仕様変更にも対応しています。
目次
相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できない
冒頭でも述べた通り、相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できません。
贈与税の課税方法は、通常「暦年贈与」といわれる、1年単位で贈与に対して課税する方法ですが、税務署に届出書を提出すると、相続時精算課税制度に変更できます。
しかし、相続時精算課税制度に変更すると、二度と暦年贈与に戻れなくなってしまうため注意が必要です。
相続時精算課税制度と暦年贈与の違い
相続時精算課税制度と暦年贈与の主な違いを表にまとめてみました。以下をご覧ください。
令和6年1月1日以降の贈与を想定しています。
以下でそれぞれの制度について詳しく解説します。
相続時精算課税制度の特徴
精算課税制度とは、推定相続人や孫に贈与をする場合に、相続時に相続税を課税することを前提として税務署に届出をして行う贈与になります。精算課税制度による贈与の特徴について解説します。
税務署に届出が必要
まず、精算課税制度は申告と同時に税務署に精算課税を選択する旨の届出書を提出する必要があります。
この届出の提出がない場合には、精算課税制度による贈与ではなく、暦年贈与とされます。届出をせずに高額な贈与をしてしまうと、累進課税で思わぬ高い税率が課税されてしまいますので、注意が必要です。
受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除
受贈者1人につき年間110万円までの贈与については、精算課税制度を選択した後も非課税となります。
この点については、令和5年税制改正で追加された項目であり、以前は精算課税を選択した後、暦年贈与に戻れないことによる最大のデメリットでしたが、年間110万円の非課税枠は精算課税制度による贈与でも、暦年贈与でも適用できるようになりました。
累計2,500万円まで非課税になる
精算課税制度は届出をした初年度から、毎年110万円を控除した後の金額が、累計で2,500万円まで特別控除により非課税となります。
この累計2,500万円を超えたところの財産の評価額に対して、20%の税率で贈与税が課税されます。暦年贈与と違い、税率は定率での課税となります。
なお、この累計2.500万円は贈与者単位で考えます。
たとえば、父からの2,500万円の贈与と、母からの2,500万円の贈与にそれぞれ精算課税制度を適用することが可能です。
先述した年間110万円の基礎控除は、受贈者単位で考えるため、間違わないように注意してください。
贈与してもすべて相続財産となる
精算課税制度の選択をした後は、その選択をした贈与者からの贈与については、すべて相続財産に加算(相続時に精算)されることになります。
そのため、単に精算課税制度による贈与を行っただけだと、相続税の節税にはならない場合があります。
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精算課税制度の選択の撤回はできない
先述の税務署への届出をした後は、その届出をした贈与者から受贈者への贈与については全て精算課税制度による贈与となります。また、この届出を撤回して暦年贈与に戻すことはできません。
つまり、同じ受贈者に対して、精算課税制度による贈与と暦年贈与は併用することができません。
精算課税制度では小規模宅地等の特例が使えない
相続の場合には、相続により自宅を相続した相続人の居住を妨げないよう、税負担を軽減する小規模宅地等の特例という制度があります。
しかし、この特例は贈与の際には使えないため、精算課税制度による贈与で自宅などを贈与した場合、相続時には相続財産に加算されますが、税負担の軽減措置である小規模宅地等の特例は受けることができません。
小規模宅地等の特例について詳しくは、関連記事『【相続税】小規模宅地等の特例の計算方法がわかる|ケースごとの計算例付き』をお読みください。
暦年贈与の特徴
暦年贈与とは、1月から12月まで(暦年)に行った贈与について、精算課税制度を選択していない場合の贈与税の計算方法です。続いて、暦年贈与の特徴について解説します。
受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除
暦年贈与の場合も、年間110万円以下の贈与については非課税となり贈与税の申告をする必要がなく、贈与税の納税も不要です。そのため、毎年110万円を贈与する場合には、原則として税金の負担がなく、相続財産を減らすことができます。
ただし、毎年一定の金額を贈与していると、名義預金とみなされるおそれがあります。名義預金には相続税が課税されるおそれがあるので注意しましょう。
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名義預金は贈与税・相続税がかかる?名義預金の認定の回避策も解説
累進課税になる
暦年贈与の場合には、精算課税制度と違い、贈与税の税率が累進課税となっています。また、この贈与税の税率は相続税の税率より高く設定されており、相続税の税率を意識して暦年贈与を実施しないと相続税対策にならない場合があります。
このため、多額の贈与を行いたい、不動産など分割できないものを贈与したいといった場合には暦年贈与は向いていません。
贈与する相手によって税率が違う
暦年贈与は贈与を受ける人によって税率が異なります。
贈与を受けた年の1月1日時点において18歳以上の子や孫が、その父母、祖父母などの直系尊属から受ける贈与については税率の低い特例贈与の税率が適用されます。
それ以外の方が贈与を受ける場合には、税率の高い一般税率となります。それぞれの税率は以下の通りです。
例えば、1,000万円贈与した場合、贈与したのが親、贈与を受けた方が18歳以上の子どもである場合に支払うべき贈与税は、
(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円(特例贈与)になります。
一方で贈与を受けた方が兄弟姉妹である場合には、
(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円(一般贈与)
となり、特例贈与の税率の方が贈与税の負担が低くなっています。
推定相続人以外への贈与については、相続時に生前贈与加算の対象とならず、贈与により相続財産を圧縮することができるため、税率の負担の高い一般税率となっているものです。
生前贈与加算の対象となる
暦年贈与の場合、相続の開始があった際に、相続の開始直前の贈与については相続財産に加算する決まりがあります。つまり相続があった年に応じて一定の期間中の贈与がなかったものとされ、相続財産としてあつかわれるわけです。
令和6年中に相続の開始があった場合→最長で4年
令和7年中に相続の開始があった場合→最長で5年
令和8年中に相続の開始があった場合→最長で6年
令和9年以降に相続の開始があった場合→最長で7年
年ごとに加算期間が延長され、最大で7年間さかのぼり贈与がなかったものとして相続財産に加算されることになります。順次延長される4年間の贈与金額からは合計で100万円が控除されます。
これは、例えば被相続人の体調が悪くなり、慌てて贈与したからといって、相続財産を減らす結果とならないようにしているものです。
この生前贈与加算は、令和5年税制改正の以前は亡くなる前3年間でした。この期間が延長されることにより暦年贈与の相続税の節税効果が低くなっています。亡くなる前4年間〜7年間に入らないように、暦年贈与を検討されている方はなるべく早めに贈与を開始すると良いでしょう。
暦年贈与と相続時精算課税制度の選び方
では、暦年贈与と精算課税制度を併用できないことと、それぞれの特徴はわかりましたが、どちらの贈与を選んだ方が相続税の対策となるのでしょうか。
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暦年贈与を選択した方が良い場合
相続人以外への贈与も検討している場合
暦年贈与には贈与者と受贈者の要件がありません。そのため、相続人となる方以外、例えば孫などへの贈与を行うと、生前贈与加算の適用がなく、相続財産を減らす対策となります。
ただし、贈与税の税率は税率の高い一般税率となりますので、相続税の節税効果と贈与税の負担を考慮して決定する必要があります。
贈与を受けることができる人数が多い場合
贈与を受けることができる方が多い場合には、暦年贈与課税の方が相続財産の圧縮につながります。
年間110万円以下の非課税枠内の贈与であっても、3人子どもがいる場合には、贈与税0円で1年で330万円の相続財産を減らすことができます。
長期間かけて贈与することができる場合
コツコツと長年贈与をする事が出来る場合には、暦年贈与の方が相続税の圧縮につながります。
年間110万円以下の非課税枠内の贈与であっても、10年継続すれば、贈与税0円で1,100万円の相続財産を減らすことができます。
相続時精算課税制度を選択した方が良い場合
今後値上がりが見込まれる財産がある場合
精算課税制度は最終的に相続財産として相続税が課税されます。しかし、相続財産に加算する贈与の金額は、贈与時点の金額が加算されることとされています。そのため、今後値上がりすることが見込まれる財産については精算課税制度による贈与が向いている場合があります。
例えば、将来的に開発される見込みがある地域の土地、一時的な赤字、不況の影響などで価値の下がった株式、先代の退職金の支給により価値の下がった自社株式などです。
今後価値が上がる見込みがあり、相続するときには多くの相続税がかかってしまうだろうという財産を、先に今の価値で贈与しておこうということです。
不動産など金額が大きく、分割しにくい資産を贈与する場合
暦年贈与を使った場合、贈与する金額が大きいと累進課税により贈与税の負担が重くなってしまいます。
そのため、不動産のように分割がしづらい財産については相続時精算課税制度の方が使い勝手が良いです。
収益不動産を贈与する場合
家賃収入を得られる収益不動産などを贈与する場合、贈与後に入ってくる家賃収入は被相続人のものではなく、贈与を受けた人のものになりますので、将来的な家賃収入を相続財産としないために相続精算課税制度により贈与を受けることも有効です。
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相続時精算課税制度と併用できる制度
相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できませんが、贈与税が一部非課税となる制度の中には、相続時精算課税制度と併用できるものもあります。併用することで大幅な節税につながることもあるため、以下でひとつずつ解説します。
住宅取得等資金における非課税制度
まず、「住宅取得等資金における非課税制度」と相続時精算課税制度は併用できます。
これは、直系尊属から住宅を取得するための資金の贈与を受けた場合に、制度の要件を満たすことで贈与税のうち、一定金額が非課税になる制度です。
具体的には、受贈者ごとに省エネ等住宅の場合には1,000万円、それ以外の住宅は500万円を上限として住宅取得等資金の贈与が非課税になります。
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教育資金の一括贈与における非課税制度
また、「教育資金の一括贈与における非課税制度」も相続時精算課税制度と併用できます。
これは、30歳未満の子や孫に、教育費に充てるために通常必要と認められる範囲内で行う贈与に対しては、贈与税を課税しないという制度です。
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結婚・子育て資金の一括贈与における非課税制度
「結婚・子育て資金の一括贈与における非課税制度」と相続時精算課税制度も併用できます。
これは、子や孫に対して結婚や子育てのために必要な資金を一括贈与すると、受贈者ごとに1,000万円を上限に、贈与税が非課税になる制度です。
なお、非課税になる1,000万円のうち、結婚のための資金は300万円が上限とされています。
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【最新】暦年贈与、相続時精算課税制度の改正について
ここまでの説明は令和6年1月1日以後の贈与について解説をしています。
暦年贈与
令和5年中に相続の開始があった場合、暦年贈与の場合の生前贈与加算の期間は3年間となる(延長期間がないため、合計100万円の控除もなし)
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精算課税制度
精算課税制度による贈与について、年間110万円までの非課税(基礎控除)は、令和6年1月1日以降の贈与から適用
生前贈与をする前に税理士にご相談を
ご説明したとおり、精算課税制度については一度選択すると暦年贈与が使えなくなります。
ご自身の相続について、本当に相続税対策になるのは、精算課税制度による贈与なのか、暦年贈与なのか、判断をするには将来の相続税額、親の年齢、贈与を受ける方の年齢、人数など様々なことを考慮する必要があります。
ぜひ、一度税理士にご相談ください。最終的な相続税の負担まで見据えたあなたに最適な生前贈与のプランをご提案致します。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士