賃貸アパートの相続税を計算|賃貸アパートが相続税対策になる理由も解説
「銀行から賃貸アパート・マンションの建築を勧められている」
「親が賃貸アパートを所有しているが、相続税はどうなるの?」
このような疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
原則、相続税は相続する財産の相続税評価額が低くなると、税額も下がっていきます。
そして、賃貸アパートの相続税評価額は、実際の取引価格よりも低く設定されているため、現金で相続するよりもアパートとして相続した方が相続税の負担を軽減することができます。そのため、賃貸アパートは相続税対策になるというわけです。
この記事では、賃貸アパートの相続税がどのように計算されるか、賃貸アパートにかかる相続税の節税方法、賃貸アパートにかかるその他の税金について解説します。
目次
賃貸アパートにかかる相続税の計算方法
賃貸アパートや賃貸マンションにかかる相続税の計算は、以下の4ステップで行います。
- 建物と土地の相続税評価額を求める
- 貸していることに対する評価の減額がある
- 小規模宅地等の特例を適用する
- ほかに相続する財産の相続税評価額と合計して相続税を計算する
1.土地と建物の相続税評価額を求める
賃貸アパートや賃貸マンションなどの不動産を相続した際には、土地と建物に分けて、それぞれ相続税評価額を算出します。
土地の相続税評価額は、国税庁が定める路線価を用いた「路線価方式」で算出します。
【路線価方式の計算式】
土地の相続税評価額=路線価×土地の面積
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。
建物の相続税評価額=固定資産税評価額×1.0
関連記事
土地を相続したら相続税はかかる?相続税の計算や土地の評価方法を解説
2.貸していることに対する評価額の減額がある
賃貸アパートや賃貸マンションなどを他人に通常の家賃相場で貸し出している場合は、その物件について借地借家法の規定により所有者の自由な使用収益を妨げられるため、相続税評価の際に評価の減額を受けることができます。
まずは土地の相続税評価額を減額していきます。賃貸アパートなどに使用されている土地は貸家建付地と呼ばれ、以下の計算式で評価の減額をすることができます。
土地の相続税評価額=評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は、地域によって30~90%で定められており、路線価図で確認することができます。
借家権割合は、全国で一律30%と決まっています。
賃貸割合は、実際に貸し出している面積の割合です。
次に建物の相続税評価額を減額していきます。建物の場合は、借家権割合と賃貸割合を用いて計算します。
建物の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
3.小規模宅地等の特例を適用する
小規模宅地等の特例とは、相続した土地が一定の条件を満たしている場合に、最大で80%相続税評価額を減額できる制度です。
賃貸アパートや賃貸マンションは、「貸付事業用宅地等」という分類で、土地の面積のうち200㎡を限度として、50%の減額を受けられます。
ただし、アパート経営をはじめて3年以内の相続では「小規模宅地等の特例」を適用できないため、早いうちから相続税対策に向けて動き出すことが重要です。
相続税における小規模宅地等の特例については、関連記事『ケース別・小規模宅地等の特例の計算方法と計算例!適用要件や注意点も解説』をお読みください。計算方法や適用の要件について詳しく解説しています。
4.ほかに相続する財産の相続税評価額と合計して相続税を計算する
土地と建物の相続税評価額が求められたら、ほかに相続する財産の相続税評価額と合計して、相続税の計算をします。
不動産を含む相続税の計算は複雑化するため、不動産を相続した際には相続に強い税理士に相談されることをおすすめします。
ご自身で相続税を計算してみたいという方は、関連記事『相続税額をシミュレーションできる計算方法を解説!』をご参考ください。実際に数字を当てはめたシミュレーションつきでわかりやすく解説しています。
賃貸アパートの相続税評価額の具体例
前提条件として以下のような総額1億円で賃貸アパートを建築し、そのうち3,000万円はローンで調達した自己負担7,000万円の場合、相続税評価額は以下の通りになります。
アパートの敷地(土地)の取得金額 6,000万円(面積300㎡)
アパート(建物)の建築価格 4,000万円
アパート建築のためのローン残額 3,000万円
借地権割合 60%
借家権割合 30%(全国一律)
賃貸割合 100%(貸付期間は3年超と仮定・空室なし)
■土地の路線価
取得金額6,000万円の路線価8割相当で4,800万円
■土地の貸家建付地評価
4,800万円×(1-借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%)=3,936万円
■小規模宅地等の特例による評価減
貸付期間は相続開始時点において3年超3,936万円×限度面積200/300㎡×50%=▲1,312万円
■建物の固定資産税評価額
建築価格4,000万円の固定資産税評価額7割相当で2,800万円
■建物の貸家評価
2,800万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合100%)=1,960万円
■相続税評価額の合計
土地3,936万円−小規模宅地等の特例1,312万円+建物1,960万円-ローン残債3,000万円=1,584万円
つまり、自己負担額7,000万円で賃貸アパートを建築するだけで1,584万円と大幅に相続税評価額が下がります。小規模宅地等の特例は相続人がアパート経営を継続することなどの要件がありますが、7,000万円の相続財産の評価額を約77%も圧縮できることになります。
賃貸アパートの相続税評価額が低い理由
不動産は相続税評価額が低い
相続税の評価上、不動産については評価額が低く抑えられています。
例えば、土地については時価に近いとされる公示価格の8割相当額で評価される路線価を用いています。路線価とは国税庁が毎年1/1時点における日本中の道路に接する宅地等の1㎡あたりの評価額を決めたものです。つまり、税務署が時価の8割相当で評価しても良いと認めているのです。
建物については建築価格から算定される固定資産税評価額を用いるのですが、この固定資産税評価額も実際の建築価格の7割相当とされています。
相続税法上は財産の評価は時価によって行うという原則があります。
不動産の評価額が時価の8割相当や7割相当で評価されるのは、年の始めと年の終わりで時価との乖離が大きくならないようにある程度の余裕を持たせた結果です。
年間を通じて不動産の価値が上がっていったとしても、年の終わりにおいて相続税評価額が時価を超えるようなことにならないように配慮されています。
人に貸していると相続税評価額が下がる
相続税評価額は、自分で使っている不動産と他人に貸している不動産では、他人に貸している不動産の方が評価額が低くなります。
日本の不動産は借地借家法の影響により賃借人の権利保護が強く、自己が所有している不動産であっても利用価値が低くなると考えられるためです。
どの程度評価が低くなるのかというと、土地の場合には地域によって異なる借地権割合が国税庁によって定められており、30%〜90%の範囲で設定されています。
借地権割合60%の地域では、土地所有者の権利は40%で、土地を借りている人の権利が60%として考えます。
建物についても借家権割合があり、こちらは全国一律30%となっています。
借地権割合60%の地域の場合、土地自体を貸している場合は評価額が60%控除されますが、賃貸アパートは建物のみを貸しているので、自己が所有する賃貸アパートの敷地は60%×30%を乗じた評価額の18%を控除する「貸家建付地」、賃貸アパートの建物は評価額の30%を控除する「貸家」評価となります。
関連記事
小規模宅地等の特例が使えると相続税評価額が下がる
賃貸アパートの相続については、そのアパートに居住する方の住居を守る意味合いで相続人がアパート経営を継続する場合に限って、相続税の負担を軽減する小規模宅地等の特例が使えます。
この小規模宅地等の特例は、適用対象は賃貸アパートの敷地のみです。賃貸アパートの敷地について面積200㎡まで50%の評価減をすることができます。ただし、相続開始時点において貸付開始からの期間が3年以上あることが要件です。
関連記事
ケース別・小規模宅地等の特例の計算方法と計算例!適用要件や注意点も解説
ローンが残っていると債務控除できる
不動産を購入する際に銀行からローンを利用していると、相続開始時においてローンの残額については債務として、相続税の評価額から控除することができる債務控除を利用することができます。
購入当初、不動産の評価額は購入価格よりも低くなるということを考えると、債務控除により、財産の評価額はマイナスになることも考えられます。
関連記事
なぜ相続税対策でマンションを購入するの?メリットと注意点も解説
賃貸アパートの相続税はどれくらい低くなる?
賃貸アパートの相続税評価額が低いことについて説明しました。では、この評価額で実際どれぐらい相続税の額を減少させる効果があるのでしょうか。
相続税の計算は遺産の総額に対して計算されるため、遺産の総額が多くなると税率が高くなるものですが、ここでは相続財産の総額が1億5,000万円として計算します。賃貸アパートの相続税評価額は小規模宅地等の特例も考慮して、先の例の通り1,584万円とします。
1億円を現金で相続する場合と1億円の賃貸アパートを建築した場合の比較
相続人は子ども2人のみとして相続税額を計算します。
1億円を現金のまま | 1億円で賃貸アパートを建築 | |
---|---|---|
遺産の内訳 | 現金 1.5億円 | 賃貸アパート建築1億円※3,000万円はローンで調達現金 8,000万円 |
相続税評価額 | 1.5億円 | 賃貸アパート1,584万円+8,000万円=9,584万円 |
基礎控除(子ども2人) | 4,200万円(3,000万円+600万円×法定相続人の人数) | |
基礎控除後の各人ごとの法定相続分 | (1.5億円-4,200万円)×1/2=5,400万円 | (9,584万円-4,200万円)×1/2=2,692万円 |
各人ごとの相続税額 | 5,400万円×30%-700万円=920万円 | 2,692万円×15%-50万円=353.8万円 |
相続税の合計額 | 920万円×2人=1,840万円 | 353.8万円×2人=707.6万円 |
参考:国税庁HP No.4155 相続税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
ローンを組んで賃貸アパートを建築するだけで、相続税額を1,840万円から707.6万円と節税することができ、1,000万円以上相続税額を削減することができました。遺産総額1億5,000万円の場合、相続税の額は約62%削減できたことになります。
賃貸アパート建築は慎重に
相続人に毎月の不動産収入を残すことができ、さらに相続税の節税にもなる賃貸アパートをすぐにでも検討したいと思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
賃貸アパートを建築するということは、アパート経営をするということです。
建築時のローンの返済は相続人が引き継がなければいけません。家賃収入を見込んでローンの返済を考えていた場合、空室となったらローンの返済に困ってしまいます。アパート経営ですから、賃借人との揉め事や老朽化した際の修繕費や建て替えなど考えるべき問題は様々あります。
不動産のプロでも難しい不動産投資に素人が手を出すわけですから、しっかりと考えた上で行わなければなりません。
相続税の節税効果をうたい、ローンの金利を得ようとする銀行や建築後の管理料収入を得ようとする不動産会社は、財産が多い方に対して、安易に賃貸アパートの建築を勧めがちになります。利害関係のない立場で検討できるのは税理士などの専門家に限られるのではないでしょうか。
賃貸アパートにかかる相続税を「生前贈与」でさらに節税
賃貸アパートの評価額、相続税額が低いことは分かっても、もっと節税したいと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
賃貸アパートにかかる相続税を節税する方法の一つが生前贈与です。
節税効果については、遺産の総額や贈与の方法により異なりますので、ここでは生前贈与のメリットデメリットについて説明します。
生前贈与のメリット
贈与後の不動産収入が相続税の対象でなくなる
賃貸アパートを贈与する場合には、贈与税の対象である固定資産税評価額が低い建物部分のみ贈与することが一般的です。(デメリットで説明する負担付き贈与の場合は、固定資産税評価額となりませんので、ご注意ください)
建物のみの贈与であっても、不動産収入は受贈者のものになりますので、不動産収入から経費や税金を引いた残りが年間500万円あるとすると10年間で5,000万円の現金が相続税の対象から除かれることになります。
累進課税である所得税の所得分散ができる
贈与者がその他にも不動産収入が多くある場合、贈与した賃貸アパートについて自身の不動産収入から除かれるため、累進課税である所得税の税率が下がることがあります。
賃貸アパートを引き継ぐ相続人を親が選択できる
被相続人が賃貸アパートを引き継ぐ方を決める場合、遺言書を書く必要があります。この遺言書は、法的に有効な形式で残さなければいけないことや、相続人全員の同意があれば、遺言書と違う相続をすることも可能であるなど望む通りの相続にならないことがあります。
遺言書がない場合には、相続人全員の分割協議で引き継ぐ方を決めますが、このときに揉める可能性もあります。
生前贈与により、賃貸アパートを引き継ぐ方を決める場合は、確実に望む方に引き継ぐことができます。
生前贈与のデメリット
贈与税の負担が発生する
贈与の場合には、金額によっては贈与税の負担が発生します。相続税は基礎控除以下である場合には、税金の負担がありませんので、わざわざ贈与税を払ってまで生前贈与する必要があるのか、検討が必要です。
負担付贈与に注意する
賃貸アパートである建物を贈与する際に、建築時のローンが残っていると、ローン部分も受贈者が引き継ぐ必要があります。マイナスの財産であるローンを引き継ぐことを条件に、プラスの財産である建物部分を贈与することを「負担付贈与」といい、贈与税の課税上は負担付贈与である場合、評価の低い固定資産税評価額を使用することができず、時価(贈与時の売却見込額)での評価となります。
また、ローンだけではなく、賃借人から受け取っている敷金についても返済義務があり、同様の扱いとなります。
小規模宅地等の特例が使えない
小規模宅地等の特例の要件は、被相続人が自己の所有する賃貸アパートの敷地を相続する場合に限られますので、賃貸アパートの建物を生前贈与した場合、その後の相続においては土地部分が被相続人の賃貸アパートの敷地ではなくなります。
そのため、小規模宅地等の特例が使えず、評価額の50%減が使えなくなります。
相続時に争いの種になることがある
生前贈与を受けた子どもと受けていない子どもがいる場合、特別受益として相続の際に揉める原因となることがあります。
相続人には遺留分という最低限相続をする権利があり、この生前贈与による特別受益も遺留分の計算上考慮されるためです。
賃貸アパートを長男に贈与したケースで、贈与後は不動産収入を得ることができるため、贈与を受けた長男だけ優遇されていると次男が不満に思うことがあるかもしれません。
贈与の場合、不動産取得税がかかる
相続の際にはかからない不動産取得税が、贈与の際にはかかります。
この不動産取得税の負担も考慮して、生前贈与による節税をしなければいけません。
生前贈与の方法
生前贈与には、暦年課税と相続時精算課税制度があります。
そのいずれが良いかは被相続人となる方の財産の総額や相続税の負担と贈与税の負担の比較検討、二次相続時の相続税負担、毎年の所得税の対象となる不動産収入の額、その他の税金に至るまで様々な考慮をしなければいけません。
そもそも生前贈与を行った方がよいのかどうか、暦年課税と相続時精算課税制度のいずれを用いるか、判断に迷う際には税理士までご相談ください。
関連記事
・生前贈与はいくらまで非課税?|暦年課税、相続時精算課税、特例を解説
・相続時精算課税制度のデメリット|改正でメリットは大きくなる?
賃貸アパートにかかるその他の税金
賃貸アパートにかかる税金は相続税、贈与税だけではありません。相続税以外にも、取得時にかかる税金、取得した後にかかる税金など以下のような税金があります。
不動産取得税
不動産取得税は、相続又は遺贈によって取得した場合には課税されません。
生前贈与により取得した賃貸アパートについては、不動産取得税が課税されます。
不動産取得税は、土地については固定資産税評価額(宅地等にあってはその1/2)の3%(標準税率)、建物については固定資産税評価額の3~4%(標準税率) が課税されます。
関連記事
相続では不動産取得税は原則非課税!例外ケースや減税措置も解説
登録免許税
相続などにより、不動産の所有権が移転した場合には不動産登記をする必要があります。登録免許税は登記原因により異なりますが、固定資産税評価額の0.4~2%(各種の軽減措置考慮前)です。
相続による不動産登記は令和6年4月1日から義務化されました。そのため登記の際には原則、納付しなければならない税金になります。
しかし、一部のケースでは登録免許税の納付が免除されることがあります。相続登記にかかる登録免許税について詳しくは、関連記事『相続登記の登録免許税|計算方法や免税措置は?必要書類や手続きも解説』をお読みください。
固定資産税・都市計画税
不動産を所有していると毎年かかる税金として固定資産税や都市計画税があります。
これらの税金は不動産の固定資産税課税標準額の1.4%(標準税率)、都道府県又は市町村が設定する都市計画区域内の不動産については、都市計画税課税標準額の0.3%(制限税率)がかかります。
所得税・住民税
毎年の賃貸アパートによる家賃収入は所得税や住民税が課税されます。
所有している不動産が多い場合、不動産収入の合計額が多額になると、所得税については累進課税税率を採用しているため、税率が高くなります。
また、遠方で暮らす相続人にとってアパート経営が負担である場合、相続後に賃貸アパートの売却を検討することもあろうかと思いますが、売却の際には所得税、住民税の対象になります。
賃貸アパートについては相続税に強い税理士にご相談を
賃貸アパートを建築するかどうか迷われている方は、ぜひ相続税に強い税理士にご相談ください。税理士はローンを提供する銀行、管理料収入を得る不動産会社と違い、利害関係のない状態でご相談に応じることができます。
相続税や贈与税のみならず、贈与後や相続後のアパート経営において税金の負担は大きな問題です。賃貸アパートに関わるすべての税金を考慮しなければ、結果として損してしまうこともあります。
賃貸アパートを建築する前に、相続税に強い税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士