相続税評価額とは?固定資産税評価額との違いは?調べ方や減額例を解説
相続税評価額とは、相続税を計算するときの基準となる財産の評価額のことです。
財産によって相続税評価額の算出方法は異なり、相続した金額がそのまま相続税評価額になる預金や、国税庁が定めた計算方法を用いて算出する不動産など多岐にわたります。
この記事では不動産の相続税評価額について、土地や建物などの評価額の計算方法や、評価額を減額できるケースを税理士が解説します。
また、同じく不動産の評価に関係する、固定資産税評価額との違いも解説します。
目次
相続税評価額と固定資産税評価額
相続税評価額とは
相続税評価額とは、相続税を計算する際に用いられる財産の評価額のことです。
不動産の相続税評価額は、一般的に時価よりも低く評価されます。
相続税申告では国税庁が作成した「財産評価基本通達」で定められた計算方法に従い、納税者自らが相続税評価額を算出します。
なお、相続税評価額が下がるとその財産にかかる相続税も下がるため、相続税評価額を低くすることは有効な節税対策のひとつです。
固定資産税評価額とは
固定資産税評価額とは、固定資産税を計算する際に基準となる評価額のことです。
また、不動産取得税、都市計画税、登録免許税などの算出にも用いられます。
詳しくは後述しますが、固定資産税評価額は、相続した財産の相続税評価額を算出する場合にも使用される場合があります。
固定資産税評価額は総務大臣が定めた「固定資産評価基準」に基づき、各市町村が決定します。そのため、必要になったときに所有者自身が計算するわけではありません。
自分が所有している不動産の固定資産税評価額を知りたいときは、毎年市町村から送られてくる固定資産税の課税明細書で確認できます。また、役所の固定資産課税台帳でも閲覧できます。
また、固定資産税評価額は3年に1度見直しが行われます。相続税評価額の計算で固定資産税評価額を使用する場合には、相続が発生した年度の評価額を用いてください。
相続税評価額と固定資産税評価額の違い
相続税評価額は相続税を算出するために使用され、固定資産税評価額は固定資産税を算出するために使用されます。
そもそも全く異なる性質のものですが、計算すると近い金額になることが多く間違いやすいので、ここでそれぞれの特徴を整理しておきましょう。
相続税評価額 | 固定資産税評価額 | |
---|---|---|
用途 | 相続税の算出 | 固定資産税、不動産取得税などの算出 |
評価基準 | 国税庁 | 市町村 |
評価頻度 | 毎年 | 3年に1度更新 |
金額目安 | 公示価格の80%ほど | 公示価格の70%ほど |
調べ方 | 納税者自らが計算 | 固定資産税の課税明細書か固定資産課税台帳で確認 |
相続税評価額の計算方法
土地の相続税評価額(路線価方式)
相続税を計算する上で、「土地」は、宅地、田や畑など9種類の地目に分けられます。
ここでは、土地の評価の中で最も重要な「宅地」の評価方法を解説します。
宅地とは、建物の敷地になっている土地を意味します。
なお、財産評価をする際は、現在どのように利用されているかという観点で土地を分類します。例えば、登記上は「田」でも、現在はその土地に建物が建っていれば「宅地」として評価します。
宅地の評価方法は、路線価方式と倍率方式の2つです。
路線価方式の計算方法
路線価方式は、市街地にある宅地に適用される評価方法です。
国税庁が定めた道路に接する標準的な宅地の1㎡あたりの価額(路線価)と、土地の面積(地積)を用いて、土地の相続税評価額を計算します。
路線価方式の計算式は以下のとおりです。
【路線価方式の計算式】
土地の相続財産評価額=路線価×地積
なお、人に貸している土地を相続した場合は、相続税評価額の計算方法が異なります。人に貸している土地の相続税評価額については、本記事『生前、不動産を人に貸している』をお読みください。
土地の形が特殊な場合の評価方法
上記の計算式は、奥行がそれほど深くなく正方形に近い宅地を前提にしています。奥行の深い宅地や、いびつな宅地などの場合は「路線価×補正率×地積」で相続税評価額を算出します。
補正率とは、宅地の奥行距離や形状などを考慮して、路線価を修正するときに用いる割合です。
一般の宅地に比べ奥行きが長い場合や、土地の形が正方形や長方形ではなくいびつな場合には、路線価が低く調整されます。
反対に、土地が曲がり角の内側にある場合や、2つ以上の道路に接している場合には、路線価が高く調整されます。
路線価図の見方を解説
具体的な路線価の見方をご説明します。
『財産評価書 路線価図・評価倍率表』から、評価対象となる土地の路線価図を調べます。
こちらが実際の路線価図です。
道路には、数字とアルファベットが一緒に記載してあります。
数字部分が路線価です。路線価は1㎡あたりの価格を千円単位で表しています。
アルファベット部分はA~Gまであり、以下のとおり借地権割合を示しています。
記号 | 借地権割合 |
---|---|
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
借地権割合については、本記事『生前、不動産を人に貸している』で詳しく解説します。
例えば、評価対象の土地が接する道路に「500C」と記載してある場合、この道路に面する土地は「1㎡あたり50万円、借地権割合70%」とわかります。
では、具体例で宅地の相続税評価額を求めてみましょう。
【具体例】
評価対象の土地面積:300㎡
接している道路にある記載:500C
上記の場合、宅地の相続税評価額は、50万円×300㎡=1億5,000万円です。
路線価方式で計算するために必要な情報は、それぞれ以下から取得してください。
- 路線価
国税庁HP『財産評価書 路線価図・評価倍率表』 - 地積
固定資産税納税通知書(市区町村から毎年4月ごろ送付される) - 補正率
国税庁HP『補正率表』
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路線価で土地の相続税評価額を計算|補正のかけ方も具体例付きで解説
土地の相続税評価額(倍率方式)
倍率方式は、路線価がついていない郊外や農村部などの宅地に適用される評価方法です。
固定資産税評価額と、国税庁が定める評価倍率表を用いて、土地の相続税評価額を計算します。
倍率方式の計算式は以下のとおりです。
【倍率方式の計算式】
土地の相続財産評価額=固定資産税評価額×評価倍率
なお、倍率方式で評価する場合、補正率を考慮する必要はありません。土地の形状などにより減額対象となるケースでは、すでに固定資産税評価額に反映されているためです。
評価倍率表の見方を解説
『財産評価書 路線価図・評価倍率表』から、評価対象となる土地の評価倍率表を調べます。
こちらが実際の評価倍率表です。
評価倍率表の「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」の「宅地」に記載されている数字が、宅地の相続税評価額を求める際の評価倍率です。
では、具体例で宅地の相続税評価額を求めてみましょう。
【具体例】
宅地の固定資産税評価額:900万円
評価倍率:1.2倍
上記の場合、宅地の相続税評価額は、900万円×1.2=1,080万円です。
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土地を相続したら相続税はかかる?相続税の計算や土地の評価方法を解説
建物の相続税評価額
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額になります。
計算式ではよく「建物の固定資産税評価額×1.0」とあらわされます。
建物の相続税評価額について詳しくは、関連記事『建物(家屋)の相続税評価額は簡単に計算できる!建物の相続税対策も紹介』をお読みください。
マンションの相続税評価額
自分で利用しているマンションの相続税評価額は、建物と土地(敷地)に分けて計算します。
土地の評価方法は、通常の宅地同様、路線価方式と倍率方式があります。ここでは、路線価方式による評価方法をご紹介します。
計算式は以下のとおりです。
マンションの建物部分の相続税評価額=建物の固定資産税評価額×1.0
マンションの敷地部分の相続税評価額=マンションの敷地全体の面積×路線価×持分割合(敷地権割合)
※厳密に算出する場合は、地積規模等を考慮して、路線価を修正する補正率を乗じる必要があります。
持分割合とは、マンション全体に対して、区分所有者(マンションを購入した人)が有する権利の割合のことです。
持ち分割合とマンションの敷地全体の面積は、売買契約書や登記事項証明書で確認できます。
マンションの正確な相続税評価額を求めるには、複雑な事情を考慮して路線価を修正する必要があります。マンションの正確な相続税評価額をお知りになりたい方は、税理士への相談をおすすめします。
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不動産の相続税評価額を減額できるケース
生前、不動産を人に貸している
人に貸している宅地を貸宅地、人に貸している建物が建っている土地を貸家建付地といいます。
土地を人に貸すと、その土地には借主(借りる側)の借地権が発生します。貸主(貸す側)は、借地権がついている土地を自由に使用したり処分したりできなくなります。したがって、貸宅地と貸家建付地の相続税評価額は、借地権の分だけ低くなります。
貸主の土地に対しての自由度が下がるほど、その土地の相続税評価額も下がるイメージです。
貸宅地と貸家建付地の相続税評価額
貸宅地と貸家建付地の計算式は以下のとおりです。
貸宅地の相続税評価額=自用地の評価額×(1-借地権割合)
貸家建付地の相続税評価額=自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
自用地の価額とは、その土地を自分で利用していた場合の評価額のことです。路線価方式または倍率方式で計算します。
借地権割合とは、土地の評価額に対する借地権価額の割合です。
前述したとおり、借地権割合は路線価図を見ればわかります。道路に「200C」と記載してあれば、その道路に接する土地の借地権割合は70%です。
また、借家権割合は全国一律で30%です。
では、具体例で貸宅地の相続税評価額を求めてみましょう。
【具体例】
自用地としての評価額:4,000万円
借地権割合:60%
上記の場合、貸宅地の相続税評価額は、4,000万円×(1-60%)=1,600万円です。
小規模宅地等の特例を適用する
小規模宅地等の特例とは、親族が宅地を相続した場合に、一定の要件を満たすものについて、その宅地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
例えば、被相続人が居住していた宅地や、事業用の店舗が建っている宅地、賃貸アパートが建っている宅地を相続した場合、この特例を適用できる可能性があります。
小規模宅地等の特例が適用できる土地の用途と、限度面積・減額割合をまとめると、以下のようになります。
【小規模宅地等の特例の適用要件】
小規模宅地等の特例は、大幅な相続税評価額の減額が期待できますが、適用にあたりいくつか要件があります。今回は、最も適用数が多い特定居住用宅地等に適用する際の適用要件を紹介します。
特定居住用宅地等に小規模宅地等の特例を適用できる相続人は、以下のいずれかに該当する人物です。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族
- 被相続人と別居していた親族
通常、小規模宅地等の特例は配偶者や同居していた親族に適用されることが原則です。
しかし、同居していなくても一定の要件を満たすことで、小規模宅地等の特例を適用することができます。これを、家なき子特例といいます。
小規模宅地等の特例について詳しくは、関連記事『持ち家の相続税はどのくらい?特例を利用すれば大幅節税できる!』をお読みください。
小規模宅地等の特例の計算例
小規模宅地等の特例の適用で、どのくらい相続税評価額が減額されるのか、具体例を使って解説します。
【具体例】
相続する土地:被相続人が住んでいた宅地
取得者:配偶者
面積:200㎡
宅地の相続税評価額:6,000万円
この場合、配偶者は、無条件で小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
また、被相続人が住んでいた宅地は特定居住用等なので、330㎡まで、80%の相続税評価額の減額が受けられます。
特例を適用した結果、宅地の相続税評価額は、「6,000万円×(1-80%)=1,200万円」になります。
以上のとおり、小規模宅地等の特例を適用すれば、土地の評価額を大幅に減額することが可能です。土地を相続した場合、この特例をぜひご活用ください。
集合住宅の場合は空室を減らす
賃貸アパートやマンションなどの集合住宅の貸家を相続した場合には、空室を減らすと相続税評価額が減額されます。
集合住宅の貸家の相続税評価額を算出する計算式には、賃貸割合が用いられ、この賃貸割合が高いほど相続税評価額が低くなります。
集合住宅の貸家の相続税評価額の計算式は以下のとおりです。
貸家(集合住宅)の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合(30%)×賃貸割合)
なお、被相続人が死亡したときに空室になっていた場合でも、それが一時的なものである場合は、賃貸しているものとして賃貸割合に含めることができます。
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賃貸アパートの相続税を計算|賃貸アパートが相続税対策になる理由も解説
土地の相続税評価額を減額できる要素を確認する
土地の相続税評価額を減額できる要素は多岐にわたります。
以下に、相続税評価額を減額できる可能性がある要素をいくつか紹介します。
- 土地の形がいびつ、間口が狭い、奥行が深い
- 土地の高低差がある、がけ地である
- 市街地の田・畑・山林
- 道路や線路が近く騒音や震動が激しい
- 有害物質によって土壌が汚染されている
参考:国税庁『利用価値が著しく低下している宅地の評価』
土地は相続財産の中でも大きな割合を占めるケースが多いため、土地の相続税評価額を下げれば、相続税の大幅な減額が期待できます。
相続税評価額の減額については税理士に相談
ここまで主に、不動産の相続税評価額の計算方法と減額できるケースについて解説してきました。
特に土地は、小規模宅地等の特例の適用や、形状・土地の所在地などを理由に相続税評価額を減額できるケースが多くあります。
しかし、ご自分ですべての減額要素を的確に判断するのは非常に困難です。
そのため、土地の相続税評価額を少しでも下げたいとお考えの方は、一度税理士に相談してみてください。
税理士が相続した土地の現地調査をすることで、相続税評価額が下がるケースがいくつも存在します。
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監修者情報
アトムグループ 協力税理士