持ち家の相続税はどのくらい?特例を利用すれば大幅節税できる!

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持ち家の相続

持ち家をご両親などから相続した場合、相続税の課税対象となります。

さらに、不動産は大きな資産であるため、相続税評価額も高くなり、発生する相続税額も大きくなりがちです。

しかし、いくら不動産が大きい資産で相続税額がふくらむからといって、持ち家を相続するのに多額の相続税がかかっては、日々の生活に影響が出てしまうことも考えられるでしょう。

そのため、持ち家をはじめとする不動産の相続には、さまざまな特例が設けられています。

この記事では、持ち家の相続税評価額の計算方法や、持ち家を相続するときに使える小規模宅地等の特例・その他の控除について解説していきます。

持ち家の相続税評価額を計算する

持ち家の相続税評価額は、建物と土地を別々に評価し計算します。

建物の相続税評価額

被相続人が居住用や事業用に使っていた建物の相続税評価額は「固定資産税評価額×1.0」で計算できます。すなわち、建物の固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。固定資産税評価額は、毎年5月頃に市町村から送られてくる固定資産税の課税明細書で確認できます。

土地の相続税評価額

土地の相続税評価額は、「路線価方式」と「倍率方式」という2つの計算方法があります。まず路線価方式とは、特定の道路に接している土地1㎡あたりの評価額(路線価)を用いて、「路線価×土地の面積」という計算式で算出する方法です。

次に、路線価が定められていない地域の土地の相続税評価額は、倍率方式を用いて計算します。倍率方式の計算式は「固定資産評価額×評価倍率」です。

土地の相続税評価額を算出するために用いる路線価や評価倍率表は、国税庁のホームページ『国税庁|路線図・評価倍率表』で確認することができます。


路線価方式と倍率方式について詳しく知りたい方は、関連記事『土地を相続したら相続税はかかる?相続税の計算や土地の評価方法を解説』をお読みください。

持ち家は特例の適用で相続税がかからないことが多い

持ち家の相続に関してまず知っておきたい制度が、「小規模宅地等の特例」です。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、相続した土地の評価額を最大で80%下げることができる、相続税法上の特例制度です。なお、「相続税を減額できる」わけではなく、「土地の評価額を減額できる」制度なので注意が必要です。評価額とは相続した財産の「相続税法上の時価」のことをいい、相続税の計算に用いられます。

小規模宅地等の特例は、課税対象となる財産の総額が基礎控除を上回り、かつ自宅や事業所などの宅地を相続するときに適用できます。

小規模宅地等の特例により、実際にどのくらい評価額が減額されるか気になる方は、関連記事『相続税】小規模宅地等の特例の計算方法がわかる|ケースごとの計算例付き』をお読みください。

基礎控除以下なら相続税はかからない

相続税の基礎控除とは、「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」の金額分を課税対象となる相続財産額から差し引くことができる制度です。

そのため、そもそも課税対象となる相続財産額が基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、小規模宅地等の特例を適用する必要もありません。

もし課税対象となる相続財産額が基礎控除額を上回っても、小規模宅地等の特例を適用することで、相続税がかからなくなるケースが多いです。

相続税の基礎控除について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の基礎控除がわかる|計算方法や法定相続人の数え方も解説』をお読みください。

小規模宅地等の特例の適用条件

持ち家を相続する際、非常に心強い味方となる小規模宅地等の特例ですが、適用するためにはいくつかの条件があります。

小規模宅地等の特例が適用できる土地の種類

(1)特定居住用宅地等

特定居住用宅地等とは、自宅として使っていた土地のことです。小規模宅地等の特例の中でも最も適用されることの多い宅地となっており、一般的な自宅はほとんど特定居住用宅地等に該当します。特定居住用宅地等として特例が適用されると、土地の面積の330㎡まで、80%の評価額減を受けることができます。

(2)特定事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、被相続人が事業用に使用していた土地のことです。特定事業用宅地等として特例が適用されると、土地の面積の400㎡まで、80%の評価額減を受けることができます。なお、この特例の適用には相続税の申告期限まで、事業を引き継いだ後継者が、事業を継続している必要があります。

(3)特定同族会社事業用宅地等

特定同族会社事業用宅地等とは、事業をしていた主体が個人ではなく法人である場合の土地のことです。土地の面積の400㎡まで、80%の評価額減を受けられる点など、基本的には特定事業用宅地等と同じだと考えて問題ありません。

しかし、50%を超える法人の株式を被相続人や被相続人の親族で所有していることや、相続税の申告期限まで役員の地位につき、該当する土地を所有していることなど、適用条件が少し複雑になっています。

(4)貸付事業用宅地等

貸付事業用宅地等とは、不動産の貸付事業や駐車場事業に使用している土地のことです。貸付事業用宅地等として特例が適用されると、土地の面積の200㎡まで、50%の評価額減を受けることができます。

小規模宅地等の特例が適用される相続人

小規模宅地等の特例が適用されるかどうかの判断には、被相続人と土地を相続する相続人の関係も重要です。とくに、特定居住用宅地等として適用を受ける場合には、被相続人と相続人の関係性を整理しておく必要があります。

特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例が認められるのは、土地を相続する相続人が以下のいずれかに該当する場合です。

・被相続人の配偶者
・被相続人と同居していた親族
・被相続人と別居していた親族

まず被相続人の配偶者が相続する場合は、同居していたかどうかなどは問わず、ほとんどのケースで無条件に適用が認められます。同居していた親族に関しても問題なく適用されるケースが大半です。

しかし、配偶者以外の同居していた親族が特例を適用する場合には、相続税申告期限まで自宅の敷地を所有し、さらに居住していなければなりません。

持ち家を相続する際にカギとなる「同居」については、関連記事『持ち家の相続で重要な【同居】って?同居の有無で相続税が変わる?』で詳しく解説しています。

そして適用の判断が難しいのが、3つめの「被相続人と別居していた親族」です。別居していた場合には、「家なき子特例」という特例が適用されることがあります。

ここでいう親族とは「6親等内の血族、3親等内の姻族および配偶者」のことです。

被相続人と別居していた場合「家なき子特例」

本来、小規模宅地等の特例は、配偶者や同居していた親族に適用されることが原則なのですが、同居していなくても一定の条件を満たすことで適用の対象とするのが「家なき子特例」です。家なき子特例の適用には、以下の4つの条件を満たす必要があります。

・被相続人に配偶者や同居していた相続人がいない
・相続開始前3年以内に、相続人や相続人の配偶者、3親等内の親族が今回相続する持ち家に住んだことがない
・相続した宅地を、相続税申告期限まで所有し続けている
・相続開始時に相続人が居住している家屋を、過去に所有していたことがない

まとめると、家なき子特例が適用されるのは、「被相続人に同居親族がなく、3年以上にわたって第三者が所有する家屋に住んでいた、被相続人の親族」となります。

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持ち家の相続で相続税額を減らせる制度

上記で解説した、小規模宅地等の特例、基礎控除、家なき子特例のほかにも、持ち家を相続する際に使える制度があります。相続人の立場や年齢によって適用できる控除が異なるため、ご自身に当てはまるものを探して活用してみてください。

配偶者居住権

配偶者居住権は2020年4月に新たに創設された権利です。夫婦の一方が亡くなったときに、遺された配偶者が住居と生活資金を確保しやすくなるよう、住居の居住権と所有権を分離し、居住権のみ相続することを認めた内容です。

たとえば、夫が亡くなり相続財産が、2,000万円の自宅と2,000万円の現金だったとします。そうすると、同居をしていた妻はこれまで通りの家で生活するために、2,000万円の自宅を相続します。相続人が妻一人であれば現金2,000万円も相続できますが、ほかにも相続人がいる場合には、現金2,000万円はほかの相続人にわたってしまうケースが多いです。すなわち、妻は自宅の相続と引き換えに、生活資金を失ってしまうことになるのです。

このような問題を避けるために、不動産の居住権と所有権の分離が認められるようになりました。

妻は、自宅の居住権のみを相続し、所有権はほかの相続人に譲ることで、2,000万円の現金のうちいくらかを相続する余裕が生まれます。これにより、妻は生活に必要な住居と資金を両方確保できるようになりました。これが配偶者居住権の創設理由と活用例です。

配偶者の税額軽減

配偶者が相続した財産のうち、課税対象となるものが1億6,000万円までであれば相続税が課税されないという税額軽減の制度です。1億6,000万円を超えていても、民法で定められている、相続で財産を取得する目安である法定相続分におさまっていれば、相続税を課税されることはありません。控除額が大きく、適用条件も籍を入れていれば婚姻期間の決まりはないため、相続時によく使われる制度の一つです。

未成年者控除

未成年者控除とは、未成年の法定相続人がいる場合に、相続税額から「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」の控除が受けられる制度です。相続人が15歳なら18歳になるまでに3年あるため、3年×10万円=30万円が相続税から控除されます。

障害者控除

障害者控除とは、障害者である法定相続人がいる場合に、相続税額から「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)」の控除が受けられる制度です。計算式からわかる通り、障害者控除は大きな金額を控除することができるため、控除額が余ってしまうケースがあります。その場合には、余剰分をほかの相続人かつ扶養義務者である人の相続税額の控除に充てることができます。

相次相続控除

相次相続控除とは、被相続人が亡くなる10年以内に相続などによって財産を取得し、相続税を支払っていた場合に、今回の払うべき相続税から一定の金額が控除される制度です。

贈与税額控除

贈与税額控除とは、贈与税と相続税を二重に課すことがないように設けられている制度です。被相続人が亡くなる前3年間の贈与で贈与税を支払っていた場合に、その前払いした贈与税を今回の相続税からマイナスすることができます。

贈与税の配偶者控除の特例(おしどり贈与)

直接相続税に影響をもたらすわけではないですが、不動産まわりの税金を気にされている方にぜひ知っておいてほしい制度が「おしどり贈与」です。

おしどり贈与とは、夫婦間の贈与において最大2,000万円まで贈与した金額から控除される制度です。適用条件として、婚姻期間が20年以上で不動産、もしくは不動産の購入を目的とした資金の贈与に限定されると定められています。

控除額が大きく、一見とても便利な制度に見えますが、不動産を贈与すると不動産取得税や登録免許税といった税金がかかります。対して相続で不動産を相続した場合には不動産取得税は発生しません。そのため、ご自身やご家族の状況に応じて、どの制度を利用するべきかよく考える必要があります。

また、おしどり贈与を受けた人が先に亡くなってしまう可能性も考えられます。相続人が配偶者しかいない場合には、せっかくコストをかけて贈与した不動産が、相続によりまた自分に返ってくることになってしまいます。

持ち家を相続する際によくある質問

被相続人が老人ホーム入居中に亡くなった場合はどうなる?

持ち家の所有者である被相続人が老人ホームに入居したまま亡くなったとしても、以下の条件をすべて満たしていれば小規模宅地等の特例が適用されます。

・亡くなった際に被相続人が要支援、または要介護認定されていること
・被相続人が一定の要件を満たす老人ホームに入居していたこと
・空き家となった持ち家を賃貸物件にしていないこと

一定の要件を満たす老人ホームとは、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどのほとんどの施設が対象内となっています。ただし、無許可の老人ホームについては特例の適用が認められていません。

分譲マンションの一室にも小規模宅地等の特例は適用される?

分譲マンションは、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例が適用されます。

宅地という言葉から、適用範囲が一戸建てに限定されると思われがちですが、分譲マンションも小規模宅地等の特例で評価額を下げることができます。

分譲マンションの場合は、建物と一体化した土地の敷地利用権(敷地権)が小規模宅地等の特例の対象です。

相続財産が持ち家くらいしかないから共有名義にしてもいい?

不動産の共有名義は可能な限り避けることをおすすめします。

被相続人の財産が持ち家しかないとき、公平に相続するために持ち家の名義を共有名義にすることがあります。共有者同士の関係が良好であれば問題ないと思ってしまいがちですが、問題は共有名義も相続されるという点です。共有者の一人が亡くなると、共有名義が相続されてどんどん共有者が増えていくことになります。

また、共有名義の不動産は売却や改築をするときに、すべての共有者の同意が必要となるため、共有者が増えてしまうと同意を得るだけでも一苦労です。

相続時に不動産を共有名義にすることは多くのリスクを伴うため、相続人の一人が単独名義で相続するか、不動産を売却して現金化するなどの選択をおすすめします。

小規模宅地等の特例で相続税がかからなくなったら何の手続きもいらない?

小規模宅地等の特例により、相続税を支払う必要がなくなることも多いです。しかし、そもそも小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、適用の条件を満たしている証明として相続税申告をおこなわなければなりません。

なお、基礎控除額を下回った場合や、一部の控除で相続税がかからなくなった場合には、申告が不要なケースもありますので混同しないように注意してください。

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おわりに

持ち家を相続する際には小規模宅地等の特例をはじめ、いろいろな制度を活用することができます。その結果、相続税がかからなくなるケースも多いです。

しかし、各制度には適用するための条件が設けられていたり、適用することで相続税がゼロになっても申告が必要だったりと、注意すべきポイントがいくつも存在します。

相続財産の中でも、不動産はとくに金額が大きく複雑化しやすいため、少しでも手続きや節税の面で不安がある場合には、相続問題に強い税理士に相談してください。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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