骨董品や美術品の相続税評価方法は?価値に応じた対応例も紹介
骨董品や美術品を所有している方が亡くなった場合、それらは相続財産として評価されます。
骨董品や美術品を所有している方は、相続税の計算上、どのように評価されるか気になっているのではないでしょうか。
そのような方に向け、この記事では、骨董品や美術品の相続税評価方法についてわかりやすく解説します。
骨董品や美術品を相続についてもご紹介します。
目次
骨董品や美術品の相続税評価方法は?
販売業者以外の一般の方が所有している骨董品の主な評価方法は、「売買実例価格」と「精通者意見価格」の2つです。(財産評価基本通達135条)
評価方法①売買実例価格
売買実例価額とは、現実に市場で売買されるときの価格です。
具体的には、以下の金額を参考に相続税評価額を決めます。
- 同様の商品の市場価格
- 買取業者の査定価格
- 購入価格(※)
※購入から日が経っているものや、時価の変動があった財産は購入価格を参考にすることができません。
この評価方法は、市場価格が比較的明らかな骨董品と美術品の相続税評価に適しています。
したがって、市場に出回る頻度が高い財産の価格を評価するときは、売買実例価額が適しているでしょう。
評価方法②精通者意見価格
精通者意見価格とは、骨董品と美術品について、それぞれ詳しい古美術商や鑑定士など、専門家の意見を参考にした価格です。
この評価方法は、市場価格が明確でない骨董品や、希少価値が高い美術品の評価に適しています。
例えば、歴史的価値が高い骨董品や1点ものの絵画などは、精通者意見価格で評価するのが適切なケースが多いでしょう。
専門家の鑑定には費用がかかりますが、鑑定評価書の作成も同時に依頼できるため、後から税務調査をされないためにも、専門家の鑑定を受けることをおすすめいたします。
専門家の鑑定をおすすめする理由
相続税を申告する際、税務署は評価額に適切な根拠があるかという点に注目しています。
したがって、ある程度の価値が予測される骨董品や美術品を、売買実例価格でしか評価していない場合は、その価格が適切か疑念を持たれ、税務調査につながる可能性があります。
このような事態を回避するため、骨董品や美術品は、きちんと専門家の鑑定を受け、精通者意見価格を参考にする方が良いでしょう。
なお、骨董品や美術品の鑑定にかかった費用は、相続財産から控除できないため注意してください。
しかし、鑑定料を惜しんだばかりに、税務調査や加算税などのペナルティを受けては元も子もありません。最終的な利益を考えた場合、鑑定を受けることはぜひ選択肢の一つに入れていただきたいと思います。
どのような評価方法が適切か迷った場合は、相続税に強い税理士に一度相談してみることをおすすめします。
関連記事
相続税申告で失敗したくない!評判が良い税理士の特徴7選を紹介
1点5万円以下の骨董品や美術品は家財扱い
鑑定の結果、1点5万円以下の価値だとわかった骨董品や美術品は、「家財一式」として一括して相続税の申告をすることが可能です(財産評価基本通達128条)。
たとえば、骨董品を家電や家具と一緒に「家財一式10万円」などとまとめて相続税申告書に記載できます。
骨董品や美術品がある場合に保管しておきたい書類
相続財産に骨董品や美術品がある場合、その評価の根拠となる書類が非常に重要です。以下の書類は税務署に提出が必要となる可能性がありますので、大切に保管しておきましょう。
- 購入したときの領収書
- 売買契約書
- 贈与契約書
など
商品としての骨董品や美術品を相続した場合
骨董品や美術品販売を営んでいた両親や親戚などから財産を相続した場合には、評価方法が少し異なります。
商売の在庫としての骨董品や美術品を相続した場合は、「棚卸財産」として評価を行います。
棚卸財産の評価方法は、「低価法」と「原価法」の2種類があります。
低価法とは、棚卸資産の期末の時価と帳簿価額を比較し、低い方を評価額とする評価方法です。
一方、原価法は、帳簿価額を評価額とする方法です。帳簿価額は、一単位あたりの取得原価に数量を掛けたものです。
相続財産に骨董品・美術品がある場合にとれる対応一覧
相続財産に骨董品や美術品がある場合、早めに信頼できる専門家の鑑定を受けることが大切です。
なぜなら、相続税を計算する際、骨董品や美術品の価値は、購入時の価格ではなく、「時価=現在売買すると考えた場合の価格」で評価されるからです。
鑑定の結果次第で、最も適切な対応は異なってきます。対応によっては相続税を減額することにもつながるため、慎重に判断しましょう。
骨董品や美術品がある場合に考えられる対応は、以下の4つです。それぞれのメリット・デメリット・注意点を合わせて紹介します。ご自身に合った対応をお知りになりたい場合は、ぜひ相続税に強い税理士にご相談ください。
(1)相続させる
被相続人が大切にしている骨董品や美術品を、次の世代に引き継ぎたいと希望している場合、相続が最適な選択肢になる可能性があります。
【骨董品や美術品を相続させるメリット】
相続税の基礎控除額の枠内であれば、相続税を支払わずに相続を実現できます。相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×相続人の人数)」です。
例えば、相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円になります。
この場合、骨董品や美術品の価値が、ほかの相続財産と合わせて4,800万円以内であれば、相続させても相続税は発生しません。
関連記事
【骨董品や美術品を相続させるデメリット】
相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合、相続税がかかってしまいます。
なるべく出費を抑えて骨董品や美術品を引き継ぎたいと考えている場合には、相続財産が基礎控除額を超えるか否かが大きな基準になります。
【骨董品や美術品を相続させる注意点】
骨董品や美術品を、資産隠しとして使うのは絶対にやめましょう。
具体的には、骨董品や美術品の価値を低く申告し、現金で相続するよりも相続税額を抑えようとする行為などです。
税務署は付加価値のある骨董品や美術品に高い価値があることを知っていますし、相続開始前に多額の預金引き出しがあれば、当然何かの購入に使ったのではないかと疑います。
もし税務調査の結果、悪質な資産隠しがあったとみなされると、最大で40%の重加算税が課されてしまうおそれがあります。
関連記事
相続税の申告漏れは「ばれる」|なぜ税務署にばれるのか税理士が解説
(2)生前贈与する
骨董品や美術品以外の相続財産が多く、相続税が高額になる可能性がある場合、骨董品や美術品を生前贈与することが選択肢にあがります。
生前贈与の方法には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つがあります。
【骨董品や美術品を生前贈与するメリット】
暦年贈与は毎年110万円の非課税枠があります。相続時精算課税制度には累計2,500万円の非課税枠と、それとは別に年間110万円の非課税枠があります。
これらの非課税枠を活用すれば、贈与税を支払わずに骨董品や美術品を贈与できます。
なお、相続時精算課税制度によって贈与した財産は、贈与時の時価を基準に相続財産に加算され、相続時に相続税が課されます。
ただし、将来値上がりする可能性が高い財産を贈与すれば、相続時に評価額が値上がりしていたとしても、贈与時の低い時価で相続税を計算できるため、実質、相続税の節税となります。
【骨董品や美術品を生前贈与するデメリット】
暦年課税の場合、相続発生3年以内(段階的に7年まで延長)の贈与財産は、相続財産に加算されます。
すなわち、亡くなる直前に慌てて生前贈与しても、節税効果が薄くなってしまうのです。
相続時精算課税制度の場合、前述のとおり、贈与時の価額で相続財産に加算されます。
そのため、贈与時よりも相続時の方が、財産の価値が下がっていた場合には、「相続で引き継いだ方が税負担が少なく済んだのに…」となってしまう可能性があります。
関連記事
・相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できない|違いや選び方も解説
・【令和6年最新】相続時精算課税制度のデメリット7つとメリット5つ
【骨董品や美術品を生前贈与する注意点】
相続で引き継ぐ際と同様に、資産隠しのための生前贈与はやめましょう。
「高額な骨董品を購入し、身内にこっそり贈与すれば税務署にばれない」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、これは大きな間違いです。
税務署は、被相続人や相続人の預貯金の動きを詳細に把握しています。
さらに、富裕層の資産状況は、重点的にマークされています。
そのため、少しでも不審な動きがあれば税務調査の対象になり、資産隠しがばれてしまう可能性が高いです。
悪質な資産隠しと認定されると、重加算税など重いペナルティを受けるおそれがあります。骨董品を資産隠しの手段にするのは絶対にやめましょう。
関連記事
贈与税の申告漏れは「ばれない?」|ばれるケースやペナルティを解説
(3)売却する
相続発生後のご家族の負担を考えた場合、被相続人の生前に売却した方が良いケースもあります。
【骨董品や美術品を売却するメリット】
骨董品や美術品を所有したまま亡くなると、ご家族は前述した財産の評価方法などを参考に、相続手続きを行うことになります。しかし生前に売却すれば、相続手続きが不要になり、ご家族の負担を抑えられます。
また、相続税は現金一括払いが原則です。支払いが困難な場合には物納も可能ですが、骨董品や美術品の物納が認められる可能性は低いでしょう。
そのため、相続税の納税資金が足りないと予測される場合、あらかじめ骨董品や美術品を売却しておけば、その代金を納税資金に充てることもできます。
【骨董品や美術品を売却するデメリット】
購入価格よりも高値で売却できた場合、譲渡所得となり所得税がかかります。
【骨董品や美術品を売却する注意点】
骨董品や美術品を生前に売却する場合は、「取得してから5年経過」を待つと譲渡所得が抑えられます。
所有期間が5年以内の場合は短期譲渡所得となり、5年以上の場合は長期譲渡所得になります。 長期譲渡所得の場合、所得税の課税対象を、売却した金額の半分に抑えられるためです。
参考:国税庁『譲渡所得の計算のしかた(総合課税)』
(4)寄託する
特定の美術品については、「特定の美術品の納税猶予及び免除」の制度を利用することが考えられます。
【骨董品や美術品を寄託するメリット】
特定美術品を取得した相続人が寄託契約を継続すれば相続税の支払が猶予されます。最終的には免除されるため、相続税の負担を軽減できます。
また、美術館等の管理の下、特定美術品が適切な環境で保管されることが期待できます。さらに、一般の方への公開を通じ、社会貢献につながる効果もあります。
【骨董品や美術品を寄託するデメリット】
特定美術品の納税猶予及び免除を受けるには、複雑な手続きを経る必要があります。その準備を行うため、相続人の負担は増えます。
特定美術品についての相続税の納税猶予・免除制度
納税猶予・免除制度の概要
一定の条件を満たす場合、寄託相続人(相続又は遺贈によって美術品を取得した相続人)の、美術品に対してかかる相続税を80%まで猶予する制度です。
猶予を受けるための条件は以下のとおりです。
- 被相続人が、美術品を一定の美術館等に寄託し、かつ、文化財保護法に基づく保存活用計画の認定を受けていたこと
- 寄託相続人が、被相続人が締結した寄託契約及び保存活用計画に基づき、美術品の寄託を継続すること
- 寄託相続人が、美術品について、一定の保険に加入すること及び質権設定等の手続を行うこと
特定美術品とは?
この制度の対象となる「特定美術品」は、認定保存活用計画に記載された次に掲げるものをいいます。
①一定の重要文化財
重要文化財として指定された、絵画、彫刻、工芸品その他の文化的所産である動産
②一定の登録有形文化財
登録有形文化財(建造物を除きます。)のうち世界文化の検知から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの
特定美術品の相続税の納付猶予が終了するケース
特定美術品にかかる相続税の、納付猶予が終了するケースは以下の3つです。
- 特定美術品を譲渡、紛失、滅失した場合
- 重要文化財の指定取消、登録有形文化財の登録の抹消、保存活用計画の認定の取消が起きた場合
- 美術品を寄託していた美術館が閉館した場合(別の美術館に寄託し直した場合は除く)
納付猶予が終了すると、猶予されていた相続税や利子税をさかのぼって納付しなければなりません。
特定美術品の相続税の納付が免除されるケース
特定美術品にかかる相続税の納付が、免除されるケースは以下の3つです。
- 寄託相続人が死亡した場合
- 特定美術品を寄託している美術館に寄贈した場合
- 災害で特定美術品が滅失した場合
骨董品・美術品の相続に関するお悩みは税理士へ
骨董品や美術品は相続財産として評価されます。
そのため、高価な骨董品や美術品を所有している場合は、相続税対策をおこなわないと、思わぬ高額な相続税が課されてしまうおそれがあります。
相続税に強い税理士に早めに相談しておけば、有効な相続税対策をしっかり講じることができます。
また、骨董品や美術品を大切に思う被相続人の気持ちをどうすれば尊重できるか、プロの意見を参考にしながら検討できます。
相続財産の中に骨董品や美術品がある場合、相続税に強い税理士にお気軽にお問い合わせください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士