相続税の申告漏れは「ばれる」|なぜ税務署にばれるのか税理士が解説
「相続税の納付について納得いかない!」
「黙っていればバレないで済む?正直、相続税なんて納めたくない!」
「タンス預金も税務署にはバレてしまう?」
人が亡くなった際に、相続税の申告と納付が必要なことはわかっているものの、国に税金として取られるのは納得がいかないと考えている方は多いのではないでしょうか。
相続税は生まれ育った家庭の経済格差により機会が失われることのないように、格差の固定を防止する富の再分配としての側面が強い税金です。それだけに恵まれた家庭に育っただけで税金を取られるのは、納得いかないというのもよく分かります。
しかし、結論からいうと、相続税の申告漏れは必ず「バレます」。
この記事では、なぜ相続税の申告漏れがバレるのか、税務署がどういった対応をしているのかについて解説していきます。
目次
相続税の申告漏れは何故バレるのか
- 基礎控除を超える財産があるけれど、相続税を払わなくても税務署には分からないよね?
- 財産をタンス預金や金の延べ棒にしたら、税務署にはわからないでしょう?
- 相当な有名人でもない限り、相続税の申告をしなくてもバレないよね?
これらの考え方をしている方はとても危険です。
相続税の申告漏れはほぼ確実にバレます。
以下に税務署がどのように財産を把握するのか、亡くなったことを把握するのかを説明していきます。
「どうせ税務署は相続税の申告漏れについて把握してないだろう」と考え、意図的に相続税を申告しないのは脱税に当たり、重いペナルティが課されるおそれがあります。
くれぐれも申告漏れにならないよう注意しましょう。
税務署はどうやって亡くなった方の財産を把握するのか
一般的な犯罪捜査の場合には、警察などが裁判所に令状を請求してから、関係各所に捜査を開始します。
これに対して、税務署の調査権限は強力で、裁判所を通さずに申告漏れが疑われる案件について、銀行や証券会社に亡くなった方名義の口座を照会することができます。
銀行口座や証券口座を照会すれば、当然に亡くなった時点の残高、財産額がわかり、さらに日々の口座の動きも確認することができるのです。
申告漏れの場合にも税務調査が行われますが、税務調査の段階では、税務署は銀行口座などの基礎資料を押さえた上で税務調査を行います。
また、税務調査を受けた方の約80%は、相続税について修正申告書を提出しているというデータもあります。
つまり、税務署はきちんと詳しい事情を把握し、申告漏れを把握した上で税務調査を行っている場合がほとんどなのです。
相続税の税務調査について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の税務調査とは?対象になる人の特徴やならない方法を解説』をお読みください。
金の延べ棒やタンス預金も必ず税務署にバレる
被相続人が、金の延べ棒やタンス預金を所有しており、それを相続人がこっそり取得した場合でも、税務署にはバレてしまいます。
税務署は亡くなった方の銀行口座を照会する権限があることを説明しました。
日々の銀行口座の動きを確認すれば、一時に多額の引き出しがあったり、通常必要な生活費を超えて複数回引き出しをしていることなどが分かってしまいます。
そのため、この引き出した現金を他の銀行口座などに入れず、タンス預金として自宅などに保管している場合には税務署に筒抜けとなっているのです。
税務調査の際には、多額に引き出した現金の使い道を確認されます。この使い道を明確に説明できないとタンス預金を疑われることになります。
タンス預金も銀行口座の動きから分かってしまうのです。
また、金の延べ棒については、金の売買をする業者に対して、一定範囲の取引につき、税務署へ支払調書の提出が義務づけられています。
支払調書には取引をした方の住所、氏名などが記載されており、亡くなった方が生前に金の取引をしていたことを税務署は把握しているのです。
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税務署は人が亡くなったことを把握している
実は、税務署は人が亡くなったことを把握しています。
人が亡くなった場合、戸籍法の規定により、遺族の方は死亡届を住所地の市区町村役場に提出する必要があります。
相続税法58条の規定により、この死亡届を受理した市区町村は税務署に亡くなった人を報告する義務があるのです。
これにより税務署は人が亡くなった事実を把握しています。
税務署はお尋ねを発送する
住所地の市区町村から死亡届が提出された旨の連絡を受けた場合、税務署は亡くなった方のご遺族に「相続についてのお尋ね」という書類を送付します。
このお尋ねは通常亡くなってから6~8か月ほど経って送られてきます。相続税の申告期限が10か月以内ですから、相続税の申告をお忘れなくという趣旨のものです。
しかし、この書類の本当の目的は亡くなった方の財産状況を伺うためのものです。被相続人の職業、相続人の人数、預貯金の額、所有していた不動産など、実質は相続税の申告が必要か、どうか判断するためのお尋ねとなっています。
このお尋ねを無視しても罰則などはありませんが、財産を隠す気なのではないか、と税務署に疑われないよう、できる限り回答する方が無難です。
不動産登記からバレる
税務署は法務局にある不動産登記も確認しています。
相続により不動産を取得した場合には、不動産登記つまり名義変更をしなければなりません。名義変更する場合には、その変更理由を記載する必要があり、そこに「相続」と記載すると相続により財産を取得したとバレるわけです。
以前までは相続により不動産を取得しても登記の義務がありませんでしたが、2024年4月1日からは相続登記が義務化されました。そのため、相続しても名義変更していないという状態はなくなると考えられています。
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税務署の情報管理を甘くみてはいけない
税務署は日本中の税務署に申告、申請されたデータを一括で管理しています。これをKSK(国税総合管理)システムといいます。
このシステムでは納税者ごとに情報が一元管理されており、市区町村役場から、死亡届の情報が来たら、亡くなった方についてすべて検索が可能になっています。
例えば生前の給与、退職金、不動産の収入、その他の収入や有価証券などの保有状況、不動産の売買、保険金の受け取りなど個人のお金に関する情報が記録されています。
給与や収入などの状況は会社が提出する源泉徴収票や本人が提出した確定申告書などから、有価証券や保険金については、証券会社や保険会社から支払調書と呼ばれる資料が税務署に提出されており、不動産の売買については、法務局に登記された情報などから収集しています。これが常時行われており、人が亡くなった際には、相続税の徴収漏れとならないように万全の準備をしているわけです。
これら万全のシステムがあるため、相続税の申告漏れは税務署には容易にバレてしまうのです。
相続税の無申告がバレた場合のペナルティ
相続税の無申告がバレた場合には、無申告加算税、または悪質と判断された場合には重加算税が課税され、最大で40% の追徴課税を受けることがあります。
これらの加算税にさらに加えて、本来の納付期限から遅れたことによる延滞税も同時に徴収されることになります。
相続税の無申告がバレた際のペナルティは負担が大きいです。無申告のペナルティを受けないように十分注意しましょう。
相続税の申告が必要な場合とは
相続税は、亡くなった方すべてについて申告や納税が必要な訳ではありません。亡くなった方の所有していた財産の評価額の合計が「基礎控除」という金額を超えない限り、相続税の申告、納税は不要です。
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の人数で計算されます。
例えば父が亡くなり、母と兄弟がひとりいる場合には、法定相続人の人数は自分を含めて3人です。そのため基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
自宅不動産、預貯金などの合計(住宅ローンなど債務がある場合には、債務の金額を差し引きます。)がこの金額を超える場合には相続税の申告が必要になります。
財産の総額がこの基礎控除を超えない場合には、相続税の心配をする必要がありません。
つまり、相続税の目的が格差の固定を防止することであるなら、一般的な財産額の家庭からは相続税を徴収しないという考え方を表しているのが、この「基礎控除」です。
自分に相続税がかかるのか、相続税の計算シミュレーションをするには『相続税計算機』をご利用ください。
また、相続人の組み合わせによる相続税の計算は、以下の計算シートが便利です。
相続税計算シート(配偶者のみor子どものみor父母のみor兄弟のみ)
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どれぐらいの方が相続税を申告しているか
基礎控除の金額は分かっても、親の預金がいくらあるか、知っている子どもは少ないはずです。では、一般的に亡くなった方のうちどれぐらいの方が相続税を申告、納税しているのでしょうか。
令和3年分の例でいえば、1年間に亡くなった方が約143万人いますが、そのうち相続税の申告書を提出した、つまり先ほどの基礎控除を超える方は、約16.9万人とされています。割合でいえば11.7%、亡くなった方のうち、約8.5人に一人が相続税の申告が必要な方となっています。
ただし、相続税を申告した方のうち、相続税を納税した方は、約13.4万人です。割合でいえば、9.3%。先ほどの申告した方約16.9万人のうち、残りの約3.5万人の方は相続税を申告したけれども、相続税は発生しなかった方となります。なぜ、相続税が発生しないかといえば、各種の特例の適用により相続税額が軽減された結果、相続税額が0円という方がいるためです。
最終的に相続税を納めるのは、10人に1人もいないと知ると安心される方も多いのではないでしょうか。
(国税庁 令和3年分相続税の申告事績の概要より)
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いつまでに納税が必要か
相続税は、申告期限までに納める必要があります。
相続税の申告期限は、被相続人の方が亡くなったことを知った日の翌日から、10か月以内となっています。例えば、1月1日に亡くなられた方の相続税申告の場合、11月1日(この期限が土日祝日である場合は、これらの日の翌日)が申告と納税の期限になります。
また、相続税の支払いは原則として現金で行う必要があり、相続により取得した預貯金か、相続人の預貯金を合わせても足りない場合には、売却可能な財産を換金するなどして、納税資金を確保する必要があります。
バレないことを祈るより、正しく節税しましょう
上記のとおり、相続税の無申告は必ず税務署にバレます。相続税は必ず申告した方が良いことがお分かりいただけたかと思います。
相続税といっても、相続によって得た財産のすべてを持っていかれるわけではありません。バレるかどうか、ヒヤヒヤしながら暮らすより、正しく申告する際にいかに相続税額を節税できるかを検討した方が良い結果を得られます。
相続税の優遇税制
相続税を減額することができる優遇税制には、以下のようなものがあります。
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者の税額軽減
- 生命保険金の非課税枠
- 未成年者控除
- 障害者控除
上記の優遇税制が使えるかどうかはそれぞれ要件が異なったり、遺産の分割方法によって適用できなかったりします。
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相続税申告について困ったら、税理士に相談するのが一番安全です。税理士は適用可能な税制を駆使して節税の提案をすることができます。
相続税申告を税理士に依頼するときの報酬が気になる方は、関連記事『相続税申告の税理士報酬相場|遺産総額の「1%」が報酬って本当?』をお読みください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士