相続税が払えない場合の解決方法を8つ紹介|払わないとどうなる?
相続税の支払いは、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
預貯金などの現金を多く相続した人は、そこから相続税を払うこともできますが、家や土地など現金化に手間がかかる財産を相続した人は、手持ちのお金から相続税を払うことになります。
そのため、手元に現金がないと「相続税が払えない」状況に陥ってしまうことがあるのです。
そこでこの記事では、税理士がおすすめする「相続税が払えない場合の解決方法を8つ」紹介します。
また、相続税を払わなかったときのペナルティについても解説します。
目次
なぜ相続税が払えなくなってしまう?
まずは、なぜ相続税が払えなくなってしまうのか確認していきましょう。
相続税申告は原則、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に行います。そして、相続税がかかる場合には同日までに相続税を納付する必要があります。
それでは、相続で財産を取得したけれど相続税が払えなくなってしまうケースを見ていきましょう。
家や土地などの不動産を多く相続して現金が足らない
家や土地などの不動産を多く相続した場合は、相続税が払えなくなることが多いです。
なぜなら、相続税額に満たない現金しか相続できなかった場合には、相続人が元々持っているお金から相続税を支払う必要があるためです。
反対に、現金を多く相続した場合はそれだけ納税資金を取得したことになるので、比較的、相続税の支払いに困ることは少ないでしょう。相続した財産の構成によって相続税の支払いに影響が及びます。
不動産を多く相続して、相続税の納税資金が足らずに相続税が払えない場合は、『延納(分割払い)』や『物納|不動産などで納税』、『遺産を売却して現金化』がおすすめです。
換金性の低い財産が多く現金が確保できない
被相続人が中小企業のオーナー経営者である場合には、換金性のない「非上場会社の株式」を多く相続することがあります。
または骨董品や美術品など、すぐに換金できるものではないのに、評価額は高くなってしまう財産を多く相続した場合にも、相続税の支払いに困ることがあります。
こういった場合には、『相続税を立て替えてもらう』がおすすめです。立て替えが難しい場合には、『金融機関から資金を借り入れ』という選択肢もあります。
相続財産が未分割なので税額軽減の制度が使えない
通常、相続人が複数いる相続が発生すると、相続人同士で遺産分割協議を行います。遺産分割協議とは、「だれが、どの財産を相続するか決める話し合い」のことです。
相続税の申告・納付期限までに遺産分割協議がまとまらなかったとしても、相続税の申告・納付は必要です。
遺産分割がまとまっていない状態での相続税申告で問題となるのが、相続税を大幅に控除できる「配偶者の税額軽減」などの税額軽減の制度が使えないことです。
そのため、支払うべき相続税が多額になってしまうことがあります。
また、遺産分割協議がまとまらない場合には、預金口座の名義変更をすることができず、原則として相続した預貯金を相続税の支払いに当てることができません。
相続財産が未分割で相続税が払えない場合には、『預貯金の仮払制度』や『財産の一部分割』がおすすめです。
相続税の申告・納付期限が過ぎてしまうとどんなデメリットがあるかについては、関連記事『相続税の申告期限が過ぎたらどうなる?間に合わないときの対応を解説』をお読みください。
相続税を払えない場合の8つの解決方法
相続税を払えないことがわかったときの解決方法を8つご紹介します。
相続税を払えないときの解決方法
(1)延納|相続税を分割払い
(2)物納|不動産などで納税
(3)遺産を売却して現金化
(4)相続税を立て替えてもらう
(5)金融機関から資金を借り入れ
(6)預貯金の仮払制度
(7)財産の一部分割
(8)相続放棄
※気になる解決方法をクリックするとすぐに該当箇所をお読みいただけます。
(1)延納|相続税を分割払い
まずは相続税の延納です。
相続税には延納制度があります。延納制度とは、一定の要件を満たしている相続人について、相続税の分割払いを認めるものです。
相続税を延納できる期間は5〜20年です。相続財産のうち、不動産等が占める割合が高いほど延納できる期間も伸びていきます。
相続税を延納する場合の注意点は、①担保の提供が必要なこと、②分割期間に対応した利息(利子税)がかかることです。以下で詳しく解説します。
①相続税の延納には担保が必要
担保として提供できる財産は、国債、地方債、土地、建物など、税務署が相続税を回収するために換価(売却)しやすいものに限られます。
非上場会社の株式や骨董品などは担保として認められない可能性が高いです。
ただし、延納する相続税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合は、担保を提供せずに延納制度を利用できます。
②分割期間に対応した利息(利子税)がかかる
申告期限から納付した日までの期間に応じて、年利1.2%〜6.0%の利子税がかかるため、延納制度を利用すると支払う税金の総額が増えてしまいます。
利子税の金額によっては、後述するほかの解決方法を選んだ方が、金銭的な負担が少なく済む可能性があります。延納期間が長くなってしまいそうな場合には、ほかの方法も検討してみてください。
相続税の延納制度を利用する手続きや、細かい利用条件については、関連記事『相続税の延納・物納|利用条件や利子税、担保、申請手続きを解説』をお読みください。
(2)物納|不動産などで納税
延納によっても相続税を納付することが困難な場合は、物納制度を利用できます。物納制度とは、現金の代わりに「相続した物で納税する」ことをいいます。
物で納める物納は、相続税にのみ認められた納税方法です。
そのため相続税の物納は、「土地や持ち家を相続して、相続税が払えない」という人に向いている解決方法といえるでしょう。
ただし、いきなり物納の申請ができるわけではありません。相続税の物納が認められるのは、相続税の延納によっても相続税を納められない人に限られます。
また、物納に利用できる財産は、家や土地などの不動産、国債証券、地方債証券、上場株式等と多くありますが、優先順位が定められており、納税者が自由に物納にあてる財産を決めることはできません。
手続きが複雑なことと、通常の売却金額より低く評価されるのがデメリットです。
物納できる財産の優先順位や、物納の申請に必要な準備については、関連記事『相続税の延納・物納|利用条件や利子税、担保、申請手続きを解説』をお読みください。
(3)遺産を売却して現金化
相続税が払えない場合には、相続した財産を売却して、その売却代金で相続税を払う方法もあります。
ただし、売却できる財産は遺産分割協議で誰が相続するか決まった財産のみです。遺産分割協議の前に勝手に売却してしまうと、トラブルの元になってしまうため注意してください。
株式など換金が容易なものは、短期間で売却して納税資金を確保することができます。反対に、土地や家などの不動産は、簡単には換金できません。
不動産の売却にはリスクがある
持ち家や土地などの不動産は、新たに買い手を探す必要があり、換金することが難しい場合があります。
さらに、相続税の支払いは10か月以内に行う必要があるため、急いで買い手を見つけなければなりません。「売り急ぎ」と言われる状況になり、安く買い叩かれるリスクがあります。
また、安い金額でも納付期限までに売却、現金化できない可能性があります。
不動産の売却には費用がかかる
相続した不動産の売却で利益を得ると、譲渡所得税が課税されます。
また、土地を売却する場合は不動産会社を挟むことが多いため、仲介手数料もかかることもあるでしょう。
これらの費用を差し引いた金額が相続税の支払いに充てられます。
(4)相続税を立て替えてもらう
相続税の支払いを、ほかの相続人や家族に、一時的に立て替えてもらうことが可能です。
これにより、ひとまず相続税の納付期限までに支払いを終えることができます。
ただし、立て替えてもらった金額は必ず清算しましょう。
もし清算せずにいると、税務署に「立て替えではなく贈与を受けた」と判断され、贈与税の課税対象として扱われてしまいます。
贈与税には課税方式が2つあり、通常は年間110万円の非課税枠がついた暦年課税です。この場合、立て替えてもらった相続税額が110万円を超えていると、贈与と判断された際に贈与税が課税されてしまいます。
なお、立て替えてもらった金額が110万円以下で、同じ年に贈与を受けておらず、相続時精算課税制度(※)も利用していない場合には、贈与と判断されても贈与税は課税されません。
※相続時精算課税制度
2,500万円の贈与まで贈与税がかからない代わりに、相続発生時に相続税がかかる課税制度。届出を提出することで暦年課税から変更できる。
(5)金融機関から資金を借り入れ
上記4つのいずれの方法も難しい場合、最終的に金融機関からの借り入れ、つまり「相続税を支払うための支援ローン」を組むことも検討しなければなりません。
相続税の支援ローンといっても、限度額や借り入れ期間は金融機関ごとに異なります。
また、単純に納税資金を借り入れるものもあれば、相続した不動産を売却することを前提にしてつなぎ融資を受けられるものもあります。
相続税の支援ローンを組むかどうかの判断材料は、
- 延納制度の利子税よりもローンの金利の方が安いか
- ローンを組むための担保や保証人を用意できるか
- 相続税の納付期限までに借り入れできるか
などが挙げられます。
相続税の支援ローンをお考えの方は、一度、関連記事『支援ローンを組んで相続税を納付|知っておきたいメリットと注意点』をお読みください。
(6)預貯金の仮払制度
預貯金の仮払制度とは、一定の手続きのもと、遺産分割協議前に被相続人の預貯金を一定額まで引き出すことができる制度です。
被相続人の預貯金口座は、金融機関が被相続人の死亡を知った時点で凍結されます。一般的には、相続人が金融機関に問い合わせることで死亡が伝わり、凍結されることが多いです。
口座が凍結されると、入出金ができなくなります。
通常であれば、凍結の解除には相続人全員が同意した遺産分割協議書が必要なため、先に遺産分割協議を成立させなければなりません。
しかし、民法改正により2019年7月以降、この仮払制度により遺産分割協議が成立する前でも、一定額を引き出せるようになりました。
遺産分割協議がまとまらないことが理由で預貯金口座の名義変更ができずに、相続税が支払えない場合には有効な手段です。
(7)財産の一部分割
(6)で、相続人全員が同意した遺産分割協議書がないと、口座の凍結が解除されないという解説をしました。
そこで検討できるのが、納付する相続税額分だけ先に分割協議する一部分割です。
相続税の納付に必要な金額分のみを先に遺産分割することで、口座の凍結を解除し、預貯金を相続した相続人の納税資金に充てることができます。
(8)相続放棄
相続税を支払う資力がない場合には、相続放棄も選択肢のひとつです。
相続放棄とは、相続財産に関する権利のすべてを放棄することです。財産を相続しないので、当然相続税を支払う必要もありません。
しかしデメリットとして、被相続人が亡くなった日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければいけないことや、一度相続放棄の手続きをすると撤回できないことなどがあります。
相続放棄はあくまで、相続税が支払えないときの最終手段として考えることをおすすめします。
関連記事
・相続放棄したら相続税は払わなくていい?ほかの相続人への影響も解説
・相続放棄の期限は3か月|期限を過ぎた、期限を延長したい場合はどうする?
相続税を払わないとどうなる?ペナルティはある?
納付期限までに相続税を払わないでいると、どうなってしまうのか解説します。
被相続人が亡くなった日から10か月以内に相続税の申告・納付をしなかった場合は、加算税や延滞税などのペナルティが課せられ、期限内に相続税を払うケースよりも、多く税金を負担することになります。
また、相続税の連帯納付義務により、ほかの相続人に支払い義務が発生することもあります。
以下でそれぞれ解説します。
延滞税|納付が遅れると課税
延滞税とは、期限までに相続税を納付できなかったことに対するペナルティです。
延滞税は申告期限から日が経つごとに金額が上がっていくので、もし相続税が払えずに期限を過ぎてしまった人は、一刻も早く対応しましょう。
相続税の延滞税について詳しくは、関連記事『相続税の延滞税とは?計算方法・税率・延滞税を回避する方法を解説』をお読みください。
無申告加算税|申告しないと課税
無申告加算税は、相続税申告が必要なのにもかかわらず、相続税の申告期限までに相続税申告を行わなかったことに対するペナルティです。
そのため、「申告期限までに申告はおこなったものの、納付はできていない」というケースでは、この無申告加算税は課税されません。
なお、相続税申告を期限内におこなっても、申告額が実際の税額より少ない場合には、過少申告加算税が課されます。
重加算税|脱税の疑いがある場合に課税
自分は相続税申告が必要だとわかっていたにも関わらず、相続税を払いたくないがためにわざと申告をしなかったり、故意に嘘の内容で申告をした場合には重加算税が課されます。
相続人に悪意がある場合は、無申告加算税と過少申告加算税が、重加算税に変化するイメージです。
重加算税の税率は「本来支払う相続税額 × 35%または40%」と、非常に重い負担になってしまうため、ごまかすことは考えず、相続税の申告・納付は正しく行いましょう。
連帯納付義務|ほかの相続人に請求がいく
相続税の納付は相続人全員の連帯納付義務があります。
そのため、相続人のうちに一人でも納付できない人がいると、ほかの相続人にも支払義務が発生することがあります。
もし相続人の中に、相続税が払えない人がいる場合には、ぜひこの記事で解説した解決方法をご検討ください。
相続税の連帯納付義務について気になる方は、関連記事『相続税の連帯納付義務|対象者や金額、回避法を徹底解説』をお読みください。
相続税を払わないと、前述したリスク以外にも「財産が差し押さえられる」おそれがあります。詳しくは関連記事『相続税の申告期限が過ぎたらどうなる?間に合わないときの対応を解説』をお読みください。
持ち家や土地の相続税が払えないと思ったら…
実は相続税の支払いが必要な割合は高くない
国税庁の発表によれば、令和3年中に亡くなった人が約143.9万人いるのに対し、そのうち相続税の支払いが必要な相続件数が約13.4万件となっています。
すなわち、相続税が必要な割合は約9.3%です(令和3年分相続税の申告事績の概要)。
つまり、亡くなった人10人のうち「相続税の支払いが必要なほどの財産を所有していた人」は、1人いるか、いないかぐらいの水準なのです。
意外と相続税の支払いが必要な人は、多くないと感じられるのではないでしょうか。
関連記事
相続税を払う人の割合は約10%!支払い義務があるか確認する方法
持ち家や土地の相続には特例がある
持ち家の土地を相続した場合、小規模宅地等の特例が適用できることがあります。
小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈で土地を取得した場合、一定の要件を満たせばその土地の評価額を最大80%減額できる特例です。
評価額とは、相続した土地の「相続税法上の時価」のことをいいます。財産の評価額が下がれば、支払うべき相続税も安くなります。
しかし、小規模宅地等の特例にはいくつかの適用するための要件があります。持ち家の相続税や小規模宅地等の特例について詳しくは、関連記事『持ち家の相続税はどのくらい?特例を利用すれば大幅節税できる!』をお読みください。
相続税の申告が必要なケースとは?
では、そもそも相続税の申告は、どのような場合に必要となるのでしょうか。
相続税申告は基礎控除を超えたときに行う
相続税申告は、相続により取得した財産の評価額の合計が、基礎控除を超える場合に必要となります。
相続税の基礎控除とは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される金額です。
たとえば、4人家族のうち父親が亡くなり、相続人が妻と子ども2人の、合計3人の場合の基礎控除額は4,800万円です。
この場合、配偶者と子どもが相続した財産、自宅の不動産や預貯金などの財産の合計額が4,800万円を超えない場合には、相続税の申告は不要です。
相続税の計算シミュレーションは『相続税計算機』をご利用ください。
また、相続人の組み合わせによる相続税の計算は、以下の計算シートが便利です。
関連記事
相続税の支払いが必要なケースとは?
実は、「相続税の申告 = 相続税の支払いが必要」というわけではありません。
国税庁の発表によれば、相続税の申告書を提出したけれども、相続税の支払いが不要だった人が約3.5万人となっています。
では、相続税を申告したのに相続税の支払いが不要な場合とは、どういった場合でしょうか。
それは、相続税申告が適用要件になっている特例・制度を利用して、相続税が0円になった場合です。
相続税には、残された遺族に配慮して、相続税額の軽減を図る特例・制度がいくつかあります。その代表格が「配偶者の税額軽減」です。
配偶者の税額軽減は相続財産のうち、法定相続分(子どもがいる場合には1/2)または1億6,000万円の、どちらか大きい金額までの財産を配偶者が取得する場合に、相続税がかからないという制度です。
最低でも1億6,000万円までの相続に、相続税がかからないということです。
この配偶者の税額軽減は、相続税の申告をすることが適用の要件になっており、相続財産の総額が基礎控除を超え、配偶者控除を適用する場合には相続税の申告が必要になります。
仮に相続税が0円になったとしても相続税申告は必要なので、「相続税申告はするが、相続税は払わなくて良い」状況が成立するのです。
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相続税の配偶者控除とは?適用の要件は?計算方法を具体例付きで解説
相続税が払えなくて困った場合は税理士に相談
相続税が払えない場合の解決方法についてご説明しました。ただし、解決方法を見ただけではご自身にどの方法が適しているのか、判断するのは難しいかもしれません。
最も適している解決方法がどれになるかは、相続人の収入や、相続人が相続以前から所有している財産などに左右されます。
もし「相続税が払えずに困っている」、「相続税が払えないおそれがあるから生前に対策しておきたい」という場合には、相続税に強い税理士にご相談ください。
相続人の資産状況や、相続する財産の構成を元に、ご家族の皆さんが安心できる方法をご提案できます。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士