相続税が払えないときの解決方法を7つ紹介!【税理士監修】

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相続税が払えない?

相続税は、申告期限である被相続人が亡くなった日から10ヵ月以内に、税務署に納めなければなりません。

預貯金などの現金を多く相続した人は、そこから相続税を払うこともできますが、家や土地など現金化に手間がかかる財産を相続した人は、手持ちのお金から相続税を払うことになります。

そのため、もし手元に現金がないと「相続税が払えない」状況に陥ってしまうことがあるのです。

さらに、相続税を期限内に納められないと、延滞税などが課されてしまうことも考えられます。

そこでこの記事では、税理士がおすすめする「相続税が払えないときの解決方法を7つ」紹介します。

なぜ相続税が払えなくなってしまう?

まずは、なぜ相続税が払えなくなってしまうのか確認していきましょう。

相続税は、原則として亡くなった日、相続の開始日から10ヶ月以内に申告をする必要があります。そして、相続税がかかる場合には同日までに相続税を納付する必要があります。

相続で財産を取得したけれど、相続税が払えないケースとはどのようなケースがあるのでしょうか。

家や土地などの不動産を多く相続して現金が足らない

家や土地などの不動産を多く相続した場合は、相続税が払えなくなることが多いです。

相続税は申告期限までに現金一括納付をする必要があり、相続によって取得した不動産については、原則として相続税の納税に充てることができません。

そのため、相続税額に満たない現預金しか相続できなかった場合には、相続人の元々持っている預貯金から相続税を支払う必要があります。

換金性の低い財産が多く現金が確保できない

亡くなった方が中小企業のオーナー経営者である場合には、財産に換金性のない非上場会社の株式の占める割合が多いことがあります。

または骨董品や美術品など、すぐに換金できるものではないのに、評価額は高くなるものを多く相続した場合にも、相続税の支払いに困ることがあります。

相続財産が未分割なので税額軽減の制度が使えない

相続が発生すると、相続人同士で遺産分割協議を行いますが、この遺産分割協議がまとまらない場合であっても、相続税の申告は必要です。

遺産分割がまとまっていない状態での相続税申告で問題となるのが、相続税を大幅に控除できる、「配偶者の税額軽減」などの税額軽減の制度が使えないことです。

そのため、支払うべき相続税額が多額になることがあります。

また、遺産分割協議がまとまらない場合には、預金口座の名義変更などをする事が出来ず、原則として相続した預貯金を相続税の支払いに当てることができません。

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相続税を払えない場合の7つの解決方法

相続税を払えないことがわかったときの解決方法を7つご紹介します。

①延納(分割払い)

まずは相続税の延納です。

相続税には延納制度というものがあり、一定の要件を満たしている相続人については、相続税の分割払いが認められます。

相続税を延納する場合の注意点としては、担保の提供が必要なことと、分割期間に対応した利息(利子税)が必要になることです。

担保として提供できる財産は、国債、地方債、土地、建物など、税務署が相続税を回収するために換価(売却)しやすいものに限られます。さきほど挙げた非上場会社の株式や骨董品などは担保として認められない可能性が高いです。

延納できる期間は、相続財産のうちに不動産等の占める割合に応じて5〜20年の期間です。また、申告期限から納付した日までの期間に応じて年利1.2%〜6.0%の利子税がかかるため、支払う税金の総額が増えることがデメリットです。

相続税の延納についてもっと詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の延納・物納|制度利用の条件・利子税の計算・申請に必要な書類』をお読みください。

②物納(不動産などで納税)

延納によっても相続税を納付することが困難な場合、現金の代わりに「相続した物で納税する」のが物納です。物で納める物納は、相続税にのみ認められた納付方法です。

そのため相続税の物納は、「土地や持ち家を相続したけれど、相続税が払えない」という方に向けた解決方法です。

ただし、いきなり物納の申請ができるわけではありません。相続税の物納ができるのは、相続税の延納によっても相続税を納められない人に限られます。

また、家や土地などの不動産、国債証券、地方債証券、上場株式等で納税することができますが、優先順位が定められており、納税者が自由に物納にあてる財産を決めることはできません。

手続きが複雑なことと、通常の売却金額より低く評価されるのがデメリットです。

③遺産を売却して現金化

相続税の支払いができない場合には、相続した財産を売却して、その売却代金から相続税を払う方法もあります。

株式など換金が容易なものは良いのですが、持ち家や土地などの不動産は、新たに買い手を探す必要があり、換金することが難しい場合があります。

この場合には、一般的には売り急ぎと言われる状況になり、安く買い叩かれることが多くあります。また、安い金額でも申告期限までに売却、現金化できない可能性も考えられます。

なお、この売却は相続人の所得税・住民税の対象となり、売却金額から支払うべき税金を引いた額を相続税の納税に充てることになります。

④銀行借り入れ

上記のいずれの方法も難しい場合、最終的に銀行からの借り入れ、つまり支援ローンを組むことも検討しなければなりません。

銀行からの借り入れを行った場合、返済計画に注意しなければいけません。

相続により取得した不動産などを売却するまでのつなぎ融資にするのか、相続により取得した不動産が家賃収入を得られる物件である場合には、家賃収入から経費、税金を引いた金額で返済ができるか、検討が必要です。

相続税の支援ローンをお考えの方は、一度、関連記事『支援ローンを組んで相続税を納付|知っておきたいメリットと注意点』をお読みください。

⑤相続放棄

相続放棄とは、相続財産に関する権利の一切を放棄することです。財産を相続しないことになりますので、当然相続税を支払う必要はありません。

相続する財産には、現金のようにプラスのものだけでなく、借金のようなマイナスの財産もあります。もし、マイナスの財産が多ければ相続放棄も検討すべき方法のひとつでしょう。

しかし、デメリットとして、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければいけないことや、一度相続放棄の手続きをすると撤回できないことなどがあります。

相続放棄後に財産調査をした結果、知らなかった財産が出てきても相続することはできないため、慎重に検討する必要があります。

また、自身が相続を放棄した分の権利は、次の順位の相続人に渡ることになるため、相続税の支払義務が親族の誰かに変わるだけで根本的な解決にはなっていないかもしれません。

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⑥預貯金の仮払制度

預貯金の仮払制度とは、一定の手続きのもと、遺産分割協議前に被相続人の預貯金を、一定額まで引き出すことができる制度です。

原則、亡くなった方の預貯金口座は死亡と同時に凍結され、お金を引き出すことができません。

通常であれば、凍結の解除には相続人全員が同意した遺産分割協議書が必要なため、先に遺産分割協議を成立させなければなりません。

しかし、民法改正により2019年7月以降は、この仮払制度により一定額を引き出せるようになりました。

遺産分割協議がまとまらないことが理由で、預金口座の名義変更ができずに、相続税が支払えない場合には有効な手段です。

⑦財産の一部分割

⑥で相続人全員が同意した遺産分割協議書がないと、口座の凍結が解除されないという解説をしました。

そこで検討できるのが、納付する相続税額分だけ先に分割協議する一部分割です。

相続税の納付に必要な金額分のみを、先に遺産分割することで、口座の凍結を解除することができます。

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持ち家や土地の相続税が払えないと思ったら…

実は相続税の支払いが必要な割合は高くない

国税庁の発表によれば、令和3年中に亡くなった方が約143.9万人いるのに対し、そのうち相続税の支払いが必要な申告をされた方の件数が約13.4万件、割合でいうと約9.3%です(令和3年分相続税の申告事績の概要)。

つまり、亡くなった方10人のうち相続税の支払いが必要な方は、1人いるか、いないかぐらいの水準なのです。

意外と相続税の支払いが必要な方は、多くないと感じられるのではないでしょうか。

持ち家や土地の相続には特例がある

持ち家の土地を相続した場合、小規模宅地等の特例が適用できることがあります。

小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈で土地を取得した場合、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大80%減額できる特例です。

評価額とは、相続した土地の時価のことをいいます。評価額が下がれば発生する相続税額も下がります。

しかし、小規模宅地等の特例にはいくつかの適用要件があります。持ち家の相続税や小規模宅地等の特例について詳しくは、関連記事『持ち家の相続税はどのくらい?特例を利用すれば大幅節税できる!』をお読みください。

相続税の申告が必要なケースとは?

では、そもそも相続税の申告は、どのような場合に必要となるのでしょうか。

相続により取得した財産の評価額の合計が基礎控除を超える場合に相続税の申告が必要となります。

相続税の基礎控除とは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される金額です。

たとえば、4人家族のうち父親が亡くなり、相続人が妻と子ども2人の場合の基礎控除額は4,800万円です。

この場合、配偶者とお子さんが相続した財産、自宅の不動産や預貯金などの財産の合計額が4,800万円を超えない場合には、相続税の申告は不要です。

この財産の合計額については、それぞれ評価額を用いて計算します。預貯金の場合には残高が評価額となりますが、土地については税務署が定めた路線価に基づいて評価をすることになります。この路線価は一般的な時価の8割相当とされており、税金の負担が過大とならないように配慮されています。

不動産などについて、住宅ローン等の借り入れがある場合にはその金額をマイナスします。

財産の合計額で4,800万円も持っていないだろう、というサラリーマン家庭は多いはずです。この場合には相続税の申告がいらず、相続税の支払いの心配はいりません。

相続税の計算シミュレーションは『相続税計算機』をご利用ください。

また、相続人の組み合わせによる相続税の計算は、以下の計算シートが便利です。

関連記事

相続税の基礎控除がわかる|計算方法や法定相続人の数え方も解説

相続税の支払いが必要なケースとは?

実は、「相続税の申告 = 相続税の支払いが必要」というわけではありません。

先ほどの国税庁の発表によれば、相続税の申告書を提出したけれども、相続税の支払いが不要であった方が約3.5万人となっています。

では、相続税を申告したのに相続税の支払いが不要な場合とは、どういった場合でしょうか。

相続税の計算をする際に残された遺族に配慮して、相続税額の軽減を図るものがあります。その代表格が配偶者に対する相続税額の軽減です。

配偶者の税額軽減は相続財産のうち、法定相続分(子どもがいる場合には1/2)または1億6,000万円まで、どちらか大きい金額までの財産を配偶者の方が取得する場合には相続税がかからないという制度です。

この配偶者の税額軽減は相続税の申告をすることが適用の要件になっており、相続財産の総額が基礎控除を超え、配偶者控除を適用する場合には相続税の申告が必要になります。

例えば、財産の総額が1億6,000万円以下で配偶者の方が全て財産を取得する旨の申告をする場合には、相続税は無税になるケースがあります。

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相続税が払えないとどうなる?ペナルティはある?

最後に、申告期限内に相続税が払えないとどうなってしまうのか解説します。

相続税を申告期限である相続開始から10ヶ月以内に支払えない場合には、加算税や延滞税などのペナルティが課せられ、通常の相続税より多く税金を負担することになります。

延滞税は申告期限から日が経つごとに、金額が上がっていくので、もし相続税が払えず申告期限を過ぎてしまった方は、一刻も早く対応することをおすすめします。

相続税の延滞税について詳しくは、関連記事『相続税の延滞税とは?計算方法・税率・延滞税を回避する方法を解説』をお読みください。

また、相続税の納付は相続人全員の連帯納付義務があります。そのため、相続人のうちに一人でも納付できない方がいると、他の相続人にも支払義務が発生することがあります。

もし相続人の中に、相続税が払えないという方がいらっしゃいましたら、ぜひこの記事で解説した解決方法をご検討ください。

相続税の連帯納付義務について気になる方は、関連記事『相続税には連帯納付義務がある|納付する限度額や注意点を解説』をお読みください。

相続税の相続税の無料相談

相続税が支払えず困った場合は税理士へ

相続税が支払えない場合の対処方法についてご説明しました。では、どの方法が一番ご自身に適しているのでしょうか。

これはケースバイケースで、相続の後の収入や、相続人が相続以前から所有している財産なども考慮して検討する必要があり、難しい問題です。

相続税の支払いに困った場合は、早めに税理士にご相談ください。ご家族の皆さんが安心できる方法をご提案できます。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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