預貯金に相続税はかかる?|相続手続きや税金が発生する条件を解説

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預貯金を相続

銀行預金をはじめとする預貯金は、相続税の課税対象です。

しかし、預貯金を相続したからといって、必ずしも税金を納めなければならないわけではありません。

この記事では、どのような場合に相続税を納める必要があるのか、具体例付きでわかりやすく解説します。

預貯金の相続手続きの流れや、相続税を申告する際の注意点についてもご説明します。

預貯金に相続税がかかる場合とは?

相続税がかかるのはいくらから?

相続税は、相続財産が3,600万円を超える場合に課税される可能性があります。

具体的には、預貯金や不動産等のプラスの財産から、債務・葬式費用等を差し引いて、相続開始前3年以内の生前贈与の価額を加算した金額(課税価格の合計額)が3,600万円を超える場合に、相続税がかかる可能性が生じます。

なぜ「3,600万円」が基準になるかと言うと、相続税の基礎控除額の最低ラインが3,600万円に設定されているからです。

相続税は、基本的に相続財産が基礎控除額を超える場合に課税されます。

そのため、3,600万円を下回る相続財産しかない場合は、相続税がかからないのです。相続財産が基礎控除額以下の場合は、申告も納税も不要です。

【相続税の基礎控除額の計算式】

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

「相続税がかかるかどうか知りたい」と思った方は、まず「相続財産が基礎控除額を超えるかどうか」を確認してみましょう。

相続税が課税されるか確認する方法については、『相続税額をシミュレーションできる計算方法を解説!』でさらに詳しく解説しています。

【注意点】

相続財産が基礎控除額を超える場合でも、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」等を適用した結果、相続税が0円になるケースも少なくありません。

各制度の適用要件や計算式は複雑です。ご自分で判断すると相続税を払い過ぎてしまうおそれがあります。

相続税を少しでも節税したいとお考えの方は、相続専門の税理士に直接相談することをおすすめいたします。

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相続税がかかる場合・かからない場合の具体例

ここでは、相続税がかかる場合とかからない場合を具体例でご説明します。

相続税額の詳しい計算方法については、『相続税はいくらから生じる?|基礎控除額も解説』をぜひご覧ください。

【相続税がかかる場合の具体例】

・被相続人は、配偶者と子2人
・相続財産は、銀行預金1億円
・法定相続分どおりに相続(配偶者5,000万円、長男2,500万円、長女2,500万円)

①課税価格の合計額

5,000万円(配偶者)+2,500万円(長男)+2,500万円(長女)=1億円

②基礎控除額

3,000万円+600万円×3=4,800万円

③課税遺産総額

1億円-4,800万円=5,200万円

④法定相続分に応じて取得したものとした場合の各取得金額

配偶者:5,200万円×1/2=2,600万円

長男:5,200万円×1/4=1,300万円

長女:5,200万円×1/4=1,300万円

⑤上記④の取得金額に相続税率を掛けて控除額を差し引いた金額

配偶者:2,600万円×15%-50万円=340万円

長男:1,300万円×15%-50万円=145万円

長女:1,300万円×15%-50万円=145万円

⑥相続税の総額

340万円(配偶者)+145万円(長男)+145万円(長女)=630万円

⑦相続税の総額に実際の相続割合を掛けた金額

配偶者:630万円×1/2=315万円

長男:630万円×1/4=157.5万円

長女:630万円×1/4=157.5万円

⑧税額控除

配偶者は「配偶者の税額軽減」により、1億6,000万円まで相続税が免除されます。したがって、本件の場合、配偶者の最終的な納税額は0円になります。

⑨納税額

157.5万円+157.5万円=315万円

【相続税がかからない場合の具体例】

・被相続人は、配偶者と子2人
・相続財産は、銀行預金5,000万円
・債務・葬式費用は、1,000万円

①課税価格の合計額

5,000万円-1,000万円=4,000万円

②基礎控除額

3,000万円+600万円×3=4,800万円

③課税遺産総額

4,000万円-4,800万円<0

課税価格の合計額が基礎控除額を下回っているため、本件では相続税の申告・納税ともに不要です。

預貯金の相続手続きとは?

預貯金を相続する場合の流れ

預貯金口座の名義人が亡くなった場合、相続手続きを進める必要があります。

具体的には、解約または名義変更をすることになります。

どちらの手続きも主な流れは以下のとおりです。

なお、預貯金の相続手続きに期限はありません。

しかし、相続税の申告・納税期限は、被相続人の死亡日の翌日から10か月以内です。そのため、原則としてこの期限内に預貯金の相続手続きも完了しておく必要があります。

【預貯金の相続手続きの流れ】

①預金通帳等を調べて、公共料金やキャッシュカードの引落とし、定期的な入金がないか確認します。引き落としや入金がある場合、口座を変更しておきます。
【ポイント】口座名義人が亡くなったことを金融機関に連絡すると、口座の取引(預金の入出金等)は原則として制限されます。
そのため、口座凍結の前に、生活に支障が生じないよう口座を変更しておく必要があります。
②金融機関に口座名義人が亡くなったことを連絡します。残高証明書の発行も依頼します。
③遺言書があればその内容に従って遺産分割を行います。
④遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議がまとまり次第、遺産分割協議書を作成します。
⑤相続手続きの必要書類をそろえて金融機関に提出します。

【預貯金の相続手続きに関する必要書類】

遺言書がある場合
遺言書
検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
預金を相続する人の印鑑証明書
相続届(金融機関によって名称が異なる)
被相続人の通帳、キャッシュカード
遺産分割協議をした場合
遺産分割協議書
被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
相続人全員の印鑑証明書
相続届
被相続人の通帳、キャッシュカード

相続放棄する場合は預貯金の引き出しに注意!

被相続人のプラスの財産よりマイナスの財産が多い場合、相続放棄を行うのが1つの選択肢です。

相続放棄をすると、最初から相続人とならなかったものと扱われるため、一切の相続財産を承継しないことになります。

相続放棄を予定している場合に注意していただきたいのが、預貯金の引き出しです。

預貯金を引き出すと、相続人が相続財産を処分したとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうおそれがあるのです。

医療費や葬儀費用として、どうしても現金が必要な場合、被相続人が亡くなる前に預貯金を引き出しておく方法が考えられます。

亡くなる前に費消した医療費等のお金については、使途や金額が分かるよう領収書等を必ず保管しておきましょう。

死亡直前の引き出しを故意に隠すと加算税等のペナルティが科されますので、絶対にやめましょう。

亡くなった後に支払った葬儀費用は、相続税の計算上、控除できます。

なお、民法改正により令和元年7月から「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」が利用できるようになりました。

この制度について、次の項で詳しくご説明します。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度

金融機関に口座名義人が亡くなった連絡をすると、遺産分割が終了するまでの間、口座は凍結されます。

そのため、遺産分割終了前でも、葬儀費用や当面の生活費に必要な現金を引き出せるよう、令和元年7月から相続預金の払戻し制度が利用できるようになりました。

この制度を使えば、各相続人が単独で、相続預金のうち一定額まで払戻しを受けられます。

払戻可能額の計算式と必要書類は、以下のとおりです。

【払戻可能額の計算式】

相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

【必要書類】

相続預金の払戻し制度の必要書類
被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
預金の払戻しを受ける人の印鑑証明書

なお、実際に払戻しを受けるまでに一定期間を要します。支払いを急ぐ場合には、払戻しが間に合わない可能性もあります。

制度を利用する前に、金融機関に払戻しにかかる期間を確認するようご注意ください。

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相続税を申告する際の注意点

名義預金の申告漏れに注意

相続税を申告する際、特に気をつけていただきたいのが「名義預金」の申告漏れです。

名義預金とは、口座名義人と実際にお金を拠出した人が異なるケースを言います。

典型例は、口座名義人は専業主婦の妻であるものの、実際にお金を拠出したのは夫である被相続人というケースです。

このような場合、預貯金は妻の財産ではなく、夫の相続財産に当たります。

したがって、たとえ妻名義の預貯金でも、相続税の課税対象としてきちんと申告する必要があるのです。

税務署は名義預金の存在に特に厳しい目を向けているため、少しでも不審な口座があると税務調査の対象になる可能性が高まります。

税務調査で名義預金と認定されると、過少申告加算税や重加算税、延滞税等を支払わなくてはなりません。

名義預金と認定されないために、以下の点に注意して生前贈与を行うようにしましょう。

【名義預金の認定を回避するポイント】

●生前贈与のたびに贈与契約書を作成する
●通帳、印鑑、キャッシュカードを受贈者(口座名義人)が管理する
●贈与者と受贈者で別々の届出印鑑を使用する
●口座開設手続きを受贈者本人が行う

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タンス預金の申告漏れに注意

相続税を申告する際、名義預金と並んで注意していただきたいのが、タンス預金です。

「現金で保有しておけば税務署にばれない」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。

税務署は、国税庁のKSK(国税総合管理)システムを使い、被相続人の過去の確定申告や納付状況を把握できます。

また、金融機関を通じ、被相続人や家族の取引履歴も詳細にチェックすることが可能です。

税務署は、それらの情報から被相続人の相続財産を推計します。

その推計値と実際の申告額が大きくかけ離れている場合、「タンス預金等の申告していない財産があるのではないか」と簡単に判明してしまうのです。

税務調査でタンス預金が判明した場合も、加算税の対象になります。

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預貯金の相続に関するお悩みは専門家へ

相続税を計算するには、預貯金だけでなく、すべての相続財産を漏れなく調査する必要があります。

その上で、特例や税額軽減制度も正しく適用する必要があります。

これらを相続人ご本人ですべて行うのは大変な負担です。

そこで頼っていただきたいのが、相続専門の税理士です。

相続専門の税理士に相談すれば、申告の負担を軽減できるのはもちろん、相続税対策についても的確なアドバイスが得られ節税につながります。

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アトムグループ 協力税理士

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