貸家の相続税評価方法|評価額が低くなる理由も解説

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貸家を相続すると

「貸家」とは人に貸している家屋のことです。

貸家は一般的に、貸し出されている一戸建ての建物をいいます。

貸家の相続税評価の方法は、被相続人が自宅として使っていた建物などとは異なります。

この記事では、貸家の相続税評価額を求める方法や、評価額が低くなる仕組みを解説します。

また、これから貸家で相続税対策をする予定の方に知っておいていただきたい注意点も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

貸家の相続税評価額の計算方法

相続税評価額とは、相続した財産の「相続税法上の時価」のことで、相続税を計算する際に用いられます。

相続税評価額が高いほどその財産にかかる相続税も高くなるため、相続税評価額が低く抑えられる貸家は、相続税対策に適しているといえます。

貸家の相続税評価額は建物と土地に分けて求める

まず、被相続人所有の土地に建った貸家を相続した場合、貸家と貸家が建っている土地にわけて、それぞれ相続税評価額を算出します。

なお、貸家が建っている土地のことを「貸家建付地」といいます。

それでは貸家と貸家建付地の相続税評価額の計算方法を確認していきましょう。

貸家の相続税評価額の求め方

貸家の相続税評価額は、以下の式で計算します。

建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

建物の固定資産税評価額は、毎年市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書の中にある、課税明細書に記載されています。

借家権とは、お金を払って建物を借りるときに生じる、借主側(借りる側)の権利のことです。借主が不当に退去させられることのないように、保護をする目的で定められています。

なお、借家権割合は全国一律で30%と決められています。

賃貸割合は、一軒丸ごと貸し出している場合は100%となります。

たとえば、固定資産税評価額が1,000万円の貸家の場合は、「1,000万円×(1-0.3[30%]×1[100%])」となり、この貸家の相続税評価額は700万円になります。

賃貸割合が100%のときは、固定資産税評価額の70%の金額になると覚えておきましょう。

貸家建付地(土地)の相続税評価額の求め方

貸家建付地(土地)の相続税評価額は、以下の式で計算します。

自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

自用地としての価額とは、その土地を自分で利用していた場合の評価額のことです。

借地権とは、建物の所有を目的に、地代を払って土地を借りる権利のことです。借地権割合は地域によって30~90%の範囲で指定されていて、『国税庁のホームページの路線価図』で確認できます。

路線価図にはA~Gの記号で表記されているので、以下の表と対応させて借地権割合を確認してください。

借地権割合

自用地としての価額の求め方は、関連記事『路線価で土地の相続税評価額を計算|補正のかけ方も具体例付きで解説』をお読みください。

なぜ貸家の相続税評価額は低くなる?

なぜ貸家にすると相続税評価額が下がり、相続税対策になるのか、その仕組みを解説していきます。

貸家は利用に制限があるため

貸家では第三者が生活を営んでいるので、所有者が勝手にその家に入ることなどはできません。すなわち、所有者に対して利用の制限がかかることになります。

建物や土地の評価は、「所有権にどれだけ利用の制限があるか」によって大きく変わります。所有者に利用の制限がかかるほど相続税評価額も下がるので、貸家にすると相続税対策になるというわけです。

小規模宅地等の特例が適用できるため

貸家の敷地には小規模宅地等の特例が適用できます。小規模宅地等の特例とは相続した宅地等の評価額を最大で80%減額できる特例のことです。

今回のような貸家の場合は「貸付事業用宅地等」という扱いになり、貸家建付地の評価額を200㎡まで50%減額することができます。

なお、平成30年の税制改正にて、相続開始前3年以内に貸し付けを開始した物件については、小規模宅地等の特例の適用外とされたので注意が必要です。

小規模宅地等の特例の計算方法や、相続税評価をどのくらい低くできるかは、関連記事『【相続税】小規模宅地等の特例の計算方法がわかる|ケースごとの計算例付き』をお読みください。

賃貸用のアパートやマンションの相続税評価額

アパートやマンションの相続税評価額

アパートやマンションの相続税評価においても、建物と貸家建付地(土地)の評価額を別々に計算して、合算するという流れになります。

まず建物の相続税評価額は、以下の式で計算します。

建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

一戸建ての貸家の場合は、賃貸割合が100%でしたが、アパートやマンションの場合は貸し出している床面積の割合を当てはめます。たとえば、100㎡の部屋が10部屋あるうち、8部屋に入居者がいる場合には、賃貸割合は80%となります。

では、相続開始よりほんの少し前に退去をした人がいた場合は、その分の賃貸割合が下がってしまうのでしょうか。

実は「一時的な空室」の場合は賃貸中とみなすことが可能です。一時的な空室と認められる条件は、これまで継続的に貸し出されていたことや、空室の期間に別の用途で使われていないことが挙げられます。

次に貸家建付地(土地)の相続税評価額は、以下の式で計算します。

自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

こちらも実際に貸し出している面積の割合を、賃貸割合に当てはめて計算します。

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アパート・マンションの駐車場

アパート・マンションの駐車場は、土地の占有権や管理義務が、駐車場の利用者ではなく土地の所有者にあるとされているため、原則自用地だと判断されます。しかし、駐車場の利用者がすべてアパート・マンションの居住者である場合などは例外です。

明らかにアパート・マンションと駐車場の利用状況が一体だと認められる場合は、アパート・マンションと駐車場をまとめて「貸家建付地」として評価されることもあります。

小規模宅地等の特例

アパート・マンションに関しても貸付事業用宅地等という扱いになり、200㎡まで50%相続税評価額を減額することができます。

なお、貸家と同じく相続開始前3年以内に貸し付けを開始した物件に関しては、小規模宅地等の特例の適用外となります。

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貸家で相続税対策をするときの注意点

これから貸家で相続税対策を考えている方や、すでに貸し出しを始めている方に向けて、貸家で相続税対策をするときの注意点をご紹介します。

無償で貸している場合は対策にならない

建物を無償で貸している場合には、貸家として認められず相続税評価額も下げられないため注意が必要です。貸家として評価を受けるためには、賃貸契約を結ぶ必要があります。

親が所有しているアパートの一室に、子が無償で住んでいるケースなども、貸家としては認められません。

また、賃料は払われているものの、非常に低額な場合には貸家として認められず、自用地として計算しなければならない可能性もあります。

貸駐車場は貸家建付地にならない

貸家建付地の条件として、土地の上に建物が建っているというものがあります。駐車場に関しては建物とは認められないため、貸家建付地による減額を受けることはできません。

しかし、貸駐車場についても、土地を第三者に貸してその第三者が駐車場を経営している場合など、いくつか相続税評価額を下げられるケースが存在します。

駐車場の相続税について詳しくは、関連記事『駐車場を相続したら相続税はどうなる?計算方法や控除の有無を解説』をお読みください。

空室のリスクが大きい

貸家としている建物が一戸建ての場合には、空室になった際のリスクが非常に大きいです。アパートやマンションであれば、相続開始時に空室だったとしても、「一時的な空室」として、貸し出している場合と同じ扱いを受けられる可能性があります。

しかし一戸建ての貸家は、相続開始時に空室だった場合、貸家として認めてもらうことはできません。アパートやマンションに比べて空室状態のリスクが大きいのです。

貸家の相続税についてよくある質問

1階を貸していて2階を自宅としている場合はどうなりますか?

2階建ての建物のうち、1階が貸家で2階を自宅としているような建物を、賃貸併用住宅といいます。賃貸併用住宅の相続税評価額は、貸家部分と自宅部分を別々に計算することになります。

土地に関しても今回のようなケースであれば、自用地として土地面積の半分を計算、貸家建付地としてもう半分を計算、というように各階の用途に応じて評価していきます。

似たようなケースで、店舗併用住宅という1階が事業用で2階が自宅用の建物も存在します。店舗併用住宅の相続税評価については、関連記事『店舗併用住宅の相続税評価は大幅減額できる|特例を理解して賢く節税』をお読みください。

アパート・マンション経営を相続したくない場合はどうすれば良いですか?

アパート・マンションなどのプラスの財産があっても、ほかにローンや未払い金などの債務もある場合には「相続放棄」が候補に入ってくるでしょう。

相続放棄とは、すべての財産を相続しないことをいうので「マイナスの財産のみを相続放棄する」といった選択は取れません。相続放棄した方が良いケースとしては、被相続人が多額の借金を抱えていた場合や建物が老朽化している場合が挙げられます。

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もし、アパート・マンション経営に充てる時間がなかったり、知識に不安があることを理由に相続放棄を考えている場合には、「サブリース」により解決できるかもしれません。

サブリースとは、サブリース会社に建物を丸ごと貸し出し、サブリース会社に賃貸経営をすべて行ってもらうという方法です。

経営を代行してもらうため、家賃収入はサブリース会社の手数料が差し引かれた金額になってしまいますが、経営の知識がなくても相続したアパート・マンションの経営を続けることができます。

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おわりに

今回は貸家の相続税評価額や相続税対策について解説しました。

貸家は相続税評価額を下げられることに加えて家賃収入も得られるため、非常に優れた相続税対策です。

しかし、せっかく評価額を下げても相続税の申告を間違えてしまうと、本来納めなくて良いはずの金額まで納めてしまったり、申告漏れが発覚して追徴課税が発生してしまったりするおそれがあります。

思わぬ不利益を被らないためにも、相続に関して不安がある方はぜひ一度相続税に強い税理士に相談してみてください。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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