店舗併用住宅の相続税評価は大幅減額できる|特例を理解して賢く節税
1階を事業用の店舗として利用していて、2階を居住用の生活スペースにしているような住宅を、「店舗併用住宅」といいます。
本来、事業用や居住用の土地を相続すると、「小規模宅地等の特例」という制度で相続税評価を大幅に下げることができます。では、1つの建物が事業用であり、同時に居住用でもある店舗併用住宅ではどうなるのでしょうか。
店舗併用住宅は、事業用部分と居住用部分に分けて、それぞれに小規模宅地等の特例を適用することができます。
この記事では、店舗併用住宅における相続税評価額の求め方や、小規模宅地等の特例の適用について解説します。
目次
店舗併用住宅の相続税評価
店舗併用住宅の相続税評価額
まず、小規模宅地等の特例を適用する前の、店舗併用住宅の相続税評価額についてです。相続税評価額とは、相続した財産の「相続税法上の時価」のことで、相続税を計算するときに使用します。
また、住宅のような不動産を相続したときは、土地と建物の相続税評価額を別々に算出します。
土地の相続税評価額
相続した土地の相続税評価額を求める方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。路線価という、道路に面した土地1㎡あたりの標準価額が設定されている地域は路線価方式を用い、設定されていない地域は倍率方式を使います。
路線価方式は「路線価×土地の面積」という計算式で、倍率方式は「土地の固定資産評価額×評価倍率」で土地の相続税評価額を算出します。
各地域の路線価や評価倍率は、『国税庁|路線価図・評価倍率表』で該当地域を選択すると確認できます。
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建物の相続税評価額
次に、土地に建っている建物の相続税評価額は、「固定資産税評価額×1.0」という計算式で算出します。すなわち、建物の固定資産評価額がそのまま相続税評価額になります。
なお、上記で解説した内容は、事業用の店舗の運営を自らが行っていた場合です。住宅の一部を誰かに貸し出していた場合の相続税評価額は、別の算出方法になるため注意してください。
相続した建物の一部、またはすべてを第三者に貸し出していた場合の計算方法は、関連記事『貸家にすると相続税評価が下がる!|評価方法と注意点について解説』をお読みください。
小規模宅地等の特例の適用
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、土地を相続したときに一定の要件を満たせば、その土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。特例を適用できる土地は、被相続人が事業に使っていた「特定事業用宅地等」や、居住用の自宅などをさす「特定居住用宅地等」など、全部で4種類あります。
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店舗併用住宅は事業用部分と居住用部分に分けて適用する
店舗併用住宅は、事業用部分を特定事業用宅地等として、居住用部分を特定居住用宅地等として、それぞれに小規模宅地等の特例を適用します。
建物の床面積のうち、店舗として事業用に使っている部分と、自宅に使用している部分の面積を求めて、その割合の通りに土地の面積を按分します。そして、事業用と居住用に分けられた土地の評価額にそれぞれ小規模宅地等の特例を適用し、相続税評価額を減額します。
特定事業用宅地等
特定居住用宅地等とは、被相続人が事業を営んでいた宅地、または同一生計親族が事業用に使っていた宅地等のことです。小規模宅地等の特例を適用するためには、相続開始時から申告期限まで、土地を取得した親族が、その土地で事業を継続している必要があります。
適用できる土地の面積は400㎡を上限とし、評価額の80%を減額できます。
特定居住用宅地等
特定居住用宅地等とは、相続が開始される直前まで被相続人や同一生計親族が居住用に使っていた宅地等のことです。小規模宅地等の特例を適用するには、相続人が相続後も継続してその土地に住み続けている必要があります。
適用できる土地の面積は330㎡を上限とし、評価額の80%を減額できます。
なお、小規模宅地等の特例を2種類の宅地に併用する場合、それぞれの限度面積まで適用することができます。仮に相続した店舗併用住宅の、事業用の土地の面積が400㎡で、居住用の土地の面積が300㎡だとすると、合わせて700㎡に小規模宅地等の特例が適用できるということです。
実際に小規模宅地等の特例の計算をしてみる
ここからは以下のモデルケースだと、小規模宅地等の特例を適用することでどのくらい土地の評価額を下げられるのか計算してみます。
・父親が亡くなり、子どもが一人で店舗併用住宅を相続
・母親はすでに亡くなっている
・住宅は、1階が事業用店舗(100㎡)、2階が父子の自宅(100㎡)
・宅地(土地)は、父親が所有者で面積が500㎡
・宅地の相続税評価額:1億円(路線価20万円×500㎡)
特定事業用宅地等と特定居住用宅地等ごとの相続税評価額を求める
まず、用途に応じて土地の面積を按分します。事業用、居住用ともに100㎡であるため、500㎡を半分に割って各宅地の面積は250㎡ずつとなります。
次に、250㎡ずつの土地の相続税評価額を求めます。
路線価20万円×250㎡=5,000万円
特定事業用宅地等と特定居住用宅地等の、各相続税評価額が5,000万円であることがわかりました。
特定事業用宅地等の相続税評価額:5,000万円
特定居住用宅地等の相続税評価額:5,000万円
小規模宅地等の特例を適用する
求めた各相続税評価額に、小規模宅地等の特例を適用します。特定事業用宅地等の面積は250㎡で上限面積の400㎡内に、特定居住用宅地等の面積も250㎡で上限面積の330㎡内におさまっているため、土地全体に特例を適用することができます。
特定事業用宅地等と特定居住用宅地等は評価額の80%を減額できるため、
5,000円×(1-0.8)=1,000万円
小規模宅地等の特例を適用したことで、特定事業用宅地等と特定居住用宅地等の、各相続税評価額が1,000万円に減額されました。合わせて2,000万円が、今回相続する店舗併用住宅の土地の相続税評価額になります。
店舗併用住宅の土地の相続税評価額:2,000万円
計算が複雑になる場合は税理士に相談
上記のモデルケースは1階と2階で用途が分けられていたため、各宅地の面積が同じで計算も単純なもので済みました。しかし、同じ階を仕切り壁で区切っているケースなども、店舗併用住宅として特定事業用宅地等と特定居住用宅地等で分けて特例を適用できます。
用途ごとの面積が複雑だったり、土地の形がいびつな場合には、正確な数字を出すのが難しいでしょう。少しでも不安がある場合は相続税に強い税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、店舗併用住宅における相続税評価額の求め方と、小規模宅地等の特例について解説しました。
店舗併用住宅だと、その用途に応じて特定事業用宅地等と特定居住用宅地等に分けられ、それぞれに小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
一方、割合に応じて土地の面積を按分する必要があったりと、計算が複雑になることも珍しくありません。
もし相続税評価額の計算を間違えてしまうと、その後の相続税の計算も間違えてしまう可能性が高くなります。本来納めるべき相続税額よりも多く納めてしまったり、反対に過少申告となってしまい、追徴課税を課されてしまうことも考えられるでしょう。
土地の相続税評価について悩みを抱えている方や、忙しい日々の中ご自身で相続税申告をするのが困難な方は、ぜひ一度相続税に強い税理士に相談してみてください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士