駐車場を相続したら相続税はどうなる?計算方法や控除の有無を解説
駐車場経営は、余っている土地と少ない初期投資で始められるということで、人気の土地活用方法です。
そのため、「駐車場を相続したけど相続税評価の計算がわからない」「駐車場経営で相続税対策ができないか」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は一口に駐車場といっても、経営しているのは誰か、どのような設備の駐車場かによって相続税評価が変わります。
この記事では、駐車場にかかる相続税に関して、各ケースごとの相続税評価や、小規模宅地等の特例について解説していきます。
目次
駐車場の相続税について
そもそも相続税とは
相続税とは、亡くなった方から財産を取得したときに、その取得した財産に課される税金のことです。
相続税には、相続した課税対象の財産から、一定金額を控除できる「基礎控除」という制度があります。そして相続税は、相続した課税対象の財産から、この基礎控除を差し引いた額にかかります。
つまり、「相続する財産の合計金額が、基礎控除額を超えた場合に」相続税が発生するということです。
相続する財産の価値を求めるためには、駐車場であれば、相続する土地の価値をもとに計算されるため、まずは土地の価値をはっきりさせる必要があります。
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駐車場の相続税評価方法は大きく2種類に分けられる
相続税評価において、土地は登記簿上23種類の地目に分けられます。そのうち建物の敷地である宅地などのように土地の利用目的がはっきりしているもの以外は、雑種地としての評価になります。
土地の所有者自らが駐車場を経営している場合は「自用地」、土地をコインパーキング会社などに貸して、その会社が経営している場合には「賃貸借」となります。経営状況により相続税評価額の計算方法や、受けられる控除が違うため注意しましょう。
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土地の所有者自らで駐車場を経営している場合
自用地評価となる
土地の所有者自らが駐車場を経営している場合は、「自用地評価」となります。
前提として土地の評価は、「土地の所有者にどれだけ利用の制限があるか」によって大きく変わります。仮に第三者に土地を貸し、建物が建てられた場合には土地の所有者がその土地を利用するのに制限がかかります。そして、土地の利用に制限がかかると相続税評価額は下がります。
一方で、所有者自らで駐車場を経営する場合には第三者が建物を建てることも、第三者の意思で土地が整備されることもありません。そのため、土地の所有者には利用の制限がかからないという判断になり、一般的に相続税評価額は上がります。
相続税評価額の計算方法
自用地の相続税評価額には「路線価方式」と「倍率方式」と呼ばれる2つの計算方法があります。
まず路線価方式で相続税評価額を求める場合の計算式は「路線価×土地の面積」です。路線価とは、国税庁が定めている、特定の道路に接している土地1㎡あたりの評価額のことです。
路線価は国税庁のホームページから確認できます。
次に、路線価が定められていない地域に関しては倍率方式を用いて計算します。倍率方式の計算式は「固定資産税評価額×評価倍率」です。固定資産税評価額とは、固定資産税を求めるときに使われる、建物や土地の評価額のことで、毎年市町村から送られてくる固定資産税課税明細書で確認できます。また、評価倍率は国税庁のホームページにある評価倍率表に記載されています。
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小規模宅地等の特例について
土地の所有者自らが駐車場を経営している自用地の場合には、貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例が適用されます。
小規模宅地等の特例が適用されると、自用地の相続税評価額から50%の減額が行われます。
しかし、駐車場に小規模宅地等の特例を適用するときには、以下の点に注意が必要です。
・土地上に構築物があること
・駐車場が相当な対価を得て継続的に行われていること
・適用範囲は200㎡まで
・土地を相続した相続人が継続して駐車場経営を行うこと
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青空駐車場について
小規模宅地等の特例が適用外となる、土地上に構築物がない例として、「青空駐車場」が挙げられます。青空駐車場とは、なにも手を加えていない更地や、それにロープや車の止め石を設置しただけの駐車場のことです。
青空駐車場に小規模宅地等の特例を適用するためには以下のような方法があります。
(1)アスファルト舗装をする
駐車場にアスファルト舗装をすると、事業を行うための構築物だとみなされるため、特例の適用が認められます。なお、土地の一部のみをアスファルト舗装した場合は、舗装された部分のみが特例の適用対象になります。
(2)砂利を敷く
駐車場に砂利を敷くことも事業のための構築物とみなされるため、特例が適用されます。しかし砂利を敷いてから時間が経過して、砂利が埋まってしまったり、下から土が出てきてしまったりしている場合には特例の適用外となることもあるので注意が必要です。
(3)コインパーキング業者などに貸し出す
土地を第三者に貸し、その第三者がアスファルト舗装などをした場合にも特例の適用が認められます。
なお、これらの対策は、駐車場を相続した後におこなっても適用は認められないため、被相続人の生前に整備しておく必要があります。
コインパーキング会社などに貸している場合
コインパーキングは土地の賃貸借となる
コインパーキング業者などに土地を貸し、その業者が駐車場を経営している場合は「土地の賃貸借」となります。土地の賃貸借とは、土地を借りた人が土地上に車庫を建てたり、アスファルト塗装をしたりできる契約です。
賃貸借の場合は、自用地に比べて土地の所有者の利用制限が強いので、自用地の相続税評価額から一定金額を差し引くことができます。
コインパーキングの相続税評価額の計算方法
コインパーキングなどの賃貸借の相続税評価額の計算式は「自用地の相続税評価額-(自用地の相続税評価額×契約の残存期間に応じる割合×1/2)」です。
残存期間に応じる割合は、以下の表のように、賃貸借契約の残存期間に応じて決められています。
残存期間 | 5年以下 | 5年以上10年以下 | 10年以上15年以下 | 15年以上 |
---|---|---|---|---|
割合 | 5% | 10% | 15% | 20% |
小規模宅地等の特例について
土地をコインパーキング業者などに貸しており、その業者が駐車場を経営している賃貸借の場合にも、貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例が適用されます。
小規模宅地等の特例が適用されると、自用地の場合と同じく、相続税評価額から50%の減額が行われます。
土地の所有者が管理会社を設立した場合
土地の所有者が管理会社を設立し、その会社が駐車場を経営している場合でも、土地の「賃貸借契約」を結んでいれば自用地ではなく賃貸借として扱われます。
アパート・マンションの入居者駐車場の場合
原則は自用地として扱われる
賃貸のアパート・マンションに隣接する駐車場は原則、自用地として評価されます。土地の占有権や管理義務が駐車場の利用者ではなく、土地の所有者にあることから自用地だと判断されています。
そのため、アパート・マンションに隣接している場合でも、アパート・マンションの敷地と駐車場の敷地はそれぞれ別に評価されます。
自用地の相続税評価額の求め方は、上記で解説した通り「路線価方式」か「倍率方式」を用いて計算します。
貸家建付地として評価される場合もある
アパート・マンションの駐車場は原則、自用地として評価されますが、駐車場の利用者がすべてアパート・マンションの居住者である場合などは例外です。明らかに利用の状況が一体だと認められるケースでは、アパート・マンションと駐車場をまとめて「貸家建付地」として評価されることもあります。
貸家建付地の相続税評価額の計算式は「自用地の相続税評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」です。
借地権割合とは、土地の価格のうち、土地の所有者に帰属する経済的な利益を示す割合です。地域や借地の事情によって異なりますが、一般的には地価が高いほど借地権割合も高くなるといわれています。
借家権とは、建物を借りている人がその建物を利用する権利です。そして借家権割合とは、借家権の価値を示すものとされています。なお、借家権割合は全国一律で30%と決められています。
賃貸割合とは、アパート・マンションの全部屋のうち、実際に貸し出されている部屋の割合のことです。たとえば、100㎡の部屋が10室あり、7室貸し出されている場合には賃貸割合は70%となります。
小規模宅地等の特例について
アパート・マンションに隣接している入居者向けの駐車場も、貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例が適用されます。小規模宅地等の特例が適用されると、上記の場合と同じく、相続税評価額から50%が減額されます。
しかし、アパート・マンションの部屋に関しては、「一時的な空室」である場合を除き、空室部分は特例の適用外となります。一時的な空室とはいつでも入居可能な状態をいい、事業の継続性が認められれば特例の対象に含まれます。
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個人で使っている自宅の駐車場の場合
宅地として評価
本来駐車場は、登記簿上「雑種地」に区分されます。しかし、個人で利用している自宅の駐車場は自宅の一部として扱われるため、雑種地の区分から外れて敷地全体を「宅地」として、まとめて評価します。
宅地の相続税評価額の求め方は、自用地の相続税評価額を求めるときと同じ「路線価方式」もしくは「倍率方式」です。
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小規模宅地等の特例について
自宅と駐車場をまとめて宅地として評価する場合には、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用がされます。
小規模宅地等の特例が適用されると、相続税評価額から80%の減額が行われます。
駐車場の相続税対策
小規模宅地等の特例を利用する
小規模宅地等の特例を利用することで、駐車場の相続税評価額の大幅な減額が期待できます。
なお、小規模宅地等の特例を利用するためには、仮に特例の適用による減額で「相続税がかからなかった」としても、相続税の申告が必要になるので注意しましょう。
また、小規模宅地等の特例を利用する際には、①土地内に構築物があること、②構築物の設置、建設は生前に行わなければならないこと、③適用範囲は200㎡までであること、にも注意しましょう。
生前贈与を活用する
生前に財産を贈与して、相続する財産を減らしておくことも相続税対策になります。
生前贈与には、主に「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つがあります。
暦年贈与は、贈与において年間110万円までは非課税になることを利用して、年間110万円以内の贈与を繰り返すことです。
相続時精算課税制度を利用すると、累計で2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができます。その代わりに贈与者が亡くなった時、その贈与財産の贈与時の価額と、相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、まとめて相続税として納税をする制度です。
相続時精算課税制度と暦年贈与の違いや、注意点などは『相続時精算課税制度と暦年贈与は併用できない|違いや選び方も解説』をご覧ください。
養子縁組で相続人を増やす
養子縁組で法定相続人を増やすことも相続税対策として効果的です。
相続税の基礎控除額は法定相続人の人数により変化します。法定相続人を増やすことで基礎控除額も増え、相続税の減額につなげることができます。
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相続税に関して不安があるときは税理士に相談
相続税の手続きや相続税評価額の計算は、聞き馴染みのない言葉が多く出現する中で、慣れない作業を必要とします。
さらに、駐車場をはじめとする不動産の相続に関しては、より複雑な作業と知識が求められます。
土地の相続税評価額の計算を間違えてしまうと、その後に行う相続税の計算や、実際に納付する金額にまで響いてしまう可能性があります。そうすると、本来払わなくてもよい金額まで払ってしまったり、逆に払うべき金額を払っていなかったとして、追徴課税を請求されてしまう、なんてことにもなりかねません。
相続税に関して不安があるときは、ぜひ一度相続税に強い税理士にお問い合わせください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士