相続税の申告手続きについて解説|自分で相続税申告できる?
「税理士に相続税申告の見積りをしてもらったが、料金が高いので自分で相続税申告をしたい」
「相続税申告は税理士に依頼したが、どのような作業をしているのか、知りたい」
そのように考えている方のために、相続税申告の手順についてご説明いたします。自分で申告するか、どうか参考にしてください。
相続税の申告手続きを時系列に沿って解説
相続が発生した場合、以下の手続きが必要となります。
遺言書の有無の確認、相続人の特定、相続の放棄又は限定承認、準確定申告、財産の調査及び評価、遺産分割協議書の作成、相続税申告及び納付、財産の名義変更などです。順序が前後することはありますが、やるべきことはたくさんあります。
それぞれについて何をするのか、相続税申告のためにはいつごろまでに行う必要があるのか、その他の注意点などをご説明します。
遺言書の有無の確認(亡くなってすぐに)
まずは亡くなった方が遺言書を書いていなかったか、確認をする必要があります。遺言書が公正証書遺言である場合は、公証人役場に保管されています。自筆証書遺言の場合は自宅や法務局で保管されていますが、自宅で保管されていた自筆証書遺言書は、家庭裁判所の検認という手続きが必要です。
相続人の特定(亡くなってすぐに)
亡くなった方の相続人を特定するためには、戸籍を遡る必要があります。そのために、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本を取得します。
亡くなった時点の本籍地の戸籍を取得すると、この戸籍が結婚などにより新たに作成された戸籍である場合、結婚前にどこの戸籍から移ってきたか確認ができます。
1つ前の戸籍に遡り、その戸籍もどこかから移って来た場合、その前の戸籍に遡っていきます。このように出生の時の戸籍まで遡ってそれぞれの戸籍で相続人となる血縁者や養子がいないか確認しなければなりません。
戸籍を遡った結果、現在の家族が知らない相続人の存在が判明することもあるからです。
相続の放棄又は限定承認(3ヶ月以内)
亡くなった方が財産より借金が多い場合などに、相続放棄や限定承認をすることがあります。
この相続放棄や限定承認は相続が発生してから、3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
この相続放棄や限定承認を3ヶ月以内にしない場合、その相続人は相続をすることを承認したことになります。(単純承認)
また、配偶者と子どもが相続放棄した場合、次の順位の相続人に相続権が移ります。亡くなった方の両親が健在の場合、配偶者、子どもに引き続いて両親が相続放棄をする必要があります。このように相続放棄の手続きは相続人が多いほど煩雑になります。
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準確定申告(4ヶ月以内)
亡くなった方について、亡くなった年分の確定申告が必要な場合、相続人が対応しなければいけません。
この期限は通常の確定申告のように翌年の3月15日までではなく、亡くなった日から4ヶ月以内に、亡くなった方の住所地の管轄税務署に準確定申告書を提出する必要があります。
また、相続人が亡くなった方の不動産賃貸業などを引き継ぐ場合、相続人本人の青色申告の届出を提出する期限も4ヶ月以内となります。
財産の調査及び評価(相続税申告に向けて遅くとも8ヶ月以内)
亡くなった方が所有していた財産を調査し、評価額を算定する必要があります。
財産の調査とは、例えば亡くなった方の所有していた銀行口座の把握、証券会社への残高の照会、自宅など所有していた不動産の把握があります。
またプラスの財産だけでなく、マイナスの財産である債務についても相続の対象となりますので、調査する必要があります。
プラスの財産よりマイナスの債務が多い場合には、先述の相続放棄も検討しなければいけませんが、この時点で3ヶ月を過ぎていると相続放棄できない場合もあります。
これらの亡くなった方の財産について、相続税の規定に沿ってそれぞれ評価額を算定する必要があります。
遺産分割協議書の作成(相続税申告に向けておおむね9ヶ月以内)
財産の調査、評価額の算定が終わると財産の分け方について検討する必要があります。
配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例の適用がある場合には、この財産の分け方によっては相続税の税額が変わるため、相続税の負担も考慮し、遺産分割を決定する必要があります。
相続税の申告、納付(原則として10ヶ月以内)
財産評価が終わり、分割協議がまとまったら、相続税申告書の作成、相続税額の算定、および相続税の納付を行う必要があります。
相続税の申告書は第1表から第15表までの申告書の様式から自分の申告に必要な様式を選んで、それぞれの様式から計算した結果を第1表にまとめて相続税額を計算します。以下が相続税の申告書の様式を公開している国税庁のホームページです。
国税庁が一般の方向けに作成した「相続税の申告のしかた」は125ページにも及びます。これを読み込んで、さきほどの申告書の様式に記載する内容を理解し、申告書を作成します。
相続税の申告、納付は相続が発生してから、10ヶ月以内に申告書の提出をし、原則として現金で相続税の納付が必要になります。
相続した財産の名義変更(相続税申告後でも申告前でも可能)
相続税の申告が終わった後、相続により取得した財産の名義変更をする必要があります。
銀行口座などについて、銀行に分割協議書を提出し、相続した方の口座へと送金をしてもらいます。証券会社の口座についても同様に相続した方の口座へ移管する必要があります。
不動産については、登記を行い、名義変更をする必要があります。この名義変更は以前は義務ではありませんでしたが、2024年4月1日以降は相続により取得した財産の登記が義務化されます。
自分で相続税の申告手続きをするデメリット
相続税の節税ができない
一番大きなデメリットは相続税の負担が重くなる可能性が高いことです。
一般の方は何度も相続税の申告を経験するものではありません。初めて相続税の申告をする方にとっては、相続税の申告書を作ることに一生懸命になって、相続税額をどうしたら節税できるかまで考えることは困難ではないでしょうか。
専門家である税理士であれば、様々なパターンを検討し、どうしたら相続人の負担が減るのか節税を検討しますので、自分で申告するより相続税の負担が減ります。
書類の収集などに手間・時間がかかる
相続税の申告書には、相続人の特定の際に取得した生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本に加えて、以下のような書類を添付する必要があり、相続税を申告する方は過不足なく収集する必要があります。
- 亡くなった方の死亡診断書(コピー)
- 亡くなった方の住民票の除票
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続人全員の印鑑証明
- 相続人のマイナンバー
- 相続人の本人確認書類
税理士に依頼すれば、これらの書類を一緒に取得してくれるため、かなりの手間と時間が削減できます。
相続財産の評価が困難
相続財産が現金や預金である場合には、その金額や残高を申告書に記載すれば良いのですが、不動産などの財産の場合、その価値を評価する必要があります。
例えば、土地の場合には国税庁が定めた路線価を基に土地の評価額を計算します。路線価とは、国税庁が全国の主だった道路に対して、この道路に接する土地1㎡あたりの評価額を公表したものになります。
以下の国税庁のホームページから、亡くなった方が所有していた土地が接する道路を特定し、まずはその面積に対して路線価の金額を乗じておおまかな評価額を計算します。
土地の評価はこれだけでは終わらず、例えば旗竿地のように形のいびつな土地については、評価額の減算をする事が出来るため、これらの知識がない方については評価額の減算をすることができず、高い相続税を負担することになります。
税務調査のリスク
相続税の申告書には税理士が記名、押印する欄があり、税理士の記名、押印がない申告書の場合、税務署が税理士に依頼せず自分で相続税の申告書を作成したことを認識します。
一般的には専門知識のない個人の方が作成した申告書の場合、誤りがあることが多いため、税務調査の対象となりやすい可能性があります。
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相続税申告が遅れた場合のペナルティ
かなり煩雑な相続税申告、相続税の申告期限は相続が発生してから、10ヶ月以内だと説明しました。この期限を過ぎると、以下のようなペナルティがあります。
- 無申告加算税(令和6年1月1日以降適用)
無申告加算税は、正当な理由がなく、相続税の申告を期限までにしなかった場合に課せられるペナルティです。
申告期限から1ヶ月以内に申告した場合は、無申告加算税は課されませんが、申告期限から1ヶ月を超えて申告した場合は、税務調査の事前通知を受ける前であれば5%です。
税務調査の事前通知を受けた後に期限後申告を行った場合には、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%の無申告加算税が課されます。「令和6年1月1日以降適用」であれば、300万円を超える部分は25%になります。
税務調査によって相続税の申告漏れが指摘された場合、無申告加算税の税率はさらに高くなり、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の無申告加算税が課されます。「令和6年1月1日以降適用」であれば、300万円を超える部分は30%になります。
- 延滞税
延滞税は、相続税の納税期限までに納税しなかった場合に課せられるペナルティです。
延滞税の税率は、申告書の提出期限から納付した日までの期間によって異なりますが、本来の納付期限の翌日から2ヶ月以内は年2.4%で、2ヶ月以後は年8.7%と定められています。(令和5年度の場合)
- 重加算税(令和6年1月1日以降適用)
重加算税は、悪質な申告漏れがあった場合に、無申告加算税に代えて課せられるペナルティです。重加算税の税率は、最大で50%です。
つまり、自分で相続税申告を頑張った結果、申告期限に遅れてしまうと本来の相続税に加えて、本来の税額に対して上記の税率で追徴課税になる可能性があります。
自分で相続税申告しても良いケース
相続税の基礎控除を越えない場合
自分が相続税の申告が必要か、どうかご存じでしょうか。
相続税は相続する財産の評価額の合計が「相続税の基礎控除」を超えない場合には、申告する必要がありません。
相続税の基礎控除 3,000万円+(600万円×相続人の人数)
例えば、相続人が配偶者と子ども二人の場合、相続人の人数は3人となりますので、3,000万円+(600万円 × 3人)より、4,800万円が相続税の基礎控除となります。
財産の評価額の合計が4,800万円を超えない場合には、相続税を申告する必要がありません。当然、相続税の納税も不要です。相続税のシミュレーションは『相続税計算機』もご利用ください。
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基礎控除を越えても相続税が発生しない場合
財産の評価額の合計が相続税の基礎控除を超えるが、相続税額が0円になる場合があります。以下のようなケースです。
- 配偶者の税額軽減により相続税額が0円
配偶者の税額軽減、いわゆる配偶者控除の適用により、相続税額が0円となる方がいらっしゃいます。この配偶者の税額軽減は、配偶者の方の生活保障の観点から配偶者の方が取得する相続財産の評価額が法定相続分又は1億6,000万円のいずれか大きい金額までは相続税が無税である制度です。
簡単に言うと、1億6,000万円までの相続財産について、全て配偶者の方が取得するという申告については、相続税額が0円になります。
- 小規模宅地等の特例により相続税額が0円
亡くなった方と生前一緒に居住していた建物の敷地などを相続する場合、小規模宅地等の特例が使えるケースがあります。
小規模宅地等の特例は相続財産の評価額を大幅に減額することができ、最終的な相続税額が0円となる場合があります。
配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例により、相続税額が0円となる場合でも、特例の適用を受けるため相続税の申告が必要です。もっとも、相続税額が0円となるケースでは、加算税のペナルティがないため、自分で相続税の申告をしやすいといえます。
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相続税申告はぜひ税理士にご依頼ください
説明したように、自分で相続税申告に対応することは可能です。しかし、必要な税額軽減を忘れてしまったり、申告が遅れることによる加算税のペナルティなどさまざまなデメリットがありますので、ぜひ税理士にご依頼ください。
自分で申告するより時間と手間を大幅に削減し、かつ安心して相続税申告に臨めるはずです。また、税務署の問い合わせや税務調査の際には、税理士が税務署の担当者との対応をしてくれます。
相続税申告の手数料より節税額の方が大きいことは往々にしてあります。目先の手数料を気にして損することがないように慎重にご判断ください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士