相続税の支払い方法を5つ解説|本人以外でも納付できる?注意点は?
相続税の支払いは、相続税の手続きの中でも非常に重要なポイントです。
相続した財産の評価も、相続税の複雑な計算も、正しい相続税額を支払うための準備段階にすぎません。
そんな大事な相続税の支払いをスムーズに進めるために、この記事では相続税の支払い方法と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。ご自身に適した支払い方法を検討する参考にしてください。
また、後半では相続税を支払う際に注意すべきことも解説します。どれも知っておかないと「金銭的に損をする可能性のあるもの」ばかりなので、ぜひ最後までお読みください。
目次
相続税の支払いはいつ行う?相続税申告の後?
相続税の支払いは、相続の開始を知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から、10か月以内に行う必要があります。相続税の申告期間も同じです。
たとえば1月1日に相続の開始を知った場合は、その年の1月2日から11月1日の間に、相続税の申告と支払いを済ませます。
なお、相続税の申告と支払いのどちらを先に行うかは決められていません。どちらも期間内に間に合えば問題ありません。
相続税の支払い方法は5種類|それぞれ納め方を解説
相続税の支払い方法は5種類です。
それぞれの支払い方法と、メリット・デメリットを解説します。支払い方法によっては一回で支払える税額に上限があるため、しっかりご確認ください。
(1)金融機関で相続税を支払う
金融機関の窓口での支払いは広く利用されており、最も利用されている相続税の納付方法です。
銀行や信用金庫、郵便局などのほとんどの金融機関で支払いが可能です。
基本的に金融機関の窓口に納付書が備え付けてあるため、氏名や相続税額を書いて、納付書と相続税を窓口で納付します。
相続税の納付書に関して詳しくは、本記事の『相続税の納付書は自分で作成する』をお読みください。
金融機関で支払うメリット
最寄りの金融機関で納付できるため移動の手間がかからず、預金残高口座を保有している金融機関であれば現金を持ち歩くリスクもありません。
また、相続税の支払いに際する手数料もかかりません。
金融機関で支払うデメリット
相続税の支払いには金融機関の窓口を利用するので、営業時間内に行く必要があります。
平日の日中は仕事があっていけない場合などは、金融機関の営業時間とタイミングが合わないおそれがあります。
金融機関で相続税を支払う
- オーソドックスな納付方法
- 店舗で納付書を書く
- 移動の手間が少ない
- 手数料がかからない
- 窓口が開いている時間に行く必要がある
(2)税務署で相続税を支払う
相続税申告先の税務署の窓口でも、相続税の支払いが可能です。
相続税申告先の税務署とは、被相続人が最後に住んでいた場所(納税地)を管轄する税務署です。最寄りの税務署では納付できないので注意してください。
税務署で相続税を支払う場合は、窓口に備え付けられている納付書を記入し、現金とともに窓口へもっていき納付手続きを行います。
税務署で支払うメリット
税務署で相続税を支払う場合、相続税申告も同時に行うことができます。
相続税申告は郵送でもできますが、申告・納付期限が迫っている場合は1日で両方を終えられるメリットがあります。
税務署で支払うデメリット
相続税申告先の税務署が遠方の場合には、移動に手間がかかってしまいます。また、税務署は平日しか開いていません。納税者が働いている場合は、開庁時間とタイミングが合わない可能性があります。
税務署まで納付する現金を持っていくことになるため、支払う相続税額が高いほど、多額の現金を持ち歩くリスクが上がります。
税務署で相続税を支払う
- 被相続人の最後の居住地を管轄する税務署で支払う
- 税務署で納付書を書く
- 相続税の申告と納付を同時に行える
- 手数料がかからない
- 現金を持ち歩くリスクがある
- 開庁している時間に行く必要がある
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(3)コンビニエンスストアで相続税を支払う
相続税は、コンビニエンスストアで支払うこともできます。
ただし、コンビニで納付する場合には、事前に自宅のパソコンやスマートフォンで、「コンビニ納付用のQRコード」を作成する必要があります。
コンビニ納付用のQRコードは、国税庁『コンビニ納付用QRコード作成専用画面』から作成できます。
QRコードが作成できたら、相続税の納付に対応しているコンビニで読み取ってもらい、相続税を納付します。
もしQRコードの作成が難しい場合には、納付書を作成して税務署に持っていき、コンビニで納付したい旨を伝えると、コンビニ納付に必要な「バーコード付き納付書」を発行してもらえます。バーコード付き納付書をコンビニのレジで提示することで相続税が納付できます。
相続税の納付に対応している店舗
- ローソン、ナチュラルローソン、ミニストップ(いずれも「Loppi」端末設置店舗のみ)
- ファミリーマート(「マルチコピー機」端末設置店舗のみ)
参考:国税庁『コンビニ納付(QRコード)』
コンビニエンスストアで支払うメリット
コンビニエンスストアで相続税を支払うメリットは、なんといっても手軽さです。
店舗数が多く、かつ24時間営業であるため、日中仕事が忙しい場合でも時間を気にせず相続税を納付できます。
コンビニエンスストアで支払うデメリット
コンビニエンスストアで納付できる相続税は、30万円が上限です。そのため、支払う相続税が高額な場合は、ほかの納付方法を選びましょう。
また、別途QRコードを用意する手間があります。
コンビニエンスストアで相続税を支払う
- 事前にQRコードを作成する必要がある
- 対応している店舗としていない店舗がある
- 手数料がかからない
- 24時間納付できる
- 30万円以下の納付にしか対応していない
(4)クレジットカードで相続税を支払う
平成29年から、クレジットカードでも相続税が支払えるようになりました。
クレジットカードを利用する場合は、『国税クレジットカードお支払サイト』に必要事項を入力して相続税の納付手続きを行います。オンライン上で支払いが終了するため、納付書の作成は不要です。
クレジットカードで支払うメリット
インターネット環境がある場所からであれば、好きなタイミングで相続税を納付できます。
また、クレジットカードによっては、相続税の支払いに対してポイントがつくこともあります。
クレジットカードで支払うデメリット
クレジットカードで納付できる相続税は、1,000万円未満と決められています。
クレジットカードに利用上限額がある場合は、それが納税額の上限になるため、事前に上限引き上げの手続きが必要になることもあります。
また、納付税額に応じて決済手数料が発生します。具体的には、納付金額1万円ごとに83.6円です。100万円の納付だと8,360円となります。
クレジットカードのポイント還元によっては決済手数料分を回収できることもあるため、相続税を支払う前に、「ポイントはつくのか、つくとしたらどのくらいなのか」事前にカード会社に確認することをおすすめします。
クレジットカードで相続税を支払う
- 専用のサイトで納付手続きを行う
- インターネット環境があれば24時間いつでも納付できる
- 一度に納付できる税額は1,000万円未満
- 納税額1万円ごとに83.6円の決済手数料が発生する
- ポイントの有無を確認してから利用すべき
(5)決済アプリで相続税を支払う
令和4年12月1日から、スマートフォンの決済アプリでも相続税が支払えるようになりました。
相続税の支払いに決済アプリを利用する場合は『国税スマートフォン決済専用サイト』から手続きを進めます。スマートフォンからでないと手続きできないため注意してください。
なお、金融機関や税務署、コンビニで納付する際に決済アプリを使用することはできません。決済アプリで納付する場合は、必ず上記のサイトで手続きする必要があります。ご注意ください。
現在(2024年8月時点)、相続税の支払いに利用できる決済アプリは、以下のとおりです。
相続税の支払いに利用できる決済アプリ
- PayPay
- d払い
- au PAY
- LINE Pay
- メルペイ
- amazon pay
- 楽天ペイ
決済アプリで支払うメリット
クレジットカードと同様に、インターネット環境がある場所からであれば、好きなタイミングで相続税を納付できることがメリットです。
決済アプリで支払うデメリット
決済アプリで納付できる相続税は、30万円が上限です。納付できる金額が少ないため、支払う相続税が少額な場合は選択肢のひとつとして考えてみてください。
決済アプリで相続税を支払う
- 専用のサイトで納付手続きを行う
- 相続税の支払いに利用できるアプリとできないアプリがある
- 手数料がかからない
- インターネット環境があれば24時間いつでも納付できる
- 30万円以下の納付にしか対応していない
- コンビニや金融機関での支払いには使えない
相続税申告にe-Taxを利用する方はこちら
相続税申告をe-Taxで行う場合には、上記5つの方法に加えて、「ダイレクト納付」と「インターネットバンキングを利用した納付」も可能です。
e-Taxとは、相続税や所得税などの申告手続きを、インターネット上で行えるシステムです。
ダイレクト納付
ダイレクト納付とは、e-Tax経由での口座引き落としによって相続税を支払うことをいいます。
ダイレクト納付は手数料がかからず、e-Taxのメンテナンス時間以外と、各金融機関のオンラインサービス提供時間であればいつでも納付手続きが可能です。
ただし、利用に際して税務署に「納付利用開始届」を提出する必要があり、届出の承認に1か月ほどかかるため、納付期限ぎりぎりの利用は控えた方が良いでしょう。
ダイレクト納付を利用した相続税の支払いについて詳しくは、国税庁『ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)の手続』をお読みください。
インターネットバンキングを利用した納付
e-Taxで相続税申告をした場合、インターネットバンキングを利用して相続税を納付することも可能です。
インターネットバンキングとは、オンラインで金融取引を行えるサービスのことをいいます。
インターネットバンキングを利用した納付では手数料がかからないうえ、「納付利用開始届」を提出する必要もないため、ダイレクト納付よりも手続きの手間が少なく済みます。
インターネットバンキングを利用した相続税の支払いについて詳しくは、国税庁『インターネットバンキング等からの納付手続』をお読みください。
相続税の支払いは誰が行う?本人以外でも可能?
相続税の支払いは本人以外でも可能
相続税の支払いを、相続人本人以外の人が行うことは可能です。
原則は相続人本人が納付することになっていますが、実際には本人以外が納付手続きを行うこともできます。
金融機関や税務署の窓口で相続税を支払うときも、本人確認されたり、委任状の提示を求められたりすることはありません。
ただしあくまでも許されているのは、相続税の支払いを一時的に立て替えることです。いずれは精算しなければなりません。
一人の相続人がまとめて納付できる
相続人の一人が、ほかの相続人が支払う相続税をまとめて払うことも可能です。
特にまとめて支払う理由なども問われず、「単純にそれぞれ相続税を払いに行くのが面倒だから」、「日中は仕事があって支払いに行けないから」など、色々なケースがあります。
ただし、相続税の納付書は相続人ごとに作成する必要があります。そのため、金融機関や税務署でまとめて相続税を払う場合は、納付書をそれぞれ作成して、窓口に持参して納付手続きを行いましょう。
なお、相続税をまとめて払うのは、相続人の中に「相続税を払う資金がない人」がいる場合にも有効です。
前述したように、相続税は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に支払わなければいけません。
その期限までに納税資金の調達が間に合わない場合は、一旦ほかの人に相続税を立て替えてもらうことで、期限が過ぎた際のペナルティとして課される延滞税を回避することができます。
【注意】立て替えた分は精算しないと贈与扱い
実務上、相続税を相続人本人以外が払うことや、一人の相続人がまとめて払うことは可能だと解説しました。
しかしその場合は、必ず立て替え分を精算する必要があります。代わりに払ってもらった相続税額分を、払った人に返さなければなりません。
もし精算しないままでいると、立て替えた相続税額が「みなし贈与」とされ、贈与税の課税対象になってしまいます。代わりに支払ったという行為は、お金を贈与したこととイコールになるためです。
みなし贈与
贈与の意思がなくても、贈与と同等の行為と利益を受けた場合に、贈与があったとみなすこと。通常の贈与と同じく贈与税の課税対象となる。
贈与税には課税方式が2つあり、通常は年間110万円の非課税枠がある暦年課税です。この場合、立て替えてもらった相続税額が110万円を超えていると、みなし贈与とされた際に贈与税が課税されてしまいます。
たとえば、父親が死亡して母親と子どもが相続人になり、子どもの分の相続税を母親が支払った場合、その支払額が110万円を超えていると、子どもに対して贈与税の納付義務が生じてしまいます。
相続税を一時的に立て替えたときは、必ず精算するようにしましょう。
なお、はじめからお金を渡して「このお金で相続税を払ってきて」と、支払い手続きのみを依頼する場合は、みなし贈与には当たらず、特に心配することはありません。
関連記事
みなし贈与税とは?課税されるケースと計算方法・みなし贈与の取り消し方を解説
相続税を支払う際の注意点
相続税の納付書は自分で作成する
金融機関や税務署で相続税を支払うときに必要な相続税の納付書は、納税者が作成する必要があります。
固定資産税の納付書などは時期が来ると送られてくるため混同しがちですが、相続税を支払う際の納付書は、納税者が自分で作成しなければなりません。
納付書は最寄りの税務署で入手できます。受付で必要な枚数を伝えると用意してもらえます。料金はかかりません。
相続税の納付書は、相続税を支払う相続人それぞれが作成します。複数の相続人の納付書をまとめて一枚で作成することはできません。そのため、受け取る際には「相続税を支払う相続人の人数分+書き損じ用の予備数枚」をもらうようにしましょう。
また、金融機関でも入手できますが、一部の地方銀行では用意されていないこともあるため、事前に確認してから行くと安心です。
なお、国税庁のホームページなどから電子データでダウンロードすることはできないため注意してください。
相続税の納付書の具体的な書き方が気になる方は、関連記事『【相続税の納付書の書き方がわかる】見本付きで簡単に作成できる!』をお読みください。
相続税には連帯納付義務がある
連帯納付義務とは、同じ被相続人から財産を相続した相続人のうち、誰か一人でも期限までに相続税を支払っていない人がいた場合、ほかの相続人たちが未納分を支払わなければならない制度です。
さらに、ほかの相続人はただ未納分の相続税だけを払えば良いというわけではありません。未納分の相続税に加えて、延滞税も払わなければならないのです。
もし相続人の中に相続税の支払いが困難な人がいる場合は、一時的に相続税を立て替えて期限内に支払うなどの対策を行いましょう。
自分は相続税を支払い終わったからといって安心せず、すべての相続人が相続税をきちんと支払ったかどうか確認しておくことをおすすめします。
ただし、いきなり「別の相続人が相続税を払っていません、あなたが代わりに払ってください」と請求が来るわけではありません。
相続税の連帯納付義務が発生する流れや、回避する方法について詳しくは、関連記事『相続税の連帯納付義務|対象者や金額、回避法を徹底解説』をお読みください。
期限までに支払わないと延滞税がかかる
前述したように相続税の支払いは、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
もしこの期限を過ぎてしまうと、延滞税が加算されてしまいます。延滞税とは、相続税の納付が遅れたことに対するペナルティです。
延滞税は、相続税の納付が遅れるほど負担額が増えていく性質をもつため、もし期限を過ぎてしまっている場合には、なるべく早く納付することが大切です。
相続税の延滞税について詳しくは、関連記事『相続税の延滞税とは?計算方法・税率・延滞税を回避する方法を解説』をお読みください。
お金が足らず支払えなくても放置しない|対処法を解説
相続税を支払うためのお金が足りないからといって、相続税を払わずに放置していると、前述したように多額の延滞税がかかってしまうおそれがあります。
ここでは、納税資金が足らず相続税が支払えない場合の対処法を紹介します。
相続税が支払えないときの対処法
- 延納制度(分割払い)
- 物納制度(現金ではなく相続した不動産などで支払い)
- 遺産を売却して現金化
- 納税資金を銀行から借り入れ
- 相続放棄(相続の開始があったことを知ったときから3か月以内)
相続税が払えないときの対処法は、払えない人に向けて用意されている制度を利用する方法や、納税資金を確保する方法などいろいろなものがあります。
「相続税が払えないかもしれない」と不安に思っている方はぜひ一度、関連記事『相続税が払えない場合の解決方法を8つ紹介|払わないとどうなる?』をお読みください。
相続税の支払い方法の不安は税理士に相談
相続税というと、財産の評価や申告書の作成など、申告手続きに目がいきがちですが、相続税の支払いが最終目的であることを忘れてはいけません。
相続税申告が期限に間に合っても、「支払い」が間に合わなければ延滞税を課されてしまいます。
もし相続税の支払いに不安がある場合は、相続税に強い税理士に相談すれば、相続税額を減らせる制度の利用を提案してもらうことや、申告から支払いまで丸ごと依頼することができます。
さらに、相続が発生する前に相談すれば、生前贈与を使った相続税対策のプランを考えてもらうこともできます。
支払う相続税をなるべく安く、相続人の負担をなるべく軽くしたい方は、ぜひ一度お気軽に税理士にご相談ください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士