税金の滞納は相続される?相続放棄で支払わなくてよい?|税金の滞納と相続放棄について解説

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税金の滞納を相続

「親が税金を滞納していたが、相続したら自身に支払義務があるのだろうか」

「親の税金を子どもが払うなんて、ドラマの話じゃないの?」

税金の滞納は相続されるのか、税金の滞納を放置するとどうなるのか、滞納税金の支払いを免れる方法はないのか、などご説明します。

税金の滞納も相続の対象になるのか?

親が亡くなった後、税金を滞納している旨の督促状が届いたら、どうしたら良いのかわからなくなるのではないでしょうか。相続で不動産などの財産を引き継ぐ際、税金の滞納などマイナスの財産も自動的に引き継がれるのでしょうか。

結論からいうと、税金の滞納もマイナスの財産として相続の対象になります。つまり親の財産を相続した場合、親がしていた税金の滞納についても、子どもは相続人として税金を支払うべき納税義務者の地位を引き継ぐことになります。

また、被相続人が税金を滞納している場合には、所有している不動産などを既に差し押さえされている場合があり、そのまま放置しておくと不動産などを競売されることもあります。

滞納税金はすべてを払わなければいけないのか

親の財産を相続して、滞納した税金を支払わなければならなくなった場合、親が滞納した税金の全てを支払わなければならないのでしょうか。

結論としては民法で定められている法定相続分を支払うことになります。

例えば亡くなった父親の相続人が母親と子ども2人の場合、母親は財産の1/2を、子どもはそれぞれ財産の1/4ずつを相続します。

税金の滞納等、マイナスの財産もこの法定相続分を相続することになるので、上記の例では母親は滞納税金の総額の1/2を、子どもは滞納税金のうち1/4ずつを支払うことになります。

滞納税金は遺産分割協議の対象なのか

滞納税金は遺産分割協議の対象になりません。

遺産分割協議で自身は財産を引き継がないという取り決めになって滞納財産の支払いを免れたとしても、債権者である市区町村や税務署は法定相続人に請求を行うことになります。

つまり遺族の間で滞納税金を支払う人を決めたとしても、それはあくまで内部的な取り決めであって、債権者である税務署や市区町村に主張することはできません。

税金の滞納分の支払いが終わるまで、法的には法定相続人に支払義務があると解釈されてしまいます。

滞納税金を知らせる通知とは?

税金を滞納している方が亡くなると、税務署や市区町村など税金を徴収する権利を持つ公的機関が相続人を調査し、相続人の方に納税義務承継通知書という名称の書類を送付します。

この納税義務承継通知書が届くと、親が税金を滞納していたという事実を知ることになります。

被相続人が税金を滞納しているかどうかはきちんとチェックすべき

納税義務承継通知書は、親が亡くなってすぐに届くものではありません。そのため、相続の手続きをしているうちにうっかり税金の納付期限を過ぎてしまうというケースもあります。

また被相続人が生前、自分で税金を納めようと納付書や通知書を持ったまま亡くなってしまい、家族はそのことを一切知らないまま納付の期限を過ぎてしまうケースもあります。

一般的に親が納める可能性がある税金と支払先には以下のものがあります。

  • 所得税(住所地の管轄税務署)
  • 住民税(住所地の市区町村)
  • 固定資産税・都市計画税(所有している不動産の所在地の市区町村)
  • 国民健康保険税(住所地の都道府県・市区町村など)

親が生前にどのような税金を負担していたのか、通帳の履歴や領収書を探して、それぞれ直近の期日の分を支払っているのか、確認すべきでしょう。

税金の滞納を放置するとどうなるか?

親の税金を払わないまま何もしないと滞納処分をされることがあります。滞納処分とは、いわゆる差し押さえです。親の財産に限らず、納税義務を引き継いだ相続人の財産からも財産価値のあるものが差し押さえられることになります。

滞納処分とは

滞納処分の手続きは、国税徴収法などで定められています。国税徴収法では、滞納処分の対象となる財産、差し押さえの手続き、換価処分の手続きなどを定めています。

滞納処分は、税金の徴収を目的とする強制的な手続きです。滞納処分を受けると、財産が差し押さえられたり、売却される可能性があります。そのため、国税を滞納した場合は、早めに徴収職員に相談して対応することが重要です。

滞納処分の手続きは?

税金を滞納すると、以下の順序で滞納処分に至ります。

①納期限を過ぎると、税務署や市町村役場から督促状が届く。

②督促状の期限までに納付がない場合、電話や文書で納付を促される。

③徴収職員が亡くなった方や相続人の財産調査を行い、差し押さえを執行する。

差し押さえの対象となる財産には、給与、預貯金、自動車、不動産などがあります。現金以外の財産の場合、売却して滞納税金に充当することがあります。

子どもの財産も差し押さえの対象に?

親の滞納税金が相続されるということは、督促からの差し押さえの場合には、子どもの給与や預貯金も差し押さえの対象となります。

預貯金であれば、預けている銀行などに連絡がいくのですが、給与の差し押さえとなると勤めている会社に連絡がいきます。それにより、親族が税金を滞納していることが外部の方に分かってしまいます。

差し押さえに当たって、滞納者やその相続人の同意は不要とされているため、勝手に差し押さえされることになります。

滞納処分を回避するためには、納期限までに税金を納付することが重要です。納付が困難な場合は、徴収職員に相談して分割納付や徴収猶予などの制度も検討しましょう。

相続放棄をすれば税金の滞納を支払わなくて済む?

そもそも親の税金の滞納を支払わないで済む方法はあるのでしょうか。

滞納税金を相続しないためには、家庭裁判所に申し立てをして、相続放棄をする必要があります。

相続放棄をすると、当初から相続人でなかったものとみなされるため、マイナスの財産も引き継ぐ義務がなくなります。ただしプラスの財産も引き継ぐことができなくなる点には注意が必要です。

相続放棄の手続きは?

「家庭裁判所で手続きするのはめんどくさい」
「遺産分割は相続人の協議で決まるのだから、他の相続人に「自分は相続しない」と言えば、相続放棄したのと同じにならないの?」

このようにお考えの方も多いですが、残念ながら相続放棄するには法的な手続きを踏む必要があります。

実は遺産分割協議で相続しないことと、相続放棄との間には法律上の大きなへだたりがあります。

先述の通り、税金の滞納は分割協議の対象でないため、分割協議で相続しないというだけでは駄目です。滞納税金の支払いを免除されるためには、相続放棄として法律上の手続きが必要です。

相続放棄をする場合、原則として相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

家庭裁判所が相続放棄を承認すると「相続放棄申述受理通知書」という書類が発行されます。

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相続放棄後の手続きは?

家庭裁判所が発行した「相続放棄申述受理通知書」の写しを税金の滞納先である税務署や市区町村に提出して相続放棄をしていることを伝える必要があります。

相続放棄が家庭裁判所に承認されただけで、自動的に滞納税金が相続されないわけではないのです。

この提出により、相続放棄をした相続人は税金の支払義務がなくなります。

相続放棄の注意点

相続放棄の手続きには以下のような注意点があります。

3か月は意外と短い?

親が亡くなると、葬儀、四十九日、お墓への納骨などを行っているだけで2か月ほど経過してしまいます。

相続放棄をするとマイナスの財産である税金の滞納だけではなく、プラスの財産も引き継げなくなりますので、親の財産の調査は必須です。しかし、亡くなる前に準備していた場合などを除き、親の財産を子どもが調べるのは難儀です。親がどこの銀行に預金を持っているか全部知らない場合も多いのではないでしょうか。

また、3か月時点ではまだ税金の督促が来ていないこともあります。

いずれにせよ、3か月というタイムリミットはかなり短いので、早め早めに必要な手続きを行う必要があります。

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相続財産に手を付けると相続放棄できない

相続財産を使ってしまうと相続放棄の手続きができなくなります。

例えば、「税金の督促が届いたため、相続財産である預金を引き出して、支払いをおこなった」「親が亡くなった後、相続財産である書画骨董などを処分して税金を支払った」などといった場合、一旦相続を承認して税金の支払いをしたものと見なされて、相続放棄できなくなる場合があります。これを単純承認といいます。

相続放棄をしたい場合、相続財産には一切手を付けないようにする必要があります。

相続放棄は撤回できない

相続放棄をすると、滞納税金などのマイナスの財産のみならず、プラスの財産も引き継ぐことができなくなります。この相続放棄は、後日撤回することができませんので、しっかりと判断することが必要です。判断に迷った場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。

滞納税金を完全に支払わないためには相続人全員が相続放棄しなければならない

相続人のうち、誰か一人が相続放棄をした場合、滞納税金を相続する義務は他の相続人に残ります。

そのため、すべての相続人が相続放棄をしなければ、滞納税金の支払いを免れることはできません。

例えば配偶者と子どもが相続放棄をした場合でも、被相続人の親、つまり祖父母がまだ存命である場合には、配偶者と子供が相続放棄した後に、その祖父母が相続する義務を負います。

滞納税金の支払いを完全になくすためには、自分だけ相続放棄ができたから安心というわけではなく、すべての相続人がいなくなるまで相続放棄をする必要があるのです。

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限定承認という方法もある

「滞納税金は払いたくないけれど相続放棄してプラスの財産も引き継げないのはもったいない感じがする…」
「たった3か月で被相続人の財産の全容なんかわからない…」

そういった方は相続放棄と同様に家庭裁判所に手続きをすることによって、債務免除と同様の効果がある限定承認という方法を取るのが良いでしょう。

限定承認と相続放棄の違い

相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐことができなくなりますが、限定承認の場合にはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという手続きになります。

相続放棄と限定承認で手続き上違うのは相続放棄は相続人1人ずつ手続きができますが、限定承認は相続人全員が手続きをしなければいけません。

限定承認と相続放棄、どちらにすれば良いか

では、相続放棄と限定承認のいずれの手続きをすれば良いのでしょうか。

いずれの手続きをする場合にも、被相続人の財産額の調査は必ず必要です。明らかに借金つまり、マイナスの財産の方が多い場合には相続放棄で良いかもしれません。

しかし、相続開始から3か月以内に財産額の調査が終わらず、プラスの財産とマイナスの財産のいずれが多いか分からない場合には、限定承認の手続きも有効な方法と考えられます。

限定承認をした場合には、相続放棄の場合と同様に、税務署や市区町村に家庭裁判所が発行した「限定承認申述受理証明書」の写しなどを提出する必要があります。

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相続放棄は相続税の計算に影響するか

相続放棄は相続税の計算に影響するのでしょうか。

相続を放棄したといっても、そのまま相続税の申告をする必要がないと考えるのは早計です。

相続放棄によって遺産分割に参加しなくても、被相続人の遺言書があったために遺贈によって財産を取得したりするケースや、生命保険金の受取人になっているためにみなし相続財産として死亡保険金を受け取ることになるケースなどもあります。

そのような場合には相続税が発生することがあるため、相続税の申告が必要になります。

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相続税の計算で変わらないこと

相続人の中に相続放棄をした人がいても、以下の計算については変わりがありません。

  • 法定相続人の数に基づく基礎控除
  • 課税遺産総額、相続税の総額

つまり、相続人の中に相続放棄をした方がいても、遺産の総額から控除する基礎控除額に変化はなく、原則として相続人全員で負担する相続税の額は変わらないことになります。

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相続放棄で変わること

相続放棄をした場合には、遺産分割協議で相続財産を承継することができませんが、生命保険金の受取人になっている場合には、生命保険金はみなし相続財産として相続税の対象となります。この場合、相続放棄をしていなければ、生命保険金の非課税枠を使うことができるのですが、相続放棄をした相続人は生命保険金の非課税枠を使うことができません。

また、相続放棄した方は相続税の計算上、債務控除を適用することができません。

あまり考えにくいパターンですが、相続放棄された方が遺言書で不動産を遺贈されていた場合など、賃貸用不動産は敷金などを預かっていることがあります。この敷金を相続放棄しなければ債務控除できるのですが、相続放棄された方は債務控除することができません。

加えて、相続放棄により相続税の総額は変わりませんが、財産を承継する方が少なくなる分、相続放棄しなかった方一人当たりの負担する相続税の額は増加することがあります。

滞納税金の相続で困ったら税理士まで

親が税金を滞納している状態で相続を迎えてしまったなど、税金の徴収は滞納処分を受けたり、ただの借金より怖いものです。滞納税金に不安があるなら、安心できる相続のために、税理士など専門家に相談しましょう。

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アトムグループ 協力税理士

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