妊娠中の離婚|夫から別れたいと言われたら?別居・養育費・親権とマタニティブルーの影響

妊娠中でも離婚は可能です。妊娠していること自体は、法律上の離婚の妨げにはなりません。
妊娠中はホルモンバランスの変化から精神的に不安定になりやすく(いわゆるマタニティブルー)、夫婦間のすれ違いが生じやすい時期でもあります。こうした事情から、夫から別れを切り出されたり、妻自身が離婚を決意したりするケースも一定数みられます。
この記事では、妊娠中に別居する場合の婚姻費用・出産費用の請求方法をはじめ、養育費・親権・戸籍の取り扱いまで、弁護士が法的根拠をもとに解説します。
目次
妊娠中に離婚はできる?
妊娠中でも離婚は可能であり、妊娠していること自体が法律上の離婚の障害になることはありません。
妊娠中に離婚を考える背景にはどのような事情があるのでしょうか。マタニティブルーとの関係も含め、その理由から整理していきます。
妊娠中に離婚したくなる理由
夫婦が妊娠中に離婚を決意する理由としては、以下のようなものがあげられます。
妻側の理由
- 夫の不倫・浮気
- DV・モラハラ
- 夫に親としての自覚がない
- 夫の過度な飲み会や遊興
- 夫が家にいても何もしない
夫側の理由
- スキンシップの減少・セックスレス
- 自身の不倫・浮気
- 妊娠の影響による妻の性格の変化
- 妻の体調の変化やつわり、お腹が大きくなること
- 父親になれる自信がない
女性は身体やホルモンバランスの変化などを経て、母親としての意識が芽生えやすい一方で、父親は身体的変化を直接経験しないため、すれ違いの原因となってしまいます。
また、妊娠すると性的なニーズも変化し、性交渉やスキンシップが減少するため、不満に感じた夫が不倫や浮気に走ってしまうこともあります。
マタニティブルーと離婚の関係
マタニティブルー(マタニティブルーズ)とは、主に出産後にホルモンバランスが急激に変化することで起こる一時的な精神的不安定のことをいいます。
日本産婦人科医会によると、マタニティブルーは出産後の女性の30〜50%が経験するとされており、多くは1〜2週間ほどで自然におさまります。ただし、症状が長引く場合は産後うつに移行することもあるため注意が必要です。
なお、妊娠中のうつ病は約10%にみられるといわれています。
妊娠中や産後のうつ病の発症の背景として、妊娠中の不安やライフイベント(離婚や家族との死別等)、うつ病の既往、産後のサポート不足など環境による影響も大きいとされています。
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妊娠中や産後まもない時期に「離婚したい」という気持ちが生じた場合は、マタニティブルーによる一時的な感情と本当の離婚意思を区別するために、心身が落ち着いた時期に改めて判断することを推奨します。
妊娠中の離婚手続きの流れ
妊娠中でも、離婚の手続きの流れは変わりません。
まずは夫婦間での話し合いによる協議離婚を目指し、合意が難しければ家庭裁判所の離婚調停を、調停でも合意ができなかった場合は、離婚裁判を起こして争うことになります。
以上の流れは、妊娠中でなくとも同じです。
ただし、離婚の話し合いが長引いたせいで離婚の成立と出産が前後した場合は、子どもの親権や戸籍の扱いに違いが出る可能性があります。
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妊娠中に夫から離婚を切り出された場合の対応
妊娠中に夫から突然「別れたい」と言われた場合、心身ともに不安定な時期だけに動揺は大きいものです。
しかし、協議離婚は双方の合意が必要なため、一方が同意しなければ離婚は成立しません。まずは冷静に対応の選択肢を整理することが重要です。
離婚に応じる前に確認すべきこと
妊娠中に夫から離婚を切り出されたとしても、すぐに応じる必要はありません。離婚届への署名を強く求められたとしても、状況によってはその離婚の効力を争える可能性があります。
協議離婚が有効に成立するには、夫婦双方に婚姻関係を解消するという離婚意思があることが必要です。したがって、強迫を受けて離婚に同意した場合には、民法764条および民法747条にもとづき、家庭裁判所に離婚の取消しを求めることができます。
離婚に応じる前に、次の点を確認しておきましょう。
- 養育費・親権・財産分与・慰謝料など、離婚条件が整理されている
- 離婚届への署名を強要されていない
- 離婚後の住まいや生活費の見通しが立っている
離婚に応じる前に確認すべき条件の詳細については、『離婚で決めること6項目と取り決め一覧を弁護士が解説』をご覧ください。
別居で距離を置く選択肢
離婚をすぐに決められない場合は、まず別居という選択肢もあります。物理的に距離を置くことで、状況を冷静に考える時間を確保しやすくなります。
別居中であっても婚姻関係が続いている限り、収入の多い側には婚姻費用(生活費)を分担する義務があります(民法760条)。そのため、妊娠中にやむを得ず別居した場合でも、婚姻費用を請求する権利がなくなることはありません。
別居後は、できるだけ早く婚姻費用分担請求調停を申し立てておくと、申立てをした月以降の婚姻費用を確保しやすくなります。
別居を選択した場合の生活費の請求方法や相場については、『婚姻費用の相場は月10~15万円?別居・離婚調停の生活費請求を解説』で詳しく解説しています。
妊娠中の別居と婚姻費用や出産費用の請求
別居中でも婚姻関係にあれば、婚姻費用として出産費用を含めて請求できる場合があります。
ただし、離婚が成立すると婚姻費用を請求することはできなくなるため、離婚のタイミングには注意が必要です。
離婚後の出産費用については、事情や当事者の合意内容、子どもの扶養義務などを踏まえ、支払いが認められる可能性があります。確実に支払ってもらうためには、離婚前に負担について話し合い、その内容を公正証書などの書面に残しておくことが大切です。
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・離婚後の生活費はもらえる?支払い義務の解説と請求のための交渉術
妊娠中に離婚しても元夫から養育費をもらえる?
妊娠中に離婚しても養育費を受け取れる!
妊娠中に離婚しても、元夫が子どもの父親であることは変わらないので、元夫は子どもを扶養する義務を負います。したがって、父親に養育費を請求できます。
離婚前に、子どもの養育費についてしっかりと取り決めを行うことをおすすめします。
離婚した後から養育費を請求することも可能です。離婚後に父親がすんなりと養育費の支払いに応じるとは限りませんが、そういった場合には家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることができ、家庭裁判所を介して話し合いを進めることができます。
なお、2026年4月1日以降に離婚した場合は、事前に養育費の取り決めがなくても、離婚時から取り決めが成立するまでの間、暫定的な措置として法定養育費(子ども1人あたり月額2万円)を請求できる制度が始まりました。
養育費の請求方法について詳しく知りたい方は、『離婚の養育費とは?人数別の相場や決め方を解説』をご覧ください。
妊娠中に胎児の養育費をもらえる?
妊娠中に離婚しても、出産するまでの間は養育費を受け取る権利がありません。
人は、胎児であるうちは法的な権利を持たず、母親が胎児を代理することもできないとされているからです(相続、遺贈、不法行為に基づく損害賠償請求を除く)。
したがって、胎児の養育費を受け取ることはできず、出産後から養育費を受け取ることになります。
妊娠中に離婚した場合の養育費の相場は?
養育費は、子どもの年齢や人数と、父母それぞれの職業・年収にもとづいて算定するのが一般的です。養育費の計算には、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表がよく使用されます。
妊娠中に離婚した場合でも、子どもが生まれた後に離婚した場合と同じ計算方法が適用できると考えられます。
厚生労働省が実施した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子家庭が受け取る養育費の平均金額は50,485円でした。子どもの人数別にみると、子ども1人の場合は月額40,468円、子ども2人の場合は57,954円、子ども3人の場合は87,300円となっています。
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元夫から養育費を受け取れないケースもある?
以下の3つにあたる場合は、子どもの法律上の父親が元夫ではないため、元夫には養育費の支払い義務が生じません。
離婚後300日経過後に出産した場合
離婚から300日を超えて生まれた子どもは非嫡出子(婚外子)となり、法律上の父子関係を成立させるには父親による認知が必要です。元夫が子どもを認知して自分の子どもだと認めない限り、養育費を請求することができません。
認知には、父親が自ら行う任意認知と、裁判所の手続を通じて認めてもらう強制認知(裁判認知)の2つの方法があります。元夫が任意認知に応じない場合は、家庭裁判所に認知調停を申し立てる、または認知の訴えを提起することで、法律上の親子関係を成立させることが可能です。
そのうえで、元夫が養育費の支払いに応じない場合には、養育費請求調停の申立てを検討します。
養育費が支払われない状況への具体的な対処法は、関連記事『養育費を払わないと言われたときの対処法と払わなくていい7つのケース』をご参照ください。
出産前に母親が再婚した場合
母親が出産前に再婚していた場合、2024年4月施行の民法改正により、離婚後300日以内に生まれた子であっても、原則として再婚後の夫の子と推定されます。この場合、元夫は法律上の父親とはならないため、通常は元夫に養育費を請求することはできません。
その代わり、戸籍上の父親である新しい夫が子どもを養育する義務を負います。
出産後に母親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組した場合
子どもが生まれた後で母親が再婚した場合、子どもには新しい父親ができます。
新しい父親が子どもを扶養する場合、元夫の養育費は減額されるか、免除される可能性があります。
ただし、再婚したからといって必ず再婚相手が扶養義務を負うわけではありません。再婚相手に子どもを扶養する義務が生まれるのは、子どもと養子縁組をした場合です。

実際の裁判例でも、元妻が再婚し子どもが再婚相手と養子縁組をしたケースにおいて、再婚相手が第一次的な扶養義務を負うとして、元夫の養育費支払義務が取り消された事例があります(横浜家審令8・2・18)。
妊娠中の離婚のリスク・注意点
妊娠中の離婚を後悔しないためにも、どのようなリスクがあるかを事前に把握しておきましょう。
離婚後は経済的に苦しくなる
出産の前後は、十分な収入を得ることが難しくなります。離婚後の生活費をまかなえるよう、離婚前から金銭的な備えをしておくことが大切です。
あわせて、出産費用についても話し合いで決めておく必要があります。
離婚が成立すると「婚姻費用(夫婦間の生活費の分担)」としての請求ができなくなるため、出産後に費用を請求しても、元夫が任意に応じない限り支払いを強制することは難しくなります。離婚前に合意内容を取り決め、公正証書に残しておくと安心です。
公正証書について詳しくは、『離婚の公正証書の作り方と費用・必要書類を弁護士が解説』で解説しています。
妊娠中は離婚の手続きが大変
離婚が決まると、役所での各種手続きや名義変更、引っ越しなど、さまざまな対応が必要になります。期限のあるものも多く、複数の窓口を回らなければならないケースも少なくありません。体調の変化が大きい妊娠中には、かなりの負担になるでしょう。
本人でなくてもできる手続きは、家族や代理人に任せることも一つの方法です。
離婚後の手続きについては、『離婚後の手続きと優先順位は?離婚届と同時にできることを弁護士が解説』で詳しく解説しています。
一人で出産することになる
妊娠中に離婚すると、出産時に夫の付き添いを受けられなくなります。実家が遠方であれば両親のサポートも難しく、里帰り出産を希望しても別の病院で分娩予約が取れるとは限りません。
一人での出産も十分ありうることを前提に、あらかじめ心づもりをしておくことが大切です。
シングルマザーは子育ての負担が大きい
離婚後はすべての子育てを一人で担うことになります。
特に新生児期は、授乳やおむつ替えが昼夜を問わず続き、母親が休む時間を確保するのは容易ではありません。子育てと仕事の両立も、やがて必要になってきます。
なお、ひとり親家庭を対象とした「ひとり親家庭等日常生活支援事業」では、修学や病気などの事情がある場合に家事援助や乳幼児の保育を行う家庭生活支援員の派遣を受けられます。離婚成立前から利用できる場合もあるため、お住まいの市区町村の窓口に相談してみましょう。
子どもが元夫の戸籍に入ってしまう
離婚後300日以内に出産した場合、法律上は「元夫の子」と推定されます(民法772条)。そのため親権者は母親になる一方、子どもは元夫の戸籍に入るケースが多く、苗字も元夫のものになります。
子どもの戸籍については、後ほど詳しく解説します。
子どもが元夫の戸籍にいても、日常生活にすぐ影響が出るわけではありません。ただ、別れた夫の戸籍に子どもが入ったままであることに抵抗を感じる方もいるでしょう。
その場合は、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立て、許可を得たうえで市区町村に「入籍届」を提出することで、母親の戸籍に子どもを移すことができます。詳しくは『離婚したら戸籍はどうなる?子どもの氏は変わる?』をご覧ください。
妊娠中に離婚したら子どもの親権や戸籍はどうなる?
親権・苗字や戸籍の扱いは、子どもが生まれるタイミングや再婚のタイミングによって変わります。
| 子どもの戸籍・苗字※ | 子どもの親権者 | 戸籍上の父親 | |
|---|---|---|---|
| 離婚後、300日以内に出産 | 元夫 | 母親 | 元夫 |
| 離婚後、300日以降に出産 | 母親 | 母親 | ー |
| 離婚成立前に出産 | 両親 | 両親 | 元夫 |
| 離婚後、出産前に再婚 | 新しい夫 | 母親と新しい夫 | 新しい夫 |
※婚姻時に妻が夫の苗字に変えていた場合。
民法改正により、2026年4月以降に離婚した場合、父母の合意に基づき共同親権を選ぶことも可能になりました。2026年3月31日以前にすでに離婚している場合でも、家庭裁判所に申立てを行うことで、親権を単独から共同に変更することが可能です。
離婚後300日以内に出産した場合
離婚後300日以内に生まれた子どもは、母親が再婚した場合を除き、前の夫との間の子どもであると推定されます。この制度を嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)と呼びます。
その場合、子どもは前の夫の戸籍に入り、前の夫の苗字を名乗ります。子どもを母親の戸籍に入れるためには、子どもの苗字を変える手続きと、戸籍を移す手続きが必要になります。
ただし、結婚の時に苗字を変えたのが夫側であり、離婚時に夫が旧姓に戻る場合は、子どもの戸籍と苗字は母親のものになります。
離婚後300日以降に出産した場合
離婚後300日を過ぎて生まれた子どもは、法律上、前の夫の子どもとは扱われません。そのため、子どもは母親の戸籍に入り、母親の姓を名乗ることになります。
親権は原則として母親が持ちますが、出生後に父母が話し合い、共同親権または父親の単独親権に変更することも可能です。
なお、父親が認知しても自動的に親権者になるわけではありません。共同親権とするか、父親を単独の親権者とするには、両親の話し合いでそのように定める必要があります(民法819条4項)。
離婚前に出産した場合
離婚の話し合いが長引き、成立前に子どもが生まれた場合、その子どもは夫婦の戸籍に入り、父母が共同で親権を持ちます。
その後離婚する際には、父母の協議によって、共同親権または父母のどちらか一方の単独親権を選ぶことができます(民法819条1項)。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所が子の利益の観点から判断します。
出産前に再婚した場合
母親が出産前に再婚していた場合は、妊娠したのが前の夫との婚姻中であったとしても、新しい夫が父親であると推定されます。
親権者は新しい夫と母親の2人です。子どもが入る戸籍や苗字も、新しい夫のものとなります(母親が再婚相手の苗字に変えた場合)。
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・よくある離婚後のトラブルとは?解決方法や無料相談窓口を解説!
妊娠中に離婚したら、面会交流はできる?
面会交流とは、離婚や別居により子と離れて暮らす親(非監護親)が、子と定期的・継続的に会って話をしたり遊んだり電話や手紙・メールなどで交流することです。
離婚後に相手と関わりたくない、子どもを相手に会わせたくないと思う方は多いですが、妊娠中に離婚しても、元夫が子どもの戸籍上の父親である限りは、子どもとの面会交流の権利は失われません。
したがって、元夫から面会交流を求められたら、子の利益に反する事情がない限り、原則的に拒否できません。
とはいえ、元夫にモラハラやDVがあった場合や、子どもが明確に拒否している場合、連れ去りの恐れがあるような場合は、拒否できる可能性があります。
面会交流を拒否できる正当な理由や、拒否し続けた場合のリスクについては、『離婚後の面会交流|取り決め方は?拒否できる?』をご参照ください。
離婚後にもらえるお金を知っておこう!
妊娠中に離婚する場合、離婚後の生活資金についてよく考えなければいけません。
ここでは、離婚後の生活や子育てを支えるために、養育費以外で受け取れるお金を紹介します。
夫から財産分与を受け取れる
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配することです。例えば、家やマンション、貯金、自動車などを、原則2分の1ずつ分け合います。
なお、民法の改正により、2026年4月1日以降の離婚では財産分与の請求期限が離婚後2年から5年に延長されました。ただし、2026年3月31日以前に離婚した場合は、従来どおり2年以内の請求が必要です。
妊娠中の離婚では、養育費や親権の取り決めを優先するあまり財産分与の協議が後回しになるケースがあります。請求できる期間内であっても、早めに検討を始めておくと安心です。
財産分与の対象となる財産の範囲や分け方の割合については、『離婚の財産分与とは?割合はどうなる?夫婦の財産の分け方を解説』をご覧ください。
夫や不倫相手から慰謝料を受け取れる可能性もある
夫にDV・モラハラや不倫、悪意の遺棄などの行為があった場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
離婚の慰謝料は様々な要素を考慮してそのケースごとに判断されます。おおむね、100万~300万円で支払われることが多いようです。
離婚の理由ごとの慰謝料の相場は以下の通りです。
| 離婚原因 | 慰謝料の相場 |
|---|---|
| 不貞行為 | 100~300万円 |
| 悪意の遺棄 | 50~300万円 |
| DV | 50~500万円 |
| モラハラ | 50~300万円 |
また、夫が不貞行為をしていたのであれば、相手の女性にも慰謝料請求が可能です。
妊娠中の不貞行為は、慰謝料が増額される要因として考慮されることがあります。過去の裁判では、妻の妊娠期間を含む1年以上にわたる不貞行為に加え、日常的な高圧的言動や妻が被った精神的苦痛など諸事情を考慮し、一審の300万円から400万円への慰謝料増額が認められています(大阪高判令3・8・27)。
このように、妊娠中という時期の特殊性や精神的な負担の大きさが、通常より高い金額の認定につながることがあります。
妊娠中の不貞行為が慰謝料の増額事由として考慮される法的根拠は、民法709条(不法行為)および710条(精神的損害の賠償)にあります。裁判実務では、妊娠という身体的・精神的に負担が大きい時期に不貞行為が行われた事実は、妻が被った精神的苦痛の大きさを示す一事情として評価される傾向にあります。
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離婚で中絶したら慰謝料を請求できるのか?
夫婦が合意のうえで中絶した場合は、中絶のみを理由に慰謝料を請求するのは難しいでしょう。
ただし、中絶をめぐる事情によっては、慰謝料を請求できるケースもあると考えられます。たとえば、同意なく性交渉を強いられたケースや、避妊すると嘘をつかれていたケース、中絶の際に相手が協力的でなかったケースなどです。
また、離婚の原因が相手方にある場合は、離婚による精神的苦痛を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。
実際の裁判例でも、不妊治療を受けていた中で妻が妊娠したにもかかわらず夫の不貞行為が発覚し、離婚と中絶を余儀なくされたケースにおいて、夫の不法行為による精神的損害を理由に200万円の慰謝料支払いが命じられています(東京地判令7・11・20)。このように、相手方の有責行為が原因で中絶に至った場合は、損害賠償として慰謝料を請求できる可能性があります。
健康保険から出産育児一時金を受け取れる
健康保険に加入している人は、出産時に健康保険から出産育児一時金を受け取れます。支給額は子ども1人につき原則50万円です(妊娠85日以上の出産が対象)。出産方法や出産場所を問わず、日本の公的医療保険に加入していれば支給対象となります。
支払い方法は直接支払制度が便利です。直接支払制度を利用すると、出産育児一時金が保険者から出産施設に直接支払われるため、窓口で用意する費用は出産費用の総額から50万円を差し引いた残額だけとなります。
会社の健康保険でも国民健康保険でも受け取ることができます。離婚によって夫の扶養から外れる方は、忘れずに健康保険の加入手続きを行いましょう。
離婚後の健康保険の手続きについては、『離婚後の健康保険はどうなる?切り替え方法と14日を過ぎた場合の対処法』で解説しています。自分はどの保険に加入すればよいのか、いつまでに手続きすればよいのかをご確認ください。
国や自治体の公的支援を受けられる
ひとり親家庭には、多くの公的支援が用意されています。ここでは、代表的なものを紹介します。
- 児童手当
- 児童扶養手当
- 母子家庭の医療費助成制度
- 公正証書作成費用の支援
- 各自治体のひとり親家庭支援制度
これら以外にも、自治体によってひとり親家庭への支援制度が設けられている場合もありますので、各都道府県・市町村のホームページ等で調べてみてください。
以下は、自治体の支援制度がまとめられたページです。
- 東京都|シングルママ・シングルパパ くらし応援ナビTokyo
- 千葉県|ひとり親家庭への支援
- 埼玉県|ひとり親家庭
- 神奈川県|ひとり親家庭支援制度のご案内
- 愛知県|あいちはぐみんネット
- 大阪府|ひとり親家庭等への支援情報
申請が必要なものが多いため、事前に調べておいて、なるべく早く受給を始められるようにしましょう。
国や自治体から受けられる支援制度について詳しくは、関連記事『離婚したらもらえるお金は?離婚補助金はある?手当や公的支援を解説』をご参照ください。
離婚後は元夫に生活費を請求できない
婚姻中の夫婦は、生活費(婚姻費用)を分担する義務を負っています。
しかし、離婚が成立してしまうと、生活費の分担義務はなくなるため、調停や裁判では婚姻費用の請求は認められなくなります。
ただし、話し合い次第では、扶養的財産分与といって、離婚後の生活費を財産分与として受け取ることができる可能性もあります。
扶養的財産分与とは、離婚後に生活が困窮する配偶者を扶養する目的の財産分与です。
夫婦間の収入の格差があまりに大きかったり、一方が病気などで離婚後に働くのが難しい場合には、離婚後の生活を支援するために扶養的財産分与が行われることがあります。
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妊娠中に離婚すると元夫に出産費用を請求するのは難しい
離婚後の出産費用についても、元夫には支払いの義務がありません。もちろん、任意で支払ってもらうことはできるので、離婚する前に夫と話し合うのが良いでしょう。
妊娠中の離婚についてよくある質問
Q. 妊娠中でも離婚できる?
妊娠中でも離婚は可能で、妊娠していること自体が法律上の障害になることはありません。ただし、出産の前後で離婚するタイミングによって、子どもの親権や戸籍の扱いが変わる点には注意が必要です。
Q. 妊娠中に夫から別れたいと言われたら?
協議離婚は双方の合意が必要なため、同意しなければ離婚は成立しません。夫が離婚を強行しようとしても、妻が応じない限り協議離婚は成立せず、離婚届への署名を強要することも許されません。
まずは弁護士に相談し、対応策を検討することを推奨します。
Q. 妊娠中に別居した夫から生活費はもらえる?
別居中でも婚姻関係が続いている限り、婚姻費用(生活費)を請求できます。実際の裁判例でも、妊娠中の妻を残して夫が一方的に別居したケースにおいて、その後に生じた費用を妻に負担させるべきではないとして、夫が求めた婚姻費用の減額は認められませんでした(東京高決令元・11・12)。
Q. マタニティブルーが原因で離婚できる?
マタニティブルーは、法律で定められた離婚理由には当たりません。夫婦の合意があれば協議離婚は可能ですが、同意が得られない場合は、調停や裁判での離婚を検討することになります。マタニティブルーは一時的な症状とされているため、出産後に気持ちが変わる可能性も踏まえ、慎重に判断することが大切です。
妊娠中の離婚で後悔しないために
離婚するなら妊娠中?出産後?
妊娠中の離婚と出産後の離婚には、それぞれにメリット・デメリットがあります。
離婚前に出産すれば、生活費や出産費用などを夫に負担してもらえます。別居中であっても「婚姻費用(夫婦間の生活費の分担)」として請求できるため、金銭面では離婚前の出産に利点があるといえます。
一方で、夫と同じ環境に居続けることのストレスも軽視できません。DVやモラハラを受けている場合は、母子の心身に深刻な悪影響が及ぶ可能性があります。一刻も早く離れる必要があると感じているなら、妊娠中であっても離婚を選ぶべき場面もあるでしょう。
離婚前に子どもが生まれると親権は両親が持つことになり、離婚時に親権の取り決めが必要です。2026年4月以降は離婚後も共同親権を選択できるため、親権者を一方に絞るかどうかも含めて話し合うことになります。協議で折り合えない場合は、親権争いに発展することもあります。
離婚後の出産であれば、親権者は原則として母親になります。離婚後に親権者を変更したい場合は、家庭裁判所の調停や審判の手続きが必要です。
妊娠中の離婚で後悔しないために必要な準備
離婚後に後悔しないよう、以下の点について離婚前から準備を進めておきましょう。
- 出産費用や当面の生活費を用意する
- 離婚後の住居を確保する
- 働き口や子どもの預け先を確保する
- 出産の環境を整える
- 家事や育児をサポートしてくれる人を見つける
- 適切な離婚条件を取り決める
離婚したい気持ちは一過性でないか?
妊娠中は、ホルモンバランスや身体の急激な変化によって気分が不安定になりやすい時期です。「離婚したい」という気持ちが一時的なものでないか、客観的に振り返ることも大切です。
出産後に心境や体調、夫婦の関係性が変わることで、離婚したい気持ちが落ち着くケースもあります。後から「離婚しなければよかった」と悔やむことがないよう、信頼できる人に相談しながら冷静に判断するようにしましょう。
妊娠中の離婚は弁護士に相談!
妊娠中の離婚は、話し合いや手続きの負担が通常以上にかかります。弁護士に依頼すれば、相手方との交渉を代わりに進めてもらえるため、身体的・精神的な負担を軽減できます。
養育費や親権など、離婚条件の取り決めも、専門知識をもとに依頼者にとって最良の内容で交渉することが可能です。話し合いを長引かせないためにも、妊娠中の離婚をお考えの方は早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
それぞれのメリット・デメリットを比較したうえで、妊娠中に離婚すべきかどうかを慎重に判断しましょう。