子育てで旦那にイライラ…育児ノイローゼで離婚を考える女性へアドバイス
育児に追われる毎日で、夫婦関係に行き詰まりを感じていませんか?
夫が家事や子育てに協力してくれないことに限界を感じ、離婚を考える女性は少なくありません。
しかし、相手が離婚に応じない場合、単に「旦那にイライラする」「旦那のせいで育児ノイローゼになりそう」といった理由だけで離婚することはできません。
この記事では、私たち弁護士の経験に基づき、子育て中の方が離婚を検討する際に知っておくべき法的知識や具体的な準備、注意点について詳しく解説します。
子育て中の離婚には、通常の離婚以上に慎重な判断と準備が必要です。自分と子どもとの生活を守るために必要な知識を身につけ、一歩ずつ進んでいきましょう。
目次
子育て中の離婚を考えるきっかけと判断基準
育児ストレスと夫婦関係の変化
子育ては夫婦にとって大きな試練となります。特に乳幼児期は、睡眠不足や自由時間の減少により、互いにイライラが募りやすい時期です。
この時期は、仕事と育児の両立が本格化し、夫婦間での役割分担や価値観の違いが顕著になってきます。特に、以下のような状況がストレスの原因として多く挙げられます。
- 育児の負担が一方に偏っている
- 配偶者の育児への無関心や非協力的な態度
- 家事・育児の方針の違い
- 経済的な問題や将来への不安
共働き世帯であっても妻への育児負担の偏りが顕著な家庭は少なくありません。そのような状況が改善の見込みなく継続する場合、育児ノイローゼなどの深刻な事態を招く可能性があります。
子育て中の離婚を考えるべき状況とは|冷静な判断のためのチェックリスト
ただし、一時的な育児ストレスと、本質的な夫婦関係の破綻は区別して考える必要があります。以下のような状況が継続的に見られる場合は、離婚を検討する必要性が高いと考えられます。
離婚を検討すべきケース
- 暴力や暴言が日常的にある
- 生活費を渡さない・家計を顧みない
- 育児放棄や極端な無関心が続く
- 度重なる浮気や不貞行為
- アルコールや借金などの依存症的行動
子育て中の離婚を考える前に、次のチェックリストを参考にご自身の状況を見直してみましょう。
子育て中の離婚を考える前のチェックリスト
- 3か月以上、改善の兆しが見られない
- 子供の将来について具体的な計画がある
- 経済的な自立の見通しが立っている
- 専門家に相談している
- 子どもへの影響を十分に考慮している
子育て中の離婚における法的知識と注意点
親権の基礎知識
離婚時に未成年の子がいる場合、必ず親権者を決める必要があります。
子どもの幸せを第一に考えて、夫婦で話し合いができれば理想的ですが、合意できない場合も少なくありません。その場合、家庭裁判所の調停や審判によって決められます。
実務では、これまでの養育状況、子どもの意思、今後の養育環境などが総合的に考慮されます。
夫が家事や子育てに非協力的だった場合は、その記録や事情を知っている第三者の証言が重要な判断材料となります。
子どもの意思については、通常10歳前後から尊重すべきとされています。
今後の養育環境については、子どもが安定した生活を送れる住環境や、周囲のサポート体制などが考慮されます。
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養育費の基礎知識
養育費は、子を監護していない親が支払う義務を負っています。
養育費の金額や支払期間は、原則として両親が話し合って決めます。合意できない場合は、家庭裁判所の調停や審判で取り決めます。
実務では、裁判所が公開している算定表に、父母双方の収入や子どもの年齢・人数をあてはめて算出する方法が定着しています。算定表とその見方については『養育費・婚姻費用算定表の見方&自動計算ツール(新算定表対応)』をご覧ください。
話し合いで養育費を取り決めた場合は、強制執行の可能性を見越して、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくことをおすすめします。
調停や審判で取り決めた場合は、調停調書や審判書に基づき強制執行を行うことが可能です。
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面会交流の取り決め方
離婚後、子どもが離れて暮らす親と定期的、継続的に会って話をしたり、一緒に遊ぶことを面会交流といいます。
子どもの健やかな成長のため、離婚時には、面会交流の具体的な条件についても夫婦で話し合ってみましょう。
面会交流の頻度、宿泊の有無、1回の実施時間、待ち合わせ場所、連絡方法などを明確に決めておくと実施がスムーズです。直接対面での面会以外にも、オンラインでのビデオ通話など、状況に応じて柔軟な対応を検討することも可能です。
合意できない場合は、家庭裁判所の調停や審判で解決を目指します。
離婚後の育児と生活をシミュレーション|離婚で請求できるお金と対策
離婚後は、経済状況が大きく変化します。予想される収入と支出を書き出し、不足分を補うための対策を具体的に考える必要があります。
パートや専業主婦として家庭生活を支えてこられた方は、離婚の法的な問題を考えるのと並行して、就職活動も進めることが大切です。
①財産分与
財産分与は、婚姻期間中に夫婦が共同で築いた財産を分ける手続きです。夫婦が築いた財産は、名義に関係なく原則2分の1ずつ分けられます。これには不動産、預貯金、退職金などが含まれます。
財産分与について詳しくは『離婚時の財産分与がわかる!対象・手続き・割合を徹底解説』をご覧ください。
子育て中の離婚では、特に住居に関する問題が重要となります。子どもの教育環境への影響を考慮すると、可能な限り現在の居住環境を維持することが望ましいケースも多くあります。
住宅ローンが残っている場合、離婚時に大きくもめる問題の1つであるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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②慰謝料
夫の家事育児への非協力を理由のみを理由に慰謝料を請求するのは難しいでしょう。
しかし、不貞行為(浮気)やDV、モラハラがあった場合は、これらの行為に基づき慰謝料請求が認められる可能性があります。
裁判例
裁判例の中には、夫が過去に不貞行為に及び、二度としない旨約束したにもかかわらず、その後も、家事育児をほぼ分担している妻や子らに対する配慮や思いやりに乏しいままであった上、その後、不貞関係を疑われても致し方ない関係を持ち、婚姻関係を冷却化させとして、婚姻関係が破綻した主たる原因が夫にあると認め、300万円の慰謝料を認めた事案があります(大阪家庭裁判所 令和3年1月7日判決)。
慰謝料請求を成功させるには、証拠をいかに揃えるかが重要です。
夫の家事育児への非協力が妻に精神的負担を与えてきたことを示す日記の他、不倫であれば写真やメールのやりとり、DVならば診断書など的確な証拠をできるだけ多くそろえましょう。
「どのような証拠が必要か分からない」「今持っている証拠で足りるか不安」など、少しでも悩みがある場合は、無料相談を利用して弁護士に早めに相談してみると良いでしょう。
③年金分割
夫が厚生年金に加入している場合、年金分割が可能です。これは、離婚後に受け取る年金額を増やす手続きで、婚姻期間中の年金を夫婦で分けるものです。
年金分割を検討する際は、まず「年金分割のための情報通知書」を年金事務所で取得しておきましょう。
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④婚姻費用
離婚を考える女性が意外と知らないのが婚姻費用です。これは、別居中に生活費を相手に請求できる制度です。婚姻費用は、請求を開始した時点から認められるため、別居を開始したらすぐに請求するのがポイントです。
相手が任意に支払に応じるケースは少ないため、実務では、離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に家庭裁判所に申し立てる場合が多いです。
婚姻費用は、離婚後に支払われる養育費よりも一般的に高額です。別居期間が長引くと、相手方にとって負担が増すため、離婚交渉が進みやすくなることがあります。
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⑤公的支援制度
子どもを連れて離婚したいと考えている方は、ひとり親家庭への公的支援制度についても、事前に情報収集をしておきましょう。
ひとり親家庭には、児童扶養手当、児童手当、医療費助成、所得税や住民税の軽減など幅広い支援制度が用意されています。
これらの制度も織り込みながら離婚後の生活をシミュレーションすることで、離婚に向けた具体的な準備がさらに整うはずです。
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ワンオペ育児を理由に離婚できる?離婚手続きの進め方
離婚の手続きには、大きく分けて協議離婚、調停離婚、裁判離婚の三つの方法があります。子育て中の場合、できるだけ円満な形での解決を目指すことが望ましいものの、子どもの利益を守るために、きちんとした取り決めを行うことも重要です。
協議離婚は最も負担が少ない
協議離婚は、時間的・経済的に最も負担が少ない離婚方法です。夫婦が離婚に合意した場合、離婚届を記入して役所に提出し、受理されれば協議離婚が成立します。離婚理由は問いません。
そのため、夫が家事や子育てに協力してくれないことを理由に離婚したい場合は、まず協議離婚の成立を目指し、夫婦で話し合いを行うのが良いでしょう。
その際、決して相手を責め立てるような言い方はしないようにしましょう。
今まで家事育児を自分が行ってきた事実、そのことに対するあなたの感情を冷静に伝えてみてください。
とても難しいことかもしれませんが、あなたの本心を聞いたことがきっかけで、相手も今までの行動を反省し、家事育児へ協力しようという気持ちになる可能性もあります。
協議離婚の場合でも、養育費や面会交流について書面での取り決めを行うことを強く推奨しています。特に、公正証書を作成することで、将来的なトラブルを予防することができます。
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家庭裁判所の調停離婚も可能
相手が協議離婚に応じない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てる方法を検討します。
離婚調停は、2名の調停委員と裁判官で構成される調停委員会が関与しながら、夫婦で離婚問題について話し合う手続きです。
通常、調停委員が各当事者の話を聞き取り、それを相手方に伝える流れで進みます。
申立人は、相手方の家事育児への非協力について具体的なエピソードを交えながらわかりやすく調停委員に伝える必要があります。
ポイントは、単に相手の非協力を訴えるだけではなく、その行動の積み重ねによって、夫婦関係がもはや回復不可能なほど破綻していると調停委員会に理解してもらうことです。
調停委員会が夫婦関係の破綻に至っているという心証を持てば、離婚に応じるよう相手方を説得してくれるでしょう。
それでも、相手方が夫婦関係の修復を望んだり、離婚に一切応じない姿勢を崩さなければ調停離婚の成立は難しくなります。
その場合は、ある程度の別居期間を経てから、離婚の話し合いを再度提案したり、離婚訴訟の提起を検討することになります。
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最終手段として離婚訴訟も検討する
離婚調停が不成立だった場合、最終手段として「離婚訴訟」によって離婚する方法があります。離婚訴訟によって離婚が認められるためには、法律で定められた「法定離婚事由」に該当する必要があります。
家事育児への非協力は単独では理由として不十分
家事や育児に非協力的な態度だけでは、直ちに裁判で離婚が認められるわけではありません。しかし、その非協力の程度や状況によっては、夫婦の「協力義務」(民法752条)に違反しているとみなされ、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として認められる可能性があります。
そのためには、夫が家事や育児の負担を妻に押し付け、配慮や思いやりを欠く一方で、自分は身勝手な行動を繰り返しており、さらにその結果として夫婦関係が修復不可能なほど破綻したという具体的な事実を主張し、証拠によって立証することが必要です。
育児への非協力の証明と立証の方法
夫婦関係が修復不可能なほど破綻していることを主張・証明するためには、具体的な事実が必要です。
例えば、過去に夫に育児への協力を求めたにもかかわらず全く改善されなかった事実を主張したり、妻の精神的ストレスを証明する診断書を提出するなどの方法が考えられます。
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・婚姻を継続し難い重大な事由|離婚原因の具体例は?弁護士解説
別居前に準備すべきこと
離婚を見据えた別居は、長期間続くことで「婚姻を継続しがたい重大な事由」として認められ、離婚が成立する可能性を高める要素の一つです。
一般的には、3年から5年程度の別居期間が必要とされていますが、具体的な状況によってその期間は異なるため、自分の状況に応じた判断が求められます。
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家事育児への非協力について記録しておく
夫が家事や子育てに協力してくれないことに耐えられず、別居を決意した場合、「悪意の遺棄」に当たらないよう準備をしておくことが重要です。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦間で同居し、互いに協力し扶助する義務を果たさない行為を意味します。
正当な理由なく勝手に家を出てしまうと、相手から悪意の遺棄を主張され、慰謝料を請求をされるおそれが生じてしまいます。
このような事態を防ぐために、別居に至る経緯をできるだけ詳しく記録しておく必要があります。
具体的には、夫が家事育児にいかに非協力であったかを示す事実を日記やメモに記録したり、夫の心無い言動が記載されたLINEやメールを保存しておいたり、家事分担の実情などを記録しておくと良いでしょう。
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証拠を収集しておく
別居する前に、慰謝料、養育費、財産分与などに関する証拠をできるだけ収集しておくことも大切です。
養育費や財産分与に備え、源泉徴収票、確定申告書の控え、預貯金通帳などのコピーをとっておきましょう。
その他の離婚に必要な証拠について、詳しくは関連記事をご覧ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
家事育児への非協力のみならず、暴言やDV、不貞行為(不倫、浮気)などがあり、結果的に別居に至ったという事情があれば、「婚姻を継続し難い重大」が認められやすくなるでしょう。