女が得する離婚|離婚は女に有利にできている?
「離婚で得をするのは女」と言われることがありますが、これは本当なのでしょうか。
結論から言うと、女性だからといって必ずしも有利だというわけではありません。
しかし、収入の低い女性や子育てをする女性を保護するための仕組みが、いくつも用意されています。たとえば、財産分与や年金分割、婚姻費用、養育費、公的支援などです。
知識を備えて離婚の制度を最大限に活用し、得する離婚を実現させましょう。
この記事では、女性が離婚で得をするために活用できる知識を解説します。
目次
女が得する離婚とは?
女性にとって得な離婚とはどのようなものでしょうか?
どのようなことを得と感じるかは人それぞれですが、大きく3つに分けることができます。
金銭や財産を得られる
離婚すると、慰謝料や財産分与、年金分割などの名目でお金を受け取れる場合があります。
ただし、すべての離婚において夫から財産をもらえるわけではありませんし、一般的には同居より別々で暮らす方が生活費がかかりますので、財産をもらえたとしても生活水準が下がってしまう可能性は十分にあります。
精神的に解放される
離婚は、DVやモラハラなどの苦痛な状況から解放され、精神的に自由になるチャンスです。
夫のいない生活に、物質的な豊かさとは比べものにならないほどの価値を感じる人は少なくありません。
また、夫に対する復讐として離婚を請求した妻にとっては、離婚の成立は目標達成の瞬間でもあります。
自由に生活できるようになる
女性は離婚によって、夫の世話や義両親の介護などから解放され、自由に生活できるようになります。
男性は家事に触れてこなかった方が多いため、離婚すると自分の面倒を見るのにも困ってしまうことがしばしばあります。
それに対し、多くの女性は一人になっても日常生活上あまり困らないため、離婚後の男女では生活の充実度に差が出るようです。
離婚は女に有利にできている?
「離婚は女が有利」と言われる理由は、財産分与や年金分割、慰謝料、親権などにあるのではないでしょうか。
本当に離婚制度が女性に有利にできているのかを見ていきましょう。
財産分与と年金分割とは?
女性が離婚時に活用すべき制度が、財産分与と年金分割です。
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配することです。たとえ預貯金や不動産の名義人が夫であっても、夫婦の協力によって手に入れた財産である以上、離婚時に分与を受ける権利があります。
年金分割とは、離婚した夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金・共済年金の保険料を分割して、分け合う制度です。離婚時に年金分割の手続きを行うと、将来夫が受け取る年金の一部を分けてもらうことができます。
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財産分与や年金分割は女性に有利?
夫婦の財産や年金は、妻が専業主婦やパート勤務だった場合でも、原則として2分の1の割合で分割されます。
夫から見れば、「働かずに家にいた妻やパートしかしていなかった妻に、自分が稼いできたお金を半分も取られてしまう」と感じるかもしれません。
しかし、妻が家事や育児を担ってくれていなければ夫は仕事に集中することができなかったでしょうから、妻も夫の収入に貢献しているといえるのです。
年金分割も同様の考え方であるため、財産分与や年金分割を受け取るのは、妻の正当な権利です。
離婚慰謝料は女性に有利?
離婚したら夫は妻に慰謝料を払わなければいけないと思っている人も一定数いるようですが、離婚したからといって必ず妻が慰謝料を受け取れるわけではありません。
離婚慰謝料は、どちらかの一方的な行為によって夫婦関係が破綻してしまったことの精神的苦痛に対する補償です。
したがって、離婚原因が双方にある場合は慰謝料は発生しませんし、妻に原因があるのであれば妻が慰謝料を支払います。
したがって、慰謝料の面で女性が一方的に有利なわけではありません。
親権者は母親が約9割!
親権については、母親が圧倒的に有利です。令和4年度司法統計によると、離婚調停・審判のうち約9割が母親を親権者と定めています。
主な理由は、母性優先の原則と、継続性の原則であると考えられます。
裁判所は、子どもが幼いほど母親と暮らした方が良いと判断することが多く、これを母性優先の原則といいます。
また、子どもが生まれた時から母親が主となって世話をしていることが多いため、継続性の原則にてらして、そのまま母親が親権者として認められることが多いと考えられます。
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養育費は女性に有利?
妻が親権を得ると、夫から養育費を受け取ることができます。
これも女性が有利であるという印象を与える一因となっていますが、夫が子どもを引き取る場合は妻が養育費を払うことになりますので、女性にのみ有利な制度とは言い切れません。
とはいえ、収入の多い男性の方が高い養育費を支払っていることや、父子家庭の多くが母親からの養育費を受け取っていないことが、統計によって示されています(令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告より)。
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離婚すると税金が安くなる?
離婚によって世帯の収入が下がったり、扶養関係に変更が起きると、税金も増減します。
税金に関しては、一家の大黒柱である男性に不利に働くことが多いです。
婚姻中は妻や子どもを扶養しているため、扶養控除・配偶者控除を受けることができますが、離婚後には控除が受けられません。
そのため、夫は離婚によって納税額が高くなる可能性があります
一方、妻は離婚後に寡婦控除やひとり親控除が使えるようになるため、納税額が少なくなる可能性があります。
また、世帯所得が少なくなると、住民税が非課税になることもあります。
妻の方が収入が少なく、妻が子どもを引き取るというケースに限っていえば、女性は離婚によって税制上得をするといえるでしょう。
財産分与で損をしない方法
離婚慰謝料の相場は高くても300万円程度なのに対し、婚姻期間が20年以上の熟年離婚において財産分与の相場は600万〜2000万円程度と、非常にウェイトが高いことがわかります。
よって、話し合いにおいての重要度も高くなります。
しっかりと知識を身に着けて臨まなければ、受け取れたはずの財産を受け取れず損をしてしまうことは十分に考えられます。
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すべての財産を開示させる
財産分与においてまず重要なのが、すべての財産を開示させることです。
妻に渡す財産を少なくするために隠し財産を作っている夫もいるため、財産分与の話し合いを始める前に相手の財産を把握しておく必要があります。
隠し財産の証拠が見つけられない場合は、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった手続きを用いて、金融機関などの第三者に照会する方法もあります。
財産の形は様々で、自分では思ってもみなかったものが実は財産分与の対象にできたというケースもあります。
たとえば、生命保険、退職金、ゴルフの会員権、財形貯蓄や企業年金などはありませんか?これらが必ずしも財産分与できるわけではありませんが、そのまま夫に持っていかれては損してしまいます。
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共有財産・特有財産を主張する
財産分与の対象になる財産を共有財産、対象にならないものを特有財産といいます。
共有財産とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を指します。名義がどちらのものであっても、結婚している期間に手に入れた財産は原則として共有財産とみなされます。
特有財産とは、協力して得たものではない、一方に固有の財産のことです。
婚姻前から持っていた財産や、婚姻中に一方が相続した財産は、特有財産にあたります。
夫名義の財産をより多くもらうためには、共有財産であることを主張しましょう。
反対に、自分名義の財産を守るためには、それが特有財産であることを主張します。
夫婦の保有する財産は原則として共有財産と推定されるため、特有財産を主張したい場合は自分で立証することが求められます。
寄与割合を有利に!
財産を何パーセントずつ分け合うかの割合を寄与割合といいます。
寄与割合は、夫婦が財産形成に対してどのくらい貢献したかによって決まりますが、原則として2分の1とされています。
これは、たとえこちらが専業主婦であったとしても変わりません。
しかし、妻の貢献度が低いとして夫から寄与割合の修正を求めてくる可能性は十分にあります。
これを阻止することで、多くの財産を手元に残せるでしょう。
また、共働きにも関わらず妻のみが家事や育児を担っていたようなケースでは、夫の貢献度が低いことから、妻に有利に寄与割合を修正できることもあります。
財産分与は税金に注意!
大きなお金が動く際は、贈与税という言葉が頭に浮かびます。しかし、財産分与は夫婦の財産の清算といった性格のものであり贈与とは異なるため、原則として贈与税はかかりません。
ただし、次の2つの例外に該当するケースは贈与税が課税される可能性があります。
- 財産分与で得た財産が常識からして多過ぎる場合
- 税金逃れのために偽装離婚した場合
また、財産分与で土地や建物を受け取った場合は、贈与税ではなく登録免許税や固定資産税、不動産取得税などがかかる可能性があります。
なお、不動産や有価証券など、現金以外の財産を夫から受け取る場合、夫には譲渡所得税が課されることがあります。妻が負担するものではありませんが、後になって夫から「税金がかかるなんて話が違う!」と言われないように、あらかじめ相談しておかなければなりません。
現金の財産分与には、あまりにも額が大きい場合を除いて税金がかかりませんので、よほど家や土地が欲しいケース以外は、現金で財産分与を受けた方がロスが少ないかもしれません。
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離婚しない方が得!?婚姻費用とは
離婚しない方が得なケースもある
中には、離婚をしない方が金銭的に得な場合もあります。
それは、高額の婚姻費用を受け取れるケースです。
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために分担すべき生活費のことをいいます。
たとえ夫婦が別居していても、夫の方が収入が多いのであれば、夫は妻に婚姻費用を支払う必要があります。
場合によっては、離婚するよりも、離婚せずに別居を続けて婚姻費用をもらった方が多くのお金を受け取れることもあります。
例として、以下の2つのケースについて検討してみましょう。
ケース1:財産分与より婚姻費用の方が得?
夫の年収:900万円(給与所得者)
妻の年収:100万円(給与所得者)
共有財産:預金500万円、査定額1,000万円の住宅、500万円のローン残債
子ども:なし
まず、裁判所の婚姻費用算定表に基づいてこの夫婦の婚姻費用を算定すると、月額12~14万円となります。間をとって、婚姻費用13万円を毎月夫から妻へ支払うということにします。
次に、離婚する場合の財産分与の額を計算します。
この夫婦の場合、500万円の預金のほか、1,000万円の価値がある家を保有しています。
ただし、住宅ローンの残債が500万円あるためこれを差し引き、実質的な財産は1,000万円となります。
2分の1の割合で財産分与をする場合、妻は500万円分の財産分与を受けることができます。
離婚すると財産分与を受け取ることができますが、それ以降は婚姻費用を受け取れません。
では、すぐに離婚して500万円の財産をもらうのと、毎月13万円の婚姻費用をもらい続けるのでは、どちらが得でしょうか。
13万円の婚姻費用を受け取り続けた場合、39か月で500万円を超えます。
したがって、3年ちょっと離婚を先延ばしにすれば、すぐに離婚するよりも多くのお金を夫から受け取れることになり、金銭面だけ見れば離婚しない方が得であることが分かります。
ケース2:婚姻費用より離婚後の手当の方が得?
子どもがいる場合は、離婚して養育費を受け取りつつ、シングルマザー向けの手当を受けた方が得な場合もあります。
夫の年収:500万円(給与所得者)
妻の年収:100万円(給与所得者)
子ども:5歳の子どもが1人(妻が引き取る)
この夫婦の場合、離婚しなければ9万円の婚姻費用を受け取れます。一方、離婚すれば、子どもが独立するまでの間、毎月5万円の養育費を受け取れます。
なお、離婚してシングルマザーになった場合、毎月4万5,000円程度の児童扶養手当を受け取ることができるとします(児童扶養手当の金額は毎年見直されます。また、その他の手当についてはここでは省略します)。
したがって、妻が離婚後に受け取れる額は、夫からの養育費と手当を合わせて毎月9万5,000円となり、婚姻費用を受け取り続けるよりも、離婚したほうが多くのお金を受け取れることになり、離婚した方が得なケースです。
このケースでは財産分与を考慮しませんでしたが、財産分与を行う場合はさらにお金がもらえることになるでしょう。
その他にも、扶養控除など様々な条件が関わってきますので、より詳しいシミュレーションをするには、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみるのがよいでしょう。
もっとも、養育費は途中で支払いが途絶えるケースが非常に多いため、それも計算に入れておくべきです。
いずれのケースも、どちらを選ぶかはその人次第です。婚姻費用のためと割り切って、離婚せずに別居し続けることを選ぶ女性もいますが、お金なんてもらえなくていいから早く離婚したいという女性もいます。
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婚姻費用の注意点
婚姻費用の方が得なこともあるとはいえ、愛情の残っていない夫と結婚し続けるのは心情的な負担になりますし、新しいパートナーを作るのもリスキーです。
その他にも、以下のような点に注意が必要です。
婚姻費用が減額されるリスク
婚姻費用は途中で減額される可能性があります。
婚姻費用の額は、夫婦双方の収入に基づいて算定するのが一般的です。
したがって、別居中に妻が仕事を始めて収入が増え、それが夫に知られると、婚姻費用の減額を求められる可能性があります。
婚姻費用の支払いを少なくしたい場合に相手方が取り得る手段は、婚姻費用分担請求調停・審判です。調停で妻が減額を拒んだとしても、審判で婚姻費用の減額が認められる可能性があります。
ではずっと働かずにいればよいかというと、そうではありません。
仕事を見つけるなら、一般的に年齢が若い方が有利です。仕事をせずに漫然と婚姻費用を受け取り続けていると、将来的に婚姻費用が受け取れなくなった際に、生活が立ち行かなくなるおそれがあります。
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離婚を請求されるリスク
長期間別居していると、夫からの離婚請求が認められる可能性があります。
夫としては早く離婚して婚姻費用の支払いを終わらせたいでしょうから、夫から離婚調停を申し立てることは十分に考えられます。
調停で強制的に離婚させられることはありませんが、離婚裁判まで進むとこちらの意思に反して離婚することが決まってしまう可能性があります。
そうなると、もう婚姻費用を受け取ることはできません。
裁判で離婚するためには法定離婚事由が求められますが、長期間の別居はこれにあたります。したがって、別居を理由にして離婚が認められることがあるのです。
何年別居していれば裁判離婚が認められるかというのは夫婦の年齢や同居期間などにもよるため、明確な基準は存在しません。とはいえ、一般的には3~5年程度が目安と言われています。
ただし、相手が有責配偶者である場合は、目安となる別居期間が5~10年程度にまで延びます。
これは、離婚の原因を作った方から離婚を求めるのは信義則に反する、簡単に言うと卑怯であると考えられているためで、有責配偶者からの離婚請求は通常より認められづらくなっています。
女が離婚で得するためのポイント
離婚の損と得を比較する
離婚には、金銭の損得だけでなく、感情面や生活面でも様々なメリット・デメリットがあります。
離婚で損しないためには、損と得を徹底的に見比べて決断をすることが非常に重要です。
以下にあてはまる場合は、離婚で金銭的に得をするのは難しいかもしれません。
- 自分の方が多くの財産を持っている
- 借金を含めると夫婦の財産がマイナスになる
- 自分が有責配偶者である
- 婚姻期間が短い
離婚が損になってしまう場合は、卒婚や別居婚などのように、離婚以外で夫から離れる手段も検討してみましょう。
しっかりと離婚準備をする
離婚準備と呼ばれるのは、貯金や引っ越しの準備だけではありません。確実に離婚を成立させるための準備や、最大限の財産分与や慰謝料を請求するための準備が重要です。
夫が離婚を拒んでいる場合は、裁判離婚を視野に入れて、離婚理由を証明する証拠を用意する必要があります。
また、慰謝料を請求するためには、不貞行為や暴言・暴力などの証拠を確保しておかなければなりません。
加えて、財産分与を最大限受け取るために、夫の財産の資料を集めておくことも重要です。こちらが一方的に「相手には隠し財産がある」と主張しても、証拠がなければ信じてもらえないからです。
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弁護士に相談
離婚で得をするためには、制度の理解や事前の準備が不可欠です。
離婚準備の段階で弁護士に相談して、有利に離婚するためのアドバイスを受けることをおすすめします。
法律を味方につけて、得する離婚を実現させましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
財産の調査をしたい方や、何を財産分与の対象にできるかを知りたい方は、弁護士に相談してみましょう。