離婚の財産分与に贈与税?不動産の税金特有の注意点や節税も解説
- 離婚時の財産分与で、税金はかからない?
- 離婚時の財産分与で、贈与税がかかる例外的なケースとは?
- 離婚時に家の財産分与を受けると、不動産売却と同じ税金がかかる?
財産分与とは、離婚する際に、夫婦の共有財産を清算する制度です。
贈与ではないので、離婚時の財産分与には、基本的に贈与税はかかりません。
しかし、財産分与について、例外的に税金が課税される可能性もあります。
たとえば財産分与の金額があまりに高額である場合、偽装離婚だった場合、不動産を財産分与の対象とした場合などは税金が問題になります。
この記事では、特に財産分与を受ける方のご不安を解消するため、財産分与が問題となる場面において、どのような場合に税金がかかるのか解説します。
併せて節税方法もご紹介しますので、是非最後までご覧ください。
目次
離婚の財産分与に贈与税は無い?例外は…
離婚にともなう財産分与とは?
離婚にともなう財産分与とは、婚姻中に、夫婦が協力して維持・形成した財産(夫婦の共有財産)を、離婚する際、分け合うということをいいます。
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財産分与に贈与税はかからないのが原則!
離婚にともなう財産分与については、原則として贈与税はかかりません(相続税法基本通達9-8)。
なぜなら、先ほどお伝えしたとおり、財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産の精算分配、離婚後の生活保障を目的とした給付であって、贈与ではないからです。
ただし、財産分与について、例外的に贈与税が課されるケースもあります。
次の2つの例外に該当するケースは贈与税が課税される可能性があります。
- 財産分与で得た財産が常識からして多過ぎる場合
- 税金逃れのために偽装離婚した場合
例外①財産分与の額が多過ぎる場合
財産分与に贈与税が課税される1つ目の例外は、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮しても、財産分与の金額が多過ぎる場合です。
この場合、その多過ぎる部分について贈与税が課税されます。
具体例
例えば、財産分与の対象が、夫名義の居住用のマンションのみだったとします。
居住用不動産については、離婚後、不動産売却をおこない、その売却代金を財産分与の対象とすることも多いものですが、離婚にともない1億円で不動産売却できたと仮定しましょう。
実務では、財産分与の割合は原則として2分の1とされており、この原則からすると、財産分与としては、1億円の半分である5000万円を夫婦がそれぞれ取得することになります。
しかし、マンションの売却価格1億円のうち9500万円を、元妻が取得することにした場合、どうなるのでしょうか。
この場合、元妻が分与された金額のうち、夫婦の共有財産の2分の1を超える部分(4500万円)が多過ぎると認定される可能性が高いでしょう。
そのため、多過ぎる4500万円について、元妻に贈与税が課税されるおそれがあります。
金銭に限らず、居住用不動産そのものを元妻に財産分与した場合も、同様に贈与税が問題になるおそれがあります。
例外②税金逃れのため偽装離婚をした場合
財産分与に贈与税がかかる2つ目の例外は、贈与税等の税金を免れるために偽装離婚をした場合です。
贈与税逃れ、相続税逃れのために離婚をして、一方に財産を取得させた場合、税金が課税されるおそれがあります。
偽装離婚が見抜かれた場合、贈与税が課税されるのは、離婚にともなう財産分与によって取得した財産全部についてです。
離婚の財産分与で不動産を取得…注意すべき税金は?
不動産を受け取る側にかかる税金
財産分与として土地や建物を取得した場合、取得した側に以下の税金が課税される可能性があります。
- ①登録免許税
- ②固定資産税
- ③不動産取得税
以下、それぞれの税金について詳しくご説明します。
①登録免許税
登録免許税とは、登記名義を変更する際に必要となる税金です。
登録免許税等の登記手続き費用は、登記権利者、つまり財産分与を受けた側が負担するのが一般的です。
しかし、当事者の合意次第で折半したり、相手方の負担とすることもできます。
財産分与を原因として所有権の移転登記を行う場合、登録免許税の計算方法は以下のとおりです。
登録免許税の計算式
不動産の価格(課税価格)×2%
「課税価格」とは、固定資産税評価額を意味します。
固定資産税評価額は、「固定資産税課税明細書」または「固定資産評価証明書」で確認できます。
固定資産税課税明細書は、毎年4月に市町村役場から送付される固定資産税納税通知書に同封されています。
固定資産税課税明細書の「価格」または「評価額」に記載されている数字が「課税価格」です。
評価額は、市町村で固定資産評価証明書を取得して確認できます。
固定資産評価証明書は、不動産所在地の市区町村役場の窓口または郵送で取得できます。
②固定資産税
固定資産税は、毎年1月1日の時点における不動産の所有者に対して課税される税金です。
固定資産税の計算方法は、一般的に以下のとおりです。
固定資産税の計算式
固定資産税評価額×1.4%
※税率は自治体によって異なる場合もあります。
固定資産税評価額は、「固定資産税課税明細書」または「固定資産評価証明書」で確認できます。
固定資産税課税明細書の「価格」または「評価額」に記載されている数字が「固定資産税評価額」です。
注意点として、財産分与の時期によっては、分与した側がすでに所有者でないにもかかわらず、固定資産税を課税される可能性があるという点が挙げられます。
トラブルを避けるため、所有期間に基づいた日割り計算で固定資産税を公平に負担する取り決めをしておくと良いでしょう。
合意内容は、離婚協議書や公正証書等に必ず明記しておきましょう。
③不動産取得税
不動産取得税とは、土地や家屋の購入、贈与等で不動産を取得した場合に、取得した側に対し課税される税金です。
離婚時の財産分与で不動産を取得した場合、財産分与の性質によって不動産取得税がかかるかどうか変わってきます。
下表をご覧ください。
財産分与の性質 | 内容 | 不動産取得税の課税 |
---|---|---|
清算的財産分与 | 婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産の清算 | 課税なし |
扶養的財産分与 | 離婚後に生活が困難になる側への短期的な援助 | 課税あり |
慰謝料的財産分与 | 精神的苦痛に対する慰謝料としての財産分与 | 課税あり |
この表から分かるとおり、清算的財産分与の場合は不動産取得税は課税されません。
実務上は、財産分与の中心になるのは清算的財産分与です。
したがって、財産分与を受けた側に不動産取得税が課税されるケースは少ないでしょう。
もっとも、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与と認定されると、不動産取得税が課税される可能性があります。
そのような事態を避けるためには、清算的財産分与であることが第三者にもはっきりと分かるよう離婚協議書等を作成しておくことが大切です。
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財産分与で不動産売却の税金がかかる?
不動産の財産分与は譲渡所得税に注意!
不動産の財産分与を受ける予定の方は、登録免許税、固定資産税、不動産取得税の税金負担がありますが、そのほかに譲渡所得税にも注意が必要です。
そもそも譲渡所得税はどのような税金かというと、財産を分与する側に課税されるものです。
不動産等の時価が、購入時の価格より値上がりしている場合に、その値上がりした部分について、譲渡所得税が課税されます。
たとえば、元夫名義の居住用不動産を、財産分与で元妻に与えた場合、元夫に譲渡所得税が課税されるケースがあります。
譲渡所得税の税額は、「不動産の時価-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」で算出した譲渡所得に、税率をかけて計算します。
計算
不動産の時価-(取得費+譲渡費用 )-特別控除額=譲渡所得
譲渡所得×税率=譲渡所得税の税額
なお税率については、長期譲渡所得と短期譲渡所得によって異なります。
所有期間が5年を超える場合は、長期譲渡所得にあたり、所得税・復興特別所得税・住民税あわせて20.315%の税率となります。
所有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得にあたり、所得税・復興特別所得税・住民税あわせて39.63%の税率となります。
さて、このような譲渡所得税について、財産分与を受ける側がなぜ注意をする必要があるのでしょうか。
それは、財産分与を行う際に譲渡所得税の検討が抜けていると、財産分与をした側から、財産分与の取り消しを主張される可能性があるからです。
税金が理由で財産分与が取り消された事例
財産分与の取り消しが認められた実例としては、以下の裁判があげられます。
裁判
夫が自分は課税されないと思って妻に自宅を財産分与したところ、多額の譲渡所得税が課税されると判明したため、課税されると知っていれば財産分与しなかったと主張して財産分与の無効の裁判を起こし、これが認められたケースがあります(最判平成元年9月14日、東京高判平成3年3月14日)。
この事例のように、後で財産分与の効果を否定されないためには、当初から弁護士や税理士等の専門家が関与した上で財産分与の話し合いをするのがおすすめです。
また、仮に後で相手方が「あのときはここまで多額の税金がかかると思っていなかった」と主張しても、専門家が関与していれば税金についても検討した上で合意しているはずなので、そのような主張は認められにくくなります。
事前に専門家が関わっておけば、お互いに納得した上で財産分与を行える可能性が高いでしょう。
マイホームの財産分与で節税する方法は?
ここでは、居住用不動産が財産分与で問題になる場合において、譲渡所得税を節税する方法を2つご紹介します。
たしかに、譲渡所得税は財産分与をする側がおさめる税金です。
しかし、財産分与を受ける側も、譲渡所得税の節税方法を知っておくことで、今後の交渉に活かせる可能性があります。
そのため、しっかりと確認しておきましょう。
①特別控除を利用する
譲渡所得税には、居住用不動産を財産分与する場合の3,000万円の特別控除の特例があります。
以下のような要件を満たしている場合、こちらの特別控除の特例を適用できる可能性があります。
おもな要件(一部を紹介)
- 自分が住んでいる家屋、敷地、借地権を譲ること
- 譲渡の前年および前々年に、この特例やマイホームの買替えの特例などを受けていないこと
- 譲渡の当事者間に、親子や夫婦などの特別な関係がないこと
etc.
国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問) No.3302 マイホームを売ったときの特例」を参考に一部抜粋し編集しました。くわしい要件、最新の情報についてはご自身でご確認ください。
譲渡所得税の課税対象となる「譲渡所得」は、財産分与をする時の不動産の時価と、不動産を取得した時の価格(改良費なども含む)や譲渡費用などとの差額となります。
そのため、その差額が3,000万円以内であれば、確定申告の際、3,000万円特別控除によって、譲渡所得がゼロになるので、譲渡所得税は非課税になるのです。
たとえば、婚姻中にマイホームを4000万円で購入し、離婚の財産分与時に時価額が7000万円に値上がりしたケースであれば、譲渡所得がゼロになるので、譲渡所得税は非課税となります。
3000万円の特別控除
- 財産分与時の時価-取得費等-特別控除=譲渡所得
- 7000万円-4000万円-3000万円=0円(課税譲渡所得)
ただし、この300万円の特別控除の特例の適用を受けるには、「夫婦など特別な関係でないこと」が要件の一つとされています。
3000万円の特別控除の特例を受けるには、居住用不動産の財産分与を、離婚後におこなう必要があります。
②軽減税率
居住用不動産(マイホーム)として所有期間が10年を超えている不動産については、譲渡所得税について軽減税率が適用される可能性があります。
おもな要件(一部抜粋)
- 日本国内にある自分が住んでいる家屋(敷地を含む)を譲ること
- 譲った年の1月1日に、家屋・敷地の所有期間が10年を超えている
- 譲った年の前年および前々年にこの特例やマイホームの買替えの特例等の適用を受けていないこと
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して譲るものでないこと
etc.
国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問) No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」を参考に一部抜粋し編集しました。くわしい要件、最新の情報についてはご自身でご確認ください。
くわしい制度の適用条件については、離婚をあつかう弁護士に無料相談したり、国税庁のタックスアンサーを読んだりして、確認してみてください。
離婚慰謝料と養育費に税金はかかる?
慰謝料を受け取ったら税金がかかる?
離婚する場合、不貞行為(浮気)やDV等で相手方から精神的苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できます。
慰謝料は、相当な額であれば支払を受けても所得税、贈与税等の税金はかかりません。
離婚慰謝料の相場としては、約100万円から300万円といえるでしょう。そのため、その範囲を過度に上回る慰謝料金額の場合、贈与税が課税される可能性があります。
また、前述のとおり、財産分与(慰謝料的財産分与)として不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税される可能性があります。
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養育費を受け取ったら税金がかかる?
養育費は、通常必要と認められる範囲内であれば贈与税はかかりません。
また、扶養義務者相互間において扶養義務を履行するために給付される金品なので、所得税も住民税もかかりません。
しかし、養育費を一括払いで受け取った場合は、通常必要と認められる範囲を超えるとして贈与税が課される可能性があります。
どうしてもまとまった額の養育費の支払が必要な場合は、事前に弁護士に相談して税金がかからないよう対策をとっておくのが安心です。
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離婚で財産分与を受ける側の税金対策
不動産ではなく現金で財産分与を受ける
不動産の財産分与を受ける場合は、登録免許税、固定資産税、場合によっては不動産取得税がかかる可能性があります。
現金で財産分与を受けることで、これらの税金を回避することができます。
相当な範囲での財産分与を受ける
財産分与を受ける側が最も注意したいのは、分与の額が相当な範囲に収まっているかどうかという点です。
相当な範囲とは、一般的には夫婦共有財産の2分の1を超えない範囲を意味します。
相当な範囲での財産分与を実現するためには、夫婦共有財産をすべて把握することが大切です。
夫婦の共有名義の財産だけでなく、一方の名義であっても実質的に夫婦の協力によって築いたといえる財産は必ずリストアップするようにしましょう。
通常の分与割合を超えて財産分与を行う場合は、事前に弁護士に相談した方が将来的なトラブルを回避できます。
弁護士にご相談いただければ、離婚協議書や公正証書、調停調書等に分与割合の相当性を明記する具体的なアドバイスをいたします。
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贈与税の配偶者控除を利用する
婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、基礎控除110万円に加え、贈与税の申告をすれば2,000万円まで贈与税が非課税になります。
この配偶者控除を利用すれば、最大2,110万円まで非課税で居住用不動産を贈与できます。
もっとも、配偶者控除を利用するメリットがあるかどうかは、不動産の価格や他の財産の有無等によって様々です。
税金の問題は複雑です。
離婚と税金の問題について少しでも不安がある方は、無料相談を利用して弁護士や税理士に相談してみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
離婚にともなう財産分与では、原則として贈与税は課税されません。
しかし、財産分与の金額が過大過ぎるなどの場合、財産をもらう側に贈与税が課税されることがあります。
また、不動産が財産分与の対象になる場合、不動産をもらう側は登録免許税などの税金をおさめる必要があります。
さらに、不動産を譲る側は、時価が値上がりしていた場合、譲渡所得税をおさめなければならない可能性があります。しかし、この点について認識できていない方もいるため、後日蒸し返されるおそれもあります。
このように離婚の財産分与は、税金についても配慮しながら進めなければなりません。
それに、財産分与では住宅ローンも問題になることが多いものです。
離婚の財産分与にまつわる全ての問題を円滑に解決するためには、転ばぬ先の杖として、離婚をあつかう弁護士に相談するのがおすすめです。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
財産分与には、離婚に際して、夫婦間で財産の精算をする、離婚後の生活を保障するなどの目的のほか、慰謝料的な意味合いもあります。
財産分与は、基本的には離婚後2年以内に請求する必要があります。