モラハラ離婚に必要な証拠とは?法的に有効な証拠収集の具体例
配偶者からの日常的な暴言、無視、過度な束縛、生活費を渡さないといったモラルハラスメント(モラハラ)は、法的に離婚が認められる法定離婚事由になり得ます。
どの程度のモラハラで離婚が認められるかは、相手の言動の内容だけでなく、証拠として示せるかどうかが大切です。
この記事では、モラハラで離婚するためにどのような証拠が必要なのか、裁判や調停でモラハラが離婚理由として認められるための法的な基準、モラハラのケース別に集めるべき証拠と収集方法の注意点を解説します。
目次
モラハラで離婚は認められる?
家庭内でのモラハラが原因で離婚できるかどうかは、法律上「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかが判断基準になります。
ここでは、裁判所がモラハラをどのように判断するのか、その法的な基準と、判断の決め手となる証拠にはどのような種類があるのかを説明します。
モラハラで離婚が認められる法的な基準
相手が離婚に同意しない場合、裁判で離婚を認めてもらうためには、民法770条1項に規定された法定離婚事由があることを証明しなければなりません。
モラハラは、「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条項5号)に該当する可能性があります。
裁判所は、モラハラの態様や悪質性、頻度、継続期間、精神的苦痛の程度などを総合的に考慮して判断するため、モラハラの事実を裏付ける客観的な証拠が必要となります。
モラハラ離婚に有効な証拠の種類
家庭内のモラハラは密室で行われることが多く、当事者以外には実態が見えにくいものです。
離婚調停や裁判でモラハラの事実を証明するには、以下のような証拠を示すことが非常に重要になります。
- 暴言や人格否定の言葉を録音した音声データ
- モラハラ発言が記録されたメール、LINE、SNSの履歴
- 相手が書いた念書や謝罪文
- いつ、どこで、何を言われ、どう感じたかを記録した日記やメモ
- 心療内科や精神科の診断書、通院履歴
- 公的機関への相談記録
- 第三者の証言や陳述書
- 生活費が振り込まれなくなった通帳の記録や家計簿
証拠は多ければ多いほど有利になります。複数の証拠を組み合わせることで、モラハラの実態を証明する力が強まります。
【ケース別】モラハラを証明する証拠の集め方
モラハラの言動はさまざまですが、ここでは、よくあるケース別に有効な証拠と収集のポイントを具体的に解説します。ご自身の状況に当てはまる項目からご覧ください。
暴言・人格否定
「バカ」「役立たず」「誰のおかげで生活できるんだ」「死ね」といった暴言や人格を否定する発言は、モラハラの典型例です。この場合、最適な証拠は音声録音です。
ICレコーダーやスマートフォンの録音アプリを活用し、すぐに録音できる状態にしておきます。
1回きりの録音では「ついカッとなってしまった」と言い逃れされる可能性があるため、継続性と悪質性を示すためにも複数回分のデータを集めましょう。
調停や裁判の場で提示する際は、重要な暴言部分を抜き出し、文字起こししておくと第三者に伝わりやすくなります。
ただし、抜き出す部分については慎重な判断が必要です。
LINEやメールでの攻撃・束縛
「今どこにいる?」「誰といる?」といった執拗な監視や行動制限、LINEやメールでの長文の罵倒もモラハラにあたります。
これにはメッセージ履歴が最適な証拠となります。
該当のメッセージをスクリーンショットで保存しましょう。その際、必ず「送信日時」「送信者(相手)」「メッセージの全文」が写るように撮影することがポイントです。
自分に不利な返信があったとしても、前後の文脈が分かるように編集せずそのまま保存してください。
データが消えないようPCやクラウドにもバックアップを取っておくと万全です。
無視・家庭内別居状態
話しかけても一切返事をしない、意図的にため息をつく、食事を別々に取るといった態度によるモラハラは、録音や録画が難しく証明が困難です。
このケースでは、日々の出来事を詳細に記録した日記やメモが有力な証拠となり得ます。
記録する際は、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識してください。例えば「×月×日 20時 夕食時、〇〇について話しかけたが、一切返事がなく30分間無視された」のように、客観的な事実を具体的に記録しましょう。
その時に感じた恐怖や悲しさといった自分の感情も一緒に書き残すと、精神的な苦痛の大きさを伝える助けになります。
数日分を後からまとめて書くと信用性を疑われるリスクがあるため、できるだけ出来事の直後に記録することが証拠としての価値を高めます。
生活費を渡さない(経済的DV)
十分な収入があるにもかかわらず生活費を渡さない、または極端に制限する行為は、経済的DVと呼ばれるモラハラの一種です。
この証拠としては、生活費の振込が途絶えた通帳のコピーや、生活必需品の購入を制限されたことが分かるレシートや家計簿が有効です。
また、「生活費をください」と要求したLINEやメールと、それに対する相手の拒否や罵倒の返信も強力な証拠となります。
メールやLINEのやり取りは、送信日時・送信者・全文が分かるように保存し、編集せずそのまま提出することが重要です。
周囲の前での侮辱
友人や親族、子どもの前で、「こんなこともできないのか」「本当に要領が悪い」「だからダメなんだ」などと、配偶者の能力や人格を否定し、貶めるような発言をするケースです。
この場合、同席していた友人や親族に協力を依頼し、その時の状況を具体的に文章で書いてもらうと、証拠としての信用性が高まります。
すぐに協力が得られなくても、いつ、誰の前で、何を言われたかを詳細に日記に記録しておくことが重要です。
また、会食の場など録音できそうなシチュエーションであれば、ICレコーダーを準備しておくことも有効な手段となります。
モラハラによる精神的苦痛を裏付ける証拠とは?
暴言を録音した音声データや、罵倒する内容のLINEメッセージのように、相手の言動を直接捉えた証拠は非常に強力です。
しかし、そのような証拠が揃わなくても、精神的な苦痛や、モラハラが行われていた当時の状況を裏付ける間接的な証拠を積み重ねていくことはモラハラの事実を認定してもらう上で重要になります。
ここでは、今からでも集められるモラハラの証拠について具体的に説明します。
診断書で精神的苦痛の大きさを証明する
不眠、不安、抑うつなどの症状があれば、心療内科や精神科を受診し、診断書を取得しておきましょう。モラハラにより精神的損害を受けたことを証明する強力な証拠となります。
配偶者のモラハラが原因で精神的に不安定になっていることを医師に相談し、その具体的な内容(どのような言動があったか、どのような症状が出ているか)をカルテに記載してもらうことが大切です。
日記でモラハラの継続性と具体性を立証する
日記やメモは、配偶者のモラハラ行為を主張するのに有力な間接証拠となり得ます。
いつ、何をされ、どう感じたかを時系列で具体的に記録し続けることで、モラハラの継続性や悪質性を示すことができます。
日常的にモラハラがあった事実を立証するため、できるだけ発生直後に記録しましょう。
継続的に作成された記録は真実味があり、他の証拠と組み合わせることで、証拠価値や信頼性が高まります。
公的機関や専門家への相談で事実を客観化する
警察や弁護士、相談窓口、医療機関等に相談した事実は、「他者に助けを求めるほど深刻に悩んでいた」ことを示す客観的な証拠になります。
「つらかった」という主観的な訴えだけではモラハラの事実を認めてもらうのは難しいですが、公的機関や専門家への相談記録は、被害者の心理状態を裏付ける資料として扱われます。
相談日時や担当者名、相談内容を必ず控えておきましょう。
モラハラの証拠収集で注意すべきことは?
モラハラを証明するため客観的な証拠は不可欠ですが、不適切な方法で収集すると証拠能力が否定されるだけでなく、プライバシー侵害などにより法的責任を問われるおそれもあります。
ここでは、証拠収集の際に注意すべきポイントを解説します。
相手のスマホやPCを無断で見るリスク
相手のスマートフォンやPCにロックがかかっているのを解除したり、パスワードを盗み見たりして、勝手にLINEやメールを覗き見る行為はプライバシーの侵害にあたる可能性が高いです。
本人の同意なくデータを取得する行為は違法な手段とみなされ、証拠能力を否定されるリスクがあります。
無断録音の証拠能力と注意点
自宅内での夫婦の会話を録音する行為は、相手に無断であっても、証拠として認められるケースがほとんどです。
盗聴器を仕掛けるといった特殊な場合を除き、被害者自身が会話の当事者であれば、プライバシー侵害よりも証拠保全の必要性が優先されることが多いのです。
ただし、相手の私物に録音機をこっそり仕掛けたり、盗聴したりする方法は、プライバシーの過度な侵害にあたり、証拠として認められない可能性があるので注意が必要です。
相手を挑発して証拠を作らない
証拠が欲しいあまりに、わざと相手を怒らせるような言動を繰り返し、暴言を引き出すような行為は避けるべきです。
録音データにそうした挑発的な言動も含まれていると、裁判官に「非は双方にある」と判断され、モラハラの悪質性が低いと評価されてしまう可能性があります。
裁判例から学ぶモラハラ証拠の重要性
ここでは、客観的な証拠がいかに重要であったか、裁判所がモラハラを認定した事例を紹介します。
夫の日常的な暴言や威圧的態度をモラハラと認定した事例
東京地判令元・9・10(平成30年(ワ)11154号)
マッチングアプリで知り合い結婚した夫が妻に対し、「死ね」「クズ」「子どもをおろせ」などの暴言を執拗に浴びせ、モラルハラスメント行為を繰り返した。
妊娠中の妻が会話を録音し、メッセージアプリの履歴を証拠として提出。夫は証拠の改ざんを主張して争ったが、裁判所がモラハラの客観的証拠をどう評価するかが争点となった。
裁判所の判断
「被告の一連の暴言がいわゆるモラルハラスメント行為に当たり、原告の人格権を侵害するものであることは明らか」
東京地判令元・9・10(平成30年(ワ)11154号)
- モラハラ行為による精神的損害の慰謝料200万円を認定。
- 「頭おかしい」「バカ」「きちがい」等の暴言の頻度や内容から社会的許容範囲を逸脱と判断。
この裁判では、夫が暴言を繰り返し「離婚して子どももおろせ」と発言した事実が、録音データやメッセージ履歴、母親とのやり取りなど複数の証拠で裏付けられ、モラハラと認定されました。
裁判所は、被害者が無断で行った会話の録音についても、音声や口調が法廷での本人の声と一致することから、内容に改変がないと判断し、証拠として採用しました。
モラハラの証拠についてよくある質問
Q.モラハラの証拠がないと離婚できない?
裁判では離婚の原因となった事実を立証する証拠が必要ですが、協議離婚や調停離婚は当事者間で合意が成立しさえすれば離婚できます。
しかし、証拠があれば、離婚を有利に進められる可能性が高くなります。
詳細な日記をつけ始めたり、精神的な不調を感じるなら心療内科を受診したり、弁護士や公的機関に相談したりすることで、モラハラの客観的な証拠を残すことにつながります。
Q.日記やメモはどのように書けばモラハラの証拠になる?
日記やメモをモラハラの証拠にするには、「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」を意識して、具体的かつ時系列で記録することが重要です。
継続的に記録することで、モラハラの継続性や悪質性を示す有力な証拠になります。
Q.相手に無断で録音してもモラハラの証拠になる?
会話の当事者が自分で録音する場合、相手の許可がなくても証拠として認められるケースが多いです。
ただし、相手の私物に盗聴器を仕掛けるといった方法はプライバシーを侵害する悪質な行為とみなされ、証拠として使えなくなる可能性があります。
一般的な会話を録音する程度であれば、常識の範囲内として証拠能力が認められる傾向にあります。
まとめ|モラハラ離婚を成立させるために
モラハラを理由に離婚するには、「婚姻を継続し難い重大な事由」があったことを裏付ける客観的な証拠が不可欠です。
モラハラの態様によって有効な証拠は異なるので、ご自身のケースに合わせて継続的に証拠を収集することが重要となります。
決定的な証拠がない、証拠が弱いと感じた場合は日記をつけたり、専門機関に相談したりすることで、状況を有利に進めることは可能です。
配偶者からのモラハラに苦しみ、「この程度で離婚できるのか」と一人で悩み続けるのは非常につらいことです。
証拠収集の段階から専門家である弁護士に相談することは、自分自身を守り、離婚後の新しい人生へと踏み出すための最も確実な第一歩となります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
